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横断歩道右側が見えないのに、時速20キロは速すぎでは?

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だいぶご熱心に啓蒙活動されているので口を挟むようで恐縮なのですが。

以前この東京高裁判決(昭和46年5月31日)について読者様から質問を頂いたのですが、それとあわせて。

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時速20キロ以下

横断歩道右側が渋滞停止して見えないのに、時速20キロは速すぎなのでは?と疑問を持つ人もいるでしょうけど、ちょっと意味が違うんです。

 

要はドライバーが被害者を発見した位置において急制動して停止可能なのが「時速20キロ」。
なので「時速20キロ以下」でないと停止不可能だと逆算しただけ。
被害者が視認可能になった時点ではまだ車両と被害者の距離があって、その距離から急制動して停止できるには「時速20キロ」なわけで、横断歩道寸前で時速20キロだと事故ります。

※なお、被害者を発見した時点での被告人と被害者の距離は11.2m、被告人車と横断歩道の距離は7.55m。

 

あくまでも発見した地点の距離から割り出した急制動停止可能な速度だと理解してないと、誤解するかなと。
仮に被害者が視認可能になった時点がさらに横断歩道寄りなら、時速20キロじゃ話にならない。

 

ところでこれ。

これが上に書いた東京高裁昭和46年5月31日判決を指しているのか?というと、違う。

この判例は以前も書いたことがありますが、東京高裁 昭和42年2月10日判決。

 

横断歩道を横断する歩行者と38条の関係。判例を元に。
前回、横断歩道を横断する自転車についての判例をまとめましたが、歩行者についてもまとめておきます。 道路交通法38条1項とは 道路交通法では、横断歩道を横断する歩行者について極めて強い優先権を与えています。 (横断歩道等における歩行者等の優先...

 

本件交通事故現場は前記のとおり交通整理の行われていない交差点で左右の見通しのきかないところであるから、道路交通法42条により徐行すべきことももとよりであるが、この点は公訴事実に鑑み論外とするも、この交差点の東側に接して横断歩道が設けられてある以上、歩行者がこの横断歩道によって被告人の進路前方を横切ることは当然予測すべき事柄に属し、更に対向自動車が連続して渋滞停車しその一部が横断歩道にもかかっていたという特殊な状況に加えて、それらの車両の間に完全に姿を没する程小柄な児童が、車両の間から小走りで突如現われたという状況のもとにおいても、一方において、道路交通法13条1項は歩行者に対し、車両等の直前又は直後で横断するという極めて危険発生の虞が多い横断すら、横断歩道による限りは容認しているのに対し、他方において、運転者には道路交通法71条3号により、右歩行者のために横断歩道の直前で一時停止しかつその通行を妨げないようにすべきことになっているのであるから、たとえ歩行者が渋滞車両の間から飛び出して来たとしても、そしてそれが実際に往々にしてあり得ることであろうと或は偶然稀有のことであろうと、運転者にはそのような歩行者の通行を妨げないように横断歩道の直前で直ちに一時停止できるような方法と速度で運転する注意義務が要請されるといわざるをえず、もとより右の如き渋滞車両の間隙から突然に飛び出すような歩行者の横断方法が不注意として咎められることのあるのはいうまでもないが、歩行者に責められるべき過失があることを故に、運転者に右注意義務が免ぜられるものでないことは勿論である。
しからば、被告人は本件横断歩道を通過する際に、右側に渋滞して停車していた自動車の間から横断歩道によって突然にでも被告人の進路前方に現われるやもはかり難い歩行者のありうることを思に致して前方左右を注視すると共に、かかる場合に備えて横断歩道の直前において一時停止することができる程度に減速徐行すべき注意義務があることは多言を要しないところであって、原判決がこのような最徐行を義務付けることは過当であるとしたのは、判決に影響を及ぼすこと明らかな根本的且つ重大な事実誤認であって、この点において既に論旨は理由があり原判決は破棄を免れない。

 

昭和42年2月10日 東京高裁

 

この時代の「道路交通法71条3号」は、後の38条1項後段。

 

東京高裁昭和42年判決の一審は「最徐行義務を課すのは過当」として無罪にしてますが(大森簡裁)、二審は最徐行すべき注意義務違反を認定しています。

 

で。
東京高裁昭和46年判決が重視されている理由は、道路交通法38条1項の法意について詳しく解説したという点だと思ってまして。
まだ今でいう「前段の減速接近義務」が道路交通法に規定される前の事故です。

 

この東京高裁昭和46年判決の一審(東京地裁)は無罪ですが、一審判決の中で検察官が引用した判例を否定しています。

検察官引用の判決は、事案が交差点直近の横断歩道であり、かつ可成り繁華な商店街の店舗がたち並んだ場所での事案であつて、本件の横断歩道の設置状況と具体的内容を異にしているので、直ちに本件の先例とはならないと解する

 

東京地裁 昭和45年4月14日

検察官が引用した判例は事案が異なるから先例にならないとして無罪にしてますが、どう見ても引用した判例とは「東京高裁 昭和42年2月10日判決」なんですね。
理由はこちら。

十字路交差点を形成し、その交差点東側羽田空港方面寄りに3.9mの白ペイント縞模様の横断歩道の標示がなされ、その附近の見易い地点に横断歩道標識も設けられており、時速40キロの速度規制はあるが、右交差点に信号機の設置なく、交通整理は行われておらず、可成り繁華な商店街で店舗がたち並び、交差道路の交通の状況に対する見通は極めて悪いにも拘らず、車輛の交通が相当頻繁であることが認められる。

 

東京高裁 昭和42年2月10日

内容が一致してますからまず間違いないかと。
東京高裁昭和46年判決の一審(東京地裁)は、東京高裁 昭和42年2月10日判決について「事案が異なるから先例にならない」としてます。
しかし東京高裁昭和46年判決は一審判断を覆したという扱い。

 

38条1項の法意を詳しく解説したという点では東京高裁昭和46年判決のほうがしっかりしてますが、具体的内容については「時速20キロ以下」という表現はやや誤解を生むのかなと思ってまして、あくまでも被害者を発見した地点での距離感と急制動だと理解してないと誤解すると思います。
その点では昭和42年判決のほうが「最徐行」まで踏み込んでいるわけで、分かりやすい気もします。

 

昭和46年判決はあくまでも「その距離からの急制動で停止するためには時速20キロ」。

被告人が被害者を発見したとき本件車両の前部から横断歩道の直前まで約7.55mであるから、もしこの状況において被告人が急制動によつて横断歩道の直前にて本件車両を一時停止し衝突を避けようとするならば、少くとも時速を約20キロ(空走距離約5.55m、制動距離約2.2m)以下に減速徐行して進行してこなければならなかつたであろう。

 

東京地裁 昭和45年4月14日

あくまでも急制動で停止できる速度が「時速20キロ」なので、その点では下記判例により否定される。

道路交通法38条1項に規定する「横断歩道の直前で停止することができるような速度で進行しなければならない。」との注意義務は、急制動等の非常措置をとつてでも横断歩道の手前で停止することさえできる速度であればよいというようなものではなく、不測の事故を惹起するおそれのあるような急制動を講ずるまでもなく安全に停止し得るようあらかじめ十分に減速徐行することをも要するとする趣旨のものであり、したがつて、時速25キロメートルでは11m以上手前で制動すれば横断歩道上の歩行者との衝突が回避し得るからといつて右の速度で進行したことをもつて右の注意義務を尽したことにはならない、と主張する。

(中略)

横断歩道直前で直ちに停止できるような速度に減速する義務は、いわゆる急制動で停止できる限度までの減速でよいという趣旨ではなくもつと安全・確実に停止できるような速度にまで減速すべき義務をいつていることは所論のとおりである。

 

大阪高裁 昭和56年11月24日

なので昭和46年東京高裁判決がいう「時速20キロ以下」についてはあまり参考にすべきではなくて、38条1項の法意を解説したという点において評価したほうが適切に感じます。
「時速20キロ以下」というのは、時速20キロでも問題ないと誤解されうるのがちょっとね。

 

38条1項前段の義務は昭和46年改正時に規定されましたが、それ以前から「減速接近義務」自体は業務上過失致死傷判例で示されてました。
それが昭和42年や46年の東京高裁判決です。

S42.2.10東京高判 S46.5.31東京高判
被告人車の減速 40→25~30キロ 40→35キロ
一審 最徐行を課すのは過当等とし無罪(大森簡裁) S42.2.10東京高判は先例にならない等とし無罪(東京地裁)
二審 最徐行すべき注意義務違反で有罪 時速20キロ以下にすべき注意義務違反で有罪

 

具体的数字は

判例において説示された具体的数字については必ずしも一般化するものではないかなと思いますが、一般向けに分かりやすいのはむしろ昭和42年判決のほうかなと。

 

ケチをつける気はありませんが、あくまでもその距離感において急制動で停止できる速度の上限が時速20キロなわけで、横断歩道から7.55m手前で時速20キロについては、かなり危険だと思います。
あくまでも限界制動距離ですから…

急制動停止は後続車の追突リスクもあるので、「時速20キロ」はあくまでも急制動しての話だと理解したほうがよろしいかと。

 

なお、東京高裁 昭和42年2月10日判決については、「自動車による業務上過失致死傷事件に関する刑事裁判例集」に掲載されているようなのですが、

私が持っている1985年版には掲載されていないので、おそらく1968年版に掲載されているのだろうと思われます(必ず掲載されているかまではわかりません)。


昭和42年2月10日東京高裁判決は、ほかにも「高等裁判所刑事裁判速報」や「判例タイムズ」などいくつかの書籍にも掲載されていたようで、当時はかなり重要判例だったんじゃないかと思われますが、おそらくは昭和46年5月31日東京高裁判決がさらに詳しく解説したために重要度が薄れた(?)のかもしれません。
対向車線が渋滞停止していたという点では同じですし。

 

なお、対向車線の渋滞停止についてはこちらも。

 

横断歩道右側が死角の場合における注意義務。
こちらの件。 大阪高裁 昭和54年11月22日判決を詳しく!とメール頂いたのですが、以前書いた気がする笑。 結構大事な判例なので、もう一度。 対向車線が渋滞 まずは概略から。 対向車線が渋滞で横断歩道を塞ぐ形で停止車両があります。 横断歩道...

 

「時速20キロは速すぎじゃね?」というのは、あくまでもこの事故態様の元で、急制動した場合の限界制動距離をベースにしているから。
実際には横断歩道右側が完全に見えない以上、横断歩道直近では最徐行して警戒するしかありませんし、そもそも横断歩道を踏んで停止するなって話なんですけどね。

 

このあたり「わかっているドライバー」は、渋滞停止するときに横断歩道の右側が視認しやすいように停止してます。
けど、空気読めないドライバーからすると「なぜ不自然に間隔をあけるんだ!」になるんですかね。

 

ケチつけるわけではありませんが、昭和46年判決の「時速20キロ以下」はやや誤解を生むと思うので、ちょっと気を付けたほうがいいと思います。
今の常識だと対向車線が渋滞停止しているなら、横断歩道7.55m手前では最徐行体制に入ってないと事故は防げないこと思われます。


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