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「自転車の左折巻き込み」と民事判例の考え方。

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先日の話の続き。

 

先行車の状況に合わせた速度調整義務。
もう、さ。 アホクサ 現場はこのように40キロの指定最高速度の道路ですが、自転車の速度は51キロやら53キロやら… ところでこの件。 左側端に寄せてない(25条1項)で、「できる限り」に該当するような特別な理由も無さそうな状況。 「できる限...

 

アホ車が左折する際に自転車を巻き込むのは、左側端寄せが不十分、合図不履行、左後方確認義務違反などが残念ながら多い。
左折前から寄せることで自転車など2輪車の進入を防ぎ、徐行によりリスクを減らすとも言えますが、なぜか雑になる。

 

ところで、民事判例ではどのような点を自転車の過失と認定するのでしょうか?

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左折時合図不履行は一発アウト

いくつか判例を見たのですが、左折前の合図不履行については見た判例のおいて、こんな感じでした。
(もちろん必ずそうなるとは言えない)

左折車 自転車
100 0

これについてですが、特に「道路外左折」の事故の場合。
交差点なら、交差点だと認識するわけなので一応は直進以外にも左折や右折をすることは予見できるじゃないですか。
道路外左折で合図不履行だと、後続車両からすれば完全に不意打ちでしかなく、回避可能性が著しく減衰します。
もちろん、だいぶ離れた前方にいるクルマが無合図で道路外に左折しても、誰も巻き込まれない。
しかしそうじゃないケースでは不意打ちされたら後続自転車は「気付くのが遅れてしまい回避可能性が消滅する」。

 

なお、合図が履行されたか否かについては、警察が作成した実況見分調書を重視しているように感じます。
逆にいうと、実況見分調書に「合図履行」と書いてあるにも関わらず、「ウインカーを出していない」と主張しても弱い上に「前方不注視の根拠」にされかねません。
映像証拠があるなら別ですが、警察の調書はまあまあ強い。

車間距離保持義務

道路交通法でいうところの車間距離保持義務は、同一進路上での話。

進路=車体幅の範囲になります。

「進路」とは、当該車両の幅に相当する道路の部分であり、車両(自転車を含む。)は、他の車両通行帯に進行方向を変える場合のみならず、同一車両通行帯内であっても、みだりに進路を変更することは禁止されている(道路交通法26条の2第1項)。

 

福岡高裁 令和2年12月8日

しかし民事の判例を見る限りでは、同一車線上なら厳格に道路交通法を解釈しておらず、厳密にいえば進路が重なってなくても車間距離保持義務違反の過失だとしている判例が多数。

 

民事は道路交通法違反を争うのではなく、注意義務違反を争うのでまあ妥当かと。

 

そもそも、18条1項でいうところの「観念上の通行区分」については、厳格に解釈することは困難ですし、クルマの「左側に寄って」の範疇には「左側端も含む」というのが定説なので、ほとんどの場合進路は重なっているでしょう。
まあ、立法時の昭和39年時点で、18条1項の趣旨通りに通行できる道路は少ないと認めてますし。

同条1項の「道路の左側に寄って」とは、軽車両の通行分を考慮し、軽車両が道路の左側端に寄って通行するために必要とされる部分を除いた部分の左側に寄ってという意味であり、「道路の左側端に寄って」とは、道路の路肩部分を除いた部分の左端に寄ってという意味である(宮崎注解)。このように自動車及び原動機付自転車と軽車両とで若干異なる通行区分をしたのは、速度その他通行の態様が著しく異なる両者がまったく同じ部分を通行すると、交通の安全と円滑が害われるおそれがあるためである。もっとも軽車両がまったく通行していない場合に自動車または原動機付自転車が道路の左側端まで寄って通行することまで禁止したものではないだろう(同旨、法総研・道交法87頁)。

 

ところで、キープレフトの原則の本来の趣旨は、通常走行の場合はできるだけ道路の左側端を通行させ、追い越しの場合は道路の中央寄りを通行させることにより種々の速度で通行する車両のうち、低速のものを道路の左側端寄りに、高速のものを道路の中央寄りに分ち、もって交通の安全と円滑を図ることにあるとされている(なお、法27条2項参照)。右のような趣旨ならひに我が国の道路および交通の現状にかんがみると、18条1項の規定をあまり厳格に解釈することは妥当ではなかろう。

 

判例タイムズ284号(昭和48年1月25日) 大阪高裁判事 青木暢茂

もっとも、厳密に述べるならば、「道路の左側」は「道路の左側端」を含むので、「道路の左側端に寄って通行する」ことは、「道路の左側に寄って通行する」こととなる。したがって、当該道路を軽車両が通行していない場合、自動車及び原動機付自転車は、道路の左側端に寄って通行することも差し支えない(もっとも、自動車や原動機付自転車は、軽車両に比べて走行速度も速いので、あまり左側端に寄り過ぎると交通安全上適切とはいえない)。
そもそも「キープレフト」の原則は、道路の中央部分を追越しのために空けておくという考え方によるものであり、道路の幅員が不十分な場合には、自動車等は相対的に左側端に寄ることになるであろうし、幅員が十分であれば、左側端側にそれなりの余裕を持って通行することとなろう。また、現実に軽車両が通行しているときは、自動車等は左側端に寄り難く、相対的に道路の中央寄りの部分を通行することになろう。このように「道路の左側に寄って」とは、あくまでも相対的な概念であり、具体的な場所が道路のどの部分を指すかは、道路の幅員及び交通状況によりある程度幅があるのである。

 

道路交通法研究会 注解道路交通法【第5版】、立花書房

先日の事例にしても、進路が完全に別にいたとみなすことは難しいですが、

仮に先行車と後続車がまっすぐ進んだとして、後続2輪車が進路を変えずに追い抜き可能だったと捉える人はいないでしょうから、一部でも重なっていたとみなせます。

実際の判例

いくつかピックアップしました。
なお全判例に共通するのは、「先行車が左折」、「左折前に左側端寄せが不十分」。

判例 内容 後続直進自転車過失
東京地裁H21.12.22 道路外に左折 30%
横浜地裁H27.2.19 追い越し直後に道路外に左折 0%
名古屋地裁H29.11.22 合図無しで道路外に左折 0%
東京地裁R2.2.17 交差点左折 70%(原付)
東京地裁H17.10.17 オートバイ同士。先行車が第一車線の右寄りから交差点を左折。後続車は先行車の左後方 40%(オートバイ)
名古屋地裁 H26.8.28 道路外左折 25%(原付)
大阪高裁H14.1.25 交差点左折 60%(オートバイ)

比較的最近の判例をいくつかピックアップしましたが、具体的状況で大きく変わるのでなんとも言えません。
いわゆる「被せ左折」(追い越し直後の左折)や合図無し左折については、自転車にも過失があることを認めつつも左折車の重過失と比較して小さい(過失相殺するほどではない)と判断している。

 

個別具体的な判例については、気が向いたら別記事にしますが、必ず左折側の過失が大きくなるわけでもなく「個別具体的状況次第」で全然違うことになります。
交通事故の過失割合って、ほとんどが裁判ではなく示談でしょうし、裁判でも7割程度は判決ではなく和解(最も扱いが多い東京地裁交通部で約7割が和解)。
裁判官は判決よりも和解が大好きです。
判決文を書かなくていいし、仕事が楽になって喜ぶのはみんな同じです。

過失割合なんて

過失割合って「基本過失割合」はありますが、具体的状況次第でいくらでも変わりうるもの。
だからこのように赤信号無視自転車の判例でもバラバラだし、

 

無罪≠「100:0」。赤信号無視した自転車。
赤信号無視して突破してくる車両を予見して運転する義務はない、という最高裁判例がありますが、 本件の事実関係においては、交差点において、青信号により発進した被告人の車が、赤信号を無視して突入してきた相手方の車と衝突した事案である疑いが濃厚であ...

 

「歩行者横断禁止」の場合でもバラバラ。

 

「歩行者横断禁止」と過失割合。
ついでなので、「歩行者横断禁止」にも関わらず横断して事故になった場合の、民事の過失割合を判例から。 過失割合には相場がありますが、具体的事情を込みに考えると相場通りになるわけではありません。 民事の過失割合には、道路交通法違反以外の要素も含...

 

いくらでも例外は起きるので、最終的にどちらの過失が大きくなるかなんてわからないものですが、

 

過失割合は「いい・悪い」とは必ずしも必ずしも関係しない。
こういう事故が起きたときに、過失割合がどうのこうのっていう人いるじゃないですか。 そもそも過失割合とは。 過失割合とは。 過失割合ってある程度類型化されたパターンがありますが、現実にはその通りになるわけではありません。 例えばこちら。 「歩...

 

ネット上に上がった事故についてあーだこーだと語るのがお約束()ですが、双方がやるべきことをやれとしか。
「自分のほうが過失が小さいだろ!」と意気込んで裁判したら逆だったなんて話は普通にあるし、確定もしてない中どっちの過失が大きくなるかなんて「単なる予想」でしかない。

 

示談なら当事者間で合意すれば、加害者不利の過失割合で示談成立も普通にあります。私法での関係だから当事者間で合意すればそれが全て。

民事判例って道路交通法を厳格に解釈してないのはある程度判例を見ればわかること。
けどネット上でグダグダ言う人って、厳格に道路交通法を解釈した上で過失割合ガー!とか言い出すので、まあまあ的外れになるような気がする。

 

過失って「不注意全般」なので、厳格な道路交通法解釈になるわけじゃないのにね。

 

先日のこれにしても、自転車に一時停止義務があるので優先通行はクルマですが、見通しが悪い交差点なのでクルマにも徐行義務がある。

 

一時不停止の自転車 対 クルマ。
こういうのって。 どっちが悪い論とか 一時停止側が劣後するのは当然なんですが、この事故については両者の過失が競合します。 自転車 クルマ 義務違反 一時不停止 徐行義務違反 法条 43条 42条1項 この場合、見通しが悪い交差点になるため、...

 

双方がやるべきことをやれとしか言えないよね。
なぜ優先通行側にも徐行義務を課す規定なのかを考えると、おそらくは「保険」みたいなもんなのかと。
優先だからウェーイ系になると、子供の飛び出しとか対応できないし。

 


コメント

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