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合図車妨害と左折巻き込みの話。

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2輪車がよくあるタイプの事故ですが、左折巻き込みがありますよね。

ちょっとこれについて。

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左折巻き込み

これが問題になるのは物理的に左側端寄れない大型車のケースになりますが、左折方法は「できる限り左側端に寄って」なので、大型車が左側端に寄りきれずに空くのは違反ではありません。

 

問題になるのはこれ。
左折車は左折する際に左側に進路を変更することになりますので、双方に課された義務はこうなる。

 

○左折車

(進路の変更の禁止)
第二十六条の二
2 車両は、進路を変更した場合にその変更した後の進路と同一の進路を後方から進行してくる車両等の速度又は方向を急に変更させることとなるおそれがあるときは、進路を変更してはならない

○後続2輪車

(左折又は右折)
第三十四条
6 左折又は右折しようとする車両が、前各項の規定により、それぞれ道路の左側端、中央又は右側端に寄ろうとして手又は方向指示器による合図をした場合においては、その後方にある車両は、その速度又は方向を急に変更しなければならないこととなる場合を除き、当該合図をした車両の進路の変更を妨げてはならない。

で。
34条6項でいう「進路の変更を妨げてはならない」。
これ、左折動作も進路の変更を伴うわけで、34条6項の「進路の変更を」とは左折前に「あらかじめできる限り左側端に寄って」の部分のみを指すわけじゃないですよ。
左折動作自体も指してます。

 

ちょっと質問メールが来ていたので回答していたのですが、噛み合わない理由がわかりました。

 

そもそも。
現行の34条6項って、元々はこうでした。

 

○昭和35年

4 左折又は右折しようとする車両が、前三項の規定により、それぞれ道路の左側又は中央に寄ろうとして手又は方向指示器による合図をしたときは、その後方にある車両は、当該合図をした車両の進行を妨げてはならない

昭和46年に現在と同じ形に改正されてます。

改正前 改正後
進行を妨げてはならない 進路の変更を妨げてはならない

この改正に何の意味があるのかというと、解釈自体は何も変わっていません。
左折車に課された26条の2第2項との関係性を分かりやすくするために改正しただけなんで。
昭和46年改正では「道路外への左折方法」が25条1項に新設されましたが(それ以前には道路外への左折方法は規定がなかった)、同様に合図車妨害について整理されています。

 

で。
昭和46年改正前後で解釈が変わっていないことは、例えば大阪高裁 昭和50年11月13日判決でも明らかで。
この判例は昭和46年改正後(事故発生は48年8月23日)。

所論にかんがみ記録を精査し、当審における事実取調の結果をも参酌して案ずるに、交差点で左折しようとする車両の運転者は、交差点手前で左折の合図をしたのち、できる限り車道左側端に寄つて左折の態勢に入つた場合には、その時点において自車の左後方に後進車があつても、同車が自車を適法に追抜くことが許されない状況にあるときは、同車の運転者において追突等の危険防止のため適切な措置をとり、左折を妨害しないものと信頼して左折することができるものと解せられる。
そして、道路交通法26条の2の2項、34条5項の趣旨から考え、後進車は、すでに左折合図をしている先行車との間に適当な距離があつて、左折により自車の速度または方向を急に変更させられることがないときは、あえてこれを追抜きその左折を妨げることは許されないと解されるから、この場合に先行車が左折したとしても運転者としての注意義務に違反するところはないというべきである。

 

大阪高裁 昭和50年11月13日

この判例は大型車が左折するにあたり路側帯を含め左側に3mを開けて左折動作をしたもの。
以下の条件です。

プレイ 地点
左折合図 交差点手前45m
左折開始時の後続2輪車との距離 14m
後続2輪車の速度 30キロ

この条件においては26条の2第2項ではなく、後続2輪車の合図車妨害を適用するものとし、無罪。

 

イメージ図。

以上の事実関係によつてみると、被告人が本件交差点西側横断歩道の手前約45mから左折の合図をしたのち同横断歩道の手前約8mで左折を開始した時点において、左後方から追随してくる被害車との間の距離は約14m、当時の被害車の速度は時速約30キロメートル程度であるから、経験則上、被害車の速度に照らして、必ずしも左折により同車の速度または方向が急に変更させられる関係にあつたとはいえない。そうすると、すでに左折の合図をしている被告人が、被害車において危険防止のため適切な措置をとるものと考えて左折したことについて業務上の注意義務違反があると断定することはできない。所論は被告人には被害車の速度を確認する注意義務があるのに、原判決はこれを考慮していないというけれども、被告人の原審、当審の供述等を総合すれば、被告人が被害車の進路のほか、その時速はほぼ30キロメートル程度であることを認識していたことが推認でき、この点の注意義務違反があるということもできない。なお所論は、被告人が左折に際し徐行する義務およびできる限り道路の左側端に寄る義務を怠つた過失があるともいうのであるが、右はいずれも公訴事実に記載されていない点であるばかりでなく、前者は本件死亡の結果と直接の因果関係が認められず、後者については、進入道路の幅員が片側約3.2m、被告人車の長さが7.27mであり、東行道路には路側帯があつて、その幅員を除けば被告人車は左側に約1.5m余りを残していたに過ぎないことなどを考えると、その義務を怠つたとも断定できない

 

大阪高裁 昭和50年11月13日

結局のところ、合図車妨害が働くか否かについては、左折車が適法な左折動作として30m手前の合図、あらかじめできる限り左側端に寄ることが条件。
第三通行帯から左折して「合図車妨害!」みたいなのは当然通用しない。
大型車の場合、物理的に左側端に寄れないことがあるため「できる限り左側端に」寄っていればそれが適法な左折動作になるわけで、


※理屈の上では右側に寄ったとしても「できる限り左側端に寄って」になる。

このような場合でも、後続車の距離と速度にもよりますが合図車妨害の対象になりうる。

 

ところで。
同じく左折巻き込みについての判例ですが、このような判例があります。

なぜならば、左折の方向指示をしたからといつて、後ろから進入してくる直進車両や左折車両が交差点に進入するのを防ぐことができないばかりでなく、後進してきた軽車両等か被告人車両の左側から進めの信号に従つて直進しもしくは左折することは交通法規上なんらさまたげないところであり、この場合はむしろ被告人車両のほうでまず左側の車両に道を譲るべきものと解されるからである。

 

東京高裁 昭和46年2月8日

東京高裁 昭和46年2月8日判決は、昭和46年改正前の判例。
まあ、改正前後で解釈は変わってないのであまり関係はありませんが。

 

この判例の上の部分だけを切り取ってやたらと強調する人とかいますが、もちろん「この事故の状況においては後続2輪車が追い抜きすることが違反ではない」という意味で、この事故以外の状況で必ずしも当てはまるものではありません。

 

イメージ図。

というのも、かなり似たような事例について最高裁判所第三小法廷 昭和45年3月31日判決は後続車の合図車妨害を理由に信頼の原則を適用して無罪にしているので、最高裁判決との整合性を取らないと判例違反になる。

この点に関しては、昭和43年(あ)第483号同45年3月31日最高裁判所第三小法廷判決が、本件ときわめて類似した事案において、「本件のように技術的に道路左端に寄つて進行することが困難なため、他の車両が自己の車両と道路左端との中間に入りこむおそれがある場合にも、道路交通法規所定の左折の合図をし、かつ、できる限り道路の左側に寄つて徐行をし、更に後写鏡を見て後続車両の有無を確認したうえ左折を開始すれば足り、それ以上に、たとえば、車両の右側にある運転席を離れて車体の左側に寄り、その側窓から首を出す等して左後方のいわゆる死角にある他車両の有無を確認するまでの義務があるとは解せられない」として一、二審の有罪判決を破棄し、無罪を言い渡しているところである。そこで右判例の事案における事実関係と本件の事実関係と対比検討してみると、前者は車幅1.65mの普通貨物自動車であるのに対し、後者は2.46mの車幅を有する前記のような長大かつ車高の高い大型貨物自動車であるから、したがつて死角の大きさにも著しい相違があると推測されること、前者は信号まちのため瞬時停止したに過ぎないのに対し、後者は信号まちのため約30秒間停止したものであるから、その間に後進の軽車両等が進入してくる可能性はより大きいといえること、したがつてバツクミラーによつて後ろから進入してくる軽車両等を死角に達するまでに発見して適切な措置をとる必要性がより大きいことにおいて事実関係に差異があると認められる。そして、以上の諸点と、本件のような長大な車両と軽車両とが同じ路面を通行する場合において、両者が接触すれば被害を被むるのは必らず軽車両側であることに思いをいたせば、本件の場合長大かつ死角の大きい車両の運転者に死角に入る以前において他の車両を発見する業務上の注意義務を課することは、公平の観念に照らしても均衡を失するものとはいえず、所論いわゆる信頼の原則に副わないものではなく、また前記第三小法廷の判例に反するものでもないと判断される。したがつて、原判決が安全確認の義務を怠つたとする判断は結局正当であるから、この点の論旨は理由がない。

 

昭和46年2月8日 東京高裁

信号待ちで約30秒間停止していたわけですが、停止状態の車両の進路変更を妨害することはできないわけで(改正前判例なので正確には進行の妨害ですが)、信号待ち停止車両の左側をすり抜けて前に出ようとすることは何ら違反にはならない。
そして停止状態から進行する際は、進行開始時点での左折車と後続2輪車の距離関係を基準に左折車の進路変更禁止(26条の2第2項)か後続2輪車の合図車妨害(34条6項)かを決めるわけで、その意味において「交通法規上なんらさまたげないところ」と説示しただけなんで。

 

お互いに進行中の判例として、合図車妨害ではなく左折車の進路変更禁止を適用したものには最高裁判所第二小法廷 昭和49年4月6日判決がありますが、この判例については以下の条件。

プレイ 状況
左折車がミラーで確認した地点 交差点手前30m
ミラーで確認した地点での後続2輪車の距離 20m後方
ミラーで確認した地点での後続2輪車の速度 55キロ
合図した地点 交差点手前22m

この状況では既に後続2輪車が急ブレーキをかけても回避可能性がないので、左折車が進路変更禁止になるのは当然。

 

 所論は、原判決が、被告人において適切な左折準備態勢に入つたことを認めながら、その注意義務につき、左折の合図をして徐行するだけでは十分でなく、その後も後進車の動静に十分注意し、場合によつては一時停止して同車の通過を待ち、その後道路左側に寄つて徐行するなど、左折にあたり同車との衝突を回避すべき業務上の注意義務があると判断したのは、当裁判所判例(昭和45年(あ)第708号同46年6月25日第二小法廷判決・刑集25巻4号655頁)に違反するというのである。
しかしながら、右判例は、本件とは事案を異にするので適切でなく、所論は、刑訴法405条の適法な上告理由にあたらない。すなわち、右の判例は、「交差点で左折しようとする車両の運転者は、その時の道路および交通の状態その他の具体的状況に応じた適切な左折準備態勢に入つたのちは、特別な事情がないかぎり、後進車があつても、その運転者が交通法規を守り追突等の事故を回避するよう適切な行動に出ることを信頼して運転すれば足り、それ以上に、あえて法規に違反し自車の左方を強引に突破しようとする車両のありうることまでも予想した上での周到な後方安全確認をなすべき注意義務はないものと解するのが相当である」と判示しており、後進車の運転者において自車の左方を突破することが交通法規に違反するような場合についての判例であることが明らかであるが、本件は、後に判示するとおり、後進車の運転者において自車の左方を追い抜くことが交通法規に違反するものとは認められない場合であるからである。

 

思うに、車両が交差点において左折せんとする際に後進車がある場合には、道路及び交通の状態、両車の進路、間隔及び速度等により両車の具体的注意義務は道交法の定めるところなどから微妙に分れるところであるが、右判例は、交差点の手前35mまたは60mで自転車を追い抜いた上、交差点の手前約29mで左折の合図をし、同約6mで左折せんとしたものであつて、特別な事情のない限り道交法(昭和46年法律第98号による改正前のもの。以下同じ。)34条5項が優先的に適用ないし類推されると認められる場合であるとして、審理不尽、理由不備とされたものである。
ところで、本件原判決の判示によると、被告人は、普通貨物自動車を運転し、幅員9.3mの道路を時速約35キロメートルで進行し、交通整理の行われていない交差点を左折しようとし、その手前約30mの地点で車内鏡によつて後方を確認したところ、左斜後方約20mの地点を追尾して来る自動二輪車を発見したので、同交差点の手前約22m付近で左折の合図をして車道左側
端から約1.7mの間隔をおいて徐行し、同交差点入口付近において時速約10キロメートルで左折を開始した直後、被告人車の左側を直進して来た右の後進車に接触させ、事故を起したというのであり、また被告人が発見した際の同車の時速は約55キロメートルであつたというのである。原判決は、右の事実を前提とし、被告人が左斜後方に後進車のあることを発見したときの両車の進路、間隔及び速度等を考慮するときは、被告人車が前記のように左方に進路を変更すると後進車の進路を塞ぎ同車との衝突は避けられない関係にあつたことが明らかであるから、被告人車は従来の進路を変更してはならない場合にあたり、また、車道左端から約1.7mの間隔があり、かつ、前記のような進路を高速で被告人車を追い抜く可能性のある後進車のあることを認めた被告人としては、左折の合図をしただけでは足りず、後進車の動静に十分注意し、追い抜きを待つて道路左側に寄るなどの業務上の注意義務があるのに、被告人は右の注意義務を怠り、後進車の動静に注意を払うことなく左折を開始し、そのため本件衝突事故を惹起したものである、と判断しているのである。すなわち本件は、道交法26条2項が優先的に適用される場合であつて、自車の進路を左側に変更して後進車の進路を妨害することは許されないものといわざるをえない(現行の道交法34条5項参照)。そうとすれば、前記のような状況下で後進車の動静に注意を払うことなく左折を開始した被告人に注意義務の違反のあることは明らかである。

 

最高裁判所第二小法廷 昭和49年4月6日

そもそも

左折巻き込みについてですが、左折車がより大きな注意義務を負うことは当然だし、仮に無罪になったとしても、民事責任としては70~90%くらいは左折車に付きます。
民事責任は賠償責任上の問題なので、平等ではなく公平に分かち合うものですから、

そういうもんです。

 

ただまあ若干危惧しているのは、合図車妨害禁止は明らかに義務なのにもかかわらず、「自衛」と称して軽視する人がいること。
ちょっと前に挙げたこれにしても、

 

✕「動画だけで完全に判断できない」、○「動画だけでは全く判断できない」
ええと、こちらを読んでも理解できないのはさすがにいかがなものかと思いますが、 ✕ 「完全に判断できない」 ○ 「優先については全く判断できない」 この方は「優先」と「事故回避義務」を混同している。 34条6項(合図車妨害)が適用されるか、2...

 

動画では全く判断できる要素がないにもかかわらず、直進優先と言い切る人がいることに危機感を感じます。

 

今回ちょっと記事にしたのは、冒頭でも書いたように、合図車妨害における「進路変更」とは左側端に寄せる部分のみを指していると考える人がいたので。 一部の解説書にそんな内容が書いてあるっぽいのですが、気になるなら様々な解説書と判例から整合性を取ることをオススメします。

 

一つの判例の一節だけみたら誤解するし、関係する判例から整合性を取ると見えてくると思いますが。
まあ、結局はこれが一番充実してますが↓

 

怪しい記述も多々あるので、気になるなら他の解説書や判例からどうぞ。


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