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左折進行車両が起こした「対自転車事故」について、過失を否定した判例。

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道路交通法38条は、横断歩道を横断する歩行者と、自転車横断帯を横断する自転車を優先する規定です。

 

自転車と横断歩道の関係性。道路交通法38条の判例とケーススタディ。
この記事は過去に書いた判例など、まとめたものになります。 いろんな記事に散らかっている判例をまとめました。 横断歩道と自転車の関係をメインにします。 ○横断歩道を横断する自転車には38条による優先権はない。 ○横断歩道を横断しようとする自転...

 

横断歩道と自転車横断帯が併設されたところを横断中の自転車と、交差点を左折進行した大型車の事故について、ドライバーの過失を否定した判例があります。

ドライバーの過失を否定

判例は東京地裁 平成15年12月15日。
業務上過失傷害事件です。

 

この判例は当初、東京簡裁に略式起訴されたものの正式裁判を請求し、東京地裁に移送。
一審(平成15年1月15日)は有罪としましたが、二審(東京高裁 平成15年5月8日)は被害者の衝突について事実の誤りがあるとして破棄差戻し。
なので差戻し後の一審になります。

 

イメージ図。

衝突部位は被告人車両の後輪の前輪(ダブルタイヤ)。
衝突場所は自転車横断帯ではなく横断歩道上(歩道から1.1ないし1.5m程度の地点)。

 

信号待ちの後、青信号に従って左折進行した車両と、横断歩道を横断した自転車の事故です。

差戻し後の一審は無罪としています。

以上のとおり,甲1及び甲4からは,それぞれ記載の地点において被告人が被害車両を確認することが可能であったと合理的疑いを入れない程度に認められない。そして,衝突地点が当裁判所の認定どおりであるとすると,甲1及び甲4記載の被告人車両があったとして設定されている各地点に被告人車両があった時点においては,その内容よりも,更に被告人車両と被害車両の距離が離れていたのであり(被告人車両の進行経路の違いを考慮して厳密にいえば,離れていた可能性があり),それにもかかわらず被告人が被害車両を視認することができたと解すべき特段の事情は,関係証拠上窺えない。
更に,甲4記載の衝突2秒前の被告人車両の位置として設定された地点は,当裁判所の認定を前提にすれば,2秒より更に前の時点の地点ということになるが,当該横断歩道の幅員等を前提としたこの地点から本件横断歩道の幅員のほぼ中央部分までのおおよその距離(証拠中には明示されていないので概略を推測するしかない。)と被告人車両,被害車両の速度等を考慮すると,同地点から当裁判所の衝突地点とする地点まで進行する間に,目視あるいはサイドアンダーミラーによる視認が可能になることも証拠上窺えない(被告人車両の進行経路の違いを考慮した場合に,この点の結論が変わってくると認めるべき内容の証拠もない。)。
なお,念のために触れると,甲1においては,被告人が主張する衝突地点(横断歩道の北端付近)及び進行経路の場合を基にした被害車両の視認可能状況等についての実況見分も行われているところ,この点の実況見分については,前甲1に基づいて設定した被害車両の位置と,衝突地点を被告人が主張する横断歩道上北端付近として設定した被害車両の位置とを全く同じ位置として設定していることや,実況見分の内容についての記載が誤っていること(5項について,(1)から(6)が記載された(実はこの中に既に(2)が重複
している。)後に(4)ないし(7)が記載されていて,(4)ないし(6)が重複しているばかりか,後に出てくる(4)と(5)で(ここが被告人の主張する衝突地点及び進行経路の場合の実況見分の方法を記載している部分である。)「前記(1)と同様にし」とか「前記(2)と同様に」としているところ,(1)と(2)に記載されているのは,実況見分調書に図面と写真を添付する旨と車両の運転者及び模擬被害者の氏名のみであるから,結局どこを指すのか分からないので,どのような見分をしたか判然としない。)などに照らしてその信用性,正確性には疑問がある上に,この点をひとまず措くとしても,やはりサイドアンダーミラーによる被害車両の視認は前甲1に基づく場合と同様に可能であるとは認められず,結局,上記結論は左右されない。
6 以上のとおりであるから,対面信号機の表示が青色信号に変わったため被告人車両を発車させ左折を開始してから被害車両と衝突するまでの間に,被告人が被害車両を発見することは,本件の証拠関係の下では,可能であったと合理的疑いを入れないまでには認められないとしかいい様がない。したがって,被告人に本件事故について予見可能性及び結果回避可能性があったとするには合理的な疑いが残るというべきである。
検察官は,道路交通法38条1項の趣旨に鑑みれば,被害者の発見が困難であったとしても,被害者が横断歩道に接近していたという事情があった以上,同項にいう「歩行者又は自転車がないことが明らかな場合」とは到底いえないのであるから,被害者の発見が困難であったことをもって被告人の過失が否定されるとはいえないと主張する。しかしながら,本件は業務上過失傷害罪に問われている事案であるから,道路交通法上の義務の内容を,その趣旨に鑑みるという形であっても,過失における注意義務の内容にそのまま取り込むことには疑問が残るし,本件では,被告人は被害者を見つけていないのであるから,歩行者等の姿が見え横断しようとしているのかどうかの判断が明確にできないといった場合ではなく,暗いとはいっても格別見通しを遮る物があったと認められるわけでもないといった状況であったのに(本件事故は12月(平成12年)の発生であるから,7月(平成15年)の様子が写っている甲1添付の写真より,1月(平成14年)の様子が写っている前甲14添付の写真に近かったと思われる。これによれば,街路樹等は格別見通しを遮るような状況ではない。前甲14も本件事故から1年以上後のものであるが,本件では,事故当時の見通し状況を明らかにした写真等はないし,見通しを遮る物の存在を積極的に推認させるような事情も証拠もない。),客観的に被害車両が本件交差点に近付いていたことの一事をもって,被告人の現場の状況に関する認識内容に関わらず,直ちに「歩行者又は自転車がないことが明らかな場合」には該当しないとすることにも同調できない。
なお,被告人車両は死角のある大型自動車であることから,その注意義務の程度も普通自動車に比して高度なものが要求されるとしても,交差点の直前で一旦停止して,助手席側に体を移動させるなどして確認すべき注意義務まで要求することは,信号機による交通整理がなされており,格別見通しを遮る物があったと認められるわけでもないといった状況であったことなどを考慮すれば運転者にとって酷であるといわざるを得ず,また,そのようにすれば被害者を発見できたことを適切に認められるような証拠もない。

 

東京地裁 平成15年12月15日

詳しくは裁判所ホームページからも見えますが、業務上過失傷害は無罪としています。

 

結局、ドライバーが左折進行するにあたり注意義務を果たしても自転車の存在を発見することはできなかったという話です。

 

もちろん民事の過失がどう判断されるかは別問題。

横断歩道のみの場合

上の判例は自転車横断帯が併設された横断歩道なので横断しようとする自転車にも38条により優先権を持つと解釈されますが、横断歩道のみ(自転車横断帯無し)の場合には自転車には優先権がないため、自転車の注意義務も加重されます。

道路交通法上、自転車は軽車両に該当し(同条2条1項11号)、車両として扱われており(同項8号)、交差点における他の車両等(同法36条)との関係においても、車両に関する規定の適用により、四輪車や単車と同様の規制に服する(自転車の交通方法の特例が定められているものは除く。)。交差点を左折する四輪車にもその進行にあたっては前方を確認すべき注意義務があることは当然であるが歩行者用信号規制対象自転車であっても、横断歩道では歩行者が横断歩道により道路を横断する場合のような優先的地位(同法38条1項)は与えられておらず、また、他の車両との関係においてはなお安全配慮義務(同法70条)を負うと解されるから、安全確認や運転操作に過失がある場合は、自転車の運転者は、相当の責任を負わなければならない。

 

神戸地裁 令和元年9月12日

 

優先権がなく、自転車も車両である以上は70条(25条の2第1項にしている判例もあり)により左右を確認してから横断歩道を横断する義務を負うというのが法律上の解釈。

原告は、自転車に乗って本件横断歩道上を横断するに当たり、左右を確認し、南北道路を通行する車両の有無、動静に注意して横断すべきだった(同法25条の2第1項)にもかかわらず、これを怠り、左方への注意及び安全確認が不十分なまま本件横断歩道上を横断したものであり、過失が認められる。

 

平成21年12月15日 名古屋地裁

 

なお、このタイプの動きは、自転車は「車道を横断」であり、「横断歩道を直進」でもあるけど「交差点を直進」ではない。
なので直進優先ではありません。

交差点の範囲には横断歩道を含まないので。
あとは、ドライバーがどこまで確認してから左折したのか、被害自転車がどのようなルートを経過して横断歩道に到達したかによりドライバーの過失責任が変わります。

 

過失の大小を比較したときに車のほうが大きいという話なら当然の話だけど、自転車に非がないと勘違いしやすい。

 

ちなみに同種事故について、青信号で横断歩道を横断した自転車に全責任があるとして支払い済み賠償金を全額返済するようにした判例もありますが、ちょっと特殊な事例なので詳細は触れません。
まあ、「横断歩道が青信号なら自転車が優先する」という勘違いも良くないと思うけど。
青信号が優先を意味しないことは、交差点の右折車に課された37条を見れば明らか。
青信号でも、直進車の動向を確認することなく右折しちゃダメだしね。

 

道路交通法上、横断歩道を横断する歩行者には何ら注意義務が課されてないが(民事は別)、自転車は25条の2と70条の関係から左右等の確認義務があるというのが正しい解釈ね。
まあ、横断歩道を青信号で横断する自転車が優先だと思い込む人が多い以上は、車道を右左折する車両が注意するしかないのも現実だけど、道路交通法上は自転車が車両を妨害しているわけだし。

 

道路交通法の義務と過失の大小が反対になる事例でした。




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