自転車横断帯と横断歩道が併設された場所の横断歩道上を自転車に乗って進行中、事故に遭った場合に
「自転車横断帯を通行していなかった」
これが過失になるのか?と質問を頂きました。
自転車横断帯を通行せずに横断歩道を通行
民事の過失としては、自転車横断帯と横断歩道が併設された場所において横断歩道上を通行していたとしても、原則として過失を増やすことにはなりません。
理由ですが、このように自転車横断帯と横断歩道が併設された場所。
「歩行者 対 自転車」の関係性では両者の通行区分を分けることで安全と円滑を図るわけですが、車道を通行してきたクルマからしたら関係ない話だからです。
要は横断歩道と自転車横断帯が併設されている以上、ドライバーからすれば歩行者と自転車の両方を優先するルール。
歩行者と自転車が歩道上にいたとして、彼らがそれぞれ横断歩道、自転車横断帯のどっちを通行するのかなんてわからんし、注意義務を分けて考える理由もない。
民事としては、併設された横断帯と横断歩道を一つのエリアとして考える傾向にあります。
併設されてない場合は別。
いくつか判例を確認しましたが、比較的最近だとこういうのがあります。
自転車横断帯から外れた横断歩道上で事故
判例は神戸地裁伊丹支部 平成30年11月27日。
自転車横断帯と横断歩道が併設された横断歩道上を通行した自転車と、交差点を左折したクルマの衝突事故です。
3つの視点から過失相殺を認めていません。
① | ② | ③ | |
内容 | 自転車は先行車両と加害車両の間を縫うように横断 | 自転車横断帯ではなく横断歩道上を進行 | 加害車両は時速20キロで進行 |
法条 | 70条 | 38条1項の趣旨 | 38条1項前段 |
原告過失 | +10% | -5% | -5% |
②については、このように併設された場所で横断歩道上であっても自転車横断帯を進行したのと同視すべきとしています。
自転車の落ち度を10%と認めつつも、加害車両の速度が38条1項前段の「停止できるような速度」とは認められないとしてトータルで過失相殺を認めていません。
主張内容次第
加害車両側は「自転車横断帯を通行してないのは過失」、被害自転車側は「併設された場所で分けて考える理由はない」と真っ向からぶつかってますが、普通に考えれば自転車横断帯と横断歩道が併設されている以上、歩行者と自転車を優先するルールなわけで、併設された場所で注意義務が分散する理由にはならない。
過失相殺ではなく行政事件の最高裁判例でも、以下のようになっています。
車両等は,自転車横断帯に接近する場合には,当該自転車横断帯を通過する際に当該自転車横断帯によりその進路の前方を横断しようとする自転車がないことが明らかな場合除き,当該自転車横断帯の直前で停止することができるような速度で進行しなければならず,この場合において,自転車横断帯によりその進路の前方を横断し,又は横断しようとする自転車があるときは,当該自転車横断帯の直前で一時停止し,かつ,その通行を妨げないようにしなければならない(道路交通法38条1項)。前記事実関係によれば,被害者は,本件事故の際,自転車横断帯に接する横断歩道上を自転車に乗ったまま横断していたものであるが,その横断していた所は,自転車横断帯の北側表示線の中心からわずかに約0.8m離れた所で,かつ,横断歩道上であることからすれば,被上告人において被害自転車の通行を優先させて安全を確保すべき前記義務を免れるものではない
最高裁判所第二小法廷 平成18年7月21日
ちなみに過失とは、道路交通法違反と必ずしも関係しません。
道路交通法違反がなくても過失になるし、道路交通法違反があっても過失にならないこともあるし。
過失運転致死傷罪にしても道路交通法違反がなくても成立しますし、道路交通法違反があっても過失運転致死傷罪は無罪ということも当然あります。
下記は、道路交通法違反はないと思われますが過失認定されて有罪(むしろ違反は被害者)。
下記は、道路交通法違反(38条1項)はあると思われますが、業務上過失傷害罪は無罪。
まあ、わかってない人だと「自転車に道路交通法違反はない!」などと主張しますが…
道路交通法違反と過失は必ずしも関係しないので。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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