時々「足が地面につかないサドル高にしていたから過失」とする判例を見かけますが、個人的には足がついたら転倒しないと言い切れない以上、過失にするのは疑問だったりします。
クロスバイクの転倒事故について、地面に足がつかないサドル高が過失なのか?という判断をした判例があります。
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クロスバイクの転倒事故
判例は岡山地裁 令和4年3月28日、行政事件です。
まずは事故概要。
・地下道の出入口の移設工事のため、道路管理者は地下道の入口を塞ぎ通行できない旨を示した看板を立てた。
・原告はクロスバイクに乗り地下道を通行するため東から南に左折進入したところ、道路管理者の不適切なバリケード等により転倒した。
・「通行できない旨を示した看板」は北西方向を向いており、東→南に左折進入した原告には視認できない不適切な設置だった。
・バーが倒れていたり、バリケードとして不適切な状態だった。
・看板の設置やバリケード等が不適切だとして国賠法により提訴した。
・カーブなので徐行義務(42条)等を果たしていれば事故を回避できたし、地面に足がつかないサドル高が被害を大きくしたとして道路管理者が反論。
具体的な図面がないのでイマイチイメージしにくい面がありますが、バリケード自体にも問題があった様子。
※事故現場ではありません。
過失割合はこちら。
道路管理者 | クロスバイク |
2 | 1 |
道路管理者の落ち度として不適切な通行禁止を挙げながらも、クロスバイクの徐行義務やサドル高について一定の落ち度を認めています。
サドル高と過失
地面に足がつかないサドル高を過失とした判例は時々ありまして、例えばこちら。
※赤自転車側にも「自転車は止まれ」の注意喚起表示あり。
東京地裁八王子支部 平成13年6月14日判決。
赤自転車 | 青自転車(一時不停止) |
70 | 30 |
注:赤自転車が足がつかない高さの自転車に乗っていたことを考慮
地面に足がつかないサドル高を過失としていたりする。
個人的にはこの判断って疑問でして、足がつくサドル高だったから転倒時に足を出した場合に、身体は前に行こうと加速度がついているので、足首を骨折することがあります。
足は止まろうとしながらも身体は前に行こうとするのだから仕方ない。
そういう怪我が起きたときに、「転倒時に足を出した過失」なんですかね?
ちなみにですが、「過失になるからサドル高を上げるべきではない」みたいな安易な話をしたいのではありません。
バランスを崩したときに、とっさに両足を地面について支えることができなかったのであり、本件自転車の運転操作方法としても十分ではなかったといわざるを得ない(どのような自転車に乗るか、サドルをどのような高さに設定するかは自由であるが、それは安全運転義務を免除するものではない。曲がり角では、その先がどうなっているのか分からない(歩行者等(場合によっては小さい子供)がいるかもしれない。)のであり、直ちに停止できる程度に徐行する必要があるし、いざというときには安全に停止できる必要がある。仮に、とっさにサドルからお尻を前にずらし降ろして両足を地面に着くことができない(それだけの技量がない。)のであれば、そもそもサドルをそのような高さに設定すべきではなく、サドルに乗ったままでも両足を地面について安全に停止できるようにしておくべきである。)。
岡山地裁 令和4年3月28日
道路管理者の責任が大きいとしながらも、1/3は原告の過失としています。
使いこなせないサドル高にするのはダメだし、使いこなせるように練習するのもある意味では義務。
現実的には
たまに「サドル高が不適切な過失」を認定している判例がありますが、要はその高さでも安全運転義務を果たせるようなテクニックや、その他徐行義務などを求めているわけで。
スタンディングスティルを磨けという話ですかね。
ビミョーに意味合いは違いますが。
ところで先日、JAFが電動キックボードを段差に衝突させて転倒した場合の衝撃がどうのこうのという動画を発表してましたが、電動キックボードが段差に弱いのは誰の目にも明らかで、通常は段差越えする際に後方荷重にしたり、減速することで転倒を回避するわけで、「ずいぶんと偏った実験だなあ」と思ったりします。
そもそも、歩道を横切り道路外の施設に入る前には一時停止義務(17条2項)があり、道路外の施設に入る目的以外で歩道通行する際には時速6キロモードにする義務があり(17条の2)、モード変更は停止しないとできないことを考えると段差越えする場面なんてかなり限定的な気がする。
「段差越えの転倒に備えてヘルメットをかぶろう」ではなく、「一時停止義務(17条2項)とモード変更義務(17条の2)を守ろう」が先なんじゃないのか?という疑問がありますが、転倒しやすいのはバカでもわかるので、ちゃんと練習してから乗れという話でしかないのよね。
転倒事故の「発生」を減らしたいのか、転倒事故が起きた際の怪我の「軽減」の話なのかを分けずに議論が進んでいる点についてはちょっと危機感を感じる。
自転車にしても段差に対し斜めに進入すれば
車輪が段差に乗っからなくて転倒したりしますが、それに対して「ヘルメットをかぶろう」ではなく、「十分減速して斜めに入らない」「17条2項の場合は一時停止」が正解。
人間はミスをするものだからそこまで考えて「ヘルメットをかぶるべき」ならわかりますが、先に来るのは「十分な減速、斜めに入らない」、「17条2項の場合は一時停止」になるべき。
あっ、「歩道の段差を無くせ論」には賛同しません。
ある種の物理的減速帯として歩行者保護になっていると思うので。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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