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横断歩道事故(38条1項)と運転免許取消処分。事故を起こすとどうなる?

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近年、警察が横断歩行者等妨害等違反(道路交通法38条)の取締りに力を入れているためそこそこ話題になりますが、

横断歩行者に普通にぶつかった挙げ句逃走…
この場合は横断歩行者等妨害等違反(38条1項)とひき逃げ(72条)のほか、被害者の怪我の状況に合わせて付加点数が付きます。

 

ひき逃げしなかった場合、行政処分としてはどのようになるのか判例からみていきます。

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横断歩行者妨害と行政処分

判例は東京高裁 平成28年2月17日。
運転免許取消処分取消請求事件です。

 

まずは事故の態様から(イメージ。細部の正確性は保証しません)。

原告は一時停止後に横断歩道の先に駐車車両があることから交差道路と横断歩道の左右を目視してから時速約10キロで右に進路を変えて進行。

被害者(小学生)が小走りで横断し、原告車の左側面(前バンパーから約3.0m後ろ)に衝突して負傷。

この件について、行政処分としては以下の処分。

内容 法条 点数
一般違反行為(横断歩行者等妨害等違反) 法38条1項後段 2点
付加点数(治療期間が3か月以上である人の傷害に係る交通事故が専ら当該違反行為をした者の不注意によって発生したものである場合) 施行令別表第2の3 13点

前歴がなく累積15点になったことから1年間の運転免許取消処分としたことについて、横断歩行者等妨害等違反の不成立と「専ら違反者の不注意」に該当しないと主張して運転免許取消処分の取消を求めた行政事件です。

 

なお、過失運転致傷罪は不起訴処分になっています。
争点は様々ありますが、原告の主張はこんなところ。

・被害者が小走りだったことやクルマの後部に接触していること、原告は一時停止位置において確認していたことなどから「進路の前方を横断しようとする歩行者」(38条1項後段)に当たらないし、時速10キロという「停止できる速度」(前段)を遵守していた。
・違法駐車車両の存在(「専ら」を否定する要素)。
・被害者がよそ見して走っていたこと(「専ら」を否定する要素)
・不起訴処分になっていることから、検察は原告の過失が小さいと判断したはず(「専ら」を否定する要素)。

 

まず一審判決から。

(2) 原告の道交法違反及び不注意の有無について
ア 道交法38条1項は,車両の運転者は,横断歩道等に接近する場合,当該横断歩道等を通過する際に当該横断歩道等によりその進路の前方を横断しようとする歩行者等がないことが明らかな場合を除き,当該横断歩道等の直前で停止することができるような速度で進行し(同項前段),この場合において,横断歩道等によりその進路の前方を横断し,又は横断しようとする歩行者等があるときは,当該横断歩道等の直前で一時停止し,かつ,その通行を妨げてはならない(同項後段)と規定しており,横断歩道に接近する車両の運転者は,横断歩道上の歩行者を優先し,その安全を確保する義務を負うものと解される。そして,このような同項の趣旨からすると,同項の横断歩道によりその進路の前方を横断しようとする歩行者とは,車両等がそのまま進行した場合,その歩行者の横断を妨げることとなるような横断歩行者をいうものと解すべきである。

イ そこで検討すると,前記1(3)ア及びイの認定事実のとおり,本件被害者は,C巡査部長に対し,本件事故当時の状況について,左,右,左の順で安全を確認したものの,少し前方を兄が歩いているのが見えたため,兄に追いつこうとして,少し走ってしまった旨を供述しているほか,本件聴取書にも,知り合いの上級生がいたため,小走りで横断歩道を通行しようとした旨の記載があるところ,これらの内容に特に不合理な点や,矛盾する点は見当たらないことからすると,本件被害者は,本件横断歩道を通行する際,前方を歩行していた兄を発見したことから,少し走った状態で本件横断歩道を通行していたものと認められる。
他方で,前記1(2)ウの認定事実のとおり,本件車両と本件被害者が接触した本件接触地点は,本件横断歩道の原告進行方向左端から右方に約3.2m,本件横断歩道の原告進行方向前端から後方に約1.0mの地点であり,かつ,本件被害者が接触したのは,本件車両の左前部バンパーから約3.0m後方の左後部であるから,本件横断歩道の幅員は3.7mであることを考慮すると,本件事故は,本件車両の前端が本件横断歩道への進入を開始してから約5.7m進行した地点で発生したものといえる。さらに,本件事故当時の本件車両の走行速度は時速約10km(秒速約2.78m)であるから,本件車両が本件横断歩道への進入を開始したのは,本件事故が発生する約2秒ないし3秒前であったものと考えられる。
そして,本件被害者が小走りで本件横断歩道を通行していたこと,本件被害者の年齢,本件接触地点が本件横断歩道の原告進行方向左端から右方に3.2mの地点であったことを考慮すれば,本件被害者は,遅くとも本件車両が本件横断歩道への進入を開始した時点(本件事故の約2秒ないし3秒前の時点)においては,本件横断歩道の通行を開始していたか,本件横断歩道の左方の歩道付近において本件横断歩道の通行を開始しようとしていたものと合理的に推認することができる。
この点に関し,原告は,本件被害者と同年齢の少年の走る速度は秒速約5mであると主張し,「各年齢群における測定項目の比較」と題する書面(甲14)を提出するが,同書面は,7歳から8歳の少年の50m走における最高速度が秒速約5m前後であることを示すものにすぎず,小走りの状態であった本件被害者が本件横断歩道上において秒速約5mで走っていたものとは考え難いし,他に上記推認を覆すに足りる証拠はない。
そうすると,原告が本件横断歩道に接近した時点において,本件車両をそのまま進行させた場合,本件横断歩道において本件被害者の進行を妨げることになることは明らかであったというべきであるから,本件被害者は,本件横断歩道によって,原告の進路の前方を横断しようとする歩行者に該当していたものというべきであり,原告としては,道交法38条1項に基づき,本件横断歩道の直前において一時停止し,本件被害者の通行を妨げないようにする義務を負っていたものと解すべきである。

ウ そして,前記1(2)イの認定事実のとおり,原告が本件交差点を通過中,原告と本件横断歩道及びその両端の歩道との間の見通しを妨げるものはなかったことからすると,原告としては,遅くとも本件横断歩道の直前に至った時点で本件横断歩道の左方を注視していれば,本件横断歩道の通行を開始し,又は通行しようとする本件被害者の存在を確認することが可能であり,本件車両を一時停止して本件被害者と接触することを避けることができたものといえる。
しかしながら,前記1(2)イの認定事実のとおり,原告は,本件交差点を進行中,本件横断歩道の両端の歩道付近を見たものの,本件被害者を発見することができず,本件車両を一時停止させずに本件横断歩道に進入した結果,本件被害者と接触して加療6か月を要する本件傷害を負わせるに至っているところ,原告が本件被害者を発見できなかった主な要因は,本件駐車車両を避けようとし,主に本件駐車車両及びその右側の道路上付近に注意を向けていたことから,本件横断歩道の両側の歩道付近の確認が不十分であったことによるものと考えられる(原告自身,その本人尋問におい
て,「私自身は,駐車車両がもちろんありましたから,通れる道幅が狭くなっていますから,余計にゆっくり行かないといけないということで,当然,前の方を注視して車を少しずつ進めていたわけです。」(原告本人調書7頁),「むしろ車が進んでいく進行方向を十分に注意しないと,別なところでぶつかってしまったりするわけですから,そこは注意せざるを得ないというふうに思っております。」(原告本人調書21頁)と供述していることに加え,前記1(2)オの認定事実のとおり,原告供述調書にも,本件駐車車両との間隔を気にしてしまい,前方を横断しようとしてしまった歩行者を見落としてしまった旨の記載がある。)ことからすると,原告には,本件事故について,道交法38条1項後段の義務違反があり,かつ,このことにつき不注意があったものというべきである。

エ これに対し,原告は,本件停止位置及び本件交差点の通過中の各時点において,本件横断歩道を通行しようとする歩行者等の有無を確認していたとして,道交法が期待する程度に,本件横断歩道によりその進路の前方を横断しようとする歩行者等の有無を確認したと主張する。
しかしながら,前記1(2)イの認定事実のとおり,原告は,本件停止位置に一時停止した上,本件歩道を通行しようとする歩行者等の有無を確認したことが認められるものの,その時点で本件横断歩道を通行しようとする歩行者等がいなかったとしても,本件横断歩道への進入を開始するまでの間に他の歩行者等が現れる可能性は当然にあり得るのであるから,本件停止位置において歩行者等の有無を確認したからといって,道交法上の義務が尽くされたと評価することはできない。また,前記ウで説示したとおり,原告の本件交差点の進行中における安全確認は,本件駐車車両及びそ
の右側の前方道路上に注意が向けられていた結果,不十分なものであったといわざるを得ないから,原告の上記主張は採用できない。

 

東京地裁 平成27年9月29日

違法駐車車両については横断歩道の見通しには無関係とし、「よそ見して小走り」については運転者の義務を考えれば不注意とは評価できないとし、不起訴処分については行政処分と無関係として請求棄却。

イ 本件被害者がよそ見をして走っていたことについて

また,原告は,本件被害者がよそ見をして走っていたことも本件事故の一因であったと主張する。
前記(2)イで説示したとおり,本件被害者は,前方にいた兄に追い付くため,本件横断歩道を少し走って通行していたことが認められるほか,前記1(2)ウの認定事実のとおり,本件被害者が本件車両と接触したのは本件車両の左後部であったことからすると,本件被害者は,本件車両が目前に迫るまでその存在に気付いていなかったものといえ,本件横断歩道の通行中,本件横断歩道を横から通過しようとする本件車両の存在には注意を払っていなかったものと認められる
しかしながら,前記(2)アで説示したとおり,道交法38条1項によれば,横断歩道に接近する車両の運転者は,横断歩道上の歩行者を優先し,その安全を確保する義務を負うものと解されるところ,上記義務は,自動車運転者にとって交通事故を防止する上で基本的なものであるということができるから,本件被害者としては,原告が上記義務を遵守することを十分に信頼することができる立場にあるものといえる。また,本件被害者は,道交法上,本件横断歩道の通行中に走ることが禁止されているわけではないし,本件横断報道を通過しようとする車両等の存在に注意を払う義務を負っているものでもないのであるから,原告としては,本件被害者が上記のような行動をとる可能性があることも踏まえた上で,本件被害者の通行を妨げないように行動する必要があったというべきである。
したがって,本件被害者が本件横断歩道の通行中に走っていたことや,本件横断歩道を通過しようとする本件車両の存在に注意を払っていなかったことは,道交法上,本件被害者の不注意として評価されるべきものではなく,本件事故の原因となるべき事由には当たらないというべきである。

 

東京地裁 平成27年9月29日

控訴審においては以下を付け加えて控訴棄却。

原判決23頁5行目末尾の次に行を改めて次のとおり加える。
「控訴人は,運転者が横断歩道に進入する際に左右を確認しなければならないのは,横断歩道より停止距離の分だけ手前の地点に至った時であり,控訴人が本件横断歩道の左右を確認しなければならないのは,横断歩道に接近した時であるとした上で,本件被害者は,小走りではなく駆け足をしていたから,本件車両の横断歩道接近時には,本件横断歩道の10数メートル手前におり,控訴人はその存在を把握することができなかったし,また,本件被害者が小走りをしていたにとどまるとしても,本件車両の横断歩道接近時には,本件被害者は衝突地点から約7.5m手前におり,モニュメントの陰にいた可能性が高く,いずれにしても,本件被害者は,本件横断歩道により進路の前方を横断しようとする歩行者等には当たらなかった旨主張する。
しかし,横断歩道接近時に安全を確認すればその後は安全を確認しなくても免責されるとする根拠はなく,前記認定(前記アないしウ)のとおり,本件被害者は,小走りで本件横断歩道を通行していたものと認められ,遅くとも本件車両が本件横断歩道への進入を開始した時点においては,本件横断歩道の通行を開始していたか,本件横断歩道の左方の歩道付近において本件横断歩道の通行を開始しようとしていたものと推認され,控訴人としては,遅くとも本件横断歩道の直前に至った時点で本件横断歩道の左方を注視していれば,本件被害者の存在を確認することが可能であり,本件車両を一時停止して本件被害者と接触することを避けることができたものであるから,控訴人の上記主張は,採用することができない。」

 

東京高裁 平成28年2月17日

横断歩道接近時の注意義務

横断歩行者等妨害等違反について争った行政事件はいくつかありますが、例えば「38条は横断歩道に接近時の注意義務を課したものだから、横断歩道を通過中の車両には適用されない」と主張して、認められなかった判例があります。

横断歩道等における歩行者等の優先に関する車両等運転者の義務等を定めているのは、道交法が、歩行者等の横断の用に共するための場所として横断歩道等を設け(同法2条1項4号、4号の2)、歩行者等に対しては、横断歩道等がある場所の付近においては、当該横断歩道等によって進路を横断しなければならない義務を課していること(同法12条1項、63条の6)との関係で、歩行者等が横断歩道等を横断するときには歩行者等の通行を優先してその通行の安全を図るべきものとし、その横断歩道等に接近する車両等に対して、歩行者等の通行を妨げないようにしなければならない義務を課したものと解される。このような道交法の規定及びその趣旨に照らせば、同法38条1項にいう「横断し、又は横断しようとする歩行者」とは、横断歩道上を現に横断している歩行者等であるか、あるいは、横断歩道等がある場所の付近において、当該横断歩道等によって道路を横断しようとしていることが車両等運転者にとって明らかである場合の歩行者等、すなわち、動作その他から見て、その者が横断歩道等によって進路を横断しようとする意思のあることが外見上明らかである歩行者等のことをいうと解するのが相当である。

 

(中略)

 

原告は、道交法38条1項は、横断歩道等に「接近する」車両等に適用される規定であって、横断歩道上を既に進行中の車両等に適用される規定ではないから、原告車両が本件横断歩道上の進行を開始した後に本件車道の横断を開始した本件被害者は、「横断し、又は横断しようとする歩行者」に当たらないと主張する。
しかしながら、前記(2)で説示したとおり、原告車両と本件被害者は、本件横断歩道上か、又は本件横断歩道に極めて近接した地点で衝突しているのであるから、原告車両が本件横断歩道に接近した時点では、本件被害者は既に本件車道の横断を開始していたか、又は横断しようとしていることが明らかな状態にあったことが推認され、これを覆すに足りる証拠はない。また、仮に、上記のような推認が及ばないとしても、横断歩道等によって道路を横断する歩行者等の安全を図るという道交法38条1項の趣旨に照らせば、車両等が横断歩道等を通過中に、その車両等の進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者等が現れた場合であっても、例えば歩行者等が急に飛び出してきたなど車両等運転者が注視していても歩行者等の通行を妨げない行動に出ることが困難な場合を除き、車両等運転者は、同項に基づき歩行者等の通行を妨げないようにする義務を負うものというべきである。

 

東京地裁 令和元年12月19日

そのほか、「一時停止後に通行妨害があったか?」を争った東京地裁 平成28年2月18日判決などもあります。
一時停止と妨害禁止は別の要件になりますが、一時停止後に通行妨害が起きた事例はむしろ珍しいかも。

 

横断歩道上で横断歩行者と衝突すれば「妨害した」のだから「38条1項の違反」になりますが、付加点数がついて余裕で免許取消になります。
被害者の小走りについては民事過失割合で考慮される可能性はありますが、行政処分上は「専ら運転者の不注意」の範疇。

 

まあ、冒頭の事故のように全力で逃げる場合には逃げるなりの理由がありそうですが、逃げるなりのやましい理由があるなら最初から事故を起こさないように注意したほうが良さそうな。

 

なお、38条に関する行政事件ってまあまあ見かけますが、なかなか凄い主張をしているものもあります。
例えばこんな感じ。

38条1項後段は「妨げないようにしなければならない」と努力義務を課したに過ぎない

努力義務に過ぎないと主張しても「原告の独自見解につき採用できない」などとして棄却されます。
判例をみるときは「原告の主張」がなんなのかは大事ですが、行政訴訟の原告勝訴率が10%以下という理由にしても、そもそも原告の主張内容にムリがあるものが多いからではないか?と思ったりします。


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