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義務の有無。

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こちらの続きです。

 

バス発進妨害とその範囲。
読者様からバス発進妨害(31条の2)について質問を頂いたのですが、ちょっと分かりにくいのでイラスト化します。 バス発進妨害とその範囲 複数車線の道路にて、バスが停留所から発進しようとしているとして。 31条の2では「乗客の乗降のため停車して...

 

あくまでも大型車の場合に限定します。
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義務の有無

34条6項では合図車妨害を規定していますが、

(左折又は右折)
第三十四条
6 左折又は右折しようとする車両が、前各項の規定により、それぞれ道路の左側端、中央又は右側端に寄ろうとして手又は方向指示器による合図をした場合においては、その後方にある車両は、その速度又は方向を急に変更しなければならないこととなる場合を除き、当該合図をした車両の進路の変更を妨げてはならない。

この規定、左折車が優先権を得るには、適法に合図をして適法に「できる限り左側端に寄って」進行する場合のみとされます。

「できる限り左側端に寄って」とは、左折動作する上で客観的可能な限度まで寄るという意味。
左側端に寄ると左折できない大型車のことを考慮して「できる限り」としている点に注意。

条文だけ読んで具体的イメージがしにくい人がいるみたいだけど、あくまでも後続車の義務なので後続車視点で考えないとわかりません。

 

後続2輪車と十分な距離があり、交差点30m手前で適法に左折合図を出したとする。

後続2輪車は「進路の変更を妨害禁止」。
先行大型車が合図後にさらに左側に寄るか、そのまままっすぐ進んでから左折するかは分からない。
(大型車の場合、左側端に寄れなくても「できる限り左側端に寄れば」合法)

さらに左側に寄るか、そのまままっすぐ進んでから左折するかは後続2輪車には分からないものの、合図を出した以上、後続2輪車は「進路変更の妨害禁止」なので、左側から追い抜きできない。
義務は「進路変更の妨害禁止」なのだから。

 

なお、34条1項の「あらかじめその前から」については従来、合図履行が30m手前となっていることから同様に30m手前と解釈する解説書が多かったものの、東京地裁が否定。

 

その後先行大型車がさらに左側に寄ったか、そのまままっすぐ進んでから左折するかは結果論。
義務として、さらにいえば「いつの時点で義務が課されたか」を考えないからわからなくなっているのかと。

 

結果論として「あの時は義務がなかったよね」という話ではなく、先行大型車が合図を出した時点で後続車に課された義務の話。
結果論で考えたら分からないと思う。

 

そういう理由から、左側端に寄りきれない大型車の左折動作自体に合図車妨害から信頼の原則を適用した判例が多数あるわけで、

○大阪高裁 昭和50年11月13日
○最高裁判所第三小法廷 昭和45年3月31日
○最高裁判所日第二小法廷 昭和46年6月25日
○旭川地裁 昭和44年10月9日

いつ、誰に義務を課したのか理解してないと、意味を取り違えるだけかと。

 

じゃあ信頼の原則を否定したこれらは何なんだ?という話。

○最高裁判所第二小法廷 昭和49年4月6日
○東京高裁 昭和46年2月8日

信頼の原則を否定した判例

まずは最高裁判所第二小法廷 昭和49年4月6日。

 

この判例は先行大型車が後続2輪車を確認した時点では、既に後続2輪車は急ブレーキを掛けても事故回避不可能な状況だった事例。

被告人は、普通貨物自動車を運転し、幅員9.3mの道路を時速約35キロメートルで進行し、交通整理の行われていない交差点を左折しようとし、その手前約30mの地点で車内鏡によつて後方を確認したところ、左斜後方約20mの地点を追尾して来る自動二輪車を発見したので、同交差点の手前約22m付近で左折の合図をして車道左側端から約1.7mの間隔をおいて徐行し、同交差点入口付近において時速約10キロメートルで左折を開始した直後、被告人車の左側を直進して来た右の後進車に接触させ、事故を起したというのであり、また被告人が発見した際の同車の時速は約55キロメートルであつたというのである。原判決は、右の事実を前提とし、被告人が左斜後方に後進車のあることを発見したときの両車の進路、間隔及び速度等を考慮するときは、被告人車が前記のように左方に進路を変更すると後進車の進路を塞ぎ同車との衝突は避けられない関係にあつたことが明らかであるから、被告人車は従来の進路を変更してはならない場合にあたり、また、車道左端から約1.7mの間隔があり、かつ、前記のような進路を高速で被告人車を追い抜く可能性のある後進車のあることを認めた被告人としては、左折の合図をしただけでは足りず、後進車の動静に十分注意し、追い抜きを待つて道路左側に寄るなどの業務上の注意義務があるのに、被告人は右の注意義務を怠り、後進車の動静に注意を払うことなく左折を開始し、そのため本件衝突事故を惹起したものである、と判断しているのである。
すなわち本件は、道交法26条2項が優先的に適用される場合であつて、自車の進路を左側に変更して後進車の進路を妨害することは許されないものといわざるをえない(現行の道交法34条5項参照)。そうとすれば、前記のような状況下で後進車の動静に注意を払うことなく左折を開始した被告人に注意義務の違反のあることは明らかである。原判決の前記判断は、これと同旨であつて、正当というべきである。

 

昭和49年4月6日 最高裁判所第二小法廷

※現行の道交法34条5項参照という部分は、今の34条6項。26条2項は現在の26条の2第2項。

 

26条の2第2項と34条6項を対比させているのは見てわかる通りで、状況的に26条の2第2項(進路変更禁止)が適用される場面との判断。

 

次に東京高裁 昭和46年2月8日判決。

この判例、以下の説示がありますが、

左折の方向指示をしたからといつて、後ろから進入してくる直進車両や左折車両が交差点に進入するのを防ぐことができないばかりでなく、後進してきた軽車両等か被告人車両の左側から進めの信号に従つて直進しもしくは左折することは交通法規上なんらさまたげないところであり、この場合はむしろ被告人車両のほうでまず左側の車両に道を譲るべきものと解されるからである。

 

昭和46年2月8日 東京高裁

このように判断された理由は、信号待ち停止中には合図車妨害の原理が働く余地がないから。
停止している車両の進路変更を妨害するなんて不可能なわけで停止状態から動き出す場合には、合図を出したタイミングではなく動き出すタイミングにおいて進路変更禁止or合図車妨害を判断するというのが当たり前の法解釈。

 

それは合図車妨害から信頼の原則を認めた最高裁判決との整合性を確認している点でも明らかで、「この状況においては」左側から追い抜きしても違反ではないことを確認している。

この点に関しては、昭和43年(あ)第483号同45年3月31日最高裁判所第三小法廷判決が、本件ときわめて類似した事案において、「本件のように技術的に道路左端に寄つて進行することが困難なため、他の車両が自己の車両と道路左端との中間に入りこむおそれがある場合にも、道路交通法規所定の左折の合図をし、かつ、できる限り道路の左側に寄つて徐行をし、更に後写鏡を見て後続車両の有無を確認したうえ左折を開始すれば足り、それ以上に、たとえば、車両の右側にある運転席を離れて車体の左側に寄り、その側窓から首を出す等して左後方のいわゆる死角にある他車両の有無を確認するまでの義務があるとは解せられない」として一、二審の有罪判決を破棄し、無罪を言い渡しているところである。そこで右判例の事案における事実関係と本件の事実関係と対比検討してみると、前者は車幅1.65mの普通貨物自動車であるのに対し、後者は2.46mの車幅を有する前記のような長大かつ車高の高い大型貨物自動車であるから、したがつて死角の大きさにも著しい相違があると推測されること、前者は信号まちのため瞬時停止したに過ぎないのに対し、後者は信号まちのため約30秒間停止したものであるから、その間に後進の軽車両等が進入してくる可能性はより大きいといえること、したがつてバツクミラーによつて後ろから進入してくる軽車両等を死角に達するまでに発見して適切な措置をとる必要性がより大きいことにおいて事実関係に差異があると認められる。そして、以上の諸点と、本件のような長大な車両と軽車両とが同じ路面を通行する場合において、両者が接触すれば被害を被むるのは必らず軽車両側であることに思いをいたせば、本件の場合長大かつ死角の大きい車両の運転者に死角に入る以前において他の車両を発見する業務上の注意義務を課することは、公平の観念に照らしても均衡を失するものとはいえず、所論いわゆる信頼の原則に副わないものではなく、また前記第三小法廷の判例に反するものでもないと判断される。したがつて、原判決が安全確認の義務を怠つたとする判断は結局正当であるから、この点の論旨は理由がない。

 

昭和46年2月8日 東京高裁

「後進してきた軽車両等か被告人車両の左側から進めの信号に従つて直進しもしくは左折することは交通法規上なんらさまたげないところであり」だけを切り取って意味を取り違える人がいるので注意。
法解釈ではなく事例解釈です。

なぜそうなるか

合図車妨害について意味を取り違える人もいますが、条文読んで具体的イメージを元に「いつの時点での義務か?」を考えれば明らか。

 

この時点で「合図車妨害禁止」が「義務」なので

左側端に寄れない大型車が、さらに左側に寄ったかどうかは関係ない話。
それが「できる限り左側端に寄って」であれば、左折動作も含めた進路変更について妨害禁止と解釈せざるを得ない。

 

もちろん、昭和49年4月6日 最高裁判所第二小法廷判決のように既に迫っている状況なら左折動作禁止になるのは当然だし、左側端に寄ることが可能な普通車が横着して左側端に寄らず「信頼の原則」に逃避することは許されない。

 

普通車の判例としては福岡高裁宮崎支部 昭和47年12月12日があります。
まず事故概要。

先行するクルマは交差点の40m手前で「ルームミラー」で後方確認し、後続車がないことから側溝まで約1.9mのところに寄せて時速15キロに減速。

そんな状況の中、オートバイが時速30キロで先行車に追い付き、4、5mの距離を保ち様子見。

交差点直前で先行車の左折合図に「気がついて」、急制動したものの間に合わず衝突した事故です。

道路交通法34条1項が交差点における左折車に所謂左寄せ義務を課した所以は、原判決の説示するとおりで、その車両が左折しようとするものであることを同法53条で命ぜられた左折の合図をするだけでなく、その車両の準備的な行動自体により他の車両等に一層よく認識させようとするためであることは明らかなところ、前示被告人の車の長さ、本件交差点の角切りなど考慮に容れれば、技術的にA路進行中にその左側端に車を寄せることを困難ならしめる事情は証拠上全く認められないのである。そうすれば原審公判廷において通常A路の左側端まで1mの間隔をとっておけばゆうに本件交差点を左折しうると自認している被告人が、本件交差点に進入するまで約40mの距離を、何らの支障もなく、もっと左に寄せうるのにA路の左側溝まで自車の車幅を越える約1.9mもの間隔を保持したまま直進した以上、その間に他の車両が自車とA路左側端の中間に入りこむおそれのあることは交通常識上当然に予想すべきであり、そのため自車左側ならびに左後方に対する安全確認をつくした後でなければ、本件交差点において、容易に左に転把すべきでなかったといわざるをえない。
ところで、被告人が二回にわたり車内バックミラーにより後方確認したことは前記のとおりであるが、該ミラーの映写範囲は後部の窓をとおすもので、窓両側の車体部分により死角を生ずるものであることは、敢て実験実測を経るものではなく、被告人自身原審公判廷においてこれを肯認自覚しているのであるから、自車左側ならびに左後方に対する確認は、道路運送車両の保安基準44条が示すように、運転者席において左の外側線上後方50mの間にある障害物を確認できるために設置を義務づけられている車外サイドミラーによらなければ充分でないのに、被告人がこれを利用した事跡は全くない。もとより被害者も後続車の運転者として一般的に前車の動静に注意を払い、これが左折合図をして減速したときは、これとの接触を避けるべく適宜徐行等の措置に出づべき義務があることはいうまでもないが、前記の如く約40mの長さにわたって道路左側溝まで約1.9mの間隔を保持し、左に寄るなど左折の準備態勢を示さずに直進し続ける被告人の車を見て、そのまま本件交差点を直進通過するものと思いこんだのは無理からぬとことであるから、被害者に対し、被告人の左折合図に早く気づかなかった落度は責めうるにせよ、道路交通法34条5項に違反する無謀運転であると決めつけるのは失当であり、ましてやかかる落度を根拠にして、自ら可能なる左寄せ義務をつくさず、未だ適切な左折準備態勢に入っていなかったことを論外におき、いわゆる信頼の原則に逃避して過失責任から免脱することの許されないことは、原判決の正当に説示するとおりである。論旨指摘の最高裁判所の判決は技術的に左寄せ進行が困難な状況のもとにおいて、できる限り道路の左側によって徐行している先行車と無謀運転とされてもやむを得ない後続車の運転者との衝突事故に関するもので、本件とは事案を異にしている

 

福岡高裁宮崎支部 昭和47年12月12日

※34条5項は現行6項。

 

また、後続2輪車に危険をもたらすような至近距離で進路変更することも禁止。

いつ、誰に義務を課したのか考えずに条文だけを読んでも誤解するけど、大型車の左折に信頼の原則を適用した判例と適用しなかった判例は、どちらも正当なのよ。
状況が違うから優先関係が違うだけで。

 

具体的イメージから「義務の有無」を考えずに結果論の話をするから、合図車妨害規定の意味を理解できないのかと思いますが、先日挙げたバス優先も同じ。

 

バス発進妨害とその範囲。
読者様からバス発進妨害(31条の2)について質問を頂いたのですが、ちょっと分かりにくいのでイラスト化します。 バス発進妨害とその範囲 複数車線の道路にて、バスが停留所から発進しようとしているとして。 31条の2では「乗客の乗降のため停車して...

 

義務が発生することと、違反の成立は別。
それこそバス発進妨害にしても「停留所において乗客の乗降のため停車していた乗合自動車が」としているので、乗客の乗り降り目的ではなく時間調整目的で停車していたバスは優先にならないと解釈されますが、

(乗合自動車の発進の保護)
第三十一条の二 停留所において乗客の乗降のため停車していた乗合自動車が発進するため進路を変更しようとして手又は方向指示器により合図をした場合においては、その後方にある車両は、その速度又は方向を急に変更しなければならないこととなる場合を除き、当該合図をした乗合自動車の進路の変更を妨げてはならない。

「何の目的で停車していたか?」なんて後続車がわかるわけもなく、義務自体はどちらも発生するのね。
違反として検挙する上ではきちんとしないといけないけど、義務が発生することと、結果論として違反が成立するかは別。

 

結果論で考えちゃうと、例えば38条1項なんかも「結果的に横断しようとする歩行者がいなかったから、減速接近義務はなかった」みたいな間違いにつながるわけで、

(横断歩道等における歩行者等の優先)
第三十八条 車両等は、横断歩道に接近する場合には、当該横断歩道を通過する際に当該横断歩道によりその進路の前方を横断しようとする歩行者がないことが明らかな場合を除き、当該横断歩道の直前(道路標識等による停止線が設けられているときは、その停止線の直前。以下この項において同じ。)で停止することができるような速度で進行しなければならない。

義務発生時点の状況で考えないと、支離滅裂なのよ。

 

小児用の車にしても、

道路交通法上、小児用の車なら「歩行者」だし、自転車扱いなら軽車両になりますが、仮にこの子が横断歩道で横断待ちしていたときに、小児用の車なのか自転車なのかを見分けることは不可能。
見分けることが不可能だから小児用の車と捉えて一時停止義務があると解釈することになるし、仮に小児用の車じゃないとしてもそれは結果論に過ぎない。
結果的にどうだったのかの話じゃなくて、視認した時点での話なんだから。

 

とはいえ現実的には、合図車妨害が働かない違法左折である「追い抜きざまに左折」(被せ左折)とか、

ウインカーを出さない合図無し左折が横行しているわけで。
それらを非難するのは当然だし別問題です。

 

なぜ左折動作に関する判例のうち、大型車の左折動作自体に信頼の原則(合図車妨害)を適用した判例が多数あるのか考えないと、34条6項についても「合図を察知した時点での後続車目線」ではなく結果論の話に置き換えて考えることになってしまい、意味を理解できない。

 

2輪車の注意義務なんだから、後続2輪車視点で検討しないと。


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