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25条の2第1項でいう「正常な交通を妨害するおそれがあるとき」とは?

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道路交通法25条の2第1項には「正常な交通を妨害するおそれがあるとき」とありますが、

(横断等の禁止)
第二十五条の二 車両は、歩行者又は他の車両等の正常な交通を妨害するおそれがあるときは、道路外の施設若しくは場所に出入するための左折若しくは右折をし、横断し、転回し、又は後退してはならない。

正常な交通とはなんなのか?

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正常な交通を妨害するおそれがあるとき

「正常な交通」とは、「違反がない交通」という意味ではありません。

 

この規定がユニークなのは、他の規定とは逆なのです。
例えば37条は「右折する場合」に直進車等の進行妨害禁止になってます。

第三十七条 車両等は、交差点で右折する場合において、当該交差点において直進し、又は左折しようとする車両等があるときは、当該車両等の進行妨害をしてはならない。

25条の2は、「横断等をするときは、正常な交通を妨害してはならない」ではなく、「正常な交通を妨害するおそれがあるときは、横断等は禁止」

(横断等の禁止)
第二十五条の二 車両は、歩行者又は他の車両等の正常な交通を妨害するおそれがあるときは、道路外の施設若しくは場所に出入するための左折若しくは右折をし、横断し、転回し、又は後退してはならない

要はこの規定、「正常な交通を妨害するおそれがないか確認してから横断等のプレイしろ」が趣旨。
他条と「逆」にしている理由は、横断や道路外右左折、転回、後退という通常の流れとは反するプレイをするにあたり十分確認させる趣旨なのかなと。
交差点であれば他人からみても右左折することが「予見しやすい」けど、道路外右左折は他の通行者からすると予見しにくいし。

 

横断等を行う前に「正常な交通を妨害するおそれがないか?」を確認するわけですが、仮にですよ。
確認した結果、著しい高速度で直進する車両がいた場合、横断等を控えるしかない。
あえて突っ込んで事故を起こすわけにはいかないので当然です。
なので、「相手が正常な交通であったか?」はさほど重きを置く必要はなく、確認作業が十分だったか?を問題にしているケースが多い。

①確認したか?
②それは十分な確認だったか?
③十分な確認をしても妨害してしまったような異常な状態だったか?

「他の車両等の正常な交通を妨害するおそれがあるとき」は、右折、横断してはならず(道路交通法25条の2第1項)、右折、横断するにあたつては対向車線上を直進して来る車両等の安全確認に十分意を用いる必要のあることは、論をまたないところである。

札幌高裁 昭和51年8月17日

では具体的な判例を。

東京高裁 昭和59年11月28日(横断)

この判例は道路外から車道を横断し、対岸の道路外に出るプレイをしようとした際に、指定最高速度の倍近い速度超過車と衝突したもの。
夜間の事故です。

被告人は別図(3)地点において被害車を視認し得たはずであることは前述のとおりであるが、この場合、その速度の大凡も窺知できたものと認められる。すなわち、(証拠略)によれば、同人ら警察官において本件事故現場付近で本件事故発生時刻頃に符合させたうえ、別図(3)地点付近から、被害車が走行していたと想定される箇所を観望し、同所を通過する車両についての速度感の調査実験を試みたところ、その速度が時速50キロメートル前後の普通域を超え80キロメートル以上になると「相当速い」と感じ得るとの結果を得たとのことである。この結果はその採つた方法にかんがみほぼ一般化できると考えて妨げないと思われるので、別図(3)地点において被告人が被害車を発見していたならば、それが制限速度以上の相当速い速度であつたことを良く認識し得たと断定でき、もしこれを認識したならば被告車の横断行為は被害車の進行を妨げるばかりでなく、これとの衝突の危険性も高いと思料すべきであつたと考えられるので、被告人としては当然横断を差し控えるのが筋合いであつたといわなければならない。したがつて、被告人は別図(3)地点において右方を「見た」ものの、十分な安全確認を尽くさなかつた注意義務違背があつたことが明らかというべきである。

東京高裁 昭和59年11月28日

指定最高速度の倍近い異常な高速度で進行した被害車両を、被告人からすれば「相当速い速度であつたことを良く認識し得た」のに確認不十分なまま横断を開始して事故を起こした。
なので25条の2第1項に基づく過失があったとして有罪。

札幌高裁 昭和51年8月17日(道路外に右折)

この判例は渋滞停止している対向車の間を右折横断して道路外に出ようとした被告人が、

このように対向車の左側に二輪車が来ないか確認するため、少し頭を出して一時停止。

一時停止して確認した後に進行したところ、前方不注視の二輪車が突っ込んできた事故。

被告人は、同地点で右外側線に沿つて左方(東方)約6、7m先まで見通し、その限度で本件車道部分を直進して来る車両の存在しないことを確認したうえ、時速10キロメートル以下の微速で自車を前進させ、自車前輪を歩道上に乗り入れて本件車道部分をほぼ横断し終ろうとした矢先に、右車道部分を前記外側線の外側に沿つて時速約28キロメートルで西進して来た被害者運転の第一種原動機付自転車が同所の歩道北端から約80センチメートルの地点において被告人車の左側後尾(後端から約30センチメートルの個所)に衝突

これについて、被告人は頭を出して一時停止し確認していた以上、過失はないとして無罪。

そして、被告人が右第二停車地点を発進し、本件車道部分を横断するに際して、被告人車が、すでに前述のようになかば以上対向車線の横断を終え、さらに本件車道部分の安全を確認するため一時第二停車地点にボンネツトが右車道部分に約70センチメートル出た状態で停車したことにかんがみれば、条理上すでに本件車道部分を直進して来る車両に優先して同所を横断することのできる立場にあつたものと解するのが相当である。

 

さらに前認定のように当時第二停車地点から左方(東方)にも西方交差点の青信号を待つて渋滞する車両が何台も続いており、被告人が一たん下車して左方を見通した時点から再び乗車して自車を発進させ横断を完了するまでにすくなくとも数秒を要するものと解されるところ、その間における左方車両の安全をあらかじめ見越すことは実際上極めて困難であるうえに対向車線上の車両の通行にも多大の支障をきたすおそれがあつたものと認められる。また関係証拠によれば、被告人は当時外出先から自宅に帰る途上であつて、格別自車に同乗する者もなく、したがつて車外で左方の安全を確認し被告人車を誘導する適当な第三者も見当たらなかつたことが認められ、被告人の下車ないしは他の者の誘導による左方の安全確認がいずれも期待しがたい状況にあつたことが明らかである。右のように被告人車に本件事故に直結する交通法規の違反を見出すことはできない。

 

札幌高裁 昭和51年8月17日

要は頭を出して一時停止し、左側端を通行する二輪車に対し警告をしていたのだから、二輪車が適宜速度を緩めて回避すべきだったとしている。

(二)  被害車の運転態度

他方前認定によれば、被告人は、第二停車地点において南側の渋滞車両の側端から本件車道部分に自車のボンネツトを約70センチメートル突き出して停車しており、右車道部分を直進してくる車両に対し、横断中の車両があることを示していわば警告を発していたのであるから、被害者は被告人車の動向、ことに被告人車が同所を横断しようとしているものであることを十分認識しえたはずである。しかも、当時本件事故現場は車両が二百数十mにわたつて二列に連続して渋滞しており、停止車両の陰から横断車両ないし歩行者が出現する可能性を予測しうるところであり、また、南側渋滞車両と歩道の間にはわずか1.7mの間隙が残されているにすぎなかつたのであるから、被害者としては、減速ないし徐行しかつ進路前方を十分注視して、安全な速度と方法で進行しなければならなかつたものといわねばならない。
また関係証拠によれば、被告人車が第二停車地点から衝突地点まで約4.2mを時速約5ないし10キロメートル(秒速1.389ないし2.778m)で進行するのに約1.5ないし3秒の時間を要することおよび被告人が左方車道部分を確認したうえ発進するのにすくなくとも1秒程度を要するので逆算すると、時速約28キロメートル(秒速7.778メートル)で進行して来た被害車は、被告人車が第二停車地点に立ち至つた段階では、同所から約19ないし31m東方(左方)にあつたものと認められ、しかも本件衝突は、被告人車が本件車道部分を横断し終る寸前にその後端からわずか約30センチメートルの左側面に被害車前輪が衝突したかなりきわどい事故であつたことに徴しても、被害車の側で、前方注視、徐行等の措置により被告人車との衝突を避けることはきわめて容易であつたといわねばならない。
しかるに、関係証拠によれば、被害者は、自車の速度を落さないで約時速28キロメートルのまま、しかも進路前方二百数十メートルの交差点にある対面信号に気を奪われ前方注視を怠つた状態で漫然と進行し、わずか5m位手前に至つてはじめて被告人車に気付いたが、すでに間に合わず被告人車の後尾に自車を衝突させたものと認められるから、被害者の運転態度に相当性を欠くものがあつたというほかなく、被告人において被害車の右運転態度を予想すべき特段の事情のなかつたことも明らかであり、同人の運転態度が本件事故の原因となつたことは否定しがたいところである。

 

この判例でも25条の2の法意はあくまでも十分な確認にあると解釈しているので、わずかに頭を出して一時停止して確認してから進行した被告人に過失はないとしている。

高松地裁 令和3年2月22日(道路外に右折)

この判例はいわゆるサンキュー事故。
イメージはこう。

厳密にいうと高松地裁 令和3年2月22日判決は、道路外に右折した被告人車に驚き二輪車を驚愕転倒させた事故です(過失運転致死)。
これについて「一時停止し、小刻みに発進と停止を繰り返して確認してから右折すべき注意義務違反」として有罪。

大型貨物自動車の左側には2輪車等の通行可能な余地があって、この通行余地の見通しが困難であったから、一時停止及び微発進を繰り返すなどして通行余地を直進してくる車両の有無及びその安全を確認して右折進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り、(中略)漠然時速約10キロで右折進行した過失

 

高松地裁 令和3年2月22日

弁護側は「交通法規上、一時停止義務が課されていない」と主張してますが、徐行義務(25条2項)、正常な交通を妨害するおそれがあるときは右折禁止(25条の2第1項)の趣旨から、見通しが悪いなら一時停止して確認してから進行する義務があったとしている。

要は25条の2第1項の趣旨は「確認」に重きを置いているので、たまたま相手方が異常な交通であったとしても十分な確認をしたかを問題にしているわけ。
結果的に相手が異常だったかの話ではなく、十分確認したかが問題。

高松高裁 昭和56年11月30日(道路外に右折)

道路外に右折する際の注意義務ですが、15~20キロ程度速度超過する対向車を予想して右折する義務があったとしている。

道路外の施設へ入るため道路を右折しようとする車両は、対向して直進する車両の正常な通行を妨げてはならないことは、道路交通法25条の2第1項の規定するところである。従って、右折車の運転者としては直進対向車の有無、動静に注意し、同車との安全を確認して進行すべき業務上の注意義務がある。しかし、直進対向車に優先通行権があるといっても、いかなる場合においてもこれが肯定されるわけではなく、直進車が異常な高速度で進行する場合にはもはや優先通行権を認めることはできず、右折車の運転者としては対向直進車が異常な高速で接近してくることを予想して右折の安全を確認すべき義務はない。しかし又直進車に優先通行権が認められるのは、制限最高速度内で走行している場合に限られるわけでなく、当該道路の状況に応じある程度速度が超過しても、通常予想し得る程度であればなお優先通行権があるというべきである。
これを本件についてみると、前記のとおり、A車は時速65キロメートルないし70キロメートルで走行していたものと認められ、事故現場付近は最高速度が時速50キロメートルに制限されていたので、15キロメートルないし20キロメートル速度超過しており、被告人は同車を60メートル前方に認めたのであるが、現場付近の県道は、周囲に田畑が残り相当の長さにわたって被告人車の方へ下り勾配となっている見通しのよい直線路であったから、右の程度の速度を超えて走行する車両のあることは十分予想し得るところである。そして、慣れた動作とはいえ、かなりの車長の車を運転し大きく右へ回って路外の工場敷地へ入るには、ある程度の時間の経過と動作を要するのであるから、60メートル前方に対向直進車を認めた場合には、同車が時速15キロメートルないし20キロメートル程度超過して走行していることもありうることを予測したうえで、右折の際の安全を確認すべき注意義務を右折車の運転者に求めても困難を強いるものではない。

 

高松高裁 昭和56年11月30日

問題になるのは

25条の2に関する判例をみると、「十分な確認をしたか?」を問題にしているわけ。
たまたま相手方が異常な高速度であったとしても、十分な確認作業で異常な高速度を見つけたら横断等を控えるしかない。

 

十分な確認をしたけど起きた事故については無罪にしているし、無確認で右折した事故については「一時停止後に微発進と停止を繰り返して死角を解消する義務」を認定。
「確認が十分だったか?」が問題なので、「相手方が正常な交通だったか?」はそこまで重要ではないのかと。

 

なお、上の判例は全て過失運転致死傷の判例。
道路交通法違反として考えた場合、25条の2第1項は故意の処罰規定しかないので、過失により25条の2第1項に反した場合には罰則はありません。
しかし、過失により25条の2第1項に反し事故を起こせば、安全運転義務違反(70条過失)、過失運転致死傷罪になります。

 

確認が十分だったか?を問題にする規定だと捉えたほうが分かりやすいかもしれませんが、

徐行して確認していたからギリギリOKと見るか、それとも高松地裁判決のように一時停止後に微発進と停止を繰り返して死角を解消する義務があったとみるかはややビミョーです。
そこまでちゃんとやれば札幌高裁判決のように無罪になりますが、そういう丁寧な右折をする車両は…リアルにはほぼいないような。

 

だからすり抜けはオススメしないんですけどね。

 

25条の2は横断等をする前に「確認が十分だったか?」を問題にする。
相手方に違反があったかよりも確認作業が適切かが問題。


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