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「報道だけ」と「判決内容」では印象が変わるよね。

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先日の件ですが、

自転車で走行中、「犬のリード」は視認可能か?
先日書いたこちら。 散歩中の犬のリード(引き綱)に絡まって転倒した自転車に腕を引っ張られてけがをしたとして、飼い主の女性が、自転車を運転していた男性に約6900万円の損害賠償を求めていた訴訟は1日までに、大阪高裁で和解が成立した。一審の神戸...

何人かの方からメール頂いたのですが、「報道だけ」と「判決文の内容込み」ではイメージが変わりますよね。

 

その上で。

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正直なところ

二審が何を判断したのかはわかりませんが、少なくとも一審の事実認定がこれ。

 

・ロードバイクは時速20キロからペダリングを止めて減速
・犬は舗装部分から外れた草地、歩行者は舗装部分
・リードは巻き取り式
・警察官の実況見分でも、リードの存在を認識するのは困難

 

これでロードバイク側が80%になるのは厳しいのか?という話なんですが、過失割合としてはだいたいこんなあたりが妥当だと思いますよ。
結局、要は狭い道路で歩行者の横を通過しようとする際にはかなりの注意義務があるので。

 

けどこれって、報道だけをみたらこのように感じる人がいても何ら不思議ではない。

 

「どうせロードバイクがかっ飛ばしていたんだろ」
「犬に気がつかない自転車とか、終わってるだろ」
「歩道なのに徐行してないロードバイクが悪い」

 

遊歩道は道路交通法上は歩道ではなく「歩道と車道の区別がない道路」になりますが、なぜか歩道扱いする人も多いですね。
けど判決文を見る限り、犬にもリードにも気がつかなかったことが重過失とは思えないです。

 

民事の基本ってこれなんですよね。

ところで、(2)で述べたような、本件マンションのスロープで危険なスケートボード遊びをし、しかも、間近に迫っている加害車両に気付くことなくスロープを滑り降りた亡被害者の落ち度と、(3)で述べた被告の落ち度とを単純に比較するならば、被告の主張するように、亡被害者の落ち度の方がより大きいと言えるだろう
しかし、交通事故における過失割合は、双方の落ち度(帰責性)の程度を比較考量するだけでなく、被害者保護及び危険責任の観点を考慮し、被害者側に生じた損害の衡平な分担を図るという見地から、決定すべきものである。歩行者(人)と車両との衝突事故の場合には、被害者保護及び危険責任の観点を考慮すべき要請がより強く働くものであり、その保有する危険性から、車両の側にその落ち度に比して大きな責任が課されていることになるのはやむを得ない。特に、被害者が思慮分別の十分でない子供の場合には、車両の運転者としては、飛び出し事故のような場合にも、相当程度の責任は免れないものというべきである。

 

平成15年6月26日 東京地裁

生活道路(車道幅員5.4m)で、マンションのスロープからスケボーで飛び出したことによる事故ですが、時速30キロ程度で車道を通行する車にスケボーが衝突した死亡事故です。
判決でも被害者のほうが落ち度が大きいとしながらも、優者危険負担の原則からすれば被害者:車=40:60としている。

 

なお冒頭の件、実質的にはロードバイク側が加入していた保険会社と原告の争いなんだと思われます。
詳しい内容は前回記事でも触れましたが、メインの争点は過失割合ではなく後遺障害のほうなのかと。

 

ただまあ、判決文を読む限り、私が同じ状況で回避できたとは自信を持って言えないので、歩行者の横を通過する前には十分減速することと、自転車保険に入っておくこととしか言えない。

 

けど、こういうのって報道だけ見てあれこれ憶測する人だと、どうせロードバイクがとんでもないスピードで見逃したとか、そういうオチにされますわな。
憶測で語ると間違うのはよくある話ですが、よくあるような深夜に歩行者がはねられた事故について何の根拠もなく「被害者は酔っぱらいだったのではないか?」と書けば、違ったときには大問題ですから…

 

例えばこちらは多摩川サイクリングロードの一部ですが、

草地に犬がいて、巻き取り式リードで繋がっていたとして気づけるかは自信がない。
気づけるかビミョーだから十分減速しあらゆる事態に備える注意義務があるとも言えます。

 

もちろん、事故現場の詳細はわからないのでなんとも言えませんが(草地の状況その他で変わる)、少なくとも警察官の実況見分はこちら(一審判決文より)。

警察官は、本件リードの存在を認識しない前提で、3度にわたり、通常の状態で前方を注視しながら自転車を走行させる実験を実施したが、本件リードを張った状態及び緩ませた状態のいずれにおいても、本件リードを発見することは困難であった。一方、警察官が、本件リードの存在に注意しながら時速約20キロで自転車を走行させた時には、本件リードを約9m手前で視認可能であった。

民事の話

例えばこのような判例があります。

 

歩車道の区別がある道路で、車線幅が3.5m、車道外側線から歩道の縁石までは1m。

自転車が先行し、四輪車が時速50~60キロ(指定最高速度40キロ)で接近。

自転車が突如右折横断したため、急ブレーキが間に合わずに衝突した事故です。

過失割合はこちら。

自転車 四輪車
30 70

いきなりノールック横断して避けようがなくね!?というのは刑事責任ではそうですが、民事責任はこうなる。

被告には、原告車が本件道路の南端を走行していることを認識しており、本件道路の北側には大型スーパーが存在するのであるから、原告車が本件道路を横断する可能性を考慮した上、原告車と十分に距離をとってから追い越す、あるいは警音器を鳴らすなど注意喚起をして安全を確保してから追い越すべき義務があったにもかかわらすこれを怠った過失があり、また、制限速度を時速10から20キロ程度超過して被告車を進行させた過失が認められる。

 

名古屋地裁 平成22年12月7日

道路右側に大型スーパーがあるので「ノールック横断することが予見可能」だし、「予見可能な以上はクラクションを鳴らすなど注意義務がある」という判断です。

 

民事責任の「予見可能」って対弱者にはまあまあな範囲に及ぶわけで、「ノールック横断する自転車が全面的に悪いヨ!」とはならないのが民事責任。
正直なところ、こういうもんだと思って注意するしかないし保険に入っておくほうが得策。

 

冒頭の件については、自転車が歩行者の横を通過する前にもっと慎重にという点については同意しますが、警察官が視認困難だとした犬のリードについても考えないと厳しいと思う。
一審判決文から↓

警察官は、本件リードの存在を認識しない前提で、3度にわたり、通常の状態で前方を注視しながら自転車を走行させる実験を実施したが、本件リードを張った状態及び緩ませた状態のいずれにおいても、本件リードを発見することは困難であった。一方、警察官が、本件リードの存在に注意しながら時速約20キロで自転車を走行させた時には、本件リードを約9m手前で視認可能であった。

たぶんこれ、ロードバイク側の刑事責任を問えるか?という点から実験したのではないかと思うけど、そのあたりは不明です。
この結果なら刑事責任を問われることはないと思いますが、余裕で視認可能なら重過失致傷罪又は過失傷害罪に問われることはあり得るので。
過失傷害罪は親告罪です。

 

こういう判例を見ていると、サイクリングロードとか怖くて走れません。
どのように捉えるかは人それぞれ違うでしょうけど、民事責任はこういうもんだと思って注意するしかないし、保険は必須。

 

家族で楽しく犬の散歩に来ていた方と、楽しくロードバイクに乗っていた人が一瞬で悲しい結果に陥るわけですが、遊歩道やサイクリングロードは歩行者と自転車が分離していたほうが望ましいよね。
民事責任については自転車対歩行者ならこういう過失割合になるのは普通です。
以前も書いた気がしますが、民事責任って単純にいい・悪いの比較をするわけでもないので。

 

なお、一審判決の詳細はこちらに書いておきました。

自転車で走行中、「犬のリード」は視認可能か?
先日書いたこちら。 散歩中の犬のリード(引き綱)に絡まって転倒した自転車に腕を引っ張られてけがをしたとして、飼い主の女性が、自転車を運転していた男性に約6900万円の損害賠償を求めていた訴訟は1日までに、大阪高裁で和解が成立した。一審の神戸...

確かに過失割合も争点の一部ではありますが、判決を読む限りでは後遺障害の等級認定と心因的素因減額の有無が大要素なんじゃないかと思う。


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