先日、こちらの記事にコメントを頂いたのですが、
大変失礼ながら、コメントの趣旨がよくわからず。
話の内容からすると、追いつかれた車両の義務に自転車が含まれるべき?という話と、追いつかれた車両の義務(2項)には一時停止義務が含まれるという解釈をされているのかな?
執務資料にはそのように書いてあることは把握していますが、ちょっと気になることがあるので調べてみたら不可解なことが。
Contents
不可解なこと
まず、自転車の話は抜きにして2項の解釈。
執務資料には「進路を譲らなければならない」だから「進行を妨害してはならない」よりも強いみたいな話が書いてあり、多くの場合一時停止又は徐行の義務を負うと書いてある。
これ、古い解説書の中ではいわゆる「横井註釈」のみがこの見解でして、道路交通法の立法をした宮崎氏による「宮崎注解」や「宮崎条解」、警察庁の解説書はそのような見解は取っていない。
執務資料を見る限り、宮崎注解と横井註釈をミックスさせたのかなと思いますが、道路交通取締法時代にも27条2項に該当する規定がありまして。
道路交通取締法時代の解説書を見ても、一時停止やら徐行やらは出てこない。
その上でですが、
「進路を譲らなければならない」と規定した理由として、「強い意味」を持たせたくて選んだようには思えなくて。
というのも、遅い先行車に後続車が追い付く段階では、車間距離保持義務と安全運転義務があるわけで、速度を調節しながら接近しますよね。
そして同程度の速度になり追従する。
仮に「進行を妨げてはならない」と規定した場合、先行車も後続車も同程度の速度で「進行」しているわけで、「進行を妨げる」には急ブレーキしかないわけですよ。
急ブレーキを禁ずるための規定ではないですよね。
なので、「進行を妨げてはならない」と規定したら無意味な条文にしかならないし、「進路を妨げてはならない」でも解釈上無理があると思う。
「進路の変更を妨げてはならない」ならわかるけど、「進路を妨げてはならない」にすると何を意味するのかわからない。
お互いに同じ進路にいるなら、進路の変更を妨げる余地もない。
強い意味を持たせたくて選んだわけじゃなくて、そう書くしかないからなんじゃね?
お互いにまっすぐ進行しているのに、「進路の変更を妨げた」なんて起こしようがない。
この話をすると40条2項を引き合いに出す人とかいそうだけど。
第四十条 交差点又はその附近において、緊急自動車が接近してきたときは、路面電車は交差点を避けて、車両(緊急自動車を除く。以下この条において同じ。)は交差点を避け、かつ、道路の左側(一方通行となつている道路においてその左側に寄ることが緊急自動車の通行を妨げることとなる場合にあつては、道路の右側。次項において同じ。)に寄つて一時停止しなければならない。
2 前項以外の場所において、緊急自動車が接近してきたときは、車両は、道路の左側に寄つて、これに進路を譲らなければならない。
いろいろ前提が違い過ぎて、同じく解釈するのは無理がある。
追いつかれた車両の義務(27条2項) | 緊急車両の優先(40条2項) | |
対象 | 先行車 | 対向車も含め緊急車両に「接近」された車両全て |
特例 | 無し | ハミ禁でも、はみ出し追い越し可能(39条) |
その他 | 1項で「交差点付近」がある以上、小さな生活道路だろうと交差点になり一時停止義務がある。また、左側に寄せて進行継続すれば交差点に進入する可能性もあり1項との兼ね合いにより一時停止義務が発生する。 |
横井註釈を読むと、40条2項は一時停止義務までは定めていないとしつつ、「譲らなければならない」の27条は一時停止又は徐行と書いているのも矛盾を感じる。
「進路を譲らなければならない」が「進行を妨げてはならない」「進路の変更を妨げてはならない」ではないからより強い意味を持ち…という話の流れ自体が間違いなんじゃないのかな。
まあ、一旦この話は置いておきます。
執務資料には、大阪高裁昭和43年4月26日判例が掲載されてます。
この判例の全文がないか調べたらちょっと意外な事実にぶち当たる。
まず、この判例は刑事事件です。
非公開判例扱いなんですが、要旨には「狭い橋で自転車を追い越すときの注意義務」とある。
ん?
自転車?
昭和39年までは軽車両にも追いつかれた車両の義務がありましたが、39年改正前の事件なのか?
それとも要旨が間違っているのか?
もしくは改正後の判例で、先行車が自転車の判例なのか?
執務資料では「自動車」となってますよね。
執務資料の著者が、改正後という事情から「自動車」に置き換えたのかもしれないし、要旨が間違っているのかもしれない。
原動機付「自転車」の話かもしれないw
執務資料では自転車の路側帯ガー!と書いてあるけど、路側帯が出来たのは昭和46年。
なので執筆したのはそれ以降だと理解できます。
2項の後段にはこれがありますが、
この趣旨を考えた場合、軽車両を含むという恣意的な解釈が出来なくもない(高い、同じ、低いと全て含まれているので)。
民事ならともかく、刑事としてはまずいと思うけど。
この判例に何かヒントがあるんじゃないかと思うのですが、掲載されている本も判明してます。
けど、国会図書館にすらない。
最高裁判所図書館にあることはわかったが、イチイチ行くのもなあ。
国会図書館は遠隔複写できるけど、最高裁判所図書館は不可。
そもそも最高裁判所図書館という存在を今まで知りませんでした。
国会図書館にもない判例集も、最高裁判所図書館にはある。
もうちょい探してみますが、警察庁の判例集なら書いてあるのかな。
取り寄せてみるか。
判例集は国会図書館にあるし。
27条2項の判例
27条2項の判例を片っ端から見ていたのですが、解釈がいろいろ過ぎて…
片側二車線道路でも適用している判例もあるし。
あと、ちょっと面白い判例としては、追い越し時の事故について全過失を先行車にしているものがありました。
27条1項と2項の違反から、先行車が全部悪いとしてます(イメージ的には追い越しを「妨害」したかのような印象)。
ただまあ、いろいろ調べれば調べるほど、「一時停止義務」については意味合いが違うんだろうなと思いました。
27条から直接的に一時停止義務が導かれるのではない。
27条は単に左側端に寄り進路をあければ十分なんだと理解できますが、要は車線という概念が乏しい時代に出来た規定なんですよ。
そして27条は、18条1項と同じ発想にあるところまで考えないと、解釈がおかしくなりそうな。
ジュネーブ条約まで考えないと解釈をまちがいそうだし。
まあ、さらにいくつか資料を取り寄せて検討しますが、今時点では
「譲らなければならない」
という表現を拡大解釈するからおかしくなるように感じます。
それこそ、37条のような交差点の規定にこそ「譲らなければならない」のほうが適切な気もするけど。
ちなみに私の場合、先に行きたそうなクルマは先に行かせることにしているので、どっちでもいいんですけどね。
道路上で醜い争いをするのは好きではない。
ずいぶん前にダンプカーに譲ったら、スピーカーで「ありがとー」と言われてビビったことがありますが、お互いに気持ちよければそれが全て。
けど、義務の有無についてはハッキリさせたいの。
以前も書いたけど、煽られて警察呼んだら警察官に罵倒(?)されるのはさすがに違うと思う。
あっ、ちなみに私は、27条が自転車にもあるとは1mmも思っていません。
なぜ執務資料があのような記述になるのかを考えた場合に、その一因が大阪高裁判決にあるんじゃないかと。
あと、一時停止義務についても27条にはなくて、事故回避義務と組み合わせた結果なんじゃないかな。
執務資料には、イエローラインのハミ禁道路では先行車が一時停止すれば障害物扱いになり追い越しにならない…みたいな話が書いてあるけど、それ自体は確かに違反にはならない。
けどそれが先行車の「義務」にはなり得ないはず。
執務資料もいい本であることは認めますが、判例なども古いのは差し替えたほうがいいと思う。
ちなみに大阪高裁判決が何の本に掲載されているか知りたい方はメールください。
こちらでは刑事事件の控訴審、27条2項の法意、狭い橋で自転車を追い越したという情報以外は書いてないけど、なんで自転車を追い越したのに27条なのかさっぱりわからん。
最高裁判所図書館に行ってみるか。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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