以前書いた記事に質問を頂いたのですが、この件は逆走自転車と衝突した「順走自転車」が、安全運転義務違反(道路交通法70条)として書類送検されたもの。
まだ改正道路交通法が発表されてないので正確にはわかりませんが、事故の場合は反則金(青切符)にはならないはずです。
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交通違反による事故と反則金
そもそも青切符制度は、軽微な交通違反をいちいち裁判していたら裁判所が崩壊するということから簡略化した仕組みとして導入されたもの。
あくまでも簡易手続きで反則金を払えば刑事訴追されないシステムですが、交通事故の場合は除外されています。
第百二十五条
2 この章において「反則者」とは、反則行為をした者であつて、次の各号のいずれかに該当する者以外のものをいう。
三 当該反則行為をし、よつて交通事故を起こした者
交通違反によって交通事故を起こした者は「反則者」には該当しません。
事故を起こした以上は簡略化したシステムで処理することは望ましくないという考え方のようです。
反則者とは
反則行為をした者であって、この制度の適用を受ける者である。一定の違反行為者を行政の分野からとらえた概念である。ただし、次の者は、反則行為をした者であっても反則者とはしない。その趣旨は、本来この制度が一定の比較的軽微な違反行為を反則行為とし、これに関して処理手続を定めることとしたものであるが、車両等の運転者の道路交通法違反事件につき、事案の軽重、性質に応じて合理的に処理するという目的からみれば、違反行為についてだけでなく、その違反行為をした者についても、反社会性または危険性に応じて処理することが適当と考えられたからである。このような観点から、反則行為をした者であっても、悪質または危険性の高いまたはこの制度の適用になじまない次の者を反則者から除外し、この制度を適用せず、当初から刑事手続により処理することとしたのである。
東京地方検察庁交通部研究会、「最新道路交通法事典」、東京法令出版、1974
こういう理由から無免許運転や酒酔い運転、交通事故の場合には反則金制度を適用しません。
自転車に青切符制度が導入されても変わらないでしょう。
クルマの事故についても、違反によって事故を起こした場合には反則者ではないため、反則金の支払いではなく理屈の上では道路交通法違反として刑事責任の対象です。
ただし、クルマの場合は行政処分として加点はあります。
なので、青切符制度導入後に自転車が安全運転義務違反により事故を起こした場合、反則金の対象ではなく書類送検になります。
この規定、反則行為と事故発生に因果関係を求めているので、
反則行為と事故発生に因果関係がない違反については反則金の対象。
一例を挙げます。
この判例は貨物車が「積載制限違反」(反則行為)の状態でオートバイと事故を起こしたもの。
125条2項3号は「反則行為によって事故を起こした者」を反則金の対象としてませんが、逆にいえば反則行為と事故発生に因果関係がないなら、その反則行為については反則金の対象になる。
検察官は積載制限違反として反則告知をしないまま起訴したものの、違反と事故発生に因果関係がないから反則行為として扱わないと違法として公訴棄却。
本件公訴事実は次の通りである。
被告人は、法定の除外事由なく昭和(略)ごろ、(略)において、自動車検査証に記載された最大積載量4000キログラムを約1400キログラムを超えた約5400キログラムの砕石を積載した貨物自動車を運転したものである。
(中略)
この事実は道路交通法第57条第1項、第119条第1項第3号の2、同法施行令第22条第1項第2号に該当する同法違反事実であるところ、これは同法第125条第1項所定の反則行為に当る。ところで被告人に対しては、同条第2項第1号所定の無免許運転者、同第2号所定の過去1年以内の行政処分を受けたことがある者、あるいは同第3号所定の酒気をおびていた者のいづれかに該当するとの資料がない。もつとも前掲各証拠ならびに司法警察員作成の実況見分調書、医師の死亡診断書(死体検案書)によれば、被告人が本件公訴事実摘示の積載違反車両を運転中、公訴事実摘示の日時場所においてA運転の自動二輪車と衝突して同人が死亡した事実を認めることができるのであるが、前掲全証拠によるも、右衝突事故に対する被告人の業務上の過失の有無は別として、被告人の本件積載違反と右衝突事故との間には何等の因果関係もこれを認めることはできない。よつて被告人は、道路交通法第125条第2項第4号所定の反則行為をしよつて交通事故を起した者にも該当しないのである。
従つて本件公訴事実については、被告人に対して同条第1項所定の反則行為者として同法第126条、同第127条所定の告知通告の手続がなされたうえ、なお同法第130条所定の条件を充足しなければ公訴の提起はできないものといわなければならない。
高崎簡裁 昭和44年2月24日
例えば安全運転義務違反によって事故を起こしたなら、125条2項3号により違反と事故発生に因果関係があるので、反則者にはならない。
反則者にならない場合なら、反則金を支払っておしまいにはできず書類送検して検察官が起訴・不起訴の判断をしますが、自転車の違反により死傷させたなら道路交通法違反ではなく過失致死傷罪や重過失致死傷罪を適用することが一般的なんじゃないですかね。
なので、これ。
自転車に青切符制度が導入されても、違反により事故を起こしたわけなので反則金の対象にはならず書類送検されます。
反則金制度の目的
反則金制度の目的はあくまでも簡易手続きにより刑事責任を問われないだけですが、違反行為により事故を起こした場合にも反則金制度の対象とするのは好ましくないのでしょうね。
まあ、逆走自転車と衝突した順走自転車に違反を取る必要性と妥当性については、イマイチ理解し難いのですが。
なお、冒頭のこの件。
順走自転車の安全運転義務違反は不起訴になっています。
書類送検したことを違法として国家賠償請求したというなかなか珍しい事件ですが…これたぶん弁護士を立てずに本人訴訟している事案。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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