運転レベル向上委員会のデタラメ過失割合解説は相変わらずですが、

時速120キロ(60キロ超過)の直進車と右折車が交差点で衝突した事故について、基本過失割合(右折車80%、直進車20%)から各修正要素を適用するとし、右折車が0%になることはないという。
これは判例タイムズ39号をきちんと読めていないことと、実際の裁判でどのようになっているかを調べていないことに起因するデタラメなのよね。
まず、交差点右直事故の基本過失割合は右折車80%、直進車20%になっている。
双方に過失がある前提になってますが、この基本過失割合に内包された過失とは、
・直進車→急ブレーキで回避できたのに回避しなかったこと(前方不注視等)
これらがあることを前提とし、多くの右直事故では双方ともに過失が認められるから、それを基本過失割合としている。
ところが、基本過失割合として想定した範囲を逸脱した事故は存在する。
例えば直進車が著しい高速度(著しい速度超過)の場合、基本過失割合として想定した事故の範疇を越えているのだから、基本過失割合から各修正要素を適用するという考え方は採用されない。
判例をいくつか挙げます。
○名古屋地裁 令和4年9月28日
優先道路/非優先道路の事故の基本過失割合は10:90ですが、優先道路通行車の著しい速度超過/非優先道路通行車の安全確認を理由に基本過失割合10:90を適用せず95:5とした名古屋地裁判決がある。

事故の態様はこう。

青車両(原告)は一時停止後、優先道路に向かい左折。
赤車両(被告)は優先道路(法定速度60キロ)を時速114キロで直進し衝突。
青車両の後部座席に座っていた同乗者が車外に投げ出され死亡した事故です。
なお青車両が第二車線に左折したのは、直後の交差点で右折するため。
問題になるのは過失割合ですが、原告と被告の主張は解釈が対立している。
優先道路に左折するにあたり十分確認してから左折したところに異常な高速度で追突されたような形だから、原告は無過失である。
優先道路と非優先道路の基本過失割合10:90をベースに、時速20キロ以上の速度超過修正「+20%」を適用すれば30:70なのだから、原告の過失は70%である。
「オレ無過失!」と「オマエ70%」で示談がまとまるわけもなく裁判に至ってますが、被告(優先道路通行車)を被告人とした刑事裁判では、原告(非優先道路通行車)に落ち度はないとなっている。
さて名古屋地裁が判断した過失割合がどうなのか。
| 原告(非優先道路) | 被告(優先道路) |
| 5 | 95 |
民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準として公にされている基本過失割合は、各事故において典型的な事案を想定したものであって、特異な事情がある個別の事案についても常に当てはまるというものではない。本件事故についてみると、被告車が法定最高速度を時速54キロメートルも上回る時速約114キロメートルという異常な高速度で走行していたという特異性があり、劣後道路からの左折進行車の運転者においてこのような高速度で直進車が走行していることを認識するのは容易なことではないし、他方、このような高速度で走行する車両の運転者は、周囲の交通の状況に応じた変化に対応し事故を回避することを自ら極めて困難にしているものといえる。そうすると、本件事故は、基本過失割合が当てはまる典型的な事案とはおおよそ言い難く
名古屋地裁 令和4年9月28日
基本過失割合というのは、「各事故において典型的な事案を想定したものであって、特異な事情がある個別の事案についても常に当てはまるというものではない」とし、著しい高速度の本件では基本過失割合から各修正要素を適用するのではなく、基本過失割合が適用されない非典型例として個別判断になるという。
これは他の判例でも同じ。
○福岡高裁 令和5年3月16日
右直事故の民事裁判ですが、一審は著しい速度超過の直進車に全責任があるとして右折車無過失とした。
控訴審も一審の判断を指示して控訴棄却。
控訴人は、衝突時の控訴人車の速度は時速100キロメートル程度である旨の陳述及び供述をする。
しかしながら、○県警察が、控訴人車の走行状況を撮影した防犯カメラの記録等を解析して、本件事故直前の控訴人車の速度を時速122ないし179キロメートルと算出していること(上記撮影地点から、控訴人が急制動の措置を講ずるまでの間に、控訴人車が減速したことを認めるに足りる証拠はない。)、控訴人自身、警察が120キロメートル以上は出ていたというのであれば、間違いないと思う旨の陳述及び供述ををすることに照らすと、上記速度は120キロメートル以上と認めるのが相当である。
車両は交差点に入ろうとするときは、当該交差点の状況に応じ、反対方向から進行してきて右折する車両等に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならないところ(道路交通法36条4項)、控訴人は、夜間、最高速度の2.4倍以上の速度で控訴人車を進行させ、同車を、本件交差点を右折進行してきた被控訴人車の左側面後端に衝突させたのであって、控訴人に過失があるのは明らかである。
これに対し、被控訴人は、被控訴人車を本件交差点に進入させて一旦停止させ、対向車線を車両等が進行してきていないことを確認した上、時速10キロメートル程度の速度で被控訴人車を右折進行させたにすぎない。被控訴人に、夜間、最高速度の2.4倍以上の速度で本件交差点に進入してくる車両等を予見し、運転操作をすべき注意義務があったとするのは困難であるし、加えて、控訴人は、原判決別紙1の①地点から約75.9m手前で、被控訴人車が本件交差点を右折進行してくるのに気付いたというのであり、控訴人が時速50キロメートル程度の速度で走行していた場合、その停止距離(28m)や、被控訴人車の速度を考慮すると、本件事故の発生を回避し得た可能性が高いことに照らすと、本件事故は専ら控訴人の過失によるもので、被控訴人に過失はないというべきである。福岡高裁 令和5年3月16日
要するに、右折車は十分な確認をしてから右折したのに、想定外な著しい高速度の直進車が突っ込んできた。
信頼の原則によると、右折車は「直進車が20キロ程度の速度超過である可能性」を予測して右折を開始しなければならない。
しかし、制限速度50キロ道路で「時速70キロ程度の直進車(+20キロ)」を予測して右折したのに、それを上回る時速120キロ以上で突っ込まれたなら、右折車は十分注意をしていたと言えるわけだし、そもそも人間にはそのような著しい高速度の直進車を避けながら右折するなんて不可能なのよね。
似たような事例は先日も取り上げたばかり。

この判決でも、右折車は無過失と判断されている。
判例タイムズ39号でも基本過失割合が想定している内容を理解し、「右直事故だから」みたいな理由で右直事故の基本過失割合を適用することはダメなんだと警告されている。
そしてこのような運転レベル向上委員会のデタラメ過失割合の解説が、現に誹謗中傷になっていることからも、看過し難い。
大分時速194キロ事故について、運転レベル向上委員会は基本過失割合から修正要素を適用しても右折車のほうが過失が大きいのだと誹謗中傷してましたが、
判例タイムズ39号や様々な判例をきちんと理解すれば、基本過失割合から修正要素を適用するような事案ではないことは容易に理解できる。
現に上記福岡高裁判決もあるわけだし、大分時速194キロ事故の大分地裁判決(刑事)には「被害者(右折車)に刑事過失はない」とあることから、右折車は信頼の原則が求める注意義務を果たしていたことがわかる。
そして現実としても、「損害全額」が賠償される見込みだとなっていることからも、過失割合は右折車0%、直進車100%で合意していることが窺われる。
その上で、被告人が、常習的に高速度走行に及んでいたことなど自己に不利益な事実を率直に認めたり、本件事故現場での献花を続けたりして、反省の態度を示していること、未だ若年であること、両親が出廷して社会復帰後の監督を申し出ていること、被害者の遺族に対して保険により損害全額の賠償がなされる見込みがあることのほか、被告人の責めに帰し得ない事情のため公訴提起から公判審理までの期間が長引き、被告人として不安定な状態に置かれ続けたことといった一般情状も考慮し、主文の刑を量定した。
大分地裁 令和6年11月28日
判例タイムズや実際の判例、リアルな現実を無視してデタラメな過失割合を解説することもどうかと思うけど、その結果として誹謗中傷までしていることから、インターネット上で発信する立場の人間の勉強不足は本当に良くないことなんだと言わざるを得ないのよね。
インターネット上には様々な間違い情報が溢れていますが、きちんと調べたり勉強することもなく、有識者であるかのように振る舞う人がいるから注意しなければならない。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。


コメント