「ちょっと借りるだけなら無罪！？」

すみません、だいぶ前に頂いた質問をすっかり放置してしまいました。
頂いた質問はこちら。

いつもありがとうございます。

「返せば問題ないの？」放置自転車の無断使用、有罪・無罪の境界線はどこに

【読売新聞】　放置自転車を使ったとして、占有離脱物横領罪で起訴された被告に対する無罪判決が昨年、大津、福岡両地裁で相次いだ。福岡の事件については今年３月、福岡高裁で１審判決を「社会通念に反する」として破棄し、有罪判決が言い渡された。

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「ちょっと借りるだけなら無罪!?」系の話を自転車や傘などでときおり耳にしますが、よろしければ詳しくご解説いただけませんでしょうか。
既出でしたらすみません。お忙しければ流していただいて結構です。

 

上の記事では放置自転車や盗難自転車とのことですが、元の所有者が比較的短時間駐輪した場合で、
・駐輪場で無施錠（料金ゼロで出車できる）
・駐輪場で無施錠（料金を被疑者が支払って出車）
・契約駐輪場で無施錠
などでも判断が割れるんでしょうか。

 

話が逸れますが、
SNSで「〇〇市内でロードバイクが盗まれました！拡散希望です！」みたいなツイートがよく流れてきますが、どういった場所にどれくらいの時間停めていたか、鍵の有無や種類に何も言及されておらずモヤモヤすることが多いです。そういった情報は他のサイクリストの為になると思うのですが。
「お前それホンマにちゃんと停めてたんか？」ツッコミどころがあるのと、ツイート主が本当に所有者（関係者）か確証が持てないので私は原則として拡散しません。
＞「お前それホンマにちゃんと停めてたんか？」
これが違法な駐輪（放置自転車）であった場合、最初の話にもつながりうるからです。

ちょっと借りるだけなら無罪？

まずはリンク先中身から。

無施錠の放置自転車を持ち去った件について、占有離脱物横領罪に問われた件。

男性側は「一時的に借りただけ。（元の場所に）戻すつもりだった」と無罪を主張した。同罪の成立には、他人の物を自分の所有物として扱う「不法領得の意思」が必要となる。

男性は約７００メートル先の電話ボックスまで自転車で移動し、戻る途中に逮捕されたが、その１週間前にも電話ボックスまで往復し、放置場所に自転車を戻していた。

判決は使用距離や時間が短かったことに加え、１週間前に元の場所に戻していた点を重視。「不法領得の意思はない」と判断した。ただし、斉藤隆広裁判官は「犯罪と紙一重の行為です」と男性にくぎを刺した。

 

「返せば問題ないの？」放置自転車の無断使用、有罪・無罪の境界線はどこに

【読売新聞】　放置自転車を使ったとして、占有離脱物横領罪で起訴された被告に対する無罪判決が昨年、大津、福岡両地裁で相次いだ。福岡の事件については今年３月、福岡高裁で１審判決を「社会通念に反する」として破棄し、有罪判決が言い渡された。

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一方、ほぼ同様の別事件について一審が無罪判決後、検察が控訴した事件があります。

福岡高裁は、１２時間にもわたる無断使用で短時間でもなかったなどとして、「後で返すつもりでも、使用中は所有者の権利を侵害した」と指摘。「不法領得の意思は認められる」と、懲役６月を言い渡した。

 

「返せば問題ないの？」放置自転車の無断使用、有罪・無罪の境界線はどこに

【読売新聞】　放置自転車を使ったとして、占有離脱物横領罪で起訴された被告に対する無罪判決が昨年、大津、福岡両地裁で相次いだ。福岡の事件については今年３月、福岡高裁で１審判決を「社会通念に反する」として破棄し、有罪判決が言い渡された。

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という話が前提です。

窃盗罪と占有離脱物横領罪の違いは、要は「他人の占有下にある物を自分の物とする行為」が窃盗、「誰の占有下にもない物を自分の物にしてしまう行為」が占有離脱物横領。

で。
不法領得については両者で変わらないのですが、

上の記事では放置自転車や盗難自転車とのことですが、元の所有者が比較的短時間駐輪した場合で、
・駐輪場で無施錠（料金ゼロで出車できる）
・駐輪場で無施錠（料金を被疑者が支払って出車）
・契約駐輪場で無施錠
などでも判断が割れるんでしょうか。

これらは「占有の有無」の判断に影響する可能性があっても、不法領得の判断(自分のものにしようとする)とは別なんじゃないでしょうか？
あまり詳しくないので自信はありません。

興味深い判例として挙げますが、有料駐輪場前の空き地に無施錠で駐輪した自転車について、被害者が長時間にわたり遠方まで出掛けている場合にはその占有を認めることができないとして窃盗罪の成立を否定し占有離脱物横領罪にとどまるとした判例が東京高裁　平成24年10月17日にあります。
この場合、「借りた」ではなく「パクった」なので窃盗(被害者の占有下にある)か占有離脱物横領(被害者の占有下にはない)の問題になりますので、事案は異なります。

で。
「短時間の借用」が不法領得にならない(=窃盗も占有離脱物横領も成立しない)ことはあり得ますが、上の福岡高裁判決を見る限りではそのような「短時間の借用」とみなすのはむしろ例外的な状態と捉えています。
この判例は市営住宅の駐輪場に無施錠で駐輪してある自転車を、被告人が度々勝手に乗り回しては元の位置に戻す行為をしていたところ、ある日1時間程度で戻るつもりで同じ自転車を拝借したところ、出先で事情が変わり結局12時間借用していたところを職務質問されて発覚した事件です。

一審の福岡地裁は占有離脱物横領について無罪としましたが、二審の福岡高裁　令和3年3月29日判決は有罪。

ちなみに話を戻して「占有」に該当するかどうか(窃盗か占有離脱物横領か)について争われた判例に、福岡高裁　令和4年12月21日判決があります。
この事件は、ホームセンターの駐輪場に自転車を停めた被害者が、前かごに手提げバッグを残したまま(財布だけ持って)買い物に向かい、被告人が手提げバッグを盗った事件。

前かごに残した手提げバッグについて「占有」に当たらないから窃盗罪ではなく占有離脱物横領罪にとどまるはずと主張していますが、被害者は「置き忘れた」のではなく「あえて置いたまま」だし、被害者の買い物時間も時間的にも短いことなどから「占有」とし、窃盗罪として有罪。

「占有」の問題は窃盗か占有離脱物横領を分けますが、「短時間の無駄使用か自分のものにしようとするか」は不法領得の問題としてまた別です。

なお、言うまでもない話ですが、「ちょっとだけ無断使用」と「ちょっとだけ！先っぽだけお願い！」は全く別問題です。

ロードバイクの盗難

で、読者様の意見の後半。

話が逸れますが、
SNSで「〇〇市内でロードバイクが盗まれました！拡散希望です！」みたいなツイートがよく流れてきますが、どういった場所にどれくらいの時間停めていたか、鍵の有無や種類に何も言及されておらずモヤモヤすることが多いです。そういった情報は他のサイクリストの為になると思うのですが。
「お前それホンマにちゃんと停めてたんか？」ツッコミどころがあるのと、ツイート主が本当に所有者（関係者）か確証が持てないので私は原則として拡散しません。
＞「お前それホンマにちゃんと停めてたんか？」
これが違法な駐輪（放置自転車）であった場合、最初の話にもつながりうるからです。

たぶんですが、ロードバイクを盗っていく人が「一時的な無駄使用で元に戻すつもりだった」ということは考えにくいので、不法領得の意思は明らかかと。
その上で、施錠していたか、どれくらいの時間駐輪していたか、どこに駐輪していたかは「占有」に関する話で、窃盗罪か占有離脱物横領罪になるかの問題なんだと思われますが、長時間無施錠で駐輪していたら「占有」とはみなされないかもしれませんが、そんな雑な扱いをするロードバイク乗りがいるのかは疑問です。

けどおっしゃるように、「盗まれた事案」を聞いても首を傾げるような場所に無防備に駐輪していた話もあるので、盗む人が悪いのは当然ですが無防備だなぁと思うことはあります。