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「同一進路」と車間距離の話。

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先日書いたこちらについてご意見を頂いたのですが、

 

自転車の左折巻き込み事故。アホ同士の仁義なき闘いか?
これ、以前も話題になっていましたが、 確かクルマ:自転車=100:0で示談した(?)みたいな話だったような気がする。 いいですよね。 示談の場合、双方が合意していれば自由に過失割合を決めることができますし。 そもそもですが 裁判したときにも...

 

「進路」の件。

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同一進路とは

進路とはこのように解釈されますが、

「進路」とは、当該車両の幅に相当する道路の部分であり、車両(自転車を含む。)は、他の車両通行帯に進行方向を変える場合のみならず、同一車両通行帯内であっても、みだりに進路を変更することは禁止されている(道路交通法26条の2第1項)。

 

福岡高裁 令和2年12月8日

二輪車の場合、もちろんですが乗り手も含めた幅の話。
一部でも重なりがあれば「同一進路」と見なされますが、

これを見る限り、双方がまっすぐ走ったときに衝突しないとは言えないわけで、このくらいだと「進路が重なっている」なんですね。
つまり同一進路上。
もちろん「追いついた時点」での進路が問題になるので、さらに迫ってからの話ではない。

下り坂、時速50キロと考えると、そもそもこの時点で車間距離保持義務に違反なんですね。

道路交通法26条1項の「先行車が急に停止したとき」とは、先行車が制動機の制動力によつて停止した場合のみならず、制動機以外の作用によつて異常な停止をした場合も含むとした原判決の判断は相当である

 

最高裁判所第二小法廷 昭和43年3月16日

実際のところ判例を見ても、「進路」が多少なりとも重なりがあったなら車間距離保持義務違反の過失を自転車に認定しているので(東京地裁H21.12.22)、

この東京地裁H21.12.22判決は自転車過失が30%(車間距離不保持の違反)。

 

民事責任上、自転車のスピードが30キロ以上だと自転車としてではなくオートバイ同様に扱われるのですが、左折巻き込みだから必ず左折車の過失が大きいなんて話でもなくて、神戸地裁 平成28年8月31日判決は後続二輪車の過失が90%。
衝突部位は左折車の側面。

東京地裁 平成29年1月13日判決は左側端に寄らないまま道路外左折して起きた事故ですが、後続二輪車の過失が100%(左側端に寄らなかったことと事故の因果関係がない)。

逆に、後続自転車が適正な車間距離を保持していた等として自転車の無過失を認定した判例もあります。

本件の事故態様は、原告自転車が、一定の車間距離を開けて被告車に追従していたところ、被告車は、本件現場の手前で減速したものの、被告車を左側に寄せることなく、左折ウインカーを出さずに、本件駐車場に進入しようと左折を開始し、原告は、被告車が左折を開始して初めて、被告車が左折しようとしていることを認識し、ブレーキをかけたものの、それにより、原告自転車の後輪が浮き、原告自転車ごと体が前方に投げ出され、被告車の左後輪付近に原告の体が衝突したものであったと認められる。

このような事故態様からすると、被告には、左折するにあたり、方向指示器により合図をし、左折が終わるまでその合図を継続しなければならない義務(道路交通法53条1項)、道路外に出るために左折するときは、あらかじめその前からできる限り道路の左側端に寄り、かつ、徐行しなければならない義務(同法25条1項)、被告車のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない義務(同法70条、以下「安全運転義務」という。)を負うにもかかわらず、これを怠り、追従して進行する原告自転車から、被告車があらかじめ本件駐車場に進入するために左折することを認識できないまま、左折を開始し、原告自転車の進路を妨げ、急ブレーキの措置を取らせた過失があるといえる。

(中略)

他方、被告車が、道路の左側端に寄ろうとして方向指示器による合図をした場合には、原告自転車は、その速度及び方向を急に変更しなければならないこととなる場合を除き、被告車の進路を妨げてはならない義務を負うが(同法25条3項)、上記のとおり、被告車は左側端に寄らず、方向指示器による合図もしていないから、原告にそのような義務があるとはいえない。また、原告も、安全運転義務を負うが、交差点における左折とは異なり、本件現場で被告車が左折することを認識するには、左折ウインカーの点滅を初めとする被告車の動向に寄らざるを得ないところ、被告は左折ウインカーを出さず、左側に寄せることもせず、本件現場手前で減速を開始したものの、その減速の程度が被告車の停止や左折を予想させるに足りるものであったと認定できないことからすれば、原告は、被告車の左折開始までの認識、予想することはできなかったというべきであり、原告が被告車に追従して原告自転車を走行させたことに安全運転義務違反があったとはいえない。また、上記認定の被告車の左折の態様からすれば、原告が原告自転車のブレーキ操作等により転倒を回避できる時点では、被告車の左折開始を認識しなかったことが、原告の前方不注視や不十分な車間距離にあったとただちに認めることはできず、他にこれらを認めるに足りる証拠もないから、本件事故の発生につき、原告に過失があるとは認められない。

 

名古屋地裁 平成29年11月22日

 

動画のケースでは左折車の過失がゼロになることはないでしょうけど(左折前に確認したようには到底見えない)、自転車にも交通法規上の違反(車間距離保持義務、前方不注視)があるので、アホ同士がガッチャンコしたようにしか見えませんけど…

 

「進路」という概念を理解することと、進路が重なっていない前提の判例や基本過失割合を見ても無意味。
この場合は衝突・接触せずに通過できる関係にはないのだから、「同一進路上」の事例を検討することになります。

実際のところ、同一進路上だったことを前提に捉えた判例が多いのか?というとたぶん少ない。
結局、立証できなかったり主張しなければ事実として認定されませんし。

 

そして同一進路上にある状況で追いついてから進路変更しているので、左側追い越しにすらなる。

そもそも

結構不思議に思うのは、この手の話に対して「進路が異なる場合の事例」を持ち出す人。
最初から違う進路だった事例と、少しでも進路が重なりがあった事例は全く違う。

 

ドラレコが普及してそういった部分も争点にできるようになったとも言えますが、この事例、仮に左折車が左側端に寄っていたとしてもどのみち衝突しているように見えますけどね。

 

車間距離って大切だよなあと思わされる事例です。
あとそもそも「左折巻き込み」という点に着目するから事実認定がおかしくなるんだよなあと思わされる事例でもありますが、逆にいえば裁判するときにきちんと事実を認定してもらうための主張をしないとダメなんですよね。

 

少しでも進路に重なりがあれば車間距離保持義務の問題が大きくなりますが、判例を見ても進路が別だったか?が争点になっているものも見かけます。
似たような事例に思えても過失割合は全然違うのですが、個人的には「自転車に違反がない」と見ている人がまあまあいることに危機感と言いますか。

 

なので、アホ同士がガッチャンコしただけの事故になりますが、民事は双方が合意しているなら自由に過失割合を決めて構わないわけで。
しかし、なぜに何らかすりもしない判例を出す人とか出てくるのかさっぱりわからない。

 

例えばこのような判例があります。

 

二  本件事故の態様
(二)  被控訴人は大型貨物自動車の荷台に石灰砕石を満載し、これを運転して旧国道45号線を国鉄盛駅方面から大船渡駅方面に向け南進し、本件交差点で左折すべく方向指示器を点滅させ左折の合図をしながら同交差点に接近したのであるが、折りから停止信号であったため数台の先行車両に続いて停止し、まもなく信号が変り前進したものの、交差点附近を通過する車両が多かったため、ふたたび同交差点で信号待ちをした。そして被控訴人は、横断歩道手前の停止線附近で同一方向に進む車両の最先頭に道路左側端までかなりの余地を残して停車していたのであるが、右停車の間バックミラーを通して左側後方を注視することがなかったので、この間に数台の後続車両の左側を通り抜け自車の左側に入り込んで来た被害者の足踏自転車に全く気付かなかったまもなく信号が変ったので、同被控訴人はバックミラーにより左後方を確めたところ、一台の自動二輪車(被害者の自転車の後続車両)を認めたのであるが、同二輪車がそのまま停止を続ける様子であったので、それ以上左側方に注意を払わず発進した。ところで同交差点左方は鋭角の進入路であるため、被控訴人は発進後やや大廻りしながら赤崎町方面に向け左折を開始し、右市道の横断歩道上を通過した際何かに接触した気配を感じ、これを確認すべく左右のバックミラーを見たものの特に異常を認めなかったので、そのまま九メートル程進行した地点で一時停止し右側の窓から顔を出し後方を確認したところ、自車右後車輪附近に倒れている被害者を発見した。

(三)  一方被害者は旧国道45号線を足踏自転車に乗って被控訴人車両と同一方向に走行し、同車両より遅れて同交差点に至り、信号待ちをしている被控訴人車両の後続車の左側を通り抜けて被控訴人車両とほぼ並列状態で停止した。そして信号が変わるや被控訴人車両とほぼ時を接して発進し、同交差点を直進しようとして同交差点中程まで進行したところ、左折して来た被控訴人車両の左側前部附近と接触して自転車もろとも横倒しとなり、そのまま進行を続ける被控訴人車両の左右前車輪の間に入り込む形となり、その結果後車輪で身体を轢過されてしまった。

赤信号停車中に空いていた左側端に被害自転車が入り込んできた、つまり事実認定として最初から追い越しでもないし、進路が同一だったという認定でもない。

 

そのような事故態様であれば、当然こうなる。

 

四  被害者の過失

(中略)

なお、被控訴人らは、道路交通法第34条第5項を根拠に被害者には被控訴人車両の左折進行を妨害してはならない義務があるのにこれを怠った過失がある旨主張するが、同条項は先行車が左折のため従来の進路を変更すべく左折の合図をした場合において、その進路の変更、左折の場合には道路の左側端への移行を妨害してはならない旨の義務を後続車に課した規定であって、本件の場合には当らず、従って右主張は理由がない。
また被控訴人らは、被害者は交差点における軽車両の通行方法に違反し、しかもその左側を追越そうとした過失がある旨主張する。足踏自転車のような軽車両が交差点を右折する場合の通行方法については道路交通法第34条第3項の規定するところであるが、交差点を直進する場合の通行方法については道路交通法上特別の定めはない。従って軽車両が交差点を直進する場合には、自動車の場合と同様の通行方法をとることは適法と解せられるのであるから、通行方法に違反するとの被控訴人らの主張は当らないし、また前記のとおり被害自転車は右交差点で被控訴人車両と並列状態で停車していたのであるから、彼と此とは「進路」を異にするものがあり、従って本件は追越の場合に当らないと考える。

 

仙台高裁 昭和52年9月21日

事実認定が「信号待ち停止中に左側に入り込んだ」なので進路が違うし追い越しには該当しないことを認定してますが、信号待ち停止中車両の左側をすり抜けることが追い越しに当たらないのは当たり前。
並列状態で停止していたから進路が違う」という当たり前の判示をしてますが、もちろん動画のケースとは何ら関係する要素がない。

 

義務、過失を考える上では進路が同一だったのか別だったのかでだいぶ変わりますが、少しでも重なるなら車間距離保持の問題になります。

なのでこの件を見ると、車間距離の問題と前方不注視の問題が出ますが(速度と先行車の様子にあわせて車間距離を取り前方注視していれば事故を回避できた)、左折車もアホなことに後方確認した様子がない。
左折車が後方確認していれば自転車が高速度で左側から追い越しして事故を回避できたと言える以上、左折車の過失がゼロにはなりませんが、

双方ともに違反も過失もある事故なので、どっちが悪いという話ではないのですけどね。
以上の理由からアホ同士がガッチャンコした事故でしかない。
そして民事の場合、当事者同士で合意したなら好きに過失割合を決めてよい。

 

ちなみに時速30キロ以上の自転車は民事責任上、自転車ではなくオートバイ同等に検討されます。
免許が必要な原付以上の速度を出している以上、自転車として優者危険負担の原則を適用する理由がないから当然とも言えますが。


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