ちょっと前になりますが、こちらが話題になってましたよね。
「違反だぞゴルァ」とか「自転車は二段階右折だぞゴルァ」と言うだけならバカでも出来ますか、事件は会議室ではなく現場で起きています。
現場はこちらだそうな。
この手の問題は、以下二点を考えないと意味がない。
②自転車に乗りながら、二段階右折のラインを瞬時に判断できるか?
十字路の二段階右折なんてバカでもわかるけど、変形交差点になると分かりにくい。
二段階右折のルール
自転車が二段階右折するルールは、以下二点から導けます。
第三十四条
3 特定小型原動機付自転車等は、右折するときは、あらかじめその前からできる限り道路の左側端に寄り、かつ、交差点の側端に沿つて徐行しなければならない。
※特定小型原動機付自転車等=特定小型と軽車両
信号の種類 | 信号の意味 |
青色の灯火 | 三 多通行帯道路等通行一般原動機付自転車、特定小型原動機付自転車(法第十七条第三項に規定する特定小型原動機付自転車をいう。以下この条及び第四十一条の三第一項において同じ。)及び軽車両は、直進(右折しようとして右折する地点まで直進し、その地点において右折することを含む。青色の灯火の矢印の項を除き、以下この条において同じ。)をし、又は左折することができること。 |
自転車が右折するときは「交差点の側端に沿って徐行」だし、青信号では「右折しようとして右折する地点まで直進すること」が認められています。
交差点の側端に沿って徐行なので、交差点の範囲を決めることができなければ右折できません。
さて、「交差点の範囲」。
勘違いする人が多いのですが、交差点の範囲には隅切りを含みます。
なお、道路交通法2条5号にいう道路の交わる部分とは、本件のように、車道と車道とが交わる十字路の四つかどに、いわゆるすみ切りがある場合には、各車道の両側のすみ切り部分の始端を結ぶ線によつて囲まれた部分――別紙図面斜線部分――をいうものと解するのが相当である。
最高裁判所第三小法廷 昭和43年12月24日
本件の事実関係は、右認定のとおりである。そして右のように車道と車道が交わる十字路において、四つ角の宅地または歩道の角を切り取つて歩道または車道としたことにより車道の幅員を拡大してある場合には、その拡大してある車道部分は道路交通法にいわゆる交差点に包含され、したがつて本件においては、右の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(チ)(イ)各点を順次直線で結んだ線内の車道部分全部が、双方の車道の交わる部分であつて、右の交差点にあたる、と解すべきである。故に右の(イ)点は、交差点の側端にあたる。被告人は、交差点の側端から5メートル以内の場所に自動車を駐車したことが明かである。
名古屋高裁 昭和37年11月26日
自転車が変形交差点を右折する際には、交差点の範囲が決まらないと右折するラインがわかりません。
ここまでが基本。
当該現場の交差点の範囲
では冒頭の件について、交差点の範囲とはどこになるのでしょうか?
イメージはこう。
ちょっと分かりにくいけど、下→左に行くことは「直進」です。
さて、交差点の範囲に隅切りを含むことを考慮して垂直方式で交差点の範囲を決めるとこうなります。
この交差点はまだ分かりやすいのですが、交差点の外縁に横断歩道があります。
つまり34条3項により「交差点の側端に沿って徐行」すると、必然的に横断歩道上又は横断歩道の直近を通過することになる。
○一段階目
○二段階目
横断歩道上又は横断歩道の直近を通過することになるため、二段階目は横断歩道の信号に従うことになる。
信号の種類 | 信号の意味 |
人の形の記号を有する青色の灯火 | 二 特例特定小型原動機付自転車(法第十七条の二第一項に規定する特例特定小型原動機付自転車をいう。以下この表において同じ。)及び普通自転車(法第六十三条の三に規定する普通自転車をいう。以下この条及び第二十六条第三号において同じ。)は、横断歩道において直進をし、又は左折することができること。 |
横断歩道を横断後に右に進路を変えて進行する際は、この交差点においては信号規制がないのでそのまま進行して構いません。
非普通自転車は理屈の上では歩行者用信号に従う義務はありませんが、注意義務として信号に従うことになるので変わりません。
若干分かりにくいのは、この交差点についてはこれは直進になります。
目安になる点線が道路に引いてあるので。
二段階右折しろやゴルァ!だけでいいの?
「二段階右折しろやゴルァ!」と言うだけならバカでもできるけど、変形交差点の場合にはそもそも「二段階右折のラインがわからない」ことが多い。
横断歩道がある場合は簡単です。
横断歩道は交差点の外縁になるように設置されるので横断歩道に沿って進行すればよい。
自転車の二段階右折って、そりゃ十字路ならわかりますよね。
変形T字路になると、一瞬頭の中に「?」が浮かびます。
迷っている時点で危ないので、多少ラインを間違えたとしても違法性があるとは考えませんが、例えばこれ。
①と②、どちらが正解なのか?について走りながら即断することは困難です。
しかも判例上はどちらも正解。
変形T字路の交差点の範囲については、統一見解がありません。
側線延長方式を採用した名古屋高裁判決。
本件においては、駅前通の車道と乙通の車道とが丁字形をなして交わる部分すなわち別紙図面AFBCDEA各点を順次直線で連結した範囲内の車道部分が交差点である。その部分の全部が交差点であることは、疑がない。
名古屋高裁 昭和38年12月23日
始端垂直方式を採用した広島高裁 昭和45年3月19日判決。
そうすると、下記はどちらも間違いとは言えなくなる。
①で進行した場合、二段階目の信号が見えない位置になることもあり、その場で停止する必要性も怪しい。
②なら二段階目で信号規制を受けます。
結局、自転車の二段階右折ってこのような変形交差点だと「定説がない状況」。
どちらも間違いとは言えなくなるわけですが、こんな曖昧な状態で「自転車は二段階右折だろがゴルァ!」と言ったところで、違和感があります。
これが違反だと言うのはバカでもできるけど、じゃあ「正解のラインを教えてくれ」と言われて即答できないなら、
どこか自己満足なんじゃないかなと思ったりする。
自転車のルールとして「二段階右折」は調べりゃわかるでしょうけど、実際の交差点がきれいな十字路ばかりではないし、変形交差点の二段階右折になると答えが必ずしも一つとも言えなくなる。
そもそも二段階右折にしている理由は、速度が遅い軽車両を「歩行者の横断に近い形で」通行させることで安全を確保する点にあるので、わからない場合は「横断歩道に沿って」というのが正解。
けど、こうした実務に沿った二段階右折について解説してくれる人はいないのよね。
きれいな十字路を引き合いにして二段階右折を説明されても…必ずしも役に立つわけではないし。
あくまでも「交差点の側端に沿って徐行」なので、交差点の範囲が決まらないと右折するラインはわかりません。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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