以前取り上げた判例について質問を頂いたのですが、

問題なのは下記民事判例(東京高裁 昭和43年8月30日)。
事案の概要です。



時速45キロで通行していた先行車を、時速65キロで通行していた後続車が追い越ししようとした。
先行車は追い越しされたくないので、時速70キロに加速した上でハンドルを右に切り追い越し妨害をした。
先行車の追い越し妨害を理由に全過失を先行車にしています。
さて。
要するにこの事故については、追いつかれた車両の義務(27条1項の加速禁止と2項の進路避譲義務)の問題と、進路変更禁止(現26条の2第2項)の問題がある。
ところで、宮崎注解には「追いついた車両が速度超過のときには27条は適用されない」という趣旨の解説があるし、警察庁の運転免許採点基準にも同趣旨の記述がある。
では上の東京高裁判決は、時速65キロで追いついたのだから速度超過があることになり、東京高裁判決を以て「速度超過車でも27条が適用される」となるのかというと、
そもそも「違反」と「過失」は別問題な上なので、この判例を以て道路交通法解釈を語るのはちょっとムリがあると思う。
要は仮に速度超過車に追いつかれ、追い越ししようとした状態について27条の適用がないとしても、
加速し、左側端に寄らないばかりか右にハンドルを切って妨害していい理由がない。
進路変更禁止(26条の2第2項)の趣旨や、追い越し妨害を禁止した加速禁止義務(27条1項)の立法趣旨から考えてもわかる話。
民事の過失は道路交通法違反と必ずしもイコールではないので、この判例を以て「速度超過車に追いつかれた場合に27条の適用がある」というのは、短絡的だと思う。
ところでこの事故、過失割合は先行車が100%。
要は追い越し/進路変更に関する基本過失割合が適用される事案ではなく、個別判断になったと考えられる。
そもそも、必ず基本過失割合が適用されるわけではないことは実務、判例から明らかな事実なのに、なぜか必ず基本過失割合が適用されるかのように語る人がいてビックリする。
民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準として公にされている基本過失割合は、各事故において典型的な事案を想定したものであって、特異な事情がある個別の事案についても常に当てはまるというものではない。本件事故についてみると、被告車が法定最高速度を時速54キロメートルも上回る時速約114キロメートルという異常な高速度で走行していたという特異性があり、劣後道路からの左折進行車の運転者においてこのような高速度で直進車が走行していることを認識するのは容易なことではないし、他方、このような高速度で走行する車両の運転者は、周囲の交通の状況に応じた変化に対応し事故を回避することを自ら極めて困難にしているものといえる。そうすると、本件事故は、基本過失割合が当てはまる典型的な事案とはおおよそ言い難く
名古屋地裁 令和4年9月28日
こんな事例はわりと珍しくもないし、それこそ双方青信号の右直事故について、直進車の過失を100%とした実例もいくつかありますが(福岡高裁 令和5年3月16日、なお一審も同様の判決)、

基本過失割合が必ずしも適用されないという当たり前な事実を知らないと、大分の時速194キロ直進車と対向右折車の事故について、「右折車の方が過失割合が大きい」なんてガセネタを語り被害者の誹謗中傷をしてしまう。
基本過失割合が20:80で、「+30キロ以上の速度超過を修正」なんてことにはならないのは、きちんと民事を理解していればわかるのでして。
基本過失割合が想定する内容に、時速194キロもの著しい高速度の態様が含まれるわけがないのよね。
要するに、「過失」と「道路交通法違反」は別問題だし、必ずしも基本過失割合が適用されるわけではなく、具体的状況による判断になるわけですが、
たぶんなんだけど、道路交通法の問題と過失の問題の切り分けができないと、民事や過失運転致死傷罪は理解しにくいと思う。
そして27条が速度超過車に追いつかれた場合に適用されるかはさておき、わざと加速し進路変更して追い越し妨害していい理由にはならない。
要するに別問題なのよ。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。


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