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旗振りオッサンと38条違反。

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個人的にはどうでもいい話題だと思うのですが、このような質問を頂きました。

読者様
読者様
横断歩道の前で一時停止したとき、交通指導のオッサンが小学生を旗で制止し、車に対して「先に行け」と促してくる場合には先に進んでも違反にならないのですかね。

 

たぶんこんなイメージかと。
ちょっと話が長くなるのでこちらから回答します。

普通に考えて

絶対に違反にならないと断言はしませんが、きちんと一時停止した上で確認し、小学生が旗振りオッサンを突破しそうな雰囲気がないことを確認した上で徐行進行するなら、違反を取る警察官がいるとは思いません。
あくまでも一時停止した上で確認して、発進するときも注意しながら進行するという条件付きです。

 

状況は異なりますがこのような判例があります。

横断歩道への注意義務を否定した判例

この判例は業務上過失傷害罪に問われたもので、大阪高裁昭和62年5月1日判決。
大型車が交差点を左折する際に、ガードマンの指示に従って左折進行したことにより、横断歩道を横断した自転車に衝突した事件です。

※面倒なので以前作った画像を流用しますが、左折先が南→西南に向かっていたようなので判例の現場とは異なります(単なるイメージ)。

 

一審は以下の注意義務違反を認めて有罪にしました。

原判決は、「被告人は、自動車運転の業務に従事するものであるが、昭和(略)ころ、大型貨物自動車を運転し、(略)先の交通整理の行われている交差点を南から西南に向かい左折進行するにあたり、前記交差点の左方道路が鋭角であつたので、大まわりで左折するのであるが、同交差点西詰に横断歩道が設置されていたので、同横断歩道の直前で一時停止または徐行して、横断者等の有無を確かめ、進路の安全を確認して左折進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、誘導者が左折するよう指示したことに気を許し、横断者等の有無及びその安全を確認することなく、時速約10キロメートルで左折進行した過失により、おりから南から北に向けて対面青色信号により南北道路西側沿い歩道から同交差点西詰に設置されている横断歩道に進入してきた被害者運転の普通自転車に自車左前部を衝突させて、同人を路上に転倒させ、よつて同人に加療約67日間を要する頭部外傷I型等の傷害を負わせた」旨の公訴事実(なお、略式命令の「罪となるべき事実」もこれと同一)に対し、被害者の加療期間をその後変更された訴因のとおり「約338日間」とした以外、ほぼこれと同旨の事実関係を認定して、被告人を有罪と認めた

大型車なので死角があるため、一時停止または徐行して横断歩道を確認してから進行すべき注意義務を怠ったとしています。
ガードマンが左折進行していいよ!というのでそれに従って左折した判例です。

 

以下が争点です。

被告人は、後記のとおり、右横断歩道の通過にあたり、左方の安全確認を自己の視野の範囲内では行つたが、交差点の約30m南方の一時停止地点を警備員(いわゆるガードマン。以下「ガードマン」という。)の左折の合図に従い発進して左折を開始したのち同人から左折中止等の合図を受けなかつたところから、南北道路西側の歩道より横断歩道を渡ろうとする歩行者・自転車がないものと考えて、右横断歩道直前で一時停止することなく前記の速度で通過しようとしたものであること、被告人車は、前記のとおり左斜下方等直近の死角が大きいため、同車が横断歩道直前に達した段階では、当時すでに同車の左方ないし左方やや後方ほぼ直近にまで接近していたとみられる被害車両を、進行中の被告人車の運転席から発見することは、不可能又は著しく困難であつたと考えられるが、横断歩道の直前で一時停止の上、助手席に移動するなどして死角内の安全を確認して進行していれば、本件事故を回避することができたことなどの点も、証拠上明らかであると認められる。従つて、本件における被告人の過失の有無は、被告人に対し、右横断歩道直前で一時停止の上右のような方法で死角を解消して進行すべき注意義務を課することができるか否かによつて決せられることになる。

 

大阪高裁 昭和62年5月1日

以下、裁判所の判断。

横断歩道及び自転車横断帯(以下「横断歩道等」という。)における歩行者及び自転車(以下「歩行者等」という。)の通行の安全は、最大限度に尊重されるべきであつて、道路交通法38条も、車両等が横断歩道等に接近する場合には、「当該横断歩道等を通過する際に当該横断歩道等により進路の前方を横断しようとする歩行者又は自転車……がないことが明らかな場合を除き、当該横断歩道等の直前……で停止できるような速度で進行しなければならない。この場合において、横断歩道等によりその進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者等があるときは、当該横断歩道の直前で一時停止し、かつ、その通過を妨げないようにしなければならない。」と規定して、その趣旨を明らかにしている。ところで、被告人は、本件当時、左斜下方等直近の死角の大きい本件生コン車を助手なしで運転していたものであつて、左折中本件横断歩道直前に達した際、左方から右横断歩道を横断し又は横断しようとしている歩行者等の存否をそのままでは確認することができなかつたのであるから、道路交通法の右規定の趣旨にかんがみ、左方向からの横断者がないと信じるに足りる合理的な理由がない限り、横断歩道直前で一時停止の上、自車に設置された各種のミラーを通じまた必要に応じて助手席に移動するなどして左方(やや前下方から斜後下方までを含む。以下同じ。)の死角を解消し、左方からの横断者がないことを確認したのちでなければ、横断歩道を通過することは許されないと解すべきである。弁護人の当審弁論は、交通ひんぱんな道路における他の交通への影響を重視する立場から大型車両の運転者が交差点を左折して横断歩道を通過する際の一時停止及び死角解消の義務(以下「一時停止等の義務」という。)を一般的に否定するかのようであるが、そのような見解は、当裁判所のとらないところである。
そして、本件において、被告人が横断歩道直前で一時停止の上左方の死角を解消して進行しなかつたのが、自車に左折発進の合図をしたガードマンから、その後左折中止等の合図を受けなかつたことによるものであることは前説示のとおりであるから、本件における被告人の一時停止等の義務違反の過失の有無は、横断歩道直前でガードマンから左折中止等の合図を受けなかつたことが、被告人にとつて、左方からの横断者がないと信じるに足りる合理的な理由といえるかどうかにかかるものというべきである。

 

一般に、私人による交通規制は、警察官によるそれに比し誤りを生ずることが多く、かつ、その性質上徹底しにくいものであることは、検察官が当審弁論において主張するとおりと考えられるから、私人による交通規制が行われている場合に、自動車運転者が右規制に従つていさえすれば必ず過失が否定されるということにならないのは当然である。しかし、私人による交通規制であつても、これを信頼して進行したため過失が否定される場合があることは、最高裁判所の判例(昭和48年3月22日第一小法廷判決・刑集27巻2号240頁)も認めるところであつて、結局、当該私人による交通規制の趣旨・目的、同人に課せられた任務・役割、同人が現実に行つていた規制の方法及びこれを前提とした当該場所における現実の交通状況等にかんがみ、これが自動車運転者にとつて信頼に値するものであると認められるときは、右規制に従つて進行する自動車運転者にとつて、本来同人に課せられている注意義務が軽減又は免除されることがあると解すべきである。従つて、本件における被告人の横断歩道直前での一時停止等の義務の存否も、右のような観点から、更に検討されなければならない。

 

(中略)

 

以上の認定によれば、本件当日、本件交差点においては、工事現場に向かう多数の生コン車の左折に伴う危険の防止や混雑の緩和をもその任務とするガードマンが配置されており、同人は、交差点の手前約30mの一時停止地点に停止待機中の生コン車の運転者に対し、その前方至近距離から左折発進可の合図を与えたのち、しばらく同車と併走しながら左折進行可の合図を送り続けた上、大回りで左折する同車の前面を斜めに横切つてその右斜め前方直近の地点に達し、同車の進行方向の状況を確認するとともに、横断歩道を渡ろうとする歩行者等がある場合には適宜これを制止するなど、3か月以上も前から同所に配置されていた他のガードマンらと同様、おおむね適切な方法で生コン車の左折を誘導していたことになり、従前、右ガードマンの誘導に従い横断歩道直前で一時停止することなくこれを通過していた生コン車と他の車両・歩行者との間で問題を生じたことがなかつたこと等にも照らすと、本件当日、ガードマンから従前と同様の方法で誘導を受けつつ本件交差点を左折中であつた生コン車の運転手である被告人については、右ガードマンにおいて、自車の左斜下方等直近の死角内の安全を確認して誘導してくれており、同人から左折中止等の合図を受けない限り、右死角内には横断者等がいないと信じるに足りる合理的な理由があつたというべきであつて、被告人に対し、右ガードマンの配置・誘導等がない場合と同様に、横断歩道直前における一時停止等の義務を課するのは相当でない。(なお、本件において、被告人車の左折を誘導したガードマンは、被告人車が横断歩道直前に達した際、被告人車の右斜め前方直近の地点に佇立して、その進行方向に注意を向けていたことが明らかであるが、同人は、当日の前4回の被告人車の通過時に歩道から横断歩道を渡ろうとする歩行者等がいた場合には、適宜引き返すなどして歩行者等を規制していたこと前認定のとおりであり、同人の右佇立地点からは、被告人車の前面の横断歩道を渡ろうとする歩行者等の存否を確認すること及びこれを発見した場合に被告人に対し左折中止の合図をすることがいずれも容易であつたと認められるから、被告人車の横断歩道通過時に堺が被告人車の右斜め前方にいて被告人車の進行方向に注意を向けていた点は、右結論を左右しない。また、検察官が当審弁論において引用する大阪高等裁判所の判例は、ガードマンによる規制の事実上の効果及び被告人車と被害車両の相互の位置関係等注意義務の存否の判断上重要な前提事実を異にする事案に関するものであつて、本件に適切な先例とはいえない。)しかして、本件において、被告人は、大回りで本件交差点を左折し西側横断歩道直前に達した段階で、自車の左折を安全に誘導すべきガードマンから左折中止等の合図を受けておらず、また、自席において、自車に設置された各種ミラー及び肉眼により、自己の視野に入る限度で左方の安全を確認し、前示のように時速約10キロメートルをやや下回る速度で徐行しつつ横断歩道を通過しようとしたものであるから、被告人としては、自動車運転者として課せられる注意義務を尽くしたものと解するのが相当であり、その過失を肯定することはできない。

 

そうすると、これと異なり、被告人に横断歩道直前における一時停止等の義務があるとして過失を認めた原判決は、事実を誤認したものといわざるを得ず、右事実誤認は、判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は、破棄を免れない。

 

大阪高裁 昭和62年5月1日

業務上過失傷害罪の注意義務違反と、道路交通法違反は基本的に別ですが、徐行して確認していた以上はガードマンの指示を信頼してよいとする判例です。
大型車なので死角がある以上、横断歩行者の有無の確認(38条、70条)のため一時停止や徐行をする義務がありますが、過失を否定しています。

38条は横断歩道を横断する自転車は対象外ですが、歩行者に向けた確認義務がありますし、そもそも道路交通法違反容疑ではなく業務上過失傷害容疑なのであまり関係ありません。業務上の過失=運転する上での注意義務違反ですから。

なお引用されている最高裁判例は、以下の通り。

しかしながら、右Bによる交通規制が、道路交通法42条にいう交通整理にあたらないことは、原判決の判示するとおりであるが、右Bが北方から本件交差点に進入する車輛に対し赤旗により停止の合図をしていたものである以上、東方から同交差点に進入する車輛の運転者としては、北方から進行してくる車輛の運転者が右Bの停止の合図に従うことを信頼してよいのであつて、北方から進行してくる車輛の運転者が右Bの停止の合図を無視し同交差点に進入してくることまでを予想して徐行しなければならない業務上の注意義務はないものと解するのが相当である。

 

最高裁第1小法廷 昭和48年3月22日(刑事、業務上過失傷害)

見通しが悪い交差点にて、交差道路側を旗で制止していたにもかかわらず突破してきた事故。
徐行義務を否定してます。

以上を考えると

大阪高裁判例はガードマンが横断歩道を制止していたわけではなく、ガードマンに横断歩道の死角の確認を委ねていたみたいなイメージになります。
もちろん、ガードマンをフルに信用して全ての注意義務を否定したわけではなく、徐行したりミラーで確認することを果たしていたから無罪。
最高裁判例は、旗振りが交差道路の車両を直接制止していたにもかかわらず突破してきた事例。

 

どのように捉えるべきかという話になりますが、横断歩道の旗振りオッサンを信頼してよいとするだけの客観性と周囲にいる横断歩行者がそれに従うか否かの客観性があるかないかの問題かと思います。

 

横断歩道手前で一時停止し、それでも交通指導のオッサンが「先に行け」というのであれば、きちんと確認した上で微速進行することが38条の違反になるかというと、難しいかと。
38条上は交通指導のオッサンが歩行者を制止していることから「横断しようとする歩行者」に該当しないと考えることもできるし、一時停止していることから「妨害に該当しない」と考えることもできるし、単に加罰的違法性がないとみなすこともできるし。

 

どちらかというと、歩行者の横断を妨害しているのは交通指導のオッサンですから。
一時停止までして確認している以上、車両が横断妨害したとみなすほうが無理があるかと。
車両側としては一時停止して横断歩行者を先に行かせる意思表示はしているわけで、それでも旗振りオッサンが歩行者を制している上に、歩行者もそれに従う客観的意思が外見上あるなら、車両側は誘導に従うのは当然。

 

そもそも、そんなもんを取り締まり対象にしているのかも疑問です。

 

ただまあ、交通指導のオッサンの信用度の問題もあるし、状況次第になるとは思います。

 

ちなみに、「歩行者が先に行けと促したから先に進んで違反取られた」という案件について思うのですが、いくつか聞いた限りでは取り締まり対象にしてない。
ただし、十分な確認をした上での話。
歩行者が横断意思を保留する権利はあると思うけど、人権意識が希薄な方だと「とっとと渡りやがれ」とか無茶苦茶なことを言い出すわけで、バカなんじゃないかとすら思う。

 

「今すぐ横断しないがあとから横断する権利」は普通にあるし、一時停止して確認したなら妨害に該当すると考えるほうが無理があると思うけど、これって先に行くように促しながらも実は単なる当たり屋さんの可能性もあるので、余計なことに関わらないためにはひたすら待つという選択肢もあるかと。
この点、ロードバイクは便利ですよね。
なんだかわからん歩行者が先に行けと促してきても、信用できないなら降りて押して歩いて横断歩道を通過すれば済むので。
車は降りて押して歩いても歩行者にはならないけど、押して歩けないわな笑。

 

どちらにせよ、一時停止と十分な確認については免れる要素はありません。
一時停止せずに徐行進行することもダメかと。

 

ちなみにですが、ある駅の下にあるバスターミナル。
歩道の歩行者をガードマンが止めてバスを先に行かせます。
これが17条2項に違反すると考える人がいるのかはわからないけど、ガードマンがいない場合、人通りがかなり多いのでバスは永久に一時停止して待つしかないわけで。
もちろん、警察がバスに切符切るわけではない。

 

歩道の歩行者の往来を妨害していると考える人がいてガードマンが排除された場合、余計混乱を招くだけなのでは?

 

社会通念上、合理的だとして認められていることまで否定するのが法律なのか?という話になりますが、それこそバスターミナルからガードマンを撤去したら、警察からむしろ文句言われるだけでしょうし。




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