PVアクセスランキング にほんブログ村

横断歩道を横断する歩行者と38条の関係。判例を元に。

前回、横断歩道を横断する自転車についての判例をまとめましたが、歩行者についてもまとめておきます。

この記事は過去に書いた判例など、まとめたものになります。 いろんな記事に散らかっている判例をまとめました。 横断歩道と自転車の関...

道路交通法38条1項とは

道路交通法では、横断歩道を横断する歩行者について極めて強い優先権を与えています。

(横断歩道等における歩行者等の優先)
第三十八条 車両等は、横断歩道又は自転車横断帯(以下この条において「横断歩道等」という。)に接近する場合には、当該横断歩道等を通過する際に当該横断歩道等によりその進路の前方を横断しようとする歩行者又は自転車(以下この条において「歩行者等」という。)がないことが明らかな場合を除き、当該横断歩道等の直前(道路標識等による停止線が設けられているときは、その停止線の直前。以下この項において同じ。)で停止することができるような速度で進行しなければならない。この場合において、横断歩道等によりその進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者等があるときは、当該横断歩道等の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない。

38条1項は前段と後段に分けることが出来ます。

・前段(減速義務、速度調節義務)

横断歩道を横断しようとする歩行者が「明らかにいない」と言い切れないときは、減速してすぐに停止できる速度にする。

・後段(一時停止義務)

実際に横断歩道を横断している歩行者や、横断しようとする歩行者がいるときは一時停止する。

前段の減速義務を勘違いしている人は多いです。

✕ 「横断しようとする歩行者が見えたら減速」

◯ 「横断しようとする歩行者がいないと言い切れないときは全て減速」

実際のケースで検討します。

例えばこの横断歩道で検討します。

道路左側は隠れた階段と歩道があります。
道路右側は歩道になっており、見渡せる状況です。

信号機がない横断歩道の50m手前には菱形の横断歩道の予告標示があります。
まず最初に菱形を見かけた地点。
この状況では右側の歩道に歩行者がいるかいないかは見えますが、左側は見えません。
従って「横断しようとする歩行者が明らかにいない」とは到底言えませんので減速します。

さらに進んだ地点でも、同様に左側は見えませんので減速し続けます。

ここまで進んで左側を確認したとき、「横断しようとする歩行者が明らかにいない」ことを確認したら減速義務が解除されます。

もし横断しようとする歩行者がいたら、そのまま一時停止します。

38条1項は、前段の減速義務がポイントです。
「横断しようとする歩行者が明らかにいない」と断言できない場面では全て減速して様子を見ながら横断歩道に接近することがポイント。
減速している状態なので、実際に横断しようとする歩行者が見えたら慌てることなくブレーキを踏むだけ。

なお、前段の減速義務違反だけでも違反は成立します。
ここからは判例を元に検討していきます。
原則としては、横断歩行者が横断歩道上で事故にあった場合、車が全面的に悪いことになります(一部例外あり)。
何がなんでも一時停止する義務があると考えてよい。

「進路の前方」の範囲

38条では「進路の前方」とあります。

第三十八条 車両等は、横断歩道に接近する場合には、当該横断歩道を通過する際に当該横断歩道によりその進路の前方を横断しようとする歩行者がないことが明らかな場合を除き、当止線の直前。以下この項において同じ。)で停止することができるような速度で進行しなければならない。この場合において、横断歩道によりその進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者があるときは、当該横断歩道の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない。

※自転車横断帯は割愛。

進路の前方を横断、横断しようとする歩行者の範囲についての判例があります。

福岡高裁 昭和52年9月14日(刑事)

この判例は道路交通法38条1項の違反について争われた事件です。

道路交通法38条1項は、「車両等は、横断歩道に接近する場合には、当該横断歩道を通過する際に当該横断歩道によりその進路の前方を横断しようとする歩行者がないことが明らかな場合を除き、当該横断歩道の直前で停止することができるような速度で進行しなければならない。この場合において、横断歩道によりその進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者があるときは、当該横断歩道の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない。」と規定しているところ、右規定の趣旨、目的が横断歩道における歩行者を保護、優先することにあることは言うまでもなく、右趣旨、目的及び右規定の改正経過並びに同法1条に照らして解釈すれば、右に規定されている「その進路の前方」とは、車両等が当該横断歩道の直前に到着してからその最後尾が横断歩道を通過し終るまでの間において、当該車両等の両側につき歩行者との間に必要な安全間隔をおいた範囲をいうものと解するのが相当であり、右38条1項後段の規定は、車両等の運転者に対して、当該横断歩道により右の範囲を横断し又は横断しようとする歩行者があるときは、その直前で一時停止するなどの義務を課しているものと解される。そして、右の範囲すなわち歩行者との間に必要な安全間隔であるか否かは、これを固定的、一義的に決定することは困難であり、具体的場合における当該横断歩道付近の道路の状況、幅員、車両等の種類、大きさ、形状及び速度、歩行者の年齢、進行速度などを勘案し、横断歩行者をして危険を感じて横断を躊躇させたり、その進行速度を変えさせたり、あるいは立ち止まらせたりなど、その通行を妨げるおそれがあるかどうかを基準として合理的に判断されるべきである。

原審において検察官は「進路の前方」の範囲を約5mと陳述しているが、これは、この程度の距離を置かなければ横断歩行者の通行を妨げることが明らかであるとして福岡県警察がその取締り目的のため一応の基準として右の間隔を定めていることを釈明したものと解され、必ずしも「進路前方」の範囲が5m以内に限定されるものではないのであつて、この範囲は具体的状況のもとで合理的に判断されるべき事柄である

福岡高裁 昭和52年9月14日

38条1項における「進路の前方」は、車幅+安全側方間隔だとしています。
警察の取り締まり基準は5mですが、一律には決めることが出来ず、以下の要素を加味して決まります。

横断歩行者をして危険を感じて横断を躊躇させたり、その進行速度を変えさせたり、あるいは立ち止まらせたりなど、その通行を妨げるおそれがあるかどうか

前段の「減速義務」の意義

38条1項は前段の減速義務がポイントですが、前段の義務は昭和46年に追加されました。
昭和46年道路交通法改正以前の判例に、減速義務の意義が示されています。

東京高裁 昭和46年5月31日(刑事)

この判例は信号機がない横断歩道で一時停止を怠り発生した事故について、業務上過失致死傷に問われた判例です。

車両等の運転者はどのような状況があれば右の速度調節義務を負うものであろうか。それは、その際の道路およびその周辺ないし車両通行の状況、道路付近にいる歩行者の状況等により具体的、個々的に考えられるべきものであるけれども、一般的にいうならば、交通整理の行なわれていない横断歩道においては歩行者は強い優先権を有し、たとえ車両等がその横断歩道に近づいてきていてもこれを横断して差支えないものであり、これを車両等の運転者の側からみれば、一時停止しなければならぬ状況の発生をあらかじめ明確に予知することは困難な関係にあるわけであるから、車両等の運転者としては、一時停止を必要とする状況の発生がいやしくも予想されうる状態のもとにおいては、その状況がいつ発生するかわからないことを念頭に置いてこれに備え速度を調節すべきであり、いいかえるならば、速度調節を必要としないのは、そのような状況発生の蓋然性が認められない場合すなわち自車が横断歩道の手前に接近した際にその横断歩道の進路左側部分を横断し、又は横断しようとする歩行者のないであろうことが明らかな場合に限るというべきである。このことは、横断歩道直前における一時停止義務の場合とを区別して考うべきであつて、右の一時停止義務は歩行者が現に「横断し、又は横断しようとしているとき」に発生すると解すべきこと道路交通法38条1項の規定上明らかであるのに対し(検察官の控訴趣意中に、横断歩行者の有無が明確でない場合にも一時停止義務があると主張する部分があるが、この点は採用しがたい。)、この速度調節義務は事前のことであり将来発生するかもしれない状況に対処するためのものであるから、その状況の発生しないであろうことが明確な場合に限つてその義務がないとされるのである。

東京高裁 昭和46年5月31日

※「横断歩道の進路左側部分」とあるのは昭和46年改正以前の表記で、現在は「横断歩道によりその進路の前方」。

歩行者が横断を開始しないのが明らかな場合以外は、全て減速義務を負うとされています。
歩行者が見えたら減速ではない。

38条はよほど見通しがいい場面を除けば、全て減速義務を負うと考えたほうがよい。
減速している状態なので、現に横断しようとする歩行者を発見したらゆっくりブレーキを踏んで一時停止するだけです。

東京高裁 平成22年5月25日(刑事)

この判例は歩行者の事故ではなく自転車の事故。
歩行者にも考え方が通用する判示があります。
制限速度40キロの道路を時速55キロで進行した事例。

進行道路の制限速度が時速約40キロメートルであることや本件交差点に横断歩道が設置されていることを以前から知っていたものの、交通が閑散であったので気を許し、ぼんやりと遠方を見ており、前方左右を十分に確認しないまま時速約55キロメートルで進行した、というのである。進路前方を横断歩道により横断しようとする歩行者がないことを確認していた訳ではないから、道路交通法38条1項により、横断歩道手前にある停止線の直前で停止することができるような速度で進行するべき義務があったことは明らかである。結果的に、たまたま横断歩道の周辺に歩行者がいなかったからといって、遡って前記義務を免れるものではない

東京高裁 平成22年5月25日

38条1項前段の減速義務は、「横断しようとする歩行者が明らかにいない場合」以外は減速して一時停止に備える義務を課しています。
最終的に、結果論として歩行者がいなかったから減速義務が免除されるわけではないとしている。

これはよくよく考えてみると、例えば横断歩道手前70mくらいの地点では「横断しようとする歩行者がいるか不明」なわけ。
減速義務の除外事由は「横断しようとする歩行者が明らかにいない場合限定」なわけで、「いるかいないか不明」なら減速義務が発生します。
制限速度を越えていて、きちんと確認したとは到底言えないわけです。
なお、横断歩道が赤信号で、赤信号のまま車両が横断歩道を通過することが明らかな場合は除外事由とみなされ減速義務はありません。

横断歩道上で一度立ち止まった歩行者の判例

大阪高裁 昭和54年11月22日(刑事)

この判例は業務上過失傷害罪に問われた判例です。

南行車線が渋滞で停止車両があり、停止車両の隙間から横断歩道を横断しようとし、横断歩道の中央付近で姉が顔を出して反対車線を確認。
姉は横断を躊い横断歩道中央付近で立ち止まった。

車の運転者は時速8~10キロで進行していたものの、姉が横断中に立ち止まったことから横断歩行者がいないと考え進行。
弟(8歳)が姉の横から横断したために起こった事故です。

イメージ図(正確性は保証しません)。

このように横断歩道上を横断しようとしてその中央付近手前まで歩んできた歩行者が、進行してくる被告人車をみて危険を感じ、同歩道の中央付近手前で一旦立ち止まったとしても、横断歩道における歩行者の優先を保護しようとする道路交通法38条の規定の趣旨にかんがみると、右は同条1項後段にいう「横断歩道によりその進路の前方を横断しようとする歩行者」にあたるというべきである。
そして、同女が横断歩道上の前記地点で立ち止まったとしても、前記認定のような当時の状況に徴すると、同女の後方からさらに横断者のあり得ることが予想される状況にあったのであるから、自動車運転者である被告人としては、同女の姿を認めるや直ちに、右横断歩道の手前の停止線の直前で(仮に、被告人が同女の姿を最初に発見した時点が、所論のように被告人車の運転席が停止線付近まで来たときであったとしても、事理は全く同様であって、その時点で直ちに)一時停止し、横断者の通行を妨げないようにしなければならなかったのである。

大阪高裁 昭和54年11月22日

なお、38条2項には横断歩道や横断歩道の直前で停止している車両があるときには、一時停止する義務があります。

2 車両等は、横断歩道等(当該車両等が通過する際に信号機の表示する信号又は警察官等の手信号等により当該横断歩道等による歩行者等の横断が禁止されているものを除く。次項において同じ。)又はその手前の直前で停止している車両等がある場合において、当該停止している車両等の側方を通過してその前方に出ようとするときは、その前方に出る前に一時停止しなければならない

この規定は対向車が停止している状態ではなく、同一進行方向の車両が停止している場合に課された義務です。

ただし、この判例のように対向車が渋滞で停止状態にあるときには、「事実上」一時停止レベルにしないと横断歩行者を見逃すリスクが高いと言えます。

38条1項前段の減速義務があることは疑いようがなく、38条2項の一時停止義務の対象ではないことも明らかですが、事故防止のためには最徐行もしくは一時停止しないと対向車の隙間から横断歩道を横断してくる歩行者を見逃すので注意が必要です。

見えない、見通しが悪いならそれに応じた速度で。

なお、横断歩道ではなく歩道を横切るときの判例ですが、見えないなら一時停止では不十分で、一時停止とわずかに前進を小刻みに繰り返す注意義務があるとしています。

車が道路外の施設から歩道を横切って車道に進入する際は、歩行者を妨げてはならない義務があります。 自転車は一応、歩道を通行するこ...

車道が青信号(横断歩道は赤信号)になった直後の38条の義務

この判例は青信号で横断歩道を横断開始したものの渡りきれず赤信号になり、車道が青信号になった直後の注意義務についての判例です。

札幌高裁 昭和50年2月13日(刑事)

論旨は要するに、原判決は、本件事故が被告人の前方注視義務および安全確認義務懈怠の過失に基因するものである旨認定するが、被告人は、本件当時前方に対する注視および安全確認を尽していたものであつて、なんらこれに欠けるところはなく、しかも、本件の場合、被害者側の信号は、計算上同人らが横断を開始した直後青色点滅に変つたものと認められるから、同横断歩道の長さ(約31.6m)をも考慮すれば、同人らは当然右横断を断念し元の歩道上に戻るべきであつたのである。青色信号に従い発進した被告人としては、本件被害者らのように、横断開始直後青色点滅信号に変つたにもかかわらずこれを無視し、しかも飲酒酩酊していたため通常より遅い歩行速度で、あえて横断を続行する歩行者のありうることまで予測して前方を注視し低速度で運転する義務はないから、本件には信頼の原則が適用されるべきであり、したがつて、被告人に対し前記のような過失の存在を肯認した原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認、法令解釈適用の誤がある、というのである。

(中略)

まず、被告人側の信号が青色に変つた直後における本件横断歩道上の歩行者の存否の可能性についてみると、司法巡査作成の「信号の現示と事故状況について」と題する書面によれば、本件横断歩道の歩行者用信号は、青色39秒、青色点滅4秒、赤色57秒の周期でこれを表示し、被告人側の車両用信号は、右歩行者用信号が赤色に変つてから4秒後に青色を表示すること、すなわち、被害者側信号が青色点滅を表示してから8秒後に被告人側信号が青色に変ることが認められるところ、横断歩行者の通常の歩行速度を秒速約1.5mとすると(交通事件執務提要305頁参照。)、歩行者は右8秒の間に約12m歩行することになるが、本件横断歩道の長さは前記のとおり31.6mであるから、歩行者がたとえ青色信号で横断を開始しても途中で青色点滅信号に変つたとき、渡り終るまでにいまだ12m以上の距離を残している場合、当該歩行者は被告人側の信号が青色に変つた時点において、依然歩道上に残存していることになる。
道路交通法施行令2条は、歩行者用信号が青色点滅を表示したとき、横断中の歩行者は「すみやかに、その横断を終えるか、又は横断をやめて引き返さなければならない。」旨規定するが、本件横断歩道の長さに徴すると、たとえ歩行者が右規定に従つてすみやかに行動するとしても、右残存者がでることは否定し難く、とくに本件交差点付近は前記のとおり札幌市内でも有数の繁華街「すすきの」に位置し、多数の歩行者が存在するばかりか、本件当時はその時刻からいつて歩行速度の遅い酩酊者も少なくないので、右のような残存歩行者がでる蓋然性は一層高いものといわねばならない

してみると、本件のような道路、交通状況のもとにおいて、対面信号が青色に変つた直後ただちに発進する自動車運転者としては、特段の事情のないかぎり、これと交差する本件横断歩道上にいまだ歩行者が残存し、なお横断を続行している可能性があることは十分に予測できたものとみるのが相当であつて、特段の事情を認めえない本件の場合、被告人に対しても右の予測可能性を肯定するになんらの妨げはない。そして、以上のごとく、被告人が本件交差点を通過するに際し、本件横断歩道上にいまだ横断中の歩行者が残存していることが予測できる場合においては、当該横断歩道により自車の前方を横断しようとする歩行者のいないことが明らかな場合とはいいえないから、たとえ、被告人が青色信号に従つて発進し本件交差点に進入したとしても、本件横断歩道の直前で停止できるような安全な速度で進行すべきことはもとより、同横断歩道により自車の前方を横断し、または横断しようとする歩行者があるときは、その直前で一時停止してその通行を妨害しないようにして歩行者を優先させなければならない(道路交通法38条1項なお同法36条4項参照)のであつて、被告人としては、いつでもこれに対処しうるよう、本件被害者らのような横断歩行者との接触の危険性をも十分予測して前方左右を注視し、交通の安全を確認して進行すべき業務上の注意義務があつたというべきである。

札幌高裁 昭和50年2月13日

長い横断歩道ほど青信号で適法に横断開始しても渡り切れない歩行者が予想されます。
青信号だからといってすぐに発進することは許されず、きちんと横断歩道の状況をみてから発進する注意義務があるとしています。

なお、横断歩道がずっと赤信号(車道が青信号)の場合には、38条による高度な注意義務はありませんが、安全運転義務はあるため安全確認しながら進行する義務があります(徳島地裁 令和2年1月22日)。

この記事は過去に書いた判例など、まとめたものになります。 いろんな記事に散らかっている判例をまとめました。 横断歩道と自転車の関...

横断歩道を車両が通過した後の注意義務

道路交通法38条は横断歩道に接近し、通過する際の義務を運転者に課していますが、横断歩道が何らかの理由により塞がっていた場合の注意義務に関する判例があります。

東京高裁 昭和50年9月5日(民事)

一審の事実認定より。
イメージ図。

1  右交差点(大関横丁)は北(千住方面)南(上野方面)に通ずる国道四号線(日光街道)―歩車道の区別があり、車道幅員約22.3m―と東(浅草方面)西(荒川方面)に通ずる明治通り―歩車道の区別があり、車道有効幅員約16.7m(この交差点から東側は車道南端歩道寄りが約30mにわたり工事中で柵が置かれて車両の通行が妨げられている)―とがほぼ直交する市街地の交差点であって、信号機が設けられ、浅草寄り(東端)には幅約3.7mの横断歩道がある。

2  被告車は、国道四号線千住方面から右交差点に至り、青信号を待って発進して交差点に進入し、左折したものであるが、左側に併進(左折)する自転車があったため、明治通りセンターライン寄りに進路をとった。

当時、明治通りの右交差点東側、西行車線上は、信号待ち車両が多く、二列で接着して長い列をなして停車していた。そのうち、右交差点内に(右横断歩道を越えて)停車しているのが二両、横断歩道にかかっているのが二両で、うち、センターライン寄りはトラックでその前半、その左側は乗用車でボンネット部分程度が横断歩道を塞いで停車していた。(したがって、右横断歩道の東側半分余りは完全に塞がれていたことになり、このことは被告車運転者が容易に認めることのできることである。)

3  右横断歩道上あるいはその直近を、南へ向う歩行者3、4人がセンターライン附近を過ぎ、一方北へ向う歩行者3、4人が被告車の進路あたりを通過した直後、被告車は左折車の先頭車として、既に歩行者が自車進路を通り過ぎたとみて、右横断歩道に進み、ほどなく、サードギヤーに変えるとともにアクセルを踏んで加速し、時速約25キロメートルで進行し、被告車運転者は自車先端が横断歩道東端を2~3m位過ぎた頃、横断歩道東端から約6m東方センターライン附近において前記停車車両の間を通り抜けてそのまま車道を小走りで横断しようとする原告を発見し直ちに急制動をかけたが及ばず、被告車右前部が原告に接触し、右前輪で原告の右上肢を轢いた。

東京高裁の判示です。

道交法は、第38条において、「車両等は、歩行者が横断歩道により道路……を横断し、又は横断しようとしているときは、当該横断歩道の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない」旨を、第38条の2において、「車両等は交差点又はその直近で横断歩道の設けられていない場所において歩行者が道路を横断しようとしているときは、その歩行者の通行を妨げてはならない」旨を定めているところ、交差点に横断歩道が設けられている場合においても、車両等が横断歩道に進入して停止している等の事情のため、横断歩道の全部若しくは大部分が塞がれ、歩行者が横断歩道上を通行することが不可能であるか若しくは多数の歩行者が信号の変わらない間に横断歩道内を安全迅速に通行、横断することが事実上困難な場合、換言すれば、横断歩道が本来の正常な機能を果し得ていない場合は、いわば、横断歩道がないに等しいか若しくはこれに近い事情にあるものと考えることができるのであって、かような状況の下では、信号がなお青であるかぎり、歩行者が横断歩道外の、その附近を通行することは、やむを得ないこと若しくは強いてとがめられないことというべきである。他面、青信号により交差点を左折してかような状況下にある横断歩道を通過しようとする車両の運転者は、横断歩道附近の、反対車線上につらなって停車している車両の間等から信号に従い横断しようとする歩行者が現われることのあり得ることは容易に予想し得るところである。しかも、歩行者は、横断歩道が本来の機能を果し得ていないことにつき本来責任がないのに、このため横断にあたっていっそう大きい危険にさらされることとなることから考えれば、かような歩行者の安全横断を確保するために、車両の運転者の側にいっそう大きい注意義務を要求することが公平にかない、前記各法条の精神にもそうゆえんである。これらの諸点から考えれば、青信号により交差点を左折して右のような状況下にある横断歩道を通過しようとする車両の運転者は、信号に従い横断歩道外の、その附近を通行、横断しようとしている歩行者に対する関係においても、前記各法条の想定する場合に準じて、歩行者優先の見地の下に、かような歩行者が安全に通行、横断ができるよう注意を払う義務があるものと解するのが相当である。

この見地から考えるに、前認定の事実によれば、控訴人車が青信号により左折して本件横断歩道に差しかかった際、幅員約3.7mの本件横断歩道中通行可能の部分は人ひとりが通過できる程度の間隔に過ぎなかったこと、横断歩道上に停車するような車両が信号の変わるのを待たず前車との間隔をつめるためにさらに前進しないとは保しがたいこと、歩行者が横断にかかろうとした位置いかんによっては前記のような間隔があることすらこれを的確に認識することが困難な場合もありうることなどから考えれば、当時、本件横断歩道は、正常な、本来の機能を果し得ていなかったものと認められ、控訴人車の運転者としても、このことを認識していたか若しくは少くともこれを認識し得べき事情にあったものと認められる。従って、控訴人としては、前記通行可能の部分附近を通過した歩行者の一団が自車の前方を通過した後においても、横断歩道附近の、反対車線上につらなって停車する車両の間等から信号に従い(当時信号がなお南北青を示していたことは、本判決において引用する原判決の認定するとおりである。)横断しようとする歩行者が現われるかもしれないことを考慮にいれて前方注意義務を尽すとともに、かような歩行者が現われる場合に備えて、何時でも停車できるような速度で進行する注意義務があったものというべきである。

東京高裁 昭和50年9月5日

横断歩道が何らかの原因で塞がっているけど横断歩道の信号機が青の場合、横断歩道から外れた位置から横断する歩行者がいることを予見可能。
横断歩道を通過した後でも、横断歩行者の存在を確認しながら進行する義務があるとしています。

道路交通法38条2項は、横断歩道手前に停止車両があるときには、一時停止して確認してから進行せよというルールです。 2 車両等は、横断歩道等...

横断歩行者が赤信号で横断した場合

横断歩道が赤信号であるにも関わらず横断開始した場合、38条の義務はありませんが70条安全運転義務があるため、事故を回避して歩行者を保護する義務があります。
ただし、運転者がきちんと注意義務を果たしたけど事故を回避できなかったと判断された場合には、有罪になる可能性はありません。

大阪高裁 昭和63年7月7日(刑事、信頼の原則を適用)

この事故は歩行者が赤信号の横断歩道を横断して起きた事故です。
一審は事実認定を誤り有罪にしました。

控訴趣意の論旨は、まず、原判決が被告人の過失を判示するにあたり「自車左前方約45.6mの地点に、自車進路前方を左から右へ横断しようとしているA(当時80歳)を認めたのであるから、前方注視を厳にし進路の安全を確認しつつ進行すべき注意義務がある」としている点について、被告人は右地点においては横断歩道の方に向っている歩行者を認めたにすぎないのであるから、右Aが80歳であり同女が横断しようとしているのを認めたとしているのは事実を誤認したものであり、また、原判示の交差点を前方青信号に従って直進通過しようとしていた被告人としては、右歩行者が横断歩道前方の赤信号に従い自車の通過を待つものと考えるのは当然であって、右歩行者を認めたことによっても自動車運転者に通常要求される程度を超える高度の注意義務を負担するに至るものではないのであるから、被害者の年令についての認識がどうであれ、同女が横断しようとしているものと認識していたとの誤認の事実を前提にして、「横断しようとしているAを認めたのであるから、前方注視を厳にし進路の安全を確認しつつ進行すべき注意義務がある」として、あたかも自動車運転者に通常要求される程度を超えた高度の注意義務があるかのようにしているのは法令の解釈適用を誤ったものであって、右各誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかであるというものであり、次に被告人に科せられる注意義務に関する右判示にもかかわらず、原判決の「罪となるべき事実」及び「弁護人の主張」(原判決は「弁護人の主張」としているが「弁護人の主張に対する判断」とでもするのが相当であろう)における判示及び説示を総合すると、原判決は、右通常要求される程度を超える高度の注意義務違反の有無を問題にしているのではなく、結局のところ自動車運転者に通常要求される前方注視義務を被告人が欠いたために赤信号を無視して横断を開始した被害者の発見が遅れたことに被告人の過失を認めるもので、もし被害者が歩道と車道の境界をなす縁石線から10センチメートル車道上に進出した時点で被告人においてこれを発見し衝突を回避する措置を講じていたら本件結果を回避できたのに被告人は前方注視を怠ったため横断しようとしている被害者を右時点で発見することができず本件を惹起したとする趣旨にも解し得る点について、前同様青信号に従って通過しようとしていた被告人としては、右時点でもなお被害者が赤信号に従って停止し自車の通過を待つものと考えるのが当然であって、被害者が赤信号を無視して自車前方を横断するものと予想してこれとの衝突を未然に回避するための措置を講ずべき義務を未だ負担するものではなく、被告人に右のような予見義務が発生するのは被害者が更に1.2m程度車道内へ前進した時点というべきであるが、その時点では被告人運転車の速度との関係で既に結果回避の可能性が存しないのであって、結局被告人に注意義務違反は存しないということになり過失は認められないというべきであるから、右の点においても原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな法令解釈適用の誤りが存するというものである。

一審は事実認定を間違えているとしています。
原判決は「自車左前方約45.6mの地点に、自車進路前方を左から右へ横断しようとしているA(当時80歳)を認めたのであるから、前方注視を厳にし進路の安全を確認しつつ進行すべき注意義務がある」として注意義務を判示。
しかし45.6m先に見たのは、「横断しようとする歩行者」ではなく、「横断歩道に向かう歩行者」。

○一審の間違い事実認定(実際に横断開始している?)

○真実(横断歩道に向かっている)

本件交差点は信号機による交通整理の行なわれている交差点で被告人の進行方向は前方青信号を表示していたのであるから、これに従って本件交差点を直進通過しようとしていた被告人としては、特別の事情のない限り、前方の横断歩道上を横断しようとする歩行者はすべて横断歩道前方の赤信号に従って横断をさし控えるものと期待し信頼するのは当然で、自動車運転者に通常要求される前方注視義務を尽しつつ運転すれば足り、赤信号を無視して横断する歩行者があることまでも予想してこれに対処し得る運転方法を執るまでの義務はないのであって、右地点に北へ向け歩行中の本件被害者を認めたことによってもこの点は何ら影響を受けるものでない。

(中略)

先に認定のような状況下で自動車を運転中の被告人に右のような予見義務が生じるのは、早くとも、被害者が更に車道内に進出して歩道縁石線から1.3mの間隔にある車道外側線あたりに達した時点すなわち見取図の地点から2.2m前進した時点(被告人運転車両の速度を時速45キロすなわち秒速12.5mとすると、同車両が見取図①の地点から②の地点まで19.6m進行するのに要する時間は1.568秒となり、被害者はこの間に見取図の地点からの地点まで3.2m進んでいるのであるから1m進むのに要する時間は0.49秒で、2.2m進むのに要する時間は1.078秒となるから、被害者の地点通過後1.078秒後)あたりと考えるのが相当であり、被告人運転車両は右地点に被害者を発見後右時点までの間に見取図①の地点から13.725m進行することとなるから、衝突地点である横断歩道まで31.025mを残すに過ぎないのであって、この時点では、被告人が衝突を回避すべく急制動の措置を執ったとしても、現実に要した被告人運転車両の制動距離が31.5mであったこと、右計算の前提となった各地点の位置関係に多少の誤差を伴うことが避け難いこと、被害者が歩道の縁石線を越えて車道に立ち入るにあたり多少逡巡したということも大いに考えられるから1.3m先の車道外側線に達するまでの所要時間が計算上のものより長くなり従って右時点までに被告人運転車両も横断歩道に一層近接している可能性も存すること等を考慮すると、本件衝突を回避することが可能であったとかあるいは衝突は不可避としてもより軽微な結果にとどまったとか断ずるには大いに疑問があるといわねばならず、所論のいうように、被告人に本件結果について予見義務が生じると考えられる時点においては既にそれを回避する可能性が存しなかったというべきで従って被告人に回避義務を科することはできず結局注意義務違反のかどは存しないこととなる

大阪高裁 昭和63年7月7日

この判例では、歩行者が赤信号のまま横断開始した時点で急ブレーキを掛けたとしても、回避不可能として無罪にしました。

東京高裁 昭和59年3月13日(刑事、信頼の原則を否定)

こちらの判例は横断歩道からちょっと外れた位置を赤信号で横断していた判例ですが、通常の注意義務を果たせば事故は回避できたとして有罪にしました。

本件は、被告人が深夜(略)普通乗用自動車を運転し、車道幅員約12mで片側一車線の歩車道の区別のある道路を時速約40キロメートルで走行中、本件交差点にさしかかり、青色信号に従い右交差点を直進しようとした際、酔余赤色信号を無視して交差点内中央付近を右から左へ横断歩行していた本件被害者2名を約13ないし14m先に初めて発見し制動措置をとることができないまま自車前部を両名に衝突させたことが明らかであり、これに反する証拠は存在しないところ、本件交差点出口南側横断歩道の左側に街路灯があるため、交差点手前の停止線から40m手前(本件衝突地点からは約51.4m)の地点から本件衝突地点付近に佇立する人物を視認できる状態にあり、しかも被害者の服装は、一名が白色上衣、白色ズボン、他の一名が白色ズボンであったから、被告人は通常の注意を払って前方を見ておけば、十分に被害者らを発見することができたと認められる。なるほど、被告人車の進路前方右側は左側に比べて若干暗くなっているけれども、(証拠等)によれば、被告人が最初に被害者らを発見した段階では、すでに被害者らは交差点中心よりも若干左側部分に入っており、しかも同人らは普通の速度で歩行していたと認められるから、前記見通し状況のもとで、被告人が本件の際被害者らを発見する以前に同人らを発見することは十分に可能であったと認められる。

そして、本件が発生したのは深夜であって、交通量も極めて少ない時間であったこと、本件事故時には被告人車に先行する車両や対向してくる車両もなかったし、本件道路が飲食店等の並ぶ商店街を通るものであること、その他前記本件道路状況等に徴すると、交通教育が相当社会に浸透しているとさいえ、未だ本件被害者のように酔余信号に違反して交差点内を横断歩行する行為に出る者が全くないものともいいがたく、したがって、本件において、被告人が本件交差点内に歩行者が存することを予見できなかったとはいえないし、また、車両運転者が歩行者に対し信号表示を看過して横断歩行することはないとまで信頼して走行することは未だ許されないというべきである。

東京高裁 昭和59年3月13日

普通に前を見ていれば容易に回避可能という判例です。

歩行者が譲ってきた場合

歩行者が手で「先に行け」などと譲ってきたので進行したところ違反を取られたという話を時々聞きます。
直接的な判例はありませんが、「横断しようとする歩行者」について争われた判例があります。

東京高裁 昭和42年10月12日(刑事)

当時の法律は71条3号(昭和38年改正)。

三 歩行者が横断歩道により道路の左側部分(当該道路が一方通行となつているときは、当該道路)を横断し、又は横断しようとしているときは、当該横断歩道の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにすること。

判例は東京高裁 昭和42年10月12日。
認定された事実は以下の通り。

(一)  歩行者である老人は、横断歩道によつて、古町通りから、白山公園入口に向けて車道を横断するため、歩道から横断歩道に2、3歩足をふみ出したが、被告人の車を先頭に十数台の車両が進行してくるのを見て、その場に一時停止したものの、その際別段歩道上に引き返すような素振が見受けられなかつたことが、明らかであり、右事実に徴すれば、右老人は、横断歩道によつて、古町通りから白山公園入口に向けて車道を横断しようとしたものであるが、被告人の車を先頭に十数台の車両が進行してくるのを見て、横断に危険を感じ、その安全を見極めるため、一時停止したにすぎないものであつて、歩道上に引き返すような素振を見せる等外見上明らかに横断の意思を放棄したと見受けられるような動作その他の状況が認められない以上、直ちに横断の意思を一時放棄したものとは認められないこと、
(二)  被告人は一時停止することなく、歩行者である右老人の直前1.5mないし2mのところを通過したこと、
(三)  右老人が立止つていた個所のすぐ先の左側には貨物自動車が停車していた、事実がなかつたこと、
(四)  警察官は、被告人および右老人の行動を近距離から現認し、被告人が横断歩道直前での一時停止を怠つたものと認めたので、同人を検挙したものであること

裁判所の判断です。

右法条にいわゆる「横断しようとしているとき」とは、所論のように、歩行者の動作その他の状況から見て、その者に横断しようとする意思のあることが外見上からも見受けられる場合を指称するものであるが、論旨第一点において説示したとおり、老人が横断歩道で立ちどまつたのは、そのまま横断すれば危険であると考え、その安全を見極めるためにしたものにすぎず、横断の意思を外見上明らかに一時放棄したものとはいえないから、この場合は、前記法条にいわゆる「横断しようとしているとき」に該当するものというべきである。そこで右主張もまたこれを容れることができない。論旨は理由がない。

東京高裁 昭和42年10月12日

横断の意思の「一時放棄」について述べてますが、手で「先に行け」と促されたことは横断意思の一時放棄に該当する可能性はあります。
きちんと一時停止して何度か確認した上なら、一般的には取り締まり対象にはしていないと思いますが、取り締まりされた事案はそれなりに聞くため、誰かが裁判で争わない限りは結論は不明です。

なお、警備員の指示に従って左折して横断歩道事故を起こした事故について、徐行やミラー確認をした以上は警備員の指示を信頼して進行しても過失ではないとした判例があります。

個人的にはどうでもいい話題だと思うのですが、このような質問を頂きました。 たぶんこんなイメージかと。 ちょっと話が長...

歩行者の責任

刑事上の責任

道路交通法上、歩行者は以下の義務があります。

・信号を守る義務(7条)
・付近に横断歩道があるときは横断歩道を使う義務(12条1項)
・横断歩道以外を横断するときは、車両の直前直後横断の禁止(13条1項)
・横断禁止の標識がある場所での横断禁止(13条2項)
・斜め横断禁止(斜め横断可能な横断歩道を除く、12条2項)

信号無視以外は、事実上罰則はありません。

道路交通法上、横断歩道を横断する歩行者は車が迫っていようと横断することは何ら違反になりません。

交通整理の行なわれていない横断歩道においては、横断歩行者はきわめて強い優先権を有し、いつ横断を開始してもよいと同時に、その横断のしかたに関しても、必ずしも通常の速度でのみ歩行しなければならないものではなく、走る方法で横断することも―それが現在の交通の実態からみて当該歩行者にとり危険なときもあることは別として―別に禁ぜられているところではなく、現にそのような横断も往々にして行なわれているのであるし、ことに小児の場合、走つて横断することの多いことは、好むと好まざるとにかかわらずわれわれの経験上明らかなところである。そして、このように横断歩道上における歩行者の自由な横断を許し、歩行者にきわめて強い優先権を認めることは、そもそも横断歩道なるものが歩行者の安全かつ自由な横断と車両の円滑な交通との調節点として案出されたものであつて、横断歩道が設けられた場合には法はその附近で歩行者の横断を禁止する反面、横断歩道によつて横断する場合には車両の直前または直後で横断してもよいこととし、その他横断の方法につきなんら制限を規定せず、他方横断歩道を通過しようとする車両等に対しては前記の一時停止義務のほか諸種の制限を設けている

東京高裁 昭和46年5月31日(刑事)

赤信号で歩行者が横断開始した場合、信号無視(道路交通法7条違反)になることや、歩行者が重過失致死傷罪として書類送検された事例があります。

https://news.yahoo.co.jp/byline/maedatsunehiko/20190613-00129877

二輪車であれば歩行者と衝突した場合に、二輪車の運転者が怪我や死亡する可能性があるからです。

民事上の責任

横断歩道上で歩行者に衝突した場合、横断歩行者が赤信号で横断開始したようなケース以外は、過失割合は歩行者:車=0:100です。
信号のない横断歩道や、青信号で横断開始した歩行者には道路交通法上、何ら違反はありません。

しかし、以下のケースでは歩行者に過失がつくことがあります。

・夜間
・幹線道路
・歩行者の注意により容易に事故を回避できた場合

本件事故当時降雨中であつたため、控訴人は右手で雨傘を差し左手で手提かばんを持つて(または抱えて)歩行し、信号機の設置されていない本件事故のあつた横断歩道の手前で、横断のため左右を見たところ、南方から被控訴人車が北進しているのに気づいたが、かなりの距離があつたので歩道(一段高い)端附近に横断歩道に向つて立ち止まり、右のように右手に傘を持ち左手にかばんをかかえながらライターを取り出して煙草に火をつけた後、左右の交通の安全を確認しなくても安全に横断できるものと考えその確認をしないまま、横断歩道上を横断し始め、約1.3m歩いたとき被控訴人車左前方フエンダー附近に控訴人の腰部を接触し、本件事故を起した

以上のとおり認められる。もつとも、乙第12号証(控訴人の供述調書)には、横断前に一度左右を見たことについて述べていないが、原審控訴人本人尋問の結果では事故のシヨツクで思い出せなかつたと述べており、これと対比すると右認定を妨げるものではなく、他に右認定を左右する証拠がない。

横断歩道であつても信号機の設備のない場合歩行者は左右の交通の安全を確認して横断すべき注意義務(事故を回避するための)があることは多言を要しない。右事実によると、控訴人は一旦横断歩道の手前で左右を見て被控訴人車がやや離れた南方から北進中であり直ちに横断すれば安全に横断できた状態であり、その時点では控訴人は右注意義務を果したといえないわけではない。しかし、控訴人はその直後に歩道端に横断歩道に向つて立ち止まり、右手に傘を持ち、左手でかばんをかかえながらライターを取り出して、煙草に火をつけたというのであるから、通常の場合よりも若干手間取つたことが考えられ、その時間的経過により、被控訴人車がさらに近づきもはや安全には横断できない状態になつていたことが十分に予測できたものといえるから、控訴人が横断し始めるときには、すでに、歩道に立ち止まる以前にした左右の交通の安全の確認では不十分で、さらにもう一度左右の交通の安全を確認した後に横断を始めるべき注意義務があつたものというべきである。しかるに、控訴人は歩道に立ち止まる前にした左右の交通の安全の確認だけで安全に横断できるものと軽信し、あらためて左右の交通の安全を確認しないまま横断し始めた過失があり、それが本件事故の一因となつているものといわざるをえない。本件事故についての控訴人、被控訴人双方の過失の態様、程度を比較し検討すると、控訴人の過失割合は10%とみるのが相当で、これを損害額算定につき考慮すべきものである。

広島高裁 昭和60年2月26日

適法に横断した歩行者に過失がつくケースはそれほど多くはありません。
判例では5~20%程度、歩行者に過失がつくことがあります。

確認したところ、令和2年9月25日大阪地裁で10%(昼間)、平成8年5月23日神戸地裁で5%(夜間、ただし高齢者)、それぞれ歩行者に過失をつけています。
どちらも信号機がない横断歩道です。

道路交通法上、横断歩道を横断する歩行者に何ら注意義務を課してないことから過失相殺を認めない判例のほうが多いとは思われますが、歩行者のわずかな注意で事故を回避できたケースでは過失相殺することもあります。

広島高裁判決の中に「左右の交通の安全を確認して横断すべき注意義務(事故を回避するための)」とありますが、民事の過失って道路交通法違反だけじゃなく「予見可能なことを回避しなかったこと」が含まれます。
38条の「強さ」や、車と歩行者のパワーバランスなどを考慮すると歩行者に高度な注意義務を課しているわけではなくて、わずかな注意で回避できるようなものを回避しなかった場合のみ歩行者の過失にしている印象はありますが、裁判官の考え方次第なのかも。

実際のところ、一審で歩行者に過失をつけながらも、二審で過失ゼロにしている判例も。
(横浜地裁昭和56年9月24日、東京高裁昭和57年5月11)

ほとんどの事故は裁判ではなく示談。
運転者は過失運転致死傷に問われているため、民事上は早く誠意を示し示談して不起訴や減刑を狙うかと。
もちろん、本当に誠意があるなら最初から一時停止しますけど。
なので歩行者は無過失になることがほとんど。

最後に

38条の基本は、横断歩道の予告標示(菱形)を見つけたら減速を開始するところにあります。

義務義務の発生点義務の除外規定
前段横断歩道の手前で停止できるような速度横断歩道に接近する時横断歩道を横断しようとする歩行者がいないことが明らかになったら
後段一時停止と妨害禁止横断しようとする歩行者がいる時

右左折時にはそもそも徐行義務があるので(34条1項、2項)、横断しようとする歩行者がいたらそのまま一時停止するだけ。

減速義務、徐行義務を果たさないから止まれないわけで。

最近ちょっと気になるのですが、「歩行者には横断歩道にて左右の確認をする義務はない」と言う人がいます。
これについては正直なところ舌足らずというか、「道路交通法上の義務はない」であって、民事上の注意義務はあると判例でも示されています。

道路交通法は刑法なので、刑法上の義務はないというならわかるけど。

ちなみに道路交通法38条は昭和46年改正により過失犯も処罰する規定になってます(119条2項)。
過失犯の処罰規定を新設した理由は、「歩行者の存在に気が付かなかった」という言い訳マンが横行したから。

道路交通法について詳しく知りたいなら、とりあえずは「執務資料道路交通法解説」(東京法令出版)をオススメします。
ただし、今の時代に合わない判例が掲載されていたり、記述の間違いもあるのも事実。
執務資料に掲載されている判例についても、可能であれば全文を読んだほうがよろしいかと。