先日のこちら。

運転レベル向上委員会は38条1項前段の減速接近義務を挙げてますが、
凄く不思議なんだけど、「止まれるような速度」とはどれくらいを指しているのかについて、具体的な解説はない。
ちなみに運転レベル向上委員会は東京高裁 平成22年5月25日判決を僅かに紹介してますが、

この判例と意味は、「よくわかる交通事故・事件捜査 : 過失認定と実況見分」(立花書房)に解説がある。
この本はわりと重要な解説があり、道路交通法違反と過失運転致死傷罪の注意義務は別であり、それは東京高裁判決にも書いてある。
自動車運転者としては、同法70条による安全運転義務があるのはもちろん、交通の実情を踏まえた注意義務が求められるのは当然である(所論は、道路交通法上の義務と自動車運転過失致死罪における注意義務を同一のものと理解している点で相当でない。すなわち、信頼の原則が働くような場合はともかく、前者がないからといって、直ちに後者までないということにはならない。)
さて。
では運転レベル向上委員会が取り上げた横断歩道における「減速接近義務」とはどれくらいのスピードを言うか?
減速接近義務に関する判例はわりとあるが、このような判例がある。
道路交通法38条1項に規定する「横断歩道の直前で停止することができるような速度で進行しなければならない。」との注意義務は、急制動等の非常措置をとつてでも横断歩道の手前で停止することさえできる速度であればよいというようなものではなく、不測の事故を惹起するおそれのあるような急制動を講ずるまでもなく安全に停止し得るようあらかじめ十分に減速徐行することをも要するとする趣旨のものであり、したがつて、時速25キロメートルでは11m以上手前で制動すれば横断歩道上の歩行者との衝突が回避し得るからといつて右の速度で進行したことをもつて右の注意義務を尽したことにはならない、と主張する。
(中略)
横断歩道直前で直ちに停止できるような速度に減速する義務は、いわゆる急制動で停止できる限度までの減速でよいという趣旨ではなく、もつと安全・確実に停止できるような速度にまで減速すべき義務をいつていることは所論のとおりである。
大阪高裁 昭和56年11月24日
下記のように高度な死角がある事例では、「最徐行」だとする。
最徐行となると時速4、5キロ程度を意味する。

本件交通事故現場は前記のとおり交通整理の行われていない交差点で左右の見通しのきかないところであるから、道路交通法42条により徐行すべきことももとよりであるが、この点は公訴事実に鑑み論外とするも、この交差点の東側に接して横断歩道が設けられてある以上、歩行者がこの横断歩道によって被告人の進路前方を横切ることは当然予測すべき事柄に属し、更に対向自動車が連続して渋滞停車しその一部が横断歩道にもかかっていたという特殊な状況に加えて、それらの車両の間に完全に姿を没する程小柄な児童が、車両の間から小走りで突如現われたという状況のもとにおいても、一方において、道路交通法13条1項は歩行者に対し、車両等の直前又は直後で横断するという極めて危険発生の虞が多い横断方法すら、横断歩道による限りは容認しているのに対し、他方において、運転者には道路交通法71条3号により、右歩行者のために横断歩道の直前で一時停止しかつその通行を妨げないようにすべきことになっているのであるから、たとえ歩行者が渋滞車両の間から飛び出して来たとしても、そしてそれが実際に往々にしてあり得ることであろうと或は偶然稀有のことであろうと、運転者にはそのような歩行者の通行を妨げないように横断歩道の直前で直ちに一時停止できるような方法と速度で運転する注意義務が要請されるといわざるをえず、もとより右の如き渋滞車両の間隙から突然に飛び出すような歩行者の横断方法が不注意として咎められることのあるのはいうまでもないが、歩行者に責められるべき過失があることを故に、運転者に右注意義務が免ぜられるものでないことは勿論である。
しからば、被告人は本件横断歩道を通過する際に、右側に渋滞して停車していた自動車の間から横断歩道によって突然にでも被告人の進路前方に現われるやもはかり難い歩行者のありうることを思に致して前方左右を注視すると共に、かかる場合に備えて横断歩道の直前において一時停止することができる程度に減速徐行すべき注意義務があることは多言を要しないところであって、原判決がこのような最徐行を義務付けることは過当であるとしたのは、判決に影響を及ぼすこと明らかな根本的且つ重大な事実誤認であって、この点において既に論旨は理由があり原判決は破棄を免れない。
東京高裁 昭和42年2月10日
運転レベル向上委員会が取り上げた横断歩道における死角を考えると、法38条1項前段が求めるのは、横断歩道10m手前あたりでは時速10キロ程度と思われる。
横断歩道10m手前あたりまでくればだいぶ死角が減るので、死角が消除され横断者がいないことを確認したなら加速することが可能になるのかと。
ところで、過去に減速接近義務に関する判例はいくつも挙げてます。
有名なところだと東京高裁 昭和46年5月31日判決がありますが、


大阪高裁 昭和56年11月24日判決については、ほとんど知られていない。
しかしわりと重要な説示をしている。
道路交通法38条1項に規定する「横断歩道の直前で停止することができるような速度で進行しなければならない。」との注意義務は、急制動等の非常措置をとつてでも横断歩道の手前で停止することさえできる速度であればよいというようなものではなく、不測の事故を惹起するおそれのあるような急制動を講ずるまでもなく安全に停止し得るようあらかじめ十分に減速徐行することをも要するとする趣旨のものであり、したがつて、時速25キロメートルでは11m以上手前で制動すれば横断歩道上の歩行者との衝突が回避し得るからといつて右の速度で進行したことをもつて右の注意義務を尽したことにはならない、と主張する。
(中略)
横断歩道直前で直ちに停止できるような速度に減速する義務は、いわゆる急制動で停止できる限度までの減速でよいという趣旨ではなく、もつと安全・確実に停止できるような速度にまで減速すべき義務をいつていることは所論のとおりである。
大阪高裁 昭和56年11月24日
読者様の中には、うちで取り上げた判例の全文を見たくて図書館に行った人もいますが、止まれればいいという趣旨ではなく安全確実に止まれるような速度を要求しているのよね。
そして以前も書いたけど、

一時停止率調査なるもので一喜一憂しているうちは、何も変わらないのよ。
本来は減速接近義務調査になるべきで、減速接近の目安を具体的に示さないと、何も変わらない。
なお、時速15キロだったから直ちに違反として検挙、というのは困難。
違反になるかならないか、検挙されるかされないかを基準にしちゃダメなのよね。
なぜなら道路交通法違反の検挙基準と、過失運転致死傷罪における注意義務違反の基準は別なのだから。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。


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