自転車が歩道から車道に「ノールック進出」してバスが急ブレーキを掛けた際に、バスの車内に立っていた人が転倒し骨折の重症だそうな。

若干疑問なのは、救護義務違反の容疑という点。
第七十二条 交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。この場合において、当該車両等の運転者(運転者が死亡し、又は負傷したためやむを得ないときは、その他の乗務員。次項において同じ。)は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署(派出所又は駐在所を含む。同項において同じ。)の警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置(第七十五条の二十三第一項及び第三項において「交通事故発生日時等」という。)を報告しなければならない。
非接触の誘因事故でも救護義務は発生しますが、事故が起きたことを未必的にせよ認識しないと救護義務は課せない。
あまりに直近で飛び出したから事故発生の未必的な認識があるという判断なのだろうか。
なお自転車の救護義務違反については、117条の5第1項1号により法定刑は一年以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金。
重過失傷害罪(刑法211条後段)の可能性が高そうですが、過失傷害罪(刑法209条)と区別が曖昧な上、過失傷害罪は親告罪だから被害者から告訴がないと警察は動けない(重過失傷害罪は非親告罪)。
救護義務違反の容疑として捜査している意味はそこなんじゃないかと…
なお重過失とは過失の程度が重大なことを意味し、起きた結果の重大性とは関係がない。
刑法209条、210条が通常の過失により死傷の結果を発生させた場合の規定であるのに対し、同法211条後段は重大な過失により右と同じ死傷の結果を発生させた場合に前2条に比し刑を加重する規定であり、右にいう重大な過失とは、注意義務違反の程度が著しい場合、すなわち、わずかな注意を払うことにより結果の発生を容易に回避しえたのに、これを怠つて結果を発生させた場合をいい、その要件として、発生した結果が重大であることあるいは結果の発生すべき可能性が大であつたことは必ずしも必要としないと解するのが相当である。
東京高裁 昭和57年8月10日
ところでこの件、仮に自転車の容疑者が発見されなかったときに被害者は賠償上の問題で泣き寝入りするのか?と勘違いしやすいんだけど、
バス自身も「対乗客」という観点では加害者になるので、バスの自賠責保険や任意保険から支払われます。
負傷した乗客からすれば、治療費等はとりあえず自転車だろうとバスだろうとどちらからでもいいから払ってもらわないと困るのでして、バス会社が乗客に対し支払い拒否する可能性はないでしょう(イメージが悪すぎる)。
ただし民事上の観点でいうと、自転車が飛び出した際の位置関係や状況次第ではバス会社は無過失(自賠法3条但し書き)に該当しうる。
自転車の横断(25条の2第1項)に関する基本過失割合は「自転車30%、クルマ70%」ですが、このような基本過失割合が設定されている理由はクルマ側にも前方不注視等の過失があることを前提にしており、報道をみる限りバス側に過失が肯定されそうなものはなく、基本過失割合が適用されない事案に見える(現に無過失を認定した類似判例もある)。
けどこれも勘違いしやすいポイントですが、民事は必ず裁判で決着するものではなく、ほとんどが示談で解決する。
バス会社が乗客に対し自賠法3条但し書きを理由にした免責を主張することはあまりにもイメージが悪いので、とりあえずバス会社が被害者に賠償するでしょうけど(それは自転車の容疑者が発見されたとしても)、
ノールック進出は危険だからダメなのよね。
自転車が轢かれて被害者になることもあれば、今回のように自転車が加害者になることもある。
ところで今回のような場合に、バス運転者も対乗客では加害者になりますが、バス運転者に刑事処分(過失運転致傷)や行政処分があるのか?という疑問が起きる。
この事故態様ならバス運転者の行動は緊急避難による急ブレーキなのだから刑事処分は問えないだろうし、行政処分についても点数登録除外に該当すると考えられる。

最近「行政処分は第一当事者のみ」というガセネタを流す人がいてびっくりしますが、第2当事者だろうと違反があると認められれば点数はつくのよね。
結局この事案を見たときに、ノールック進出するなとしか言いようがないのですが、どこかの人に解説させたら「人身傷害特約に入っていたら過失相殺無しで全額受け取りできるんです!」とかになるのだろうか…
なお理屈の上では乗客が手すりなどに掴まってなかったことを理由に過失相殺することもあるだろうけど、民事のいいところって全てを杓子定規に当てはめる必要はなく、加害者側が全額払いたいならかまわないのよね。
バスは公共交通機関としてのイメージがあることと、そもそも自賠責保険の枠組み内であれば過失相殺の対象にはならない(乗客に重過失があるとは考えにくい)という点を踏まえても、被害者が泣き寝入りする可能性はきわめて低いと思われますが、
人身傷害特約って結局のところ本人や家族がクルマを持ってなければ加入することはなく、そのように限定した加入条件のものが「対策」になるわけがないのよね。
今回の件でいうなら唯一の対策は「ノールック進出するな」でしかないのですが…
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。


コメント
これは、多分に、こんな危険なことはするな、と発表したい京都府警の意思表示なのでしょう。
ただ、発表するには、「〇〇という疑いで捜査」という名目が必要なので。
ググると、「乗合自動車発進妨害」というのが出てきますが、バスの発進時のみしか適応されない上、反則金6000円と1点減点のみなので、捜査する名目として、より重大な「救護義務違反」としたのだと思います。怪我人(かなり大怪我みたいですね)も出ているので、放置できないのでしょう。
コメントありがとうございます。
おそらく、事故発生を認識したと思われる言動がドラレコにあったのではないかと。
本件とは違うのですが、車椅子一台がやっとの細い歩道はしばしばあるので、歩道から出てくる事自体をどこまで想定するかは気になってます。知ってる道ならあらかじめ左方間隔を開けておくのですが、四輪には邪魔だろうな、とも思うのです。
コメントありがとうございます。
予見可能なら予見義務を免れないので、状況次第としか言えませんよね。