こちらの件の続きです。
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右側部分はみ出し追い越し禁止の問題点
そもそも、イエローラインの場合に自転車を追い越しする際にも右側にはみ出し通行することは違反なのですが、なぜか「30条」と勘違いする人が多いのでびっくりします。
イエローラインは17条5項4号の道路標示なので別。
種類 | 番号 | 標識 | 意味 |
追越しのための右側部分はみ出し通行禁止 | 102 | 黄色 | 交通法第十七条第五項第四号の道路標示により、車両が追越しのため右側部分にはみ出して通行することを禁止すること。 |
標識令を見ると、各標識と道路交通法が対照関係にあるので、「その標識は道路交通法の何条の標識なのか?」という観点で見ないと間違います。
さて。
日曜日 都民の森へ向かう途中
バスの幅寄せ
後程、五日市警察署に尋ねてみたら結構あるらしい。
ご注意下さい!#西東京バス pic.twitter.com/OGNYcvbwjb— ふぃがくろチャン (@MWmike6) September 26, 2023
以上の理由からそもそも「はみ出し追い越し禁止区域」です。
読者様から現場はここではないか?と言われたのですが、
誰も場所のことを言及していないのですが、ここでしょう。
動画はコーナー終わりすぐ、その手前には200メートル近い直線。
動画の位置で抜く必要があったとすれば、その前で抜けなかった(追いついて待たされていたわけではない)としか思えません。
可能性としてはそれはありそうですね。
で。
はみ出し追い越し禁止のイエローラインって、本来はかなりシビアな規制です。
古い判例になりますが、先行車が左側に寄って「先に行け」と促したからイエローラインを少し越えて追い越しした件について、余裕で有罪判決です。
論旨は、要するに、原判示第一事実について、被告人車は低速の先行車両が先に行くように指示して道を譲つてくれたため同車を追越すため道路右側部分に進出して進行したものであつて、その進出部分も僅かであり、何ら危険を伴うものではなく、かつ、巷間多く見られる通行方法に従つたものであるから、可罰的違法性がないのに、原判決が道路交通法17条3項に違反するとして同法119条1項2号の2を適用し、被告人を処断したことは、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の解釈適用を誤つたものである、というのである。
しかしながら、道路交通法17条3項、4項3号は、右側通行によつて具体的に交通の危険又は妨害が生じたか否かを問うことなく、所定の事由が存在する場合に限り右側通行を許容し、その他の場合の右側通行はこれを禁止し、もつて道路交通の安全と秩序を全体として確保しようとする趣旨の規定であると解されるから、右の禁止に違反する行為は、そのことだけで法の予定する違法性を具備するものというべきである。また、同法17条4項4号は、左側部分の幅員が6メートルに満たない道路において、他の車両を追越そうとする場合について、反対の方向からの交通を妨げるおそれがないなどの一定の要件のもとに特に右側部分の通行を許容しているけれども、同時に、道路標識等により追越しのため右側部分にはみ出して通行することが禁止されている本件のような道路については、右の通行は一律にこれを禁止する旨を明文で定めているのであるから、交通を妨げるおそれがないという理由で右側通行の違法性がないとの所論は、法に明示された趣旨に反するものというほかはない。したがつて、被告人車の追越しのための右側通行は違法というべきであるから、原判決が被告人の行為を同法17条3項違反とし、同法119条1項2号の2を適用して処断したことは、正当であつて、所論のような法令解釈適用の誤りはない。論旨は理由がない。
大阪高裁 昭和53年6月20日
他にも似たような判例はありますが、裁判所は全部有罪にしてます。
判例 | 内容 | 裁判所の判断 |
大阪高裁 S53.6.20 | 低速の先行車両が先に行くように指示して道を譲つてくれたため同車を追越すため道路右側部分に進出して進行 | 加罰的違法性がないとの主張を退け有罪 |
東京高裁 S51.11.25 | 路上駐車と路上駐車の20m間を左側に戻らず右側を進行 | 期待可能性がないとの主張を退け有罪 |
豊島簡裁 S58.6.3 | 見通しがよい場所でノロノロ運転の先行車を追い越し | 公安委員会の規制が違法とは言えないとして有罪 |
東京高裁 S59.9.10 | 極度に速度が遅い前車を見通しがよく対向車もいない状況で追い越し(検挙した警察官も「何ら危険がなかったと認めている」) | 公安委員会の規制が違法とは言えないとして有罪 |
シビアな規制なのですが、本来は「絶対にはみ出しして欲しくないところ」のみ限定的に規制すべきで、延々何キロもイエローライン規制とかすると、規制している意味が薄れてしまうのです。
「絶対にはみ出しして欲しくないところ」を限定的にイエローラインにし、逆に追い越し可能ゾーンを作るように設計しないと、イエローラインで規制している趣旨を理解できずにはみ出し追い越ししちゃう運転者が続出する。
東京高裁 S59.9.10判決は、争点が「15キロ以上もイエローライン規制をしていたことがそもそも違法」。
かなりの距離をイエローラインで規制していたことがそもそも違法なんだと主張してますが、裁判所的には「違法とは言えないけど、公安委員会もちょっと考え直したら?」みたいな雰囲気の判決にしています。
メリハリじゃないけど、はみ出し追い越し可能エリアとはみ出し追い越し禁止エリアを交互に作ることで、「ダメ絶対」が活きてきます。
イエローラインの意味が薄れてしまうのは、公安委員会が安易に延々何キロも規制するからじゃないかと思ってますが、結局のところ「自転車を追い越しする際にははみ出しOK」みたいな勘違いが横行しているし、執務資料でも期待可能性により違法性が阻却されるような説明になっているし。
最初から超法規的違法性阻却事由を想定している時点で、何か間違っている気がします。
自転車の過失
当該動画について「自転車の過失」を主張する人がいてびっくりしますが、たぶん、バスが左側に寄せてきたときにそのまま停止することを想定してなかった程度の話でしょう。
追い越し後に左側に戻すタイミングが早すぎる「アーリー戻し」のクルマは時々いますが、そのまま停止することはなかなか想像しにくい。
そりゃ、結末を動画で見ている人は好き放題言えますよ笑。
この自転車の視点になって考えないと。
追いつかれた車両の義務にしてもそもそも軽車両には関係ないし、仮に関係するとしても左側端に寄って通行する自転車に「それ以上譲る余地」もない。
なんかむちゃくちゃな話をする人たちがいてびっくりしますが、リンク先の大阪高裁判決は自転車を追い抜き中に対向車を認め、ハンドルを左側に切ったら自転車と衝突した事件。
被告人は「追いつかれた車両の義務」から信頼の原則を主張していますが、裁判所は否定。
凄いところを主張しているなと思うけど、同じ発想の人がまあまあいらっしゃることに驚きます。
なおあの判例ですが、「追い抜きを差し控えるべき注意義務」に言及した数少ない判例です。
昭和60年に最高裁が刑法上の注意義務として「追い抜きを差し控えるべき注意義務違反」を認定する前の数少ない判例。
そもそも、イエローラインがなんなのか理解してない人もまあまあいらっしゃるのが現実ですし、マスメディアの報道なんかもメチャクチャなのでびっくりします。
イエローラインについて曖昧な運用をしてきたツケみたいなもんだと思って見てますが、少なくともあの場面は直後に見通しが悪いカーブがある以上、イエローラインを抜きに考えると「追い越し(追い抜き)を差し控えるべき注意義務違反」なんですよね。
ちなみに追いつかれた車両の義務が軽車両に関係するか否かについてですが、左側端寄り通行をしている分には関係ありません。
あえて「罪刑法定主義はビミョーに的外れ」と書いたのは理由がありますが、深入りすると発狂する人がいそうなのでやめておきます。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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