こちらで書いた件ですが、

あえて書かなかったのですが、どうもこの方、自転車保険に入っていない模様。
自転車保険に入っていない模様
事故の態様はこう。
状況はサイクリングロードで起きました。私と歩行者の進行方向は同じで私が10M程度手前から歩行者を認識しており、ベルを鳴らしながらブレーキをかけて減速しながら走行しました。歩行者は親子で母親は左端、息子が中央にいて右側が空いていたため私はベルを鳴らしながら右側をすり抜けた時に息子が急に右に動き私の左腕に衝突し私は右側に転倒しました。
息子さんは私の自転車に尻もちを付きましたが特に大きな怪我はありませんでしたが私は右にコンクリート柵があり、そこに激突したので肋骨を骨折してしまいました。
その後、一緒に居た母親が「あなたが100%悪い、110番してください!」と言ったので110番しました。その後警察で調書を作成しましたがその時、担当のお巡りさんには「歩行者の不注意もある」とおっしゃってましたがこの場合、どうなりますか?
被害者の後ろ方突っ込んだなら私が100%だと言われても仕方がありませんが、横から押されて倒れるのは避けようがありません。自転車に乗ってるということだけで加害者と決めつけられて正直腹が立ちました。怪我も私のほうが重症です。なのに相手は示談金目当てに毎日通院しているようです。
こういうケースでも自転車の過失は大きいんでしょうか。
文字から読み取れるイメージはこのような状況なのかと思われますが、
ベルを鳴らしたなら、子供がベルを聞いて自転車が接近していることを察知したことを確認してからじゃないと追い抜きしちゃまずいのです。
子供の動きは予測不可能なので、不意な動きをすることは「予見可能」。
幸いなのかご本人は骨折したものの、子供の怪我は軽症なんだと思われますが、自転車保険に入っていないとまあまあの出費になります。
要はこの文章から読み取れるのは、自転車の立場から見て「回避不可能」なアタックを仕掛けられたのだから、自転車が悪いと言われるのはおかしいと考えていらっしゃるのかと。
その気持ちはわかりますが、残念ながら民事の過失割合でいうなら圧倒的に自転車の方が分が悪いです。
例えばこういう判例があります。
判例は東京地裁 平成15年6月26日。
事故の態様としては、生活道路(車道幅員5.4m)を時速30キロで進行中に、マンションのスロープからスケボーで飛び出したことによる死亡事故。
ところで、(2)で述べたような、本件マンションのスロープで危険なスケートボード遊びをし、しかも、間近に迫っている加害車両に気付くことなくスロープを滑り降りた亡被害者の落ち度と、(3)で述べた被告の落ち度とを単純に比較するならば、被告の主張するように、亡被害者の落ち度の方がより大きいと言えるだろう。
しかし、交通事故における過失割合は、双方の落ち度(帰責性)の程度を比較考量するだけでなく、被害者保護及び危険責任の観点を考慮し、被害者側に生じた損害の衡平な分担を図るという見地から、決定すべきものである。歩行者(人)と車両との衝突事故の場合には、被害者保護及び危険責任の観点を考慮すべき要請がより強く働くものであり、その保有する危険性から、車両の側にその落ち度に比して大きな責任が課されていることになるのはやむを得ない。特に、被害者が思慮分別の十分でない子供の場合には、車両の運転者としては、飛び出し事故のような場合にも、相当程度の責任は免れないものというべきである。
平成15年6月26日 東京地裁
クルマの場合と自転車の場合ではいろいろ違いはありますが、要は民事の過失割合って「どっちが悪い」を示すわけでもないんですよね。
賠償責任制度ってそういうもの。
ベルを鳴らしたなら、子供がベルを聞いて自転車が接近していることに気がつくまでは追い抜きしないほうがいいのです。
もちろん、子供(親)が無過失にはならないでしょうけど、サイクリングロードでの事故判例を見ていると歩道に準じた扱いをしているように感じます。
道路交通法上は歩道ではなく道路(歩道と車道の区別がない道路)ですが、そもそも道路交通法通りに判断するという仕組みではないので。
なので自転車保険に入っていないと、まあまあややこしい。
最低1億円タイプはもはや必須です。
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「自分は悪くない」と思っても、法律上は真逆になるなんて普通ですから。
過失割合が思ったとおりにならない事例
過失割合が思ったとおりにならない事例をいくつか挙げてみます。
歩道からノールック横断してきた自転車と衝突
判例は東京地裁 平成20年6月5日。
車道通行自転車と「歩道からノールック横断してきた自転車」が衝突。
車道通行自転車は片半身の麻痺と言語障害が残った重篤な事案です。
「歩道からノールック横断してきた自転車が悪いに決まってんだろ!」と思う気持ちは理解しますが、判決は50:50です。
このようになった一つの理由としては、車道通行自転車が横断歩道&自転車横断帯を通過したときに、歩行者用信号が青に変わったという点。
もちろん車道通行自転車は信号無視にはなりませんが、横断歩道等が青信号に変わった以上は「ショートカットして横断する自転車が予見可能」という判断。

道路交通法36条4項は、「車両等は、交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等、反対方向から進行してきて右折する車両等及び当該交差点又はその直近で道路を横断する歩行者に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。」と規定し、また同法38条1項は、「車両等は、横断歩道又は自転車横断帯(以下この条において「横断歩道等」という。)に接近する場合には、当該横断歩道等を通過する際に当該横断歩道等によりその進路の前方を横断しようとする歩行者又は自転車(以下この条において「歩行者等」という。)がないことが明らかな場合を除き、当該横断歩道等の直前(道路標識等による停止線が設けられているときは、その停止線の直前。以下この項において同じ。)で停止することができるような速度で進行しなければならない。」と規定している。
自転車は、車両であるから、「道路を横断する歩行者」と同視することはできず、また、被告は、本件横断歩道から約9.35m離れた地点から車道を横断しようとしたのであるから、「横断歩道等によりその進路の前方を横断しようとする歩行者等」と同視することもできないのは、原告らが主張する通りである。
しかしながら、被告が横断しようとした地点は、本件横断歩道からさほど離れていたわけではなく、また、歩道との段差がなく、歩道からの車両の進入が予定されていた箇所であったことに加え、原告運転の自転車が本件横断歩道を通過する際、車道信号A1の表示は赤信号であり、歩行者信号Bの表示は青信号であったのであるから、本件横断歩道上のみならず、被告運転の自転車が車道に進入してきた地点からも、本件道路を横断すべく車道に進入してくる歩行者や自転車があることは想定される状況にあったというべきである。そして被告にとってと同様に、原告にとっても、配電ボックス等の存在により、必ずしも見通しがよくなく、上記の箇所から車道への進入者等の存在は十分確認できない状況にあった。
したがって、原告は、自転車を運転して本件横断歩道を通過させるに際し、被告運転の自転車が車道に進入してきた地点から横断しようとする者がいることを予想して、減速して走行するなど、衝突することを回避する措置を講ずるべきだった義務があったところ、原告がこのような回避措置を講じたことは認められないから、本件事故の発生については原告にも一定の落ち度を認めるのが相当である。
東京地裁 平成20年6月5日
何ら道路交通法上の違反がない事例でも、得意の「予見可能」が発動して50:50にされる。
ちなみに50%減額しても賠償総額は9000万を越えていますが、20代で重篤な後遺症が残った影響です。
逆走自転車が相手でも
逆走自転車は右側通行という重大な違反をしていますが、順走自転車と逆走自転車が衝突してもこれですよ。
足踏み式自転車においては、左側通行が徹底されているとはいえない現状であること、足踏み式自転車においては通常速度がそれほど速くないことから、自己の進路上に対向する足踏み式自転車が存在したとしても、停止や回避の措置により衝突を回避することは極めて容易であることなどを考慮すると、本件道路のような狭路で自転車が正面衝突した場合、過失割合は、基本的には五分五分と考えるべきである。
大阪地裁 平成28年9月16日
もうね、変な声が出ちゃいますよ。
ファッ!?と発狂しても五分五分がベース。
対歩行者だとこんなのが比にならないわけでして、自転車保険にカネを投入することは自分を守ります。
ちなみに「ベル」の件

という質問を頂いたのですが、サイクリングロードは歩道ではなく「歩道と車道の区別がない道路」なので、
に該当するなら鳴らしても違反にはなりません。
ただしトラブルになりやすいので、子供を抜くなら「通ります」などと声をかけて、子供が振り向くなど自転車の接近を察知したことを確認してから抜くほうが良い。

ベルを鳴らしたなら、子供がベルを察知したことを確認してから抜くべきとなります。
まあ、「回避不可能」と考える気持ちはわかりますし、ノールックアタックのような形で突撃した方が悪いと思う気持ちもわからないわけではないのですが、民事の過失割合ってそうはならないです。
だから自転車保険が大事だし、子供を抜くときは細心の注意が必要になります。
多摩川なんか行くと、子供のすぐ横を減速もしないままかっ飛ばす自転車とかいますが、事故になれば過失致死傷罪になり、過失割合も自転車が多め。
現実がそうなっている以上、自転車が注意するしかないんですよね。
自転車対歩行者の事故、自転車対自転車の事故ってそういうもの。
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2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
コメント
事例で上げられている、スケボーと自転車の事故ですが、
(後段から察するに、被害者が子供だったこともあるでしょうけど)
スケボーも「歩行者」と扱われるのですね。
対歩行者だと逆転するのでしょうけど、対自転車だと対等なくらいかと思います。
コメントありがとうございます。
スケボーは歩行者になりますが、交通の頻繁なところでは禁止されているため完全な歩行者とは見なされないこともあります。