さて、こちらの続き。

運転レベル向上委員会は自転車の単独転倒事故について、「弁護士基準」で賠償額を算定し、その中には慰謝料が含まれている。
慰謝料とは「他人が不法行為によって損害を与えたことによる精神的苦痛」なのだから、第三者と争うことにならない「単独転倒事故」において、弁護士基準(慰謝料の算定上、最も高額になる)を持ち出すことは悪質な印象操作と言わざるを得ないのですが、
そもそも自転車の単独転倒事故における人身傷害保険車外型の考え方を誤っていると言わざるを得ない。

運転レベル向上委員会は「単独転倒事故による休業損害」が保険から支払われることが大事だとし、他社だと休業損害の補償に制限がかかるから、損保ジャパンが一番よいという。
「アワイチ」ロードバイク単独転倒で1億円規模?自転車保険の“落とし穴”と人身傷害車外型の重要性 0今回のテーマは、兵庫県洲本市で発生した「アワイチ」中のロードバイク単独転倒事故です。※動画作成は、2026年5月16日。保険内容は動画作成当時の参考内容です。個々の保険内容を保証するものではありません。報道では、淡路島を自転車で一周する「ア...
この解説をみると、自転車の単独転倒事故について、損保ジャパンの人身傷害交通乗用具事故特約だと休業損害が支払われると言っているのと同じですよね。
残念ながら、これは誤りなのでして。
損保ジャパンの人身傷害交通乗用具事故特約の約款をみてみましょう。
第5条(損害額に関する特則)
普通保険約款人身傷害条項第6条(損害額の決定)⑴の規定にかかわらず、第1条(保険金を支払う場合)⑴①に規定する事故のうち、自動車の運行に起因する事故および自動車の運行中の事故のいずれにも該当しない事故の場合で、賠償義務者が存在しないまたは賠償義務者の住所および氏名もしくは名称が確認できないときは、普通保険約款別表3に定める損害額算定基準における次の損害に対する額を差し引いた額を損害額とします。
① 第1 傷害による損害 2.休業損害
② 第1 傷害による損害 3.精神的損害
自転車の単独転倒事故は「自動車の運行に起因する事故および自動車の運行中の事故のいずれにも該当しない事故」で、しかも第三者による不法行為ではないのだから「賠償義務者が存在しない場合」に当てはまる。
この場合は、休業損害や精神的損害に該当する部分を「差し引いた額」しか支払われないため、休業補償や慰謝料相当は人身傷害保険車外型からは支払われないのでして。
そうすると、病院代実費相当くらいしか人身傷害保険車外型からは支払われないことになりますが、第三者行為による負傷ではなく健康保険による診療になる(第三者行為による負傷も健康保険が使えますが、渋る病院もある)。
いわゆる自転車保険についている自分自身のケガへの保障や、医療保険と比べて大差ないのではないか?という疑問が生じる。
人身傷害保険車外型はいわゆる病気には対応してないことや、クルマを保有してないと実質的に入れないことを考えると、このような「自転車の単独転倒事故」においてあえて人身傷害保険車外型をプッシュする理由がわからない。
運転レベル向上委員会って人身傷害保険車外型をプッシュするわりには、全く理解してないのよね。
ちょっと前には「運転者が酒気帯びだと知りながら同乗して負傷した場合」にも人身傷害保険から支払われると力説してましたが、
運転レベル向上委員会より引用
札幌地裁 令和3年1月27日判決、名古屋地裁 令和4年1月25日判決は、運転者が酒気帯びだと知りながらあえて同乗する行為を、「同乗者の重大な過失」に当たるとして保険会社の免責(つまり人身傷害保険は支払われない)とする。

(3)原告B(本件重過失免責条項による免責の成否)について
ア 前記(2)のとおり,原告Aについては,本件事故の当時,「道路交通法65条1項に定める酒気帯び運転⼜はこれに相当する状態」にあったものと認められるところ,原告Bは,本件事故前⽇の⼣⽅以降,原告Aとその⾏動を共にし,原告Aが飲⾷する様⼦を認識していたにもかかわらず,本件事故直前に原告Aが本件⾞両の運転を開始する際,原告Aの状況を確認したり,運転代⾏を要請することを検討したりすることなくその運転を委ねている。そして,原告Aは,本件⾞両の運転を開始した直後に居眠りをし,本件事故を発⽣させたため,原告Bの⾝体に傷害を⽣じたというのであって,飲酒運転の重⼤性も考慮すれば,「損害が保険⾦を受け取るべき者の重⼤な過失によって⽣じた場合」に該当するものといわざるを得ない。
札幌地裁 令和3年1月27日
原告らは、重過失免責を否定した裁判例等(甲15、16)を指摘する。しかしながら、飲酒運転による悲惨な交通事故が後を絶たないことから、飲酒運転の根絶に向け、平成19年の道路交通法改正により、酒酔い運転、酒気帯び運転等の罰則が引き上げられたほか、自己の運送を要求・依頼して飲酒運転が行われている車両に同乗する行為につき新たに禁止規定が設けられるとともに、懲役刑を含む罰則が定められており、同改正から本件事故までには10年以上の期間が経過している。原告らが引用する裁判例は、そもそも本件とは事案が異なる上に、上記法改正前に発生した事故についてのものであって、その後の社会情勢や国民意識の変化等も考慮した上で、本件事故について重過失の有無は判断すべきであるから、原告らの指摘は当たらない。
名古屋地裁 令和4年1月25日
今回も運転レベル向上委員会には人身傷害保険の解説に誤りがありますが、
法律や実務に詳しくないド素人の話を鵜呑みにすることがいかにリスキーかを表している。
当の運転レベル向上委員会は「間違っていても免責なんです!」という注意書きまでしてますが、
最初からろくに調べもしないまま動画を作成し、免責だというのは無責任なのよ。
正しい情報を提供し、それに当てはまらないようなレアケースがあるから「免責」だというならまだわかるが、
これだけ人身傷害保険の解説を間違えておいて、それでも人身傷害保険を異常にプッシュする様子をみると、かなりまずいことになっているのよね。
約款に基づいた正しい情報によれば、運転レベル向上委員会が主張する「弁護士基準」での慰謝料や休業損害を含んだ額からは大きく下がる支払いしか受けられないのは明らかで、運転レベル向上委員会の解説を信じた人がいたらかなりヤバイ。
このようなかなりまずい間違いをきちんと訂正して正しい情報に改めるならまだマシですが、数々の間違いを披露しながら一向に改めない姿勢ですから…



以前も書いたけど、運転レベル向上委員会は高頻度で事実誤認や法律解釈の誤りをしている。
それらを見抜くには相応の知識がないと厳しいですが、ほぼ毎回何かしらの間違いをしているので、間違い探しとして自分の知識試しにするのが吉。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。





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