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なぜ左折前に「できる限り左側端」に寄せるのか?

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だいぶマニアックな質問を頂いたのですが。

左折時に左側端に寄せる目的として一般的に、
1.後続車(直進・右折)の円滑を促す
2.左折であることが(合図以外にも挙動で)わかりやすいように
3.巻き込み防止

の3本立てが多いですが、道が狭い場合は置いといて、
1はわかるのですが、2はウインカーで事足りるし、3についても最近は懐疑的です。
判例を見ると確かに、左に寄らないことにより自車の左側に他の車両が入り込むおそれがある場合は・・・というのがありますが、「34条1項の違反」とした判決が多いのでしょうか?
例によって執務資料に掲載の判例では9件ほどある中で、はっきりと34条1項の注意義務と書いてあるのが1つしかなく、もちろん条文の切り抜きなので全文読んだわけではありませんが、
何が言いたいのかというと、単純に安全運転義務の違反なのではないか?と思ったのです。

この法律の目的は巻き込み防止である!と書いてある物が無く、道路交通法解説の著者も目的についての文言は無く、判例だけ載せている感じです。

技能試験の実施基準にも「進路変更違反」の項目に、右に寄らない、左に寄らない場合の減点の根拠としてかっこ書きに(34条)と書いてありますが、
「巻き込み防止措置」の項目には法の根拠として第何条とは特に記載がないのです。
これが34条だとすれば項目を分けずに進路変更違反として1本化すればいいものを、わざわざ「巻き込み防止措置不適」を独立して項目を作ってあります。

要するに巻き込み防止については道路や交通状況により行うものであり、毎回必ずやらなくてはいけないものでもないのに、左折時には(車両通行帯が無ければ)常に34条1項の義務があり、その左に寄せるという行為自体が結果巻き込み防止も兼ねているので、本来は安全運転義務の範疇である「巻き込み防止措置」が、34条1項の趣旨であると思い込みされているのでは?と思ったのです。

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34条1項の趣旨

(左折又は右折)
第三十四条 車両は、左折するときは、あらかじめその前からできる限り道路の左側端に寄り、かつ、できる限り道路の左側端に沿つて(道路標識等により通行すべき部分が指定されているときは、その指定された部分を通行して)徐行しなければならない。

さて。
この規定本来の意味は「ウインカーだけでは気がつかないおそれがあるため、行動で左側端に寄って他の通行者に示す」です。
そもそも、昭和35年に道路交通法ができた時のことを考えてみます。

 

昭和35年道路交通法

(左折又は右折)
第三十四条 車両は、左折するときは、あらかじめその前からできる限り道路の左側に寄り、かつ、徐行しなければならない。

今と異なり「左側端」ではなく「左側」。
ただし当時の解説書には左側端に寄せることが望ましいとも書いてあります。

 

さて。
この時代に考えないといけない事情。

①クルマの通行位置は「左側寄り」ではなく「道路の中央寄り又は左側部分の中央」(旧19条)
②歩道がほとんど無かった時代
③路側帯はまだ存在しない
④進行方向別通行区分もまだ存在しない
⑤車線主義ではなく幅員主義の時代

昭和35年はまだ車線で区切るよりも幅員を広げた道路の時代。
そしてクルマについてはキープレフトではなくキープセンターの時代です。

古い解説書には「左側に寄ることで、ウインカーだけではなく他の車両や歩行者に知らせる」みたいに書いてありますが、要はウインカーの性能とかも含めてなんだと思われます。

 

なので立法当時の考えも、「ウインカーだけではなく行動で左折意思を示す」が強かったのだと思われます。

 

後続2輪車の巻き込みについては、古い判例には出てきます。

道路交通法によれば、車輛が左折しようとするときは、燈火等によりその合図をするとともに、あらかじめできる限り道路の左側に寄り、かつ、徐行しなければならない旨規定し(道路交通法34条、53条)ているのは合図によるだけで、当該車輛と道路左側との間隔が大きいと、その中間に他の車輛が入りこみ、左折する車輛とその後続車輛とが衝突する恐れがあることを考慮し、できるだけあらかじめ左側に寄ることを要求していることがうかゞえるのである

 

大阪高裁 昭和43年1月26日

現在の道路交通法に近くなったのは昭和46年改正でして、それ以前は「道路外に左折する方法」の規定すらない。
当初の目的は「ウインカーだけでは気がつかないおそれがあるため、行動でも左折意思を示す」は注解道路交通法に書いてありますが、判例上は「後続2輪車の巻き込み防止」を重視している気がします。

 

「できる限り」としている趣旨は、物理的に左側端に寄りすぎたら曲がれない大型車への考慮や、変則交差点などやはり左側端に寄りすぎたら曲がれないケースを考慮したわけで、

 

場合によっては、右に寄ることが「できる限り左側端に寄って」になり得ます。

「できる限り左側端に寄って」の意味は「左側端に寄せる、ただし道路の状況その他の事情によりやむを得ないときは、この限りでない」と同義。
けど、このように大型車の場合や変則交差点を左折するために「できる限り左側端に寄る」ために右に寄ることもあり得るわけで、必ずしも「後続2輪車の巻き込み防止」にはならない。

 

なので、建前上の話と、実務でズレがある場合もあります。

34条1項の違反ではない?

判例を見ると確かに、左に寄らないことにより自車の左側に他の車両が入り込むおそれがある場合は・・・というのがありますが、「34条1項の違反」とした判決が多いのでしょうか?
例によって執務資料に掲載の判例では9件ほどある中で、はっきりと34条1項の注意義務と書いてあるのが1つしかなく、もちろん条文の切り抜きなので全文読んだわけではありませんが、
何が言いたいのかというと、単純に安全運転義務の違反なのではないか?と思ったのです。

ちょっと気になって執務資料をチラ見したのですが、執務資料に掲載された判例は基本的に大型車の判例だからだと思います。
大型車については、左側端が空いていても「できる限り左側端に寄って」を満たすことがあるので、あくまでも26条の2第2項(進路変更禁止)と34条6項(合図車妨害)の問題になるからです。

 

合図車妨害と左折巻き込みの話。
2輪車がよくあるタイプの事故ですが、左折巻き込みがありますよね。 ちょっとこれについて。 左折巻き込み これが問題になるのは物理的に左側端寄れない大型車のケースになりますが、左折方法は「できる限り左側端に寄って」なので、大型車が左側端に寄り...

 

34条1項について判断した判例を挙げてみます。

34条1項に違反したと判断された判例

福岡高裁宮崎支部 昭和47年12月12日

先行するクルマは交差点の40m手前で「ルームミラー」で後方確認し、後続車がないことから側溝まで約1.9mのところに寄せて時速15キロに減速。

そんな状況の中、オートバイが時速30キロで先行車に追い付き、4、5mの距離を保ち様子見。

交差点直前で先行車の左折合図に「気がついて」、急制動したものの間に合わず衝突した事故です。

道路交通法34条1項が交差点における左折車に所謂左寄せ義務を課した所以は、原判決の説示するとおりで、その車両が左折しようとするものであることを同法53条で命ぜられた左折の合図をするだけでなく、その車両の準備的な行動自体により他の車両等に一層よく認識させようとするためであることは明らかなところ、前示被告人の車の長さ、本件交差点の角切りなど考慮に容れれば、技術的にA路進行中にその左側端に車を寄せることを困難ならしめる事情は証拠上全く認められないのである。そうすれば原審公判廷において通常A路の左側端まで1mの間隔をとっておけばゆうに本件交差点を左折しうると自認している被告人が、本件交差点に進入するまで約40mの距離を、何らの支障もなく、もっと左に寄せうるのにA路の左側溝まで自車の車幅を越える約1.9mもの間隔を保持したまま直進した以上、その間に他の車両が自車とA路左側端の中間に入りこむおそれのあることは交通常識上当然に予想すべきであり、そのため自車左側ならびに左後方に対する安全確認をつくした後でなければ、本件交差点において、容易に左に転把すべきでなかったといわざるをえない。
ところで、被告人が二回にわたり車内バックミラーにより後方確認したことは前記のとおりであるが、該ミラーの映写範囲は後部の窓をとおすもので、窓両側の車体部分により死角を生ずるものであることは、敢て実験実測を経るものではなく、被告人自身原審公判廷においてこれを肯認自覚しているのであるから、自車左側ならびに左後方に対する確認は、道路運送車両の保安基準44条が示すように、運転者席において左の外側線上後方50mの間にある障害物を確認できるために設置を義務づけられている車外サイドミラーによらなければ充分でないのに、被告人がこれを利用した事跡は全くない。もとより被害者も後続車の運転者として一般的に前車の動静に注意を払い、これが左折合図をして減速したときは、これとの接触を避けるべく適宜徐行等の措置に出づべき義務があることはいうまでもないが、前記の如く約40mの長さにわたって道路左側溝まで約1.9mの間隔を保持し、左に寄るなど左折の準備態勢を示さずに直進し続ける被告人の車を見て、そのまま本件交差点を直進通過するものと思いこんだのは無理からぬとことであるから、被害者に対し、被告人の左折合図に早く気づかなかった落度は責めうるにせよ、道路交通法34条5項に違反する無謀運転であると決めつけるのは失当であり、ましてやかかる落度を根拠にして、自ら可能なる左寄せ義務をつくさず、未だ適切な左折準備態勢に入っていなかったことを論外におき、いわゆる信頼の原則に逃避して過失責任から免脱することの許されないことは、原判決の正当に説示するとおりである。論旨指摘の最高裁判所の判決は技術的に左寄せ進行が困難な状況のもとにおいて、できる限り道路の左側によって徐行している先行車と無謀運転とされてもやむを得ない後続車の運転者との衝突事故に関するもので、本件とは事案を異にしている

 

福岡高裁宮崎支部 昭和47年12月12日

※34条5項は現行6項。

東京地裁 昭和47年8月1日

この判例は進行方向別通行区分ができる前の判例
第二通行帯から左折してオートバイと衝突。

被告人は、3個の通行帯に区分された道路の第二通行帯を進行し、徐行を始めていたものであり、しかも左折を開始する直前大廻りをして左折するため一旦右に転把し、その直後左折を開始たものである。このような場合右道路の第一通行帯を進行してきた自動二輪車その他の小型車の運転者(右の第一通行帯は、自動二輪車その他の小型車用のものである―昭和46年政令第348号による改正前の道路交通法施行令10条1項2号参照)は、被告人運転の車両が左側端に寄つたうえ左折するのが正常な左折であるのに、左側端に寄らずに(通行帯の区分がある道路についても、左折の場合、右の区分に関係なくできる限り左側端に寄るべきことについては、昭和46年法律第98号による改正前の道路交通法20条4項、34条1項参照)、逆に右に転把しているし、すでに減速徐行を開始しているところから、被告人運転の車両が左折せず進路を変更し、または小型車を優先直進させてくれるものと誤信して、信号に従つて直進する可能性がある。従つて被告人としては、小型車の運転者が、その専用の通行帯である第一通行帯を進行してきて、被告人運転車両の左折合図に気付かず、あるいは気付いても、前述したような誤信をして直進することの可能性を考慮して、左後方および左側方の安全を確認する義務があるものと考えられる。

 

東京地裁 昭和47年8月1日

札幌高裁 昭和44年7月31日

道路交通法34条5項は、左折しようとする車両が同条1項の規定によりあらかじめできる限り左側端に寄ろうとして左折の合図をしたときには後続車両はその車両の進行を妨げてはならないとする規定であるところ、本件においては、原判示のように被告人は左折の合図をした後も歩道と4.5mの間隔をおいたまま直進を続けて交差点に至り左折を開始しているのであるから、道路交通法34条5項の適用をみるべき場合ではない。もとより、後続車の運転者としては、一般的に、前車の動静に注意を払い、前車が左折合図をして減速したときにはこれとの接触を避けるべく適宜徐行等の措置をとるべき義務があるといってよいであろう。しかし先行の左折しようとする車の運転者からみて、後続車の運転者が右の義務を尽くすことを信頼ないし期待してよい程度は、先行車が、道路交通法34条1項によりできるだけ道路の左側に寄って進行する場合と、本件のように歩道から相当の間隔をおいて進行する場合とは自ら異なると考えなければならない。なぜなら、前者の場合は道路左側端に後続車の通行する余地がないのであるから、後続車が先行車の左折の進路に入ってくるということはまず考えられないのに対し、後者の場合はそもそも道路交通法34条1項に反する左折方法であるうえに道路左側端に後続車の進行し得る
余地があるのであるから、後続車の運転者の心理として、先行車が左折の合図をしたとしても、先行車の減速に気を奪われ道路左側端を進行し先行車の左折の妨げになるとは考えられないではないからである。そうとするならば、本件の被告人車のように、道路交通法34条1項に従わず、道路センターライン寄りを進行し左折する場合にあっては、当該車両の運転者として左折合図の際に後方を確認したとしても、現実に左折を開始する時点において再度後方を確認するのでなければ注意義務を十分に尽くしたとはいい得ないというべきである。

 

札幌高裁 昭和44年7月31日

34条1項に違反しないとされた判例

名古屋高裁 昭和45年6月16日

被告人車は軽四輪貨物車、赤信号停止時に左側端に1m空いていた状態から左折した事故です。

道路交通法は、本件被告人車のように、交差点等で左折しようとする車両の運転者に対し、左折の合図をすること及びあらかじめその前からできる限り道路の左側に寄り、かつ、徐行することを要求している(道交法34条1項、53条、同法施行令21条)。これは、直進しようとする後続車両がその右側を追い抜けるようにするとともに、できる限りその左側に車両が入りこんでくる余地をなくしておくことにより、円滑に左折できるようにするためであると思われる。したがつて、左折しようとする車両が十分に道路の左側に寄らないため、他の車両が自己の車両と道路左端との中間に入り込むおそれがある場合には、前示道路交通法所定の注意義務のほか、さらに左後方の安全を確認すべき注意義務があるが、十分に道路左端に寄り、通常自車の左側に車両が入りこむ余地がないと考えられるような場合には、あえて左後方の安全を確認すべき注意義務があるものとは解せられない。
これを本件についてみるに、前段認定の事実関係に徴すれば、被告人車が本件交差点の手前で、赤信号によつて一時停止した際における同車の左側面と道路左側端との間隔は、わずかに約50センチメートル、側溝部分を含めても約1mしかなかつたことが明らかであるから、被告人車は、十分に道路の左側に寄つたものということができる。もつとも、前記側溝部分は、本来道路ではないが、車両の通行は不可能でないことは前示のとおりであるから、被告人車と左側歩道との間には約1mの余裕があり、原動機付自転車等の二輪車がそのせまい間隔に入りこんでくるおそれが全くないとはいえない。しかし、原動機付自転車等といつても、若干の幅があり(本件被害車の幅は、原審検証調書によると、68センチメートルであつて、被告人車の左側面と道路左側端との間隔約50センチメートルを約18センチも越えていることが明らかである。)右のようなせまい間隔をすり抜けて前方に進出することのきわめて危険であることは自明の理である。したがつて、右のようなせまい間隔に入りこんでくるような原動機付自転車等があることは、通常考えられないところであるというべきであり、時に本件被害者のように、右の危険をあえておかす者があるとしても、そのことの故に、本件被告人車が十分道路左端に寄らなかつたということはできない

 

昭和45年6月16日 名古屋高裁

東京高裁 昭和43年4月22日

被告人が原判示大型貨物自動車を運転して(中略)交通整理が行われていない交差点を左折するさいに発生したものであるところ、右交差点付近における県道は直線部分で、その幅員は約7.5mであるが、これと交差する左方道路、すなわち被告人が左折した私道は幅員約6.2mで県道よりも狭く、かつ、県道とは南方から鋭角に交わっているため、各道路の左側線についていえば、左折車両は90度以上の転把を要することとなり、被告人運転の自動車のような大型車両は一回のハンドル操作では左折しきれない状況にあり、被告人もまた、交差点手前約37mの地点付近で左折の信号をするとともに、従前の時速30ないし35キロメートルから15キロメートルくらいまで減速しながら徐々に県道中央線に寄り、交差点の手前約10mの地点では県道中央線を右に跨ぐような状況になってから左にハンドルを切り(いわゆる大廻りをして)、さらに減速(時速約10キロメートル)しながら、県道を左斜めに進行して前記私道に進入し、運転席の部分が私道に入ったころに、重ねてハンドルを切ったこと、そしてさらに被告人の自動車の車体の約半分以上が私道に進入して殆ど左折が完了したときに、折から右県道左側端を寒川方向に直進せんとして来た原判示被害者運転の足踏式二輪自転車の前車輪と被告人の自動車の左後車輪のフェンダー前部とが接触し(略)。

(中略)

被告人が前記(2)において左折するときには、いまだ被害者の自転車はその後方にあったものと認むべきところ、交差点における左折方法に関する道路交通法34条1項によれば、車両が左折するときは、あらかじめその前からできる限り道路の左側に寄り、かつ、徐行しなければならない旨規定するとともに、同条5項は、右のごとく左折車が道路の左側に寄るべく手または方向指示器によって合図をしたときは、その後方にある車両は当該合図をした車両の進行を妨げてはならない旨規定しているところに徴すれば、少なくとも後方車に対する関係においては、一般に、左折車の運転者としては所定のごとく左折の合図をなして後方車の注意を促し、かつ、徐行すれば足りるのであり、かかる措置を講じた以上、後方車との交通の規制は、専ら後方車の適宜な運転方法に委ねている趣旨と解される。

 

しかるに、被告人は、前記のごとく、本件交差点の手前約37mの地点付近で左折の合図を始め、かつ、順次減速して徐行するに至ったことは原判決もこれを認めるところであり、ただ、被告人は、直ちに道路左側に寄らずして前記のごとく(2)点を経由していわゆる右に大廻りをしているが、道路交通法34条1項は「できる限り」左側に寄るべきことを規定したに止まり、本件のごとき道路並びにその交差の状況の下においては、かかる大廻りをしても直ちに同条項に違反するものとは解しがたく(昭和38年7月17日東京高裁判決、同高裁判決時報第14巻第7号刑128頁参照)

 

東京高裁 昭和43年4月22日

三次簡裁 昭和47年9月2日

この判例はちょっと特殊で、普通車が大回りするような左折をしたもの。
特殊な事情から無罪(業務上過失傷害)。

 

なお、路側帯という概念が道路交通法に規定される前の判例です。

本件現場の路上は、道路中央線までの幅員5.5m、このうち外側線幅1.5m、被告人が進入しようとした、左側A病院への通路は、幅員3.5mであり、その入口の両端には、道路と通路の双方に切迫して家屋が佇立していて、見透しの極めて悪い特殊の交差点である。
被告人が運転していた車両は、車幅1.695mの普通乗用車であるが、右のような土地状況のもとで、左折してA病院に進入するためには、病院通路から、出てくるかも知れない人車の安全性をも十分考慮する必要があるから、物理上、計数上可能な最短距離の、所謂小廻り運転の方法を執ることは、頗る困難な立地条件であり、これがため、被告人が稍大廻りの方法で、交差点に入ろうとし、そのため、自車の右側車輪が、中央線に寄ったのであるけども、勿論被告人の運転がこの場合完全方法であったとはいえないにしても、道路交通法34条1項にいう「できる限り左側に寄る」ことの要求に対しては、この程度の大廻りは、現地の状況に即して、許されるべき限度と解するを相当とする。

 

何故ならば、道路交通法にいう「できる限り左側に寄り」とは前示の通り、物理的、計数的に可能な限りの小廻りを要求しているのではなく、あくまでも、現地の道路の幅員、自車の車幅車長、進入しようとする交差点の幅員見透しの関係、交通量等諸般の状況を踏まえたうえで「できる限り左側に寄る」ことの運転方法により、道路交通の安全を期せんとするに外ならないからである。

 

三次簡裁 昭和47年9月2日

大阪高裁 昭和50年11月13日

交差点で左折しようとする車両の運転者は、交差点手前で左折の合図をしたのち、できる限り車道左側端に寄つて左折の態勢に入つた場合には、その時点において自車の左後方に後進車があつても、同車が自車を適法に追抜くことが許されない状況にあるときは、同車の運転者において追突等の危険防止のため適切な措置をとり、左折を妨害しないものと信頼して左折することができるものと解せられる。そして、道路交通法26条の2の2項、34条5項(※現行6項)の趣旨から考え、後進車は、すでに左折合図をしている先行車との間に適当な距離があつて、左折により自車の速度または方向を急に変更させられることがないときは、あえてこれを追抜きその左折を妨げることは許されないと解されるから、この場合に先行車が左折したとしても運転者としての注意義務に違反するところはないというべきである。

 

(中略)

 

被告人が本件交差点西側横断歩道の手前約45mから左折の合図をしたのち同横断歩道の手前約8mで左折を開始した時点において、左後方から追随してくる被害原付との間の距離は約14m、当時の被害原付の速度は時速約30キロメートル程度であるから、経験則上、被害原付の速度に照らして、必ずしも左折により同車の速度または方向が急に変更させられる関係にあつたとはいえない。そうすると、すでに左折の合図をしている被告人が、被害原付において危険防止のため適切な措置をとるものと考えて左折したことについて業務上の注意義務違反があると断定することはできない。所論は被告人には被害原付の速度を確認する注意義務があるのに、原判決はこれを考慮していないというけれども、被告人の原審、当審の供述等を総合すれば、被告人が被害原付の進路のほか、その時速はほぼ30キロメートル程度であることを認識していたことが推認でき、この点の注意義務違反があるということもできない。なお所論は、被告人が左折に際し徐行する義務およびできる限り道路の左側端に寄る義務を怠つた過失があるともいうのであるが、右はいずれも公訴事実に記載されていない点であるばかりでなく、前者は本件死亡の結果と直接の因果関係が認められず、後者については、進入道路の幅員が片側約3.2m、被告人車の長さが7.27mであり、東行道路には路側帯があつて、その幅員を除けば被告人車は左側に約1.5m余りを残していたに過ぎないことなどを考えると、その義務を怠つたとも断定できない。

 

昭和50年11月13日 大阪高裁

34条1項と、事故の過失

上の判例は業務上過失致死傷罪の判例なのですが、基本的には先行左折車が「できる限り左側端に寄って」(34条1項)を満たした場合には、後続車両が妨害しないことを期待してよい。

 

ただし左折車が大型車の場合、「できる限り左側端に寄って」がこのようになることがあるため、

大型車や特殊な形状の交差点の場合、適法に合図をして「できる限り左側端に寄って」いただけでは必ずしも合図車妨害の原理を適用できません。
例えばこちら。

 所論は、原判決が、被告人において適切な左折準備態勢に入つたことを認めながら、その注意義務につき、左折の合図をして徐行するだけでは十分でなく、その後も後進車の動静に十分注意し、場合によつては一時停止して同車の通過を待ち、その後道路左側に寄つて徐行するなど、左折にあたり同車との衝突を回避すべき業務上の注意義務があると判断したのは、当裁判所判例(昭和45年(あ)第708号同46年6月25日第二小法廷判決・刑集25巻4号655頁)に違反するというのである。
しかしながら、右判例は、本件とは事案を異にするので適切でなく、所論は、刑訴法405条の適法な上告理由にあたらない。すなわち、右の判例は、「交差点で左折しようとする車両の運転者は、その時の道路および交通の状態その他の具体的状況に応じた適切な左折準備態勢に入つたのちは、特別な事情がないかぎり、後進車があつても、その運転者が交通法規を守り追突等の事故を回避するよう適切な行動に出ることを信頼して運転すれば足り、それ以上に、あえて法規に違反し自車の左方を強引に突破しようとする車両のありうることまでも予想した上での周到な後方安全確認をなすべき注意義務はないものと解するのが相当である」と判示しており、後進車の運転者において自車の左方を突破することが交通法規に違反するような場合についての判例であることが明らかであるが、本件は、後に判示するとおり、後進車の運転者において自車の左方を追い抜くことが交通法規に違反するものとは認められない場合であるからである。

 

思うに、車両が交差点において左折せんとする際に後進車がある場合には、道路及び交通の状態、両車の進路、間隔及び速度等により両車の具体的注意義務は道交法の定めるところなどから微妙に分れるところであるが、右判例は、交差点の手前35mまたは60mで自転車を追い抜いた上、交差点の手前約29mで左折の合図をし、同約6mで左折せんとしたものであつて、特別な事情のない限り道交法(昭和46年法律第98号による改正前のもの。以下同じ。)34条5項が優先的に適用ないし類推されると認められる場合であるとして、審理不尽、理由不備とされたものである。
ところで、本件原判決の判示によると、被告人は、普通貨物自動車を運転し、幅員9.3mの道路を時速約35キロメートルで進行し、交通整理の行われていない交差点を左折しようとし、その手前約30mの地点で車内鏡によつて後方を確認したところ、左斜後方約20mの地点を追尾して来る自動二輪車を発見したので、同交差点の手前約22m付近で左折の合図をして車道左側端から約1.7mの間隔をおいて徐行し、同交差点入口付近において時速約10キロメートルで左折を開始した直後、被告人車の左側を直進して来た右の後進車に接触させ、事故を起したというのであり、また被告人が発見した際の同車の時速は約55キロメートルであつたというのである。原判決は、右の事実を前提とし、被告人が左斜後方に後進車のあることを発見したときの両車の進路、間隔及び速度等を考慮するときは、被告人車が前記のように左方に進路を変更すると後進車の進路を塞ぎ同車との衝突は避けられない関係にあつたことが明らかであるから、被告人車は従来の進路を変更してはならない場合にあたり、また、車道左端から約1.7mの間隔があり、かつ、前記のような進路を高速で被告人車を追い抜く可能性のある後進車のあることを認めた被告人としては、左折の合図をしただけでは足りず、後進車の動静に十分注意し、追い抜きを待つて道路左側に寄るなどの業務上の注意義務があるのに、被告人は右の注意義務を怠り、後進車の動静に注意を払うことなく左折を開始し、そのため本件衝突事故を惹起したものである、と判断しているのである。すなわち本件は、道交法26条2項が優先的に適用される場合であつて、自車の進路を左側に変更して後進車の進路を妨害することは許されないものといわざるをえない(現行の道交法34条5項参照)。そうとすれば、前記のような状況下で後進車の動静に注意を払うことなく左折を開始した被告人に注意義務の違反のあることは明らかである。

 

最高裁判所第二小法廷 昭和49年4月6日

大型車なので「車道左側端から約1.7mの間隔をおいて」自体は34条1項の「できる限り左側端に寄って」を満たす可能性はあるにしろ、すでに後続車両が迫っていて後続車両の努力では回避不可能。

 

なので34条1項の「できる限り左側端に寄って」を満たしたかどうかの問題と巻き込みの問題は直結する場合もあれば、大型車や特殊な形状の交差点では別問題となります。
判例ごとに何を問題にしているか違うので、それぞれ別個に考えないと意味がわからないかも。


コメント

  1. ゆき より:

    >要はウインカーの性能とかも含めて

    当時はウィンカーの色がオレンジ色と決まってなかったのもあります。
    そもそも、ウィンカーが義務化されていなかったので後付された、
    点滅しないオレンジ色に光る棒が跳ね上がる腕木式の方向指示器(アポロ)とか、
    点滅せず点灯するだけとか、
    赤色(旧車でたまに現役、前面は白も可)だったりが現役で走っていたでしょうし。
    今とはウィンカーの視認性が大分違う感じですよね。
    電球は切れるもの前提みたいなのも有りそう。

    • roadbikenavi より:

      コメントありがとうございます。

      そのあたり詳しくないので助かります。
      そもそも、クルマも手で合図してもかまわないわけですしね。

  2. 山中和彦 より:

    もう40年近く前、自動車教習所で教官が言ってました。
    「左折するときには、自転車やバイクが、クルマの左に入れないくらい左に寄せなさい。入ってこられると厄介なので」
    巻き込み事故防止だと思いますが、かなり極端なことを言ってますね。
    あと。
    京都市内の話ですが、中心部ではないけれども、そこそこ人が多かったエリアでも、市電が通る主要道以外は、昭和40年代前半くらいまでは未舗装でした。かすかに覚えている、家の周りは、未舗装でした。他の都市がどうだったか分かりませんが、大都市以外は似たようなものだったと思います。

    • roadbikenavi より:

      コメントありがとうございます。

      普通車と大型車でも違いますが、普通車は巻き込み防止と考えていいです。
      昔は未舗装路がたくさんありましたよね。

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