読者様より、ある事故の話を聞きました。
その詳細は紹介しませんが、生活道路での自転車事故の場合、過失割合は想定しているものと異なる可能性があります。
注意喚起も込めて、いくつか事例を見ていきます。
※あくまでも、自転車同士の事故の話をメインにします。
生活道路での逆走自転車との事故
まず前提から。
車の事故については判例が豊富なこともあり、ある程度過失割合は図式化されています。
自転車事故についてはあまり判例もなく、実態としてはその状況次第になります。
これは前にも書いた件ですが、逆走自転車と正面衝突した場合。
逆走自転車が悪い!こっちは法律に基づいてちゃんと左側通行しているんだ!と言っても、実は過失割合は50:50とされています(生活道路の場合)。
『自転車同士の事故の過失相殺基準(第一次試案)』をもとに過失相殺の主張を行いました。
対向方向に進行する自転車同士の事故の過失割合は、第一次試案によれば50:50が基本過失割合になるとされています。
しかしながら過失割合を50:50とした第一次試案はあくまでも生活道路上の事故を前提としたものです。
今回の交通事故は、非常に大きな幹線道路で発生したものであり、自転車の左側通行義務が強く要請されること、仮に対向車を回避しようとすれば車道上に飛び出さざるを得ず、回避は事実上不可能であったことなどを相手損保に丁寧に説明しました。
結果、過失割合は10:90(被害者側が10)で解決することに成功しました。
【自転車事故】過失割合を10:90にし、約102万円の獲得に成功しました | アウル東京法律事務所アウル東京法律事務所でお受けした交通事故事件の解決事例のご紹介です。今回は自転車事故となります。対向車同士の自転車事故で過失割合を10:90にし、結果、既払金を差し引いた慰謝料等で約102万円の獲得に成功しました。アウル東京法律事務所は、自...
そんなバカな!と思う人もいるかもしれません。
しかしこれが現実です。
生活道路での逆走自転車との衝突事故は、基本線が50:50でスタートします。
これに、過失修正が入るわけですが、過失修正要素はいろいろあります。
・子供、老人の場合は5~10%の減算
・傘差し、音楽を聞くなどの行為があれば、10%程度の加算
・著しい速度差があれば、速い自転車側に5~10%程度加算
・酒気帯びは10%加算、酒酔いは20%加算
・夜間であれば無灯火などに10%の加算
ロードバイクはママチャリよりも一般的に速いので、この時点でママチャリよりも注意義務が大きいとも取れる。
相手が小学生とかなら、相手が減算(こっちが加算)、音楽聞いていればさらに加算・・・
なので状況次第では、逆走自転車のほうが過失割合は小さくなるケースも想定できるわけです。
まあ、生活道路でロードバイクでかっ飛ばすアホがいるとも思えませんが・・・
そういうこともあって、もし遠くで逆走自転車が見えた場合、左に寄せて停止してやり過ごしたほうが無難。
万が一突進されても、停止している以上は0:100を主張できるので。
停止状態に突進されたことはさすがにないなぁ。
生活道路での逆走事故が50:50になる理由ですが、免許制度がない自転車に車の判例を当てはめるのは適切ではないという判断と、逆走自転車なんていくらでもいるという実態を加味した上で、お互いに注意義務があるということだと思われます。
自転車同士の事故の場合、幹線道路など特別な事情を除けば、原則は50:50がスタートラインと思っていたほうがいいです。
生活道路での交差点
このような判例があります。
これが十字路なのかT字路なのかはわかりませんが、とりあえずT字路と想定してみます。
原告車が【東西道路を東進して右折進入】、被告車は【本件道路を北進】とあるので、だいたいこんなイメージなんじゃないかと。
この事故について、双方の過失を認めています。
「被告は、②地点よりも手前で原告車が東西通路から本件通路に右折進入してくるのを認識するとともに、本件通路を北進して東西通路に接近する際には本件看板2が示すとおり同通路手前で一時停止することのできるような速度で走行すべきところ、これらをいずれも怠った過失が認められる。したがって、被告は、民法709条に基づき、本件事故により原告に生じた損害を賠償する責任を負う。
もっとも、本件事故については、原告にも、東西通路から本件通路に右折進入するに際して本件看板1が指示する一時停止を怠った過失が認められる。」「本件事故は,東西通路を東進して本件通路に右折進入した原告車と本件通路を北進してきた被告車が出合い頭に衝突した事故であるが、上記(3)の原告と被告の過失の内容・程度に加え、本件事故直前の被告車の速度が原告車の速度を相当程度上回っていたことを考慮すると、被告の損害賠償額を算定するに際して40パーセントの過失相殺を認めるのが相当である。」
大阪地方裁判所平成29年1月31日判決
自転車同士の出会い頭の衝突事故で、一方が高速度で直進していた事故の事例【過失割合40対60】|自転車事故の専門家に相談自転車同士の出会い頭の衝突事故で、一方が高速度で直進していた事故の裁判例です。裁判所は過失割合を40対60と判断しました。
被告の過失は、
・本件通路に右折進入してくるのを認識する
・同通路手前で一時停止することのできるような速度で走行すべき
・被告車の速度が原告車の速度を相当程度上回っていた
原告の過失は
・一時停止を怠った過失
なので、原告:被告=40:60となっているようです。
ちなみにこの事故では、左寄り通行していたかなどは問われていないようです。
ちなみにですが、このような事故が仮にあったとします。
前提として、どちらも優先道路ではなく、信号機がないとします。
東西道路を東進してきた青自転車が逆走(左寄り通行違反)、北進してきたオレンジ自転車は左寄り通行していたとします。
この場合、どっちが過失が大きいかというと、かなり微妙です。
まず、道路交通法では、左方優先になっています。
(交差点における他の車両等との関係等)
第三十六条 車両等は、交通整理の行なわれていない交差点においては、次項の規定が適用される場合を除き、次の各号に掲げる区分に従い、当該各号に掲げる車両等の進行妨害をしてはならない。一 車両である場合 その通行している道路と交差する道路(以下「交差道路」という。)を左方から進行してくる車両及び交差道路を通行する路面電車
二 路面電車である場合 交差道路を左方から進行してくる路面電車
2 車両等は、交通整理の行なわれていない交差点においては、その通行している道路が優先道路(道路標識等により優先道路として指定されているもの及び当該交差点において当該道路における車両の通行を規制する道路標識等による中央線又は車両通行帯が設けられている道路をいう。以下同じ。)である場合を除き、交差道路が優先道路であるとき、又はその通行している道路の幅員よりも交差道路の幅員が明らかに広いものであるときは、当該交差道路を通行する車両等の進行妨害をしてはならない。
3 車両等(優先道路を通行している車両等を除く。)は、交通整理の行なわれていない交差点に入ろうとする場合において、交差道路が優先道路であるとき、又はその通行している道路の幅員よりも交差道路の幅員が明らかに広いものであるときは、徐行しなければならない。
4 車両等は、交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等、反対方向から進行してきて右折する車両等及び当該交差点又はその直近で道路を横断する歩行者に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。
なのでオレンジ自転車は、左方優先の違反になります。
青自転車は、左寄り通行の違反になります。
こちらの解説では、
自転車同士の事故で、このようなケース。
お互いに一時停止の標識がない場合、左方優先の原則により、青:オレンジが40:60となっています。
これがもし、青自転車に逆走があった場合、
左寄り通行の違反もあるので、青自転車側に10%程度の加算で、50:50が基本線となるかと。
で、ロードバイクで逆走するアホもいなくはないですが、多くはママチャリですよね。
青自転車が子供やお年寄りの場合、5~10%過失割合が減算される。
しかも速度差がかなりある場合は、速いほうに10%程度の加算がつくので、逆走自転車のほうが過失割合が低くなることも普通にあります。
まあ、生活道路で飛ばすなというだけの話ですけどね。
相手が逆走だから、こっちが被害者というわけにはなりません。
鉄則ですが
万が一事故が起きた場合、軽症だからと警察を呼ばない人もいます。
事故が起きた場合には警察を呼ぶ義務があります。
(交通事故の場合の措置)
第七十二条 交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。この場合において、当該車両等の運転者(運転者が死亡し、又は負傷したためやむを得ないときは、その他の乗務員。以下次項において同じ。)は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署(派出所又は駐在所を含む。以下次項において同じ。)の警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置を報告しなければならない。
軽症で済んだからまあいいや、というのは完全な間違い。
交通事故の場合、その場で痛みがなくても、翌日から激しい痛みに襲われるケースは多々あります。
特に首のムチ打ちの場合。
ムチ打ちって、当日はそれほど痛くないという人が結構います。
翌日から激しい痛みに襲われて動けなくなる人も。
あと頭部への外傷。
その場でなんともないように見えて、硬膜外血腫だと数時間後にいきなりおかしくなるケースも。
そういうこともあるので、警察を介してお互いの個人情報を交換しておくことが大切なのです。
あと、被害者だと思い込んでいたけど、法律上はむしろ加害者になることも。
とりあえず覚えておくといいのは、
自転車同士の事故の場合、基本は50:50
これに尽きます。
お互いに軽症だから警察呼ばずに終わらせたと思っているケースでも、法的には当て逃げと変わらない状況と見なされかねないケースもあるので、面倒でも警察を呼ぶことが大切です。
特に相手が子供のケース。
子供って、
こう聞くと、
なぜかこう答える子、多いんですよね・・・
これは知らない大人に囲まれた緊張感なのかもしれないし、ある種の反射みたいな回答なのかもしれないし。
変な話ですが、
と聞けば、
と答えるし、
こう聞けば
これが子供ですから。
【今痛くなくても、大きな怪我かもしれないからちゃんと診てもらおうね。怖くないから大丈夫だよ】、などと言わないとダメ。
事故に絶対に遭わない可能性などありませんので、特に子供と老人は要注意です。
交差点でもない道路で、歩道からいきなり老人が車道を横断しようとして、急ブレーキで後輪が浮いたこともあります。
爺さん、お願いだからせめて車道を見てから渡ろうぜ・・・と。
ノールックで横断開始は、マジで予想がつかない。
キョロキョロしていれば警戒するけど・・・
いくら歩道の状況を警戒していても、ノールックで車道に進路変更されると、マジでビビる。
そういえばずいぶん前のこと。
前にご老人の低速ママチャリがいて、追いついたので追い越そうとしたら、
ママチャリのご老人、ノールックで右折開始。
幹線道路から狭い生活道路に向かって、ノールックで右折開始するとか、さすがにスゲーなと。。。
咄嗟の急ブレーキで衝突は回避したけど、後方確認せずに右折開始とかマジで驚く。
よくあれで死なないな・・・と。
あれで衝突した場合、こっちのほうが過失割合は大きいはずなんで、気をつけていないととんでもない動きされるし。
道路交通法の理念としては弱者保護なんで、同じ自転車同士でも、子供と老人は保護されます。
子供と老人はどんな動きをするか予想が付かないので、かなり警戒してかかれという話ですね。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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