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道路交通法違反の故意と過失。

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道路交通法は特別刑法なので、刑法38条の規定により過失犯についての特別規定がない場合には故意犯しか処罰できない仕組みになっています。

第38条
罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。

道路交通法の規定についても、ほとんどの条文は過失犯の処罰規定がありません。
38条横断歩行者等妨害については、昭和46年改正時に過失犯の処罰規定を新設してますが、

いろんな人
いろんな人
いやー、歩行者がいることに気がつきませんでしたよ!

 

このような言い訳マンが横行したからだそうな。
人間、何かあるとすぐに言い訳する人がいますから。
46年改正前は現在の「前段」に当たる減速徐行義務(速度調節義務)も明文化されていなかったので、なおさら言い訳マンが「歩行者に気がつかなかった」と弁解すると処罰しにくい事情があったのかと。

故意と過失

例えばですが、道路交通法37条には過失犯を処罰する規定がありません。

第三十七条 車両等は、交差点で右折する場合において、当該交差点において直進し、又は左折しようとする車両等があるときは、当該車両等の進行妨害をしてはならない。
(罰則 第百二十条第一項第二号)

反則金制度が誕生する前は道路交通法違反の容疑で起訴していたわけですが、37条違反の過失犯として起訴してしまい公訴棄却になった判例があります。

起訴状には公訴事実として「被告人は昭和(略)、軽四輪自動車を運転し函館市(略)交差点において昭和橋方向に右折しようとした際、前方約32mの地点に対向する小型四輪乗用車を認めたが、同車の速度を確認し右折に充分な間隔の有無を確認するなどしないまま漫然右折したため、直進する同車に自車の左前部を接触させ、もつて同車の進行を妨げたものである。」と記載されていて、通常過失犯に用いられる表現方法をとつているから、過失によつて直進車の進行を妨げた事実を起訴していることが一見して明らかである。この点につき当審検察官は「起訴状の漫然なる字句は、過失を意味するものではない。」旨釈明しているが、起訴状の記載は単に漫然右折したというのではなく、「同車の速度を確認し右折に充分な間隔の有無を確認するなどしないまま漫然右折した」というのであって、漫然なる字句が速度の確認や間隔の有無の確認等に十分注意しなければならない義務があるにも拘らず、その注意が散慢であつて右注意義務を懈怠した意に解せられる点、被告人の司法警察員に対する供述調書には「私が右折ですから注意すればよかつたので、今後は十分注意します。」とあり、検察官事務取扱検察事務官に対する供述調書には「当時降雪のため前方が見憎くかつたのですから、相手の車の前照灯を見たときにもう少し注意してその速度をよく見て絶対に安全だという程度の注視をすれば或はこの時相手車に接触する危険を事前に察知することが出来、右折を待つたかも知れません。その点相手の車の速度を確めないで右折しようとした点は私の不注意だつたと思います。」とあつて、これらの記載からみると、司法警察員及び検察事務官が過失犯として被告人を取調べたことが明らかであるし、原審検察官が「被告人は対向車の過失が原因となつて衝突するに至つたと極力主張するけれども、現認警察官及び対向車の運転者の各証言を総合して判断すると、対向車が10m位の距離に接近してから右折を開始し、しかも徐行しなかつたということであるから、被告人の過失は明らかである。」旨論告している点を総合すれば、原審検察官が本件を過失犯として起訴しその旨の論告をしていることが明らかであつて

(中略)

しかして自動車を運転して交差点を右折するに当り当該交差点において直進しようとする車両の進行を妨げる道路交通法第37条第1項違反の罪については、過失による場合は処罰の対象とならないこと同法第120条第1項第2号、第2項の反対解釈から明白である。
本件は、刑事訴訟法第339条第1項第2号に該当するから、原裁判所はすべからく同条に基づき本件については公訴棄却の裁判をすべきであつたのにこれを看過し、原判示のとおり原判示第二の事実を認定し、これに道路交通法第37条第1項、第120条第1項第2号を適用した上、原判示第一の事実と併合罪の関係にあるとして処断したのであるから、原判決には、不法に公訴を受理し、かつ法令の適用を誤つた違法がある。原判決はこの点において破棄を免れない。

 

札幌高裁函館支部 昭和38年7月18日

時々おかしな判例を見かけますが、道路交通法37条は過失犯の処罰規定がないにもかかわらず過失犯として起訴したため、公訴棄却で終了。

 

こういうのって故意じゃなければ許されるのか?というとそういうわけではなくて、37条の義務違反による過失により事故を起こせば、過失運転致死傷罪として起訴されるだけのこと。
民事責任も同様に追及されます。
義務自体が消失するわけではないからね。
そもそも、右折車からみて直進車の存在を察知していたなら未必の故意というわけにもいかないのかな。

 

あとは、条件を満たせば安全運転義務違反(70条)の過失犯として処罰対象になることも。

したがつて、他の各条の義務違反の罪の過失犯自体が処罰されないことから、直ちに、これらの罪の過失犯たる内容をもつ行為のうち同法70条後段の安全運転義務違反の過失犯の構成要件を充たすものについて、それが同法70条後段の安全運転義務違反の過失犯としても処罰されないということはできないのである。

昭和48年4月19日 最高裁判所第一小法廷

けど、道路交通法違反をイチイチ裁判してたら裁判所が機能不全に陥るのは明白。
反則制度で解決するしかない。

 

ちょっと話は変わりますが、過失運転致死傷罪は9割弱が不起訴で終了しています。
2019年のデータでは、不起訴率は87.8%とかなり高い。

 

起訴は検察官の独占権ですが、確実に有罪に持ち込めるものだけを選択しているのか、証拠不十分の案件が多いのか詳しい理由はわかりません。
実際、この判例(徳島地裁)は過失運転致死容疑ですが、

 

そこそこ有名な事件だったんですね。
ちょっと前に取り上げた判例なんですが。 この事故、そこそこ有名な事故だったんですね。 知りませんでした。 夜間、片側4車線道路の横断歩道&自転車横断帯を、赤信号のまま渡って起きた死亡事故ですが無罪(過失運転致死)となっているものです。 不可...

 

判決文を読んでいても、検察官の主張がお粗末すぎてなぜこれを起訴したのだろう?と疑問に感じます。
他にも横断歩道と自転車横断帯があるところを横断した自転車と、左折進行した車が衝突した事故について、差戻し後の東京地裁は無罪にしています。
(東京地裁平成15年12月15日。裁判所ホームページにあります。)

まあまあザル

電動キックボードを無免許&飲酒運転して不起訴という事例もありますが、これらについても故意じゃなければ犯罪が成立しないわけ。

 

電動キックボードの無免許についても、そもそも免許が必要だと知らないまま乗った場合、故意が成立しませんから嫌疑不十分で不起訴になります。

 

飲酒運転についても、

第百十七条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
一 第六十五条(酒気帯び運転等の禁止)第一項の規定に違反して車両等を運転した者で、その運転をした場合において酒に酔つた状態(アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態をいう。以下同じ。)にあつたもの

ずいぶん昔は、運転者自身が「正常な運転ができないおそれがある状態」であることを認識していないと故意が成立しないと考えられていたこともあります。
これについて最高裁が以下のように判示しています。

東京高等裁判所昭和三五年八月二九日判決(高刑集一三巻六号五一三頁)は、旧道路交通取締法七条二項三号、二八条一号の規定する酒酔い運転の罪が成立するためには、「酒に酔つているために正常な運転ができない虞があることを行為者において認識していなければならない。」と判示しているが、これに対して、原判決は、道路交通法六五条、一一七条の二第一号(昭和四五年法律第八六号による改正前のもの、以下同じ)の規定する酒酔い運転の罪について、同法条にいう「酒酔い」すなわちアルコールの影響により車両等の正常な運転ができないおそれのある状態は、「酩酊の程度が客観的評価においてそのように認められれば足り、必ずしも被告人自身がこれを認識するの要はないものと解する」としているのである。そして、右に挙げた旧道路交通取締法の条文と道路交通法の条文とは、規定の内容において同じ趣旨のものであるから、原判決は前記東京高裁の判例に相反する判断をしたものといわなければならない。しかしながら、右の各条文に規定されている酒酔い運転の罪が成立するために必要な故意の内容としては、行為者において、飲酒によりアルコールを自己の身体に保有しながら車両等の運転をすることの認識があれば足りるものと解すべきであつて、アルコールの影響により「正常な運転ができないおそれがある状態」に達しているかどうかは、客観的に判断されるべきことがらであり、行為者においてそこまで認識していることは必要でないものといわなければならない。

 

昭和46年1月21日 最高裁判所第一小法廷

「正常な運転ができないおそれがある状態」は66条の過労運転にもありますが、運転者が認識しているまでは求めてなくて、客観的にみて「正常な運転ができないおそれがある状態」であれば故意が成立すると考えられています。

 

電動キックボードの飲酒運転が不起訴になった理由はよくわかりませんが、そもそも車両だという認識がないまま無免許&飲酒運転した場合、無免許運転の故意は成立せず、飲酒運転の故意も成立しないという判断なのかもしれません。
遊具同然としか考えていない販売者や使用者もいるわけで、義務違反だけど犯罪は成立しないという珍事は普通に勃発するわけですが、義務違反が必ずしも処罰対象にならないのはこういうことです。

 

自転車の違反についても、赤切符を切られても99%程度は不起訴になりますが、要は自転車の運転者は道路交通法に精通しているわけではない実情から、いきなり刑罰を課すのは好ましくない(故意の問題を含め)。
なので、よほどのことがない限りは不起訴ですが、そんな現実が逆走やら無灯火などを大量発生させている気がします。




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