PVアクセスランキング にほんブログ村 当サイトはAmazonアソシエイト等各種アフィリエイトプログラムに参加しています。
スポンサーリンク

逆走自転車と衝突したのに、順走自転車が過失100%??

blog
スポンサーリンク

ちょっと前に取り上げた件。

 

判例の読み方と裁判の現場。道路構造の瑕疵を問う?
たまたま検索してヒットした記事なんですが、ちょっとこれはいかがなものかと思うところがありまして。 まあ、気持ちは分からないでもないですが。 交通事故の判例を見ていると、それなりに不可解なものはあります。 なぜそういう判決に至ったのか?という...

 

この記事で取り上げたブログさん、ほかにも判例について解説(?)をしているようなのですが、逆走自転車と順走自転車が衝突した事故で、順走側に過失100%を付けている判例を紹介していました。

 

『自転車事故過失相殺の分析』の感想 (2)
『自転車事故過失相殺の分析』の感想で、 前回 からの続きです。 今回から個々の判例とそれに対する本書の論評について、 具体的に問題点を指摘していきます。 (但し、この記事では本書で説明されている 大まかな情報のみに基づいて、それぞれの事故を...

 

古い記事のようですし、何か勘違いしているか重要なところを見落としているだけなのでは??と思ってみていたのですが、この判例は【自転車事故過失相殺の分析(財団法人 日弁連交通事故相談センター著)】という書籍に載っている模様。
ちょっと気になったので調べてみました。

逆走自転車と衝突して過失100%??

まず、書籍で概要を見た後に判例検索で調べてみましたが、2社の判例検索を使っても出てきません。
横浜地裁平成17年1月31日判決です。
書籍ではちょっとの事実認定と解説程度しか載っていません。

 

先に当事者の関係をまとめます。

当事者 自転車のタイプ 方向 請求内容
原告(反訴被告) ドロップハンドル車 順走 債務不存在確認請求
被告(反訴原告) ママチャリ 逆走 損害賠償請求

原告(順走ドロップハンドル車)と被告(逆走ママチャリ)が衝突して、逆走ママチャリが怪我をした事件。
原告は債務不存在確認請求、つまりは支払うべきものなんて存在しないよね?と裁判を起こした。
それに対し被告は、原告が故意に殴ったとして損害賠償請求の反訴をしたという事件です。

 

殴ったという主張にはイマイチ理解しがたいところもありますが・・・

先に結論から書きます。
冒頭で挙げたブログさん、順走側に過失100%をつけていることや、判決文で逆走違反について触れていないことから歴史的誤判だと主張されている模様。
確かに逆走事実をすっ飛ばしているのはいかがなものかと思うのですが、掲載されている書籍(自転車事故過失相殺の分析)を読めば一瞬で理由が判明します。

 

左側通行義務違反については当事者の主張がなされておらず

 

自転車事故過失相殺の分析、財団法人 日弁連交通事故相談センター著、株式会社ぎょうせい、p371

これが何を意味するかというと、原告が、被告の逆走について過失だとは主張していないわけです。
裁判の原則は弁論主義なので、当事者が主張していないことを判決に加えるわけには行きません。
なので判決文では逆走について問題視していないのも当然のこと。
歴史的誤判ではなくて、単に当事者の主張がそうだったというだけのようです。

 

これ結構重要なところなんですが、裁判って当事者が主張していないことは判決に加えることが禁止なのです。
原告が主張したことについて、被告に反論の機会が与えられなければならない。
勝手に裁判長が判断してはいけないので、歴史的誤判ではなくてブログ著者がちゃんと読んでいないだけのこと。

 

裁判所の事実認定。

原告は、ドロップハンドルで18段変速ギア付きのサイクリングタイプの普通自転車(以下「原告自転車」という。)に乗って、江の島方面をサイクリングした後、神奈川県鎌倉市山崎A番地付近の道路上の西側歩道寄りを藤沢方面から大船駅方面に向けて自転車に乗って、時速約25キロメートルの速さで走行していた際、ドロップハンドルであるため前屈みの姿勢で、視線を前方下に落とした状態で加速していたため、前方の注視が不十分となった結果、進行方向先8メートルほどの道路上の西側歩道寄りを、被告が大船駅方面から藤沢方面に向かって婦人車タイプの普通自転車(以下「被告自転車」という。)で走行してくることに気付くのが遅れ、前記のとおりスピードが出ていたこともあって止まりきれず、また、一旦左によけようとしたものの、歩道上にはモノレールの支柱が設置されていたため歩道脇のブロック塀との幅が狭いために通り抜けられないと判断し、また右にハンドルを戻したが、モノレールの支柱に衝突し、その勢いで、前のめりのまま原告の頭が、別紙図面1及び2の(×)の地点で自転車にまたがった状態で既に停止していた被告の顔の中央に飛び当たった。

こんなイメージかと。

ちょうどこの支柱のあたりが衝突現場。

ここは実際に通ったこともありますが、車道については見通しがいい直線道路で生活道路と言っていいかと。

 

逆走自転車の過失がゼロになっている理由は、停止して事故回避義務を果たしたということかと。

本判決は、A(順走)は、前方不注視で、スピードを出しており(時速約25キロ)、B車(逆走)を避けようとしたがモノレールの支柱に衝突して前方に飛び出したのに対して、Bは既に停止していたことを考慮して100:0とした。

 

自転車事故過失相殺の分析、財団法人 日弁連交通事故相談センター著、株式会社ぎょうせい、p371

衝突地点が支柱から0.4mとなっているので、順走自転車が無理に左側に回避したけど失敗した、みたいなイメージなんですかね。

 

事実認定は上に挙げたとおりなのですが、原告と被告の主張は大きく異なります。
原告の主張は上の図の通りですが、被告の主張はこうなっている。

順走自転車が歩道を通行し、一度駐車場の中に入った後に車道に出てきたという主張と、被告自身は斜め横断して反対側に渡って停止したという主張になっているようです。
原告の主張で斜め横断が含まれていない理由ですが、これについては恐らく、見ていなかったということなんでしょう。
裁判所の事実認定でも斜め横断してきたことにはなっていないようです。
順走自転車が気が付いたときには、既に約8m先に逆走自転車がいたみたいな感じでしょうか。

 

単に順走側の原告が、相手方の逆走を主張していないだけなので、歴史的誤判というよりも原告が主張していないとみるべきこと。
当事者が主張していないことを勝手に裁判所が過失とすることは出来ません。

 

これもそもそもどういう主張をしたのかが不明なのですが、左側通行義務違反を主張していない以上、事故回避義務を果たしたかどうかの争いのなるので、先に停止していたほうが有利になってしまいます。
生活道路では、逆走自転車と衝突しても過失割合は50:50が基本線なので、

 

逆走自転車と衝突事故を起こした場合、過失割合は0:100にはなりません。
ロードバイクで走っていると、それなりに見かけるのは逆走してくるママチャリ。 逆走自転車の交わし方については、過去にもいくつか記事を書いてます。 車 対 車の事故で、対向車がセンターラインを超えて逆走状態で突っ込んできた場合、基本的には過失割...

 

それを考慮して主張しなかったのか?
それとも単なるミスなのかは謎です。

 

けどこれ、いろいろ難しいなと思うのですが、書籍で書いてある原告の主張の図面を見る限りでは、逆走自転車が斜め横断してきたことを主張していなくて、気が付いたら目の前8m先に逆走自転車がいたみたいな状況で主張している。
この時点で、前を見ていないことの証明にもなっちゃいますよね
それほど広くもない片側1車線道路な上に、直線で見通しもいいので、気が付いたら8m先に逆走自転車がいたという主張をしている時点で前を見ていなかった証拠になる。
原告側から見た道路状況。

斜め横断してきた逆走自転車に気付いていない=前方不注視だと言っているのと同じ。

逆走自転車相手でも分が悪い

過去に何度も、逆走自転車を発見した時点で左端に寄せて止まったほうがいいよと書いてきました。

 

逆走自転車に対し、わざとぶつかれば普通に違反が成立する話。
ロードバイクに乗っていて怖いのは、いわゆる車だけではないですよね。 意外と困るのは逆走してくる自転車。 あと歩道からノールックで車道に来る自転車。 逆走自転車を発見したときに、まさかそのまま突っ込んで事故を起こすバカはいないと思います。 噂...

 

だいたいのケースではこうなります。

この事件では逆走自転車の存在に気が付いたときには、たった8mしかなかったということになってますが、それは単なる前方不注視。
逆走自転車との距離があまりないときは、右側に逸れるしかありません。
けど判例では左側の支柱に向けて回避しようとした?ようなのでそもそもスペースが無いところに突っ込むというのも不自然ではある。

 

けど8mの距離に迫るまで逆走自転車の存在に気が付いていないという時点で前を見ていませんでしたと言っているのと同義なので、こういう判決になるのはある種しょうがないのかもしれません(左側通行義務違反を主張していないことを含め)。

 

冒頭で挙げたブログさんですが、このように論評されています。

まず、順走自転車は不用意にブレーキを掛けると
後続車に追突されるリスクが有ります。

また、自転車は元々後方を確認する事が困難な乗り物ですが、
本件のように前方に危険が迫っている場合は
後方確認の余裕自体が有りません。

ですから、事故当時、実際にロードバイクの後方に
後続車が接近していたかどうかとは関係なく、
急ブレーキを躊躇った判断は合理的と言えます(*5)。

*5 後続車が車であればエンジン音で察知できますが、
自転車の場合はほぼ無音であり、察知は非常に困難です。

 

『自転車事故過失相殺の分析』の感想 (2)
『自転車事故過失相殺の分析』の感想で、 前回 からの続きです。 今回から個々の判例とそれに対する本書の論評について、 具体的に問題点を指摘していきます。 (但し、この記事では本書で説明されている 大まかな情報のみに基づいて、それぞれの事故を...

この主張、実際にそのような状況が明らかだったなら別ですが、基本はしないほうがいい。
目の前に危険性が迫っていても事故回避義務を果たさないと主張していることになってしまうのでマイナスにしかならない。
後続車の衝突可能性については、後続車の車間距離保持義務違反でしかないので、責任転嫁していることになってしまう。
というよりもこのブログの著者は、ほかの判例の論評でも責任逃れの主張が多いのですが、サイクリストなのでしょうか???

 

逆走自転車が相手でも事故回避義務はあるので、これだけ見通しがいい直線道路で、逆走自転車を発見したのが前方8mだと主張している時点でいろいろ言い訳しても無理がある。
逆走についてはきちんと主張すればもうちょっと変わったのかもしれません。
裁判は立証責任が当事者にあるので、当事者が主張していないことは判決には加わりませんから・・・

 

ほかにもいくつか判例を見ていたのですが(この書籍のではなく判決文ベースで)、逆走車のほうが過失割合が少ない判例もあります。
これはいろんな要素が含まれた結果なので一概には言えませんが、それこそ停止していたかどうかによっても変わる。
そういうことを踏まえて、逆走自転車が見えた時には早めに左端に寄せて停止していたほうがいいですよと以前から書いているのですが、

 

逆走自転車についての考え方。実例を踏まえて。
先日書いた記事、逆走自転車と衝突した場合の過失割合についてですが、 逆走自転車が見えた場合、原則としては【左に寄せて待機】のほうがベストです。 ただし、逆走自転車との距離感にもよります。 逆走自転車への考え方 前の記事でも書いたように、逆走...

 

これ、ロードバイクに乗るときには鉄則中の鉄則というか、前をしっかり見ることと、自分でコントロールできる範囲の速度で乗ることが必須。
見通しが悪い左コーナーでガンガンスピードを出せば、逆走自転車がきたら当然爆死する。
こういうのも、生活道路なのか、幹線道路なのか、それこそ峠で歩行者がまずいないことが通常なのかなど様々な要素で変わるので、それぞれの状況に応じた速度で進行するのが当たり前のこと。
逆走自転車と衝突しても50:50が基本線なのは、逆走自転車なんてその辺に腐るほどいるよね?という意味もあるんじゃないかと思うのですが、生活道路では毎日のように逆走自転車なんて見かける。
これが峠とかだと、まず逆走自転車なんてこない(そもそもママチャリで登ってこないしw

 

結構勘違いしやすい点ですが、そもそも民事で争ってるのは道路交通法違反ではなくて、民法709条の過失に当たるかどうかの争い。
予見されることへの回避義務違反なので、前を見ていないならやはり過失は増える。

 

上の判例では、逆走自転車に気が付いたのが8mの距離だというところで、これだけ見通しがいい道路ではやっぱ厳しいのかなと思いますが、言いたいこととしては前を見て乗ることと、自分が制御できる範囲でのみ速度を出すことでしょうか。

 

私、こういう道路で一番恐れるのは、歩道からノールックで車道に降りてくる自転車と、突如横断開始する歩行者、横の小道から飛び出てくる車や人、です。
支柱があることで歩道についてはやや隠れてしまうので。

 

立証責任は自分にある

で、この記事。
何を言いたいのかというと、適切な主張をしないと有利な判決は望めないということです。
個人的にはこのケース、前方8mの地点まで逆走自転車の存在に気が付いていなかったという時点でかなりアウトだとは思います。
原告自らが主張した図面でそのようになっている以上、逆走自転車が十分な確認もせずに支柱の壁から歩道⇒車道に降りたみたいな重過失が無い限り有利に持っていくのは厳しい。
一体何を主張したのか正確には判決文全部見たいところですが、どこで探しても出てきませんし、そこそこ古いので裁判所にももうないでしょう。
5年しか保存されませんし。

 

斜め横断してきたところから見ているなら、横断による妨害(25条の2)、逆走(17条4項)を主張できると思いますが、そもそも前を見ていれば斜め横断を企図された時点で回避できる可能性があるわけで(斜め横断を実行した地点はそこまで至近距離というわけでもない)、事故に至らない可能性がある。
原告の主張内容でも、斜め横断自体には全く気が付いていないことになっているのでなおさら厳しい(被告の主張では、斜め横断が完了した地点は、衝突地点からさらに10.4m手前です)。
私が原告だったら何を主張するかというと・・・正直なところ原告が主張した事実関係の下では逆走についてひたすら危険性を追求することくらいしか釈明できる余地が見当たらない。
相手方の過失として、【停止すると同時にベルを鳴らすべきだった】みたいな主張をしても微妙だし。
これそもそも、被告側からの提訴を待ったほうが反論しやすかったのではないかと思うのですが、こういうところについては中身を見ないとわかりません。

 

以前、このような判例を紹介していますが、

 

自転車に対し、27条【追いつかれた車両の譲る義務】を認めた判例。
堅苦しい話が続いていますが、一つの参考になるかと思いまして。 自転車の場合、道路交通法27条の【追いつかれた車両の義務】は適用外です。 これは刑事事件として取り締ま利される対象ではないというだけで、民事では認めた判例もあります。 事例 判例...

 

地裁ですが控訴審で、1審原告と1審被告の双方が控訴した事件です。
どうでもいいですがこういう場合、双方が控訴人兼被控訴人となるのでややこしい。

 

1審判決文が見つからないので理由は不明ですが、この手の事件としては自転車側に大きく不利な判決になっています。
1審で双方が何を主張したのか気になるのですが、2審では自転車側の主張が成功し大きく過失割合を下げることに成功している。
裁判では主張したこと以外は判決には関わりませんので、矛盾が無い合理的な主張をしないと自分が不利になるだけのこと。
冒頭で挙げたブログ著者さんの主張を見ていると、それを主張するとどんどん不利になるだけみたいな内容ばかりなので気をつけたほうがいいと思う。

モノレールの支柱の影とかも嫌な予感しかしない。
左側通行というのは車両にとって最低限かつ絶対に厳守して欲しいことですが、ママチャリさんたちは気にしてない人もいますから・・・
判例を見ても、自転車同士の事故の場合、幹線道路を除けば逆走だからということが過失割合に大きな影響を及ぼしていないように思うので、それは知っておいた方がいいと思う。
そういうこともあって、以前から【逆走自転車を発見して距離があるときには、左端に停止して待ったほうがいい】と書いていますが、中にはわざと衝突しに行くような人もいるらしいですし、世も末。

 

以前、自転車道(サイクリングロードではないですよ)で逆走自転車と衝突した事故事例もありましたが、ママチャリさんの意識なんてそんな程度ですし、自転車道のように狭い中では回避するスペースすらない。
これ、個人的には爆笑レベルの画像が載っているのですが、

企画特集|建設ニュース 入札情報、落札情報、建設会社の情報は建通新聞社 
建通新聞社では、建設業界の最新ニュース、入札情報関連、建設会社の情報など注目の話題のほか、地域に密着した企画など建設会社様に向けた特集コーナーです。

自転車道ができました!という報道なのですが、さっそく逆走(センターライン超え)が約1名。
ママチャリの脅威・・・何とかならんもんですかね。
真面目に法律を守って左側通行している自転車乗りからすれば、車よりもママチャリのほうが恐怖、だとすら思うことがある。
車は少なくとも逆走してくることはほとんどないけど、ママチャリについては本当に動きが読めないのでサプライズしか生まない。
そのタイミングで逆走するの??とかそのタイミングで歩道から車道に降りたら爆死するだろ!みたいな。
車とママチャリだったら、まだ車の方を信用するかな。

 

ということで、何らかの理由で裁判することになってしまった場合は、主張次第で判決が変わるという話でした。
そもそも裁判にならないよう、事故回避すべきなだけなんですが。




コメント

タイトルとURLをコピーしました