ちょっと前にですが、このような報道がありました。
24日夜、名古屋市天白区の交差点で乗用車とバイクが衝突し、バイクに乗っていた男性(48)が死亡しました。
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報道をみると、一時停止義務はオートバイ側にある。
ではなぜ車のドライバーが逮捕されるのでしょうか?
勘違いしやすい「優先道路」
オートバイ側に一時停止義務がある=車側が優先道路だと勘違いしやすいのですが、道路交通法上の優先道路はこうなります。
第三十六条
2 車両等は、交通整理の行なわれていない交差点においては、その通行している道路が優先道路(道路標識等により優先道路として指定されているもの及び当該交差点において当該道路における車両の通行を規制する道路標識等による中央線又は車両通行帯が設けられている道路をいう。以下同じ。)である場合を除き、交差道路が優先道路であるとき、又はその通行している道路の幅員よりも交差道路の幅員が明らかに広いものであるときは、当該交差道路を通行する車両等の進行妨害をしてはならない。
道路交通法上の優先道路というのは、以下の場合。
○交差点内に車両通行帯がある道路
○道路標識により優先道路であることが示されている道路
優先道路の標識はこちら。
現場の状況です。
なお、オートバイが一時停止したのかについては不明。
交差点内にはセンターラインも車両通行帯もないので、道路交通法上の優先道路にはなりません。
そうすると、双方に課されていた義務を確認します。
オートバイ(青) | 車(赤) | |
義務① | 一時停止(43条) | 徐行(42条1項) |
義務② | 横断歩道への減速接近義務(38条1項前段) |
徐行義務と横断歩道への減速接近義務は事実上被るので、現実的には徐行義務(42条1項)か。
第四十二条 車両等は、道路標識等により徐行すべきことが指定されている道路の部分を通行する場合及び次に掲げるその他の場合においては、徐行しなければならない。
一 左右の見とおしがきかない交差点に入ろうとし、又は交差点内で左右の見とおしがきかない部分を通行しようとするとき(当該交差点において交通整理が行なわれている場合及び優先道路を通行している場合を除く。)。
第四十三条 車両等は、交通整理が行なわれていない交差点又はその手前の直近において、道路標識等により一時停止すべきことが指定されているときは、道路標識等による停止線の直前(道路標識等による停止線が設けられていない場合にあつては、交差点の直前)で一時停止しなければならない。この場合において、当該車両等は、第三十六条第二項の規定に該当する場合のほか、交差道路を通行する車両等の進行妨害をしてはならない。
相対的に言えば、車のほうが優先にあると言えるのですが、優先道路ではありません。
結局のところ、徐行義務を怠って交差点に進入した疑いがあり結果として死亡事故になった可能性があるという話で逮捕なんだろうと読み取れます。
仮にオートバイが一時停止義務を怠ったとしても、車に課された徐行義務が免責になるわけではないので。
なお、あえて38条1項前段を挙げましたが、現に横断しようとする歩行者がいなくても違反は成立します。
逮捕とは?
逮捕=終了、みたいな謎ムードがありますが、逮捕は単なる身柄拘束。
証拠隠滅や逃亡のおそれがあるときに警察が身柄拘束するだけなので、有罪確定ではありません。
あまりこういう書き方するとアレなんですが、事故加害者が異常に取り乱しているときにも自殺防止のために逮捕することはあり得ます。
もちろん、表向きの理由は「証拠隠滅や逃亡のおそれあり」です。
自殺=証拠隠滅や逃亡、という解釈にも取れますが…
過失運転致死傷
この事故は「過失運転傷害の疑い」で逮捕とありますが、過失運転傷害罪の定義はこちら。
第五条 自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。
理屈の上では、道路交通法の各条の義務違反がなくても成立し得ます。
この場合、車に課されていた注意義務はなんなのか、そして注意義務を怠ったのかを立証していくことになります。
おそらくは42条1項による徐行義務を怠った疑いがあり、その注意義務を怠った結果として事故を起こした疑いがあるとして逮捕なんだろうなと予想しますが、どちらにせよ逮捕とは身柄拘束に過ぎない。
以前も取り上げましたが、こちら。
道路外から車道に進行するにあたり、歩道の見通しが悪いにも関わらず必要な注意義務を怠った結果、歩道を時速40キロで進行する自転車と事故になった判例です。
歩道を時速40キロで進行する自転車は当然違法(63条の4第2項)ですが、だからといって車に課された注意義務が免責になるわけではありません。
この判例では「一時停止義務」だけでは足りず、歩道の見通しが悪い以上は「一時停止とわずかに前進を繰り返すべき注意義務を怠った過失」として有罪。
他人の違反により、自分に課された注意義務が消えるわけじゃないという話ですね。
明らかに広い場合
36条2項には「交差道路が明らかに広い場合の進行妨害禁止」が規定されています。
第三十六条
2 車両等は、交通整理の行なわれていない交差点においては、その通行している道路が優先道路(道路標識等により優先道路として指定されているもの及び当該交差点において当該道路における車両の通行を規制する道路標識等による中央線又は車両通行帯が設けられている道路をいう。以下同じ。)である場合を除き、交差道路が優先道路であるとき、又はその通行している道路の幅員よりも交差道路の幅員が明らかに広いものであるときは、当該交差道路を通行する車両等の進行妨害をしてはならない。
「明らかに広い場合」については最高裁判例があります。
なお、道路交通法三六条二項にいう「道路の幅員が明らかに広いもの」とは、交差点の入口から、交差点の入口で徐行状態になるために必要な制動距離だけ手前の地点において、自動車を運転中の通常の自動車運転者が、その判断により、道路の幅員が客観的にかなり広いと一見して見分けられるものをいうものと解するのが相当である。
最高裁判所第三小法廷 昭和45年11月10日
交差点入口で徐行状態になるために必要な手前の地点で、客観的にかなり広いと一目でわかる程度の場合を意味します。
「どっちが広いかな?」と迷うレベルでは該当しません。
どちらにせよ、「疑わしきは減速徐行する」というのがあらゆる場面ではお約束。
先日挙げた横断歩道の判例もそうですが、
横断歩道右側が対向車によって塞がれている以上は、最徐行して横断歩行者の有無を確認する注意義務があるとしてます。
対向車によって横断歩道の大半が塞がれていたら、6歳の子供を見つけるには最徐行するしかない。
今回のケースは「見通しが悪い交差点で優先道路ではないにもかかわらず、徐行義務を怠った疑い」だろうと思われますが、報道ではオートバイが一時停止義務を果たしたかについては捜査中としています。
仮に一時停止義務を怠ったとしても、車に課された徐行義務は免責にならない。
徐行義務を果たしていたと判断されれば不起訴ないし無罪になりますし、徐行義務を怠っていたなら過失運転致死傷罪が成立する。
オートバイ側に仮に一時停止義務違反等があった場合、刑事責任でいえば量刑判断、民事責任で言えば過失割合に影響するものの、車の責任は別なので。
単にそれだけだと思いますが、逮捕というプレイにはさほど意味はないと思われます。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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