読者様より、自転車同士の追い越し時のベルの使用に付いてメールいただきました。
でも、判例で自転車を追い越す時にベルを鳴らすことを推奨しているようなものがあるのですが、どうなんでしょうか?
https://www.o-basic-kotsujiko.net/column/post_82.html
ということです。
自転車同士の追い越し時のベルの使用
こちらのサイトに書かれていたことを引用します。(判決文です)
(1)「原告は、被告の死角である後方から被告に接近し、そのすぐ脇を通過しようとしたのであるから、原告としては、被告の姿勢や動作等のみならず、被告の周辺の交通状況を十分に注視した上(原告が被告のすぐ脇を通過しようとする際、原告車の接近を知らない被告がどのような動作に出るのか、その周囲の交通状況はどう変化するのか、等について予測し、留意しなければならないからである。)、原告車が被告の右脇を通過することを知らせてその注意を促すために、呼び鈴を鳴らしたり、大きな声をかけたりするなどの警鐘措置をあらかじめとり、かつ、自らは、徐行したり又は状況次第では自転車から降りて押して歩いたりするなどの安全な運転方法で、原告車を運転すべきであった。」
(2)「このような運転方法は、自転車を運転する者が歩行者や他の自転車をその後方から追い越そうとする場合に、一般的に要求されるものというべきである。しかるに、原告は、かかる運転方法をとらなかった上に、前示のように、自ら、被告の身体及び被告車に衝突させて転倒するに至ったのであるから、本件事故を発生させた責任は、専ら原告にあるといわざるを得ず、原告は、被告に対して、本件事故の発生について過失責任を追及することはできない。」
引用:https://www.o-basic-kotsujiko.net/column/post_82.html
ちょっと気になったので、この判決本文を取り寄せて読んでみました。
この事故で起こったこと
まずこの事件ですが、純粋な自転車同士の事故ではありません。
判決文の要旨にはこうあります。
停止中の自転車(A車)の右脇を後続の自転車(B車)が追い越そうとして進行したところ、B車がA車の前輪に衝突・転倒した事故について、B車搭乗者(主婦・60歳)は、あらかじめA車右脇を通過するに際し警鐘措置をとり、徐行するか又は状況によりB車から降りて押して歩くなどをすべきであったのに、そのような方法をとらなかったとして過失を認め、停止中であったA車の過失を認めなかった事例
B車搭乗者が、A車搭乗者に損害賠償を求めたものの、A車には過失がないとした事件です。
降りていれば、歩行者と同じですよね。
裁判所が認定した事実関係はこうなっています。
被告は、(中略)、被告車を停止させ、その右側に降り立った直後、被告の右側約50センチの距離を通過しようと被告の後方から接近してきた原告が、原告車又は原告の身体を被告の右腕外側に接触させた。そして、原告車は環七通り方面に向かって真っ直ぐ向かっていくような走行形態ではなく、左斜めに被告に寄っていくような走行形態であったため、原告車の前輪は被告車の前輪に接触することなく通過したものの、原告車の後輪が被告車の前輪に衝突した。
そのため、原告車はバランスを崩し、転倒するに至った。
場所は歩道が分離してない狭い道のようで、要は先行していた自転車が停止し降り立ったところに、後ろから来た自転車が約50センチという至近距離で追い越ししようとしたために衝突したという事故です。
なので判決は後続車の過失が100%だとしています。
しかし、この判決の中で裁判官は、一般的な歩行者や自転車の追い越しのルールについて言及しているわけです。
(1)「原告は、被告の死角である後方から被告に接近し、そのすぐ脇を通過しようとしたのであるから、原告としては、被告の姿勢や動作等のみならず、被告の周辺の交通状況を十分に注視した上(原告が被告のすぐ脇を通過しようとする際、原告車の接近を知らない被告がどのような動作に出るのか、その周囲の交通状況はどう変化するのか、等について予測し、留意しなければならないからである。)、原告車が被告の右脇を通過することを知らせてその注意を促すために、呼び鈴を鳴らしたり、大きな声をかけたりするなどの警鐘措置をあらかじめとり、かつ、自らは、徐行したり又は状況次第では自転車から降りて押して歩いたりするなどの安全な運転方法で、原告車を運転すべきであった。」
(2)「このような運転方法は、自転車を運転する者が歩行者や他の自転車をその後方から追い越そうとする場合に、一般的に要求されるものというべきである。しかるに、原告は、かかる運転方法をとらなかった上に、前示のように、自ら、被告の身体及び被告車に衝突させて転倒するに至ったのであるから、本件事故を発生させた責任は、専ら原告にあるといわざるを得ず、原告は、被告に対して、本件事故の発生について過失責任を追及することはできない。」
自転車が追越す際に起こった事故は、原則として追い越しする側が注意義務があるとしています。
ただ、あくまでもママチャリを想定した判決だと思うので、これがロードバイクに当てはまるとは思いません。
(私見ですが)
判決内容もそうですが、ここでいう自転車の追い越しって、想定しているのはあくまでもママチャリでしょう。
原付バイクが原付を追い越すときに、クラクション鳴らすのか?という問題にもなりかねませんし、ロードバイクが走行しているときに、追い越しのためにベルを鳴らすという発想は全く賛成できません。
判決文の最後、自転車に乗る人が、歩行者や自転車を追い越すときに、一般的に要求されることとして、以下を挙げています。
・呼び鈴を鳴らす
・大声で声をかける
⇒この二つは、前車に気づいてもらうための措置と言えます。
・徐行する
・自転車から降りて押して歩く
⇒この二つは、運転する者自体ができる回避策といえます。
ただ、歩行者に対してベルを鳴らして注意喚起すること自体、今の常識では違反だとなってます。
このような判決になった理由はある程度想像が付くのですが、どうも被告側が【ベル鳴らせば気がついたはずだけど、鳴らされていない】と主張したからだと思います。
正確なところはわかりませんが、このような主張をされた場合に、原告は【鳴らしてない】と認めれば、鳴らせば回避できた可能性もあるよね?という判決になることがあります。
あくまでも【危険を回避するためにやむを得ない場合】に
裁判で争われたケースは、実際に衝突事故が起きているわけで、防ぐには何らかの危険回避策を講じる必要があったのは間違いありません。
まあ、約50センチという至近距離で追い越しするなよということもありますが。
ロードバイクの場合、普通に走っても30キロとか35キロとか出ています。
そういうときに、追い越ししたいなら、きちんと車間を取って追い越しする。
それだけです。
判決文ではベル(呼び鈴ってなってますが)を鳴らすことも危険回避の1つの手段だとなっているわけですが、ベルを鳴らしたせいで、前車がビックリして事故を起こした場合には、非接触の驚愕事故になりうるので、そうなれば後車が加害者になります。
ただ判決を見てもらえばわかるように、自転車同士の追い越しでは、追い越しを実行する後車が注意を払うべきとなっているわけです。
一般的には、ロードバイク同士の追い越しであれば、距離を取って接近しないように追い越すのが普通です。
ベルを鳴らすというのは、最終手段として許されなくはないでしょうけど、推奨できることではないですね。
判決自体は平成13年になってます。
歩行者にベルを鳴らすのは違反、という概念が広まって来たのはもっと後だと思うので、今同じような事故が起こった場合に、同じ判決文になるかはちょっと微妙な気がします。
歩行者に鳴らすのが違反だというのは、昔から変わってないんですけどね。
この判決では、一般的な歩行者や自転車の追い越しのことまで言及して、ベルを鳴らすこともひとつの手段だとしているわけですが。
先日ある警察官と話してきたのですが、警音器の使用制限違反って、取ることはまずないそうです。
というのも、立証が難しいわけです。
鳴らした、鳴らしてないの証明が動画などが無いと困難なことや、本人が【危険を回避するためにやむを得ないと思った】と言えば、その人の判断ではそうだったという解釈にしかならないのが理由だそうです。
言い方は悪いですが、機転が利かない人っていますよね。
とっさの判断力が弱いというか。
そういう人が、危険を回避するためにやむを得ずベルを鳴らしたという話だったら、違反として取られることは恐らく無いでしょう。
追い越しするときは、ベルを鳴らすよりも、きちんと車間を取ることを心がけたほうが安全だと思いますが。
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2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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