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横断歩行者事故と、様々な疑問。横断歩道直近で事故を起こして無罪?

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道路交通法38条1項前段は、「当該横断歩道によりその進路の前方を横断しようとする歩行者が明らかにいない場合以外」は減速接近義務を定めていますが、ちょっと疑問に感じる判例もあったりします。

 

今回はそれについて。

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減速接近義務は問題にしない?

判例は福岡高裁 平成7年1月25日。
業務上過失致死の判例です。

 

まずは事故の態様。
時間は明け方、小雨。
被告人はライトを下向きにし(先行車がいます)、時速40キロで信号がない横断歩道に接近。

被告人車が横断歩道に約15.3mの距離に迫ったときに、被告人車から約13.9mの距離に横断歩行者を発見。

横断歩行者を発見した位置はセンターラインから右に0.6m。
被告人は急ブレーキを掛けたものの衝突した事故です。
なお衝突地点は横断歩道から約0.8m手前の横断歩道外。
歩行者は時速約8キロの早歩き、黒いコート。

 

現場はこちら。
押しボタン式信号は事故後に設置されています。

 

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この事故態様を見たときに、「わかっている人」なら「減速接近義務を怠り、横断歩道の左右を確認しないまま漠然進行した過失」があると考えると思います。
要は38条1項前段の減速接近義務が甘かったという話ですね。

 

一審は有罪なんですが、二審は無罪。

事故現場付近の照明、本件事故当時の天候等を考えると、被告人において前方注視義務を尽くしても、横断開始地点から被告人車両の前照灯による照射可能な地点に到達するまでの間を歩行する被害者を認識することはできなかったのではないかという合理的な疑いが残るので予見可能性があったとはいえない。また、被告人車両が道路を横断中の被害者を前照灯の照射によりとらえることが可能になった時点においては、もはや被告人が急制動をかけても衝突を避けられなかった疑いが残るから、被告人において本件事故の回避可能性があったとまでいえない。

 

福岡高裁 平成7年1月25日

この判例における検察官が示した公訴事実がこちら。

被告人は、平成(略)ころ、業務として普通貨物自動車を運転し、福岡県(略)付近の道路を津古方面から大保方面に向け時速約40キロメートルで進行するに当たり、前方に横断歩道が設けられていたのであるから、前方左右を注視し、横断者の有無及び動静を確かめ、進路の安全を確認しながら進行すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、右前方の注視不十分のまま前記速度で進行した過失により、右横断歩道の直近を右から左へ横断歩行中の被害者(当時70歳)を右前方13.9mの地点に初めて認め、急制動の措置を講じたが及ばず、同人に自車左前部を衝突させて路上に転倒させ(以下略)

結構不思議なのは減速接近義務を問題にしているようには見えず、前方左右の注視義務を問題に起訴している点。
これだと「横断歩道がない場合」と変わらないわけで、個人的には疑問が残る判例です。
事故現場が「横断歩道外」という事情を考慮したのかもしれませんが。

別紙2のとおり、被害者が横断開始地点から被告人車両の照射範囲内に入る地点まで約0.7mの距離があり、時速約8キロメートルで進行すると約0.32秒を要する。この間に時速約40キロメートルで走行している被告人車両は約3.5m進行する。したがって、被害者が横断を開始した時の被告人車両の位置は衝突地点の約25.2m手前になる。被告人車両の制動距離は、前述のとおり、時速40キロメートルで走行した場合、空走時間を1秒、摩擦係数を0.55で計算すると22.34mとなるから、仮に被告人が本件事故当時横断開始地点にいる被害者を視認できる可能性があったとすれば、制動距離として約2.86mの余裕を残すことになるが、この距離を時速40キロメートルで走行すると、約0.26秒を要するにすぎず、本件事故当時予め被告人が被害者の存在を認識していたわけではなく、被害者は県道と交差する道路から県道に出てきたものと思われる(Gの警察官調書(検7号))が、前述した照明、気象状況の中で、県道と交差する道路から時速約8キロメートルの早足で黒いハーフコートを着用した老女が県道に出て横断を開始した場合、これを発見するのが多少遅れてもやむをえないものと考えられるから、発見がこの約0.26秒間遅れたことをもって業務上の過失があると評価することは躊躇される(原審第7回公判での論告において、検察官は、被害者が横断を開始した際の被告人車両の位置は、衝突地点から25.5m手前であり、被告人車両の制動距離は23.5mであるとして、被告人が前方左右を厳に注視して被害者を早期に発見し制動措置を講ずれば、事故を避けることができたと主張しているが、本件事故当時右両者の距離の差である2mの余裕があったとしても、この間を時速約40キロメートルで進行する時間はわずか約0.18秒であるから、なおさらであり、右論告の前提をとったとしても、本件事故を回避できたかどうか疑問が残るといわざるをえなかったものである。)。のみならず、制動距離を正確に算出することには困難性を伴うことを考慮すれば、この程度の余裕をもって被告人車両が確実に事故を回避することができたとはいいがたい。

 

福岡高裁 平成7年1月25日

時速40キロで進行したこと自体を問題にせず、時速40キロで進行した場合に事故の回避が可能だったか?という観点しか出てこない。
時速40キロで進行した場合のライトの照射範囲、歩行者の歩行速度、回避可能性しか判断されていませんが、なぜに検察官は減速接近義務について主張していないのだろうか。

現実的な話として

検察官が主張してないことは裁判では何ら検討されませんが、

見通しがいいとは言えない横断歩道(しかも夜間、小雨)なので、横断歩道の近くで時速40キロというのは速すぎる。
しかしそれについては検察官が主張した形跡もなく、判決には何ら考慮されていない。

 

この判例、話からすると検察官の主張は「もっと早い段階で横断歩行者を視認できたから止まれただろ!」という話にしたかったのかなと思いますが、「もっと早い段階」では視認できないと判断されてしまうと回避不可能となってしまう。
「いるかいないかわからない横断歩行者を優先するために」減速接近義務があるわけですが、まだ暗い時間で下向きライトであれば「もっと減速して横断歩道に接近すべき」だし小雨でウェットな路面であれば「もっと減速して横断歩道に接近すべき」となるはず。

 

なぜに減速接近義務違反を主張していないのかはわかりませんが、一般的には「減速接近義務を果たしていれば回避できた」と評価されそうな気がします。

 

なお、勘違いする人がまあまあ多いのですが、「無罪」であることと民事の過失は別問題です。
過失立証の深さが違うので無罪になっても民事無過失は難しい。


コメント

  1. ゆき より:

    たしかに不思議です。
    横断歩道を渡る義務を果たしてないので主張しなかったのかしら。

    他にありそうな理由としては、雨天や劣化で路面標示の視認性に問題があったとか、道路標識が無かったり隠れていたので減速接近義務を主張し難かったとかですかね?

    正直な所、夜間の雨天時は路面標示である横断歩道の予告の菱形の視認性はあまりよろしく無いですし、
    障害物で横断歩道の標識が視認できた時に減速開始しても間に合うか?みたいな場所も有ります。

    以下余談。
    電柱移設工事で横断歩道の道路標識隠れてるぞと指摘してるけど直らないんですよねぇ。
    自発光タイプの標識で、蛍光灯切れて夜間見えないぞと指摘しても3年以上放置してるし、担当部署がやる気がないのか、予算不足なのか。
    信号のLED化が全然終わってなくて、2028年の信号機用白熱電球の生産、販売終了に間に合わせるためにそっち側に予算取られてる可能性は有りそう。

    • roadbikenavi より:

      コメントありがとうございます。

      「横断歩道外」だからなのかもしれません。
      たまに「事故現場は横断歩道上か?横断歩道外か?」を争っている判例もありますし。

      >電柱移設工事で横断歩道の道路標識隠れてるぞと指摘してるけど直らないんですよねぇ。

      警察さんは予算がないのですよ笑

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