ちょっと前に名古屋で起きた電動キックボードひき逃げ事件ですが、
逮捕されたそうな。
立ち乗り二輪車「電動キックスケーター」で歩行者をはねて逃げたとして、愛知県警中署は8日、松崎和則容疑者(44)を道交法違反(ひき逃げ)と無免許危険運転致傷の疑いで逮捕した。「(電動スケーターを運転するのに)免許が必要だとは思っていなかった」と供述し、容疑を一部否認しているという。
逮捕容疑は3日午後5時10分ごろ、名古屋市中区栄4の路上で、電動スケーターを運転中、歩いていた同市東区の男性(47)に衝突し、そのまま逃げたとしている。男性は鎖骨を折るなどの重傷。
昨年7月に施行された改正道交法で、最高速度20キロ以下など一定の基準を満たす電動スケーターは16歳以上なら運転免許なしで乗れるようになったが、松崎容疑者が乗っていたのは運転免許が必要なものだった。
電動スケーターで歩行者ひき逃げ 44歳容疑者を逮捕 名古屋(毎日新聞) - Yahoo!ニュース立ち乗り二輪車「電動キックスケーター」で歩行者をはねて逃げたとして、愛知県警中署は8日、松崎和則容疑者(44)を道交法違反(ひき逃げ)と無免許危険運転致傷の疑いで逮捕した。「(電動スケーターを運転
電動キックボードは「一般原付」
先日も書いたようにこの標識ですが、
補助標識の「原付」とは一般原付のみを指し特定小型原付を含まない。
規制標識に車両の種類を記載するときは、次の表の上欄に掲げる車両について、それぞれ同表の下欄に掲げる略称を用いることができる。
車両の種類 | 略称 |
一般原動機付自転車 | 原付 |
なので特定小型原付なら逆走OK、一般原付なら逆走禁止になりますが、容疑者が乗っていた電動キックボードは免許が必要な一般原付タイプらしい。
一般原付 | 特定小型原付 | |
最高速度 | 30キロ | 20キロ |
免許 | 要 | 16歳以上不要 |
ナンバープレート | 要 | 要 |
ヘルメット | 要 | 努力義務 |
自賠責保険 | 要 | 要 |
容疑者は「免許が必要な電動キックボードとは認識していなかった」ようですが、故意がないと判断されると無免許運転罪は成立しない可能性があります。
無免許運転罪は故意犯の処罰規定しかありません。
ひき逃げについても故意犯の処罰規定しかありませんが、
被害者が怪我したことを認識した上で逃走しているので、ひき逃げ(救護義務違反)は成立するでしょう。
問題はここから先が…
無免許危険運転致傷罪は成立する?
問題は無免許危険運転致傷罪は成立するのか?になりますが、危険運転致傷罪が成立する場合に無免許運転だと「無免許分を罪に加重する」(自動車運転処罰法6条1項)なので、まずは危険運転致傷罪が成立するのか?が問題です。
先日も書いたように、当てはまりそうなのは「通行禁止道路」類型(2条8号)しかないのですが、
第二条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。
八 通行禁止道路(道路標識若しくは道路標示により、又はその他法令の規定により自動車の通行が禁止されている道路又はその部分であって、これを通行することが人又は車に交通の危険を生じさせるものとして政令で定めるものをいう。)を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
ちょっとややこしいのは、確かに容疑者が乗っていた電動キックボードは一般原付タイプ。
なので逆走した扱いで通行禁止道路を通行したことになります。
しかし政令で定める通行禁止道路の規定はこれ。
自動車運転処罰法施行令
第二条 法第二条第八号の政令で定める道路又はその部分は、次に掲げるものとする。
一 道路交通法(昭和三十五年法律第百五号)第八条第一項の道路標識等により自動車の通行が禁止されている道路又はその部分(当該道路標識等により一定の条件(通行の日又は時間のみに係るものを除く。次号において同じ。)に該当する自動車に対象を限定して通行が禁止されているもの及び次号に掲げるものを除く。)
二 道路交通法第八条第一項の道路標識等により自動車の通行につき一定の方向にするものが禁止されている道路又はその部分(当該道路標識等により一定の条件に該当する自動車に対象を限定して通行が禁止されているものを除く。)
先ほどの話に戻りますが、この標識。
一般原付の逆走を禁止する一方、特定小型原付の逆走は許されている。
自動車運転処罰法の「自動車」には一般原付も特定小型原付も含みますが、
特定小型原付の逆走は許されている以上、この除外規定に抵触して2条8号の「通行禁止道路」には該当しないのではないかと思うのですが、ちょっと自信がない。
詳しい方は教えてください。
しかし「無免許危険運転致傷」は警察のプレスリリースなんでしょうから、若干疑問です。
あくまでも「容疑者」だからなのかな。
民事の過失割合は
この場合、歩行者の過失もあり「横断歩道の付近なのに横断歩道を使わず横断した」と「直前横断」が歩行者の過失。
一般原付との事故でこの類型だと、基本過失割合は35:65。
一般原付は逆走扱いで重過失して捉えると、一般原付に+20%してこんな感じでしょうか?
歩行者 | 一般原付 |
15% | 85% |
ひき逃げ自体は過失割合とは関係ありません。
また、狭い道路なので多少歩行者有利に修正されるかも。
しかしまあ、問題はここ。
県警によると、松崎容疑者は「免許が必要と思わず、一方通行の規制対象外だと思っていた」と容疑の一部を否認している。県警は防犯カメラなどの捜査で松崎容疑者を特定した。
電動ボードでひき逃げ容疑で逮捕 一方通行を逆走、無免許か:東京新聞 TOKYO Web愛知県警は8日、無免許で電動キックボートを運転し、歩行者をはねて重傷を負わせ逃走したとして、自動車運転処罰法違反(無免許危険運転致傷)...
免許不要な特定小型原付と免許必須の一般原付が混在しているので、免許が必要なタイプだと認識してないケースが多い。
無免許運転罪は故意犯の処罰規定しかないからか、不起訴を連発しています。
新潟区検は1月9日、運転免許を持たず電動キックボードを運転したなどとして、道交法違反(無免許運転)と自動車損害賠償保障法違反(無保険)の疑いで書類送検された新潟市西区の20代女性を不起訴処分とした。理由は明らかにしていない。
電動キックボード無免許運転疑いで新潟県内初摘発、新潟市西区の20代女性を不起訴処分・新潟区検 | 新潟日報デジタルプラス新潟区検は1月9日、運転免許を持たず電動キックボードを運転したなどとして、道交法違反(無免許運転)と自動車損害賠償保障法違反(無保険)の疑いで書類送検された新潟市西区の20代女性を不起訴処分とした。…
これらが不起訴になる理由は明らかではありませんが…
この件って逃げずに救護していれば、こんな大騒ぎにはならなかったのではないかと思われます。
危険運転致傷罪は本当に成立要件を満たしているのか疑問がありますが、免許が必要なタイプを勘違いしている人が多いので、ジャンジャン摘発して欲しいところ。
不起訴を連発しているのが気になりますが、今回は少なくともひき逃げは成立します。
なお無免許危険運転致傷罪も故意犯なので、仮に通行禁止道路類型の構成要件を満たしていたとしても、「免許が必要と思わず、一方通行の規制対象外だと思っていた」だと故意がないことになってしまい…
コメント
自転車除くだと処罰法にいう通行禁止道路に該当して、自動車・原付だと該当しないってことになって面白いですね
あれ?自転車除くに特定小型原付という自動車が含まれているから、これも該当しない事になるのかな?
区分と条件は違うのかも?
コメントありがとうございます。
どっちだと思います??
危険運転致傷罪にならない気がするように読める気がしまして…
憶測でしかないのですが、
・ナンバープレートを付けてないのは違法
・無免許で運転できないタイプ
両方とも認識していたからこそ逃走したんじゃないかと思います。
そうでなければ、逃げずに、警察や救急車を呼ぶような対処をしてたと思うのですが、どうなんでしょうね。
まぁ、管理人さんもいろいろな事件を上げられていますが、常識が通じない人も多そうですね。
コメントありがとうございます。
どこまで認識していたかはビミョーですが、ナンバー必須なのを知らない人も普通にいるのですよね…
常識が通じない人はたくさんいますし、何の話をしているのか日本語が通じない人もいるので、困ったもんですよね。