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信号が故障していた交差点で車両同士が衝突。どう考える?

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信号が故障した交差点で衝突事故が起きた場合、刑事責任をどのように考えるのか?という問題がありますが、一方は「青信号」、一方は「信号が故障」。

 

両者ともに業務上過失致傷罪に問われた判例があります。

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信号が故障した交差点の衝突事故

判例は福岡地裁小倉支部 昭和45年1月16日。

 

事故の態様です。

A車(大型車)は対面する信号機の赤信号が点灯してない様子をみて、そのまま漠然進行。

当日が日曜日で早朝のことでもあり、手前の交差点二ヶ所を通過したときいずれもその信号機が作動していなかつたことから、本件交差点も信号機のスイツチを入れていないと考え、制限時速40キロメートルを約10キロメートルオーバーした時速約50キロメートルのまま、同交差点を通過しようとし、その手前約19.6mの地点において警音器を吹鳴したのみで進行したところ、右斜前方約24.9m(交差点の手前約13.5m)の地点において右側道路からまさに交差点に進入せんとする相被告人Bの運転するワンマンバスを認めあわてて急制動の措置をとりハンドルを左に切つてこれを避譲しようとしたが間に合わず本件事故に及んだ

B車(バス)は対面する青信号に従って進行し衝突。

 

なかなか珍しいことに、A、Bともに業務上過失致傷罪に問われた判例です。

A運転者被告人→B及びBバスの乗客をケガさせた
B運転者被告人→A及びBバスの乗客をケガさせた

さて、信号が故障していたことをどう捉えるのでしょうか?

まずはAから。
Aにとっては「信号がない交差点」になり、しかも「左右の見通しが効かない交差点」になるため道路交通法42条により徐行義務がある。

(徐行すべき場所)
第四十二条 車両等は、道路標識等により徐行すべきことが指定されている道路の部分を通行する場合及び次に掲げるその他の場合においては、徐行しなければならない。
一 左右の見とおしがきかない交差点に入ろうとし、又は交差点内で左右の見とおしがきかない部分を通行しようとするとき(当該交差点において交通整理が行なわれている場合及び優先道路を通行している場合を除く。)。

したがってAは「徐行義務を怠り漠然時速50キロで進行した過失」として有罪。

本件交差点進入前に被告人Aの目撃した北面の信号機は、赤信号のみが電球の球切れのため点灯せず、しかもその間東面と西面の信号機が青又は黄の信号を表示していることは被告人Aにとつて予見できなかつたことが認められる。

 

しかし、信号機が設置されていても信号の故障により正常に信号の表示がなされていない交差点は、その信号機に対面する運転者にとつてはいわゆる交通整理の行なわれていない交差点(道交法42条参照)になると解すべきである

 

福岡地裁小倉支部 昭和45年1月16日

次に青信号に従って進行した被告人B。
こちらについては信頼の原則を認めて無罪。

検察官は、「本件交差点のように、人家、板塀のため見とおしのきかない交差点においては、乗客多数を輸送する職務の特殊性を考慮のうえ、信号の如何にかかわらず、左右の交通の安全を確認することが必要である」と主張する。

 

しかしながら、以上認定のような情況の下において、本件交差点に進入しようとする自動車運転者に対しては、他に特別の事情のないかぎり、あえて交通法規に違反して高速度で同交差点に進入しようとする車両のありうることまでも予想し、徐行又は一時停止して左右の道路の安全を確認して事故の発生を未然に防止すべき注意義務はないと解するのが相当である(最高裁判所昭和43年12月17日第三小法廷判決、同12月24日第三小法廷判決 判例タイムス230号254頁参照)。

 

しかして、一方被告人Aは、前示認定のとおり対面信号機の信号が故障し、左右の見とおしのわるい交差点であるのにかかわらず、あえて本件交差点に時速約50キロメートルで進入したものであり、かかる以上被告人Bに対し前記注意義務違反を認めることはできない。

 

また検察官は、被告人Bが本件交差点内に進入直後の相手方車両の発見可能な地点をとらえ、その瞬間ハンドル、ブレーキ操作により急停車、避譲の措置に出て出会い頭の衝突事故を未然に防止すべき業務上の注意義務があると主張するようであるが、前記の如く同被告人が交差点の手前において徐行または一時停止して左右に通ずる道路の安全を確認すべき義務がない以上、時速約25キロメートルで交差点に進入した同被告人としては、たとえ左斜前方約24.9mに時速約50キロメートルで南進してくる相手方車両を認めたとしても、発見可能な地点から衝突地点までの距離が約15.4mであるから、実験則上これとの衝突を回避することは不可能に近く、本件交差点の具体的状況を前提とするとき検察官主張の如き注意義務はない。

 

福岡地裁小倉支部 昭和45年1月16日

この場合、交差道路から進行してくる車両が徐行義務を果たして進行してくることを信頼してよいということです。

信頼の原則

ちょっと前にも書きましたが、

 

やっぱり無罪…警察と検察のミスが浮き彫りになった「被害者の赤信号無視見落とし事件」。
ちょっと前になりますが、被告人が交差点を右折する際に対向直進バイクが「赤信号無視で」交差点に進入してきて起きた事故。 検察は「被害者の赤信号無視」を見落としたまま起訴していましたが、やはり無罪判決だそうな。 福岡県古賀市で車を運転中、赤信号...

 

赤信号を無視して進行してくる車両を予見する義務については「特別な事情がない限り」は無い。
信号無視が予見される特別な事情があったとして有罪にした判例もありますが、ほとんどの場合は「特別な事情」を示すことはムリでしょう。

 

ちなみにこの判例、両者ともに被告人になっているのでやや珍しい判例ですが、刑事事件は「被告人に過失があったか?」を問うので、「被告人と被害者、どっちが悪いか?」を決めるものではありません。

 

また、被害者に赤信号無視があったから必ず信頼の原則で無罪になるわけでもありません。

 

ところで先日のこれ。

 

やっぱり無罪…警察と検察のミスが浮き彫りになった「被害者の赤信号無視見落とし事件」。
ちょっと前になりますが、被告人が交差点を右折する際に対向直進バイクが「赤信号無視で」交差点に進入してきて起きた事故。 検察は「被害者の赤信号無視」を見落としたまま起訴していましたが、やはり無罪判決だそうな。 福岡県古賀市で車を運転中、赤信号...

 

被害者の「信号無視」を見落として被告人を起訴した案件ですが、普通の感覚でいえば被害者の信号無視が発覚した時点で起訴取り消しにするのが筋。
けど、過失運転致傷罪は「赤信号無視車両を予見する特別な事情」を示せれば有罪にできるシステムである以上、起訴取り消しにしなかったことが違法とも言い難いことになってしまいます。

 

単に検察官がミスを認めたくないために有罪立証を継続したと考えられますが、「見解の相違だ」とか「我々の主張が認められず残念だ」とか「信頼の原則を否定する特別な事情があると考え起訴取り消しにしなかった」などといくらでも言い訳が成り立ってしまうのよ。

 

法律の世界って不思議ですよね。
私が行政訴訟したときも、行政側敗訴後の談話は「我々の主張が認められず残念だ」になったわけですが、多くの専門家が「そりゃ行政側がおかしいわ」という意見でも「見解の相違だ」という逃げ文句が用意されているだけ。

 

関わらざるを得ない立場になると、悲惨なんです笑。
被告人の方には同情します。

 

「見解の相違」とか「我々の主張が認められず残念だ」みたいな逃げ文句が用意されている世界は、一歩間違えばやりたい放題になりますから…

 


コメント

  1. きゃばりーのらんぱんて より:

    鉄道信号であれば、信号機が全消灯の場合「停止」となるので、信号機を越えては進めませんし、もしも信号機を通過したならATSで非常制動がかかります。
    ただ、信号機のランプ切れではATSは作動しないかも知れませんけど。
    道路でもATSが有ればいいのになぁ。

    • roadbikenavi より:

      コメントありがとうございます。

      鉄道はそうなんですね。
      道路では、「今日は信号がお休み」と考えて無減速で突破…

  2. きゃばりーのらんぱんて より:

    昔は(いつかは不明)現示が何もない、または停止(赤信号)の信号機の直前で一旦停止して、5分後以降にATSを切って時速15㌔未満で進行ができたのですが、信楽高原鉄道での事故以降は、何が何でも信号機を越えてはならず、司令に連絡して指示に従って列車の在線位置と指令所の信号現示を確かめないと発車できなかったと思います。ATSも簡単に解除出来なくなりました。鉄道は沢山の事故を教訓に安全策を積み上げて今に至ります。
    フェイルセーフの概念が希薄であった昔ならではの事故ですね。
    交差点の信号が何も点灯してない場合は「最大限の注意」をしなさいとの判例が欲しかったのかもしれませんね。

    • roadbikenavi より:

      コメントありがとうございます。

      信号が故障したら信号がない交差点とみなすのは妥当ですが、そもそも徐行義務はほとんど守られてないような…

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