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歩行者の信号無視と信頼の原則。赤信号無視した歩行者を轢いたら無罪?判例から検討します。

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先日の件に関係して。

被害者赤信号無視で無罪の事件、これはいったい…
こちらの続きです。 60m手前で被害者を視認できた? ちょっと気になる内容で、 「被害者が赤信号の横断歩道上で立ち止まった後に飛び出した」という報道もある点。 これに関係する詳細が報道されました。 判決は、事故当時の状況について、車は遅くと...

赤信号無視して進行する車両や歩行者を予見する注意義務がないことは最高裁が認めた「信頼の原則」から明らかですが、被害者が赤信号無視なら無条件に信頼の原則が適用されるわけではありません。
特別な事情がない限り」としている通り。

本件の事実関係においては、交差点において、青信号により発進した被告人の車が、赤信号を無視して突入してきた相手方の車と衝突した事案である疑いが濃厚であるところ、原判決は、このような場合においても、被告人としては信号を無視して交差点に進入してくる車両がありうることを予想して左右を注視すべき注意義務があるものとして、被告人の過失を認定したことになるが、自動車運転者としては、特別な事情のないかぎり、そのような交通法規無視の車両のありうることまでも予想すべき業務上の注意義務がないものと解すべきことは、いわゆる信頼の原則に関する当小法廷の昭和40年(あ)第1752号同41年12月20日判決(刑集20巻10号1212頁)が判示しているとおりである

 

最高裁判所第三小法廷 昭和43年12月24日

最高裁がまとめた判例集では、信頼の原則を否定して有罪にした判例がこれだけ掲載されてます。

歩行者が赤信号無視して事故が起きたケースについていくつか見てみます。

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信頼の原則を適用し無罪にした判例

まずは信頼の原則を適用し無罪にした判例から。

大阪高裁 昭和63年7月7日

事故の概要です。

指定最高速度が40キロの道路を進行中に、前方31.025mに赤信号無視して横断する歩行者を発見。
そのまま衝突した事故です。

本件交差点は信号機による交通整理の行なわれている交差点で被告人の進行方向は前方青信号を表示していたのであるから、これに従って本件交差点を直進通過しようとしていた被告人としては、特別の事情のない限り、前方の横断歩道上を横断しようとする歩行者はすべて横断歩道前方の赤信号に従って横断をさし控えるものと期待し信頼するのは当然で、自動車運転者に通常要求される前方注視義務を尽しつつ運転すれば足り、赤信号を無視して横断する歩行者があることまでも予想してこれに対処し得る運転方法を執るまでの義務はないのであって、右地点に北へ向け歩行中の本件被害者を認めたことによってもこの点は何ら影響を受けるものでない。なお、被告人が地点に被害者を認めた際、同人が老女であることを認識していたか否か及びその際既に同人がうつ向き加減で小走りの状態にあったか否かの点については被告人の供述に変遷があっていずれとも断定し難いのであるけれども、仮に老女であることまで認識していたとしても右期待ないし信頼の正当性に影響なく、小走りであったか否かの点についても、もし仮に被害者が右時点において全力疾走中である等赤信号に従って停止することがおよそ期待できないような態勢にあったというのであれば、既にこの時点から同人の動静に注視しつつ運転する等して衝突を回避すべく運転する義務の生じることも考えられるけれども、本件ではせいぜい小走りであったというにとどまるからこれまた右期待ないし信頼の正当性に影響しない。

(中略)

衝突地点である横断歩道まで31.025mを残すに過ぎないのであって、この時点では、被告人が衝突を回避すべく急制動の措置を執ったとしても、現実に要した被告人運転車両の制動距離が31.5mであったこと、右計算の前提となった各地点の位置関係に多少の誤差を伴うことが避け難いこと、被害者が歩道の縁石線を越えて車道に立ち入るにあたり多少逡巡したということも大いに考えられるから1.3m先の車道外側線に達するまでの所要時間が計算上のものより長くなり従って右時点までに被告人運転車両も横断歩道に一層近接している可能性も存すること等を考慮すると、本件衝突を回避することが可能であったとかあるいは衝突は不可避としてもより軽微な結果にとどまったとか断ずるには大いに疑問があるといわねばならず、所論のいうように、被告人に本件結果について予見義務が生じると考えられる時点においては既にそれを回避する可能性が存しなかったというべきで従って被告人に回避義務を科することはできず結局注意義務違反のかどは存しないこととなる。なお、被告人の予見義務の発生時期を信頼の原則を適用して以上のように解するうえで、本件時被告人は制限速度を5キロメートル超過する時速約45キロメートルで進行していたという道路交通法違反の事実が支障となるかどうかは検討を要することろであるが、超過速度が僅か5キロメートルであることと、これに対比してその信頼が信号の遵守という強度に保護されて然るべき内容であることを考慮すると格別影響するところはないと解すべきである。

 

大阪高裁 昭和63年7月7日

赤信号無視して横断歩道に進入した歩行者を発見した時点では回避可能性がないとして無罪。
なお「特別な事情がない限り」は信号無視して進行する歩行者を予見して注意する義務はないので、信号無視した歩行者を発見する以前には通常の前方注視義務のみ。

 

5キロの速度超過については、被害者の信号遵守義務と比較して考慮されていません。

大阪簡裁 昭和47年6月3日

この判例は指定最高速度が40キロの道路を時速70キロで進行していた被告人車が、信号無視して横断する歩行者を前方14~15mに発見し急ブレーキを掛けたものの衝突した事故。

そこで右傷害が被告人の業務上の過失に基因するものであるかを検討するのに、(証拠略)によれば、被害者は当夜新年宴会の帰途タクシーを呼び止めるため、同所交差点西側の横断歩道付近を、赤信号を無視して南から北に駈け渡り、折から西から東に向かい進行して来たA運転の普通乗用自動車に驚いて急遽南へ引き返そうとしたところ、青信号に従つて東から西に向かい進行して来た被告人運転の自動車に(被告人は被害者の姿を認め急ブレーキをかけたが約14、5m先の地点で)接触したものであることが認められる。そうすると、被告人は信号に従つて進行していたのであるから、その直前を信号を無視してとつさに横断しようとする歩行者のあることまで予想して運転する義務はないものと云うべく、更に又被告人がその進路に駈け込もうとする被害者を認め直ちに急停車の措置をとつてから接触するまでの距離は約14、5mであるから、この距離は仮令被告人が制限時速40キロメートルで走行していたとしても接触は避け難かつたものと認むべく、従つて、本件事故は被害者の一方的過失に基くものであつて被告人には過失はなかつたものと認められる。

 

大阪簡裁 昭和47年6月3日

時速40キロを遵守していても回避不可能な距離なので無罪。

信頼の原則を適用せず有罪にした判例

信頼の原則を適用しなかった事例をみると、基本的には「ちゃんと前をみていれば普通に事故を回避できた」という事故です。

東京高裁 昭和59年3月13日

深夜、時速40キロで交差点に進入した被告人車と、信号無視して横断する歩行者の衝突事故です。
被告人は横断歩行者との距離が13~14mに迫って初めてブレーキを掛けましたが、ちゃんと前をみていれば約51.4m手前で横断歩行者を発見できたとしています。
要は「ちゃんと前をみていれば余裕で回避できた」という判例。

本件は、被告人が深夜(略)普通乗用自動車を運転し、車道幅員約12mで片側一車線の歩車道の区別のある道路を時速約40キロメートルで走行中、本件交差点にさしかかり、青色信号に従い右交差点を直進しようとした際、酔余赤色信号を無視して交差点内中央付近を右から左へ横断歩行していた本件被害者2名を約13ないし14m先に初めて発見し制動措置をとることができないまま自車前部を両名に衝突させたことが明らかであり、これに反する証拠は存在しないところ、本件交差点出口南側横断歩道の左側に街路灯があるため、交差点手前の停止線から40m手前(本件衝突地点からは約51.4m)の地点から本件衝突地点付近に佇立する人物を視認できる状態にあり、しかも被害者の服装は、一名が白色上衣、白色ズボン、他の一名が白色ズボンであったから、被告人は通常の注意を払って前方を見ておけば、十分に被害者らを発見することができたと認められる。なるほど、被告人車の進路前方右側は左側に比べて若干暗くなっているけれども、(証拠等)によれば、被告人が最初に被害者らを発見した段階では、すでに被害者らは交差点中心よりも若干左側部分に入っており、しかも同人らは普通の速度で歩行していたと認められるから、前記見通し状況のもとで、被告人が本件の際被害者らを発見する以前に同人らを発見することは十分に可能であったと認められる。

 

そして、本件が発生したのは深夜であって、交通量も極めて少ない時間であったこと、本件事故時には被告人車に先行する車両や対向してくる車両もなかったし、本件道路が飲食店等の並ぶ商店街を通るものであること、その他前記本件道路状況等に徴すると、交通教育が相当社会に浸透しているとさいえ、未だ本件被害者のように酔余信号に違反して交差点内を横断歩行する行為に出る者が全くないものともいいがたく、したがって、本件において、被告人が本件交差点内に歩行者が存することを予見できなかったとはいえないし、また、車両運転者が歩行者に対し信号表示を看過して横断歩行することはないとまで信頼して走行することは未だ許されないというべきである。

 

東京高裁 昭和59年3月13日

そのほか、東京高裁 昭和51年4月8日判決や高松高裁 昭和49年10月29日判決なども、被告人が前方注視していれば回避可能だったとして有罪。

論旨は本件に対し、いわゆる「信頼の原則」の適用を主張するものである、と考えられるところ、もともと自動車の運転には危険がつきものであり、一瞬の前方不注視から大事故を起した事例も多く、俗に自動車を目して走る凶器、走る棺桶などと言われる所以もうなずかれるのである。従つて自動車運転者には高度の注意義務が要求されるが、特に前方注視義務は、自動車運転の際の注意義務としてもつとも基本的なものであり、これにより自車の進行方向の正常が保たれ、また進路前方における障害物の有無が早期に確認され、障害物に対する危険の回避を可能とするのである。そして運転中進路前方を注視することは運転者にとつて決して過重な負担ではない。
一方道路交通法は、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図ること等を目的として、自動車運転者その他の交通関与者に対し、同人らが道路を通行等に利用する場合に遵守すべき事項を詳細に規定し、かつ罰則を設けていその励行を期しており、これら交通関与者が互に交通法規を遵守する限り、通常は事故は起らないものと考えるとともに、自動車運転者としても、他の交通関与者もこれら交通法規を遵守するものであると信頼し、自己において交通法規に従い運転するかぎり通常事故は起り得ないから、そのような運転態度を維持するかぎり自己の業務上の注意義務も果されていると考えるのが普通であるように思われ、またそのように考えても無理ではないと思料される。
そして一般的に言つて、右のような信頼の下に自ら交通法規を守り運転したのに、予期に反し相手方が交通法規に違反する異常行動を行い、よつて事故が発生したような場合には、右信頼の下になした運転者の行動は、社会生活上相当なものとして評価され、過失責任はないものとされるであろう。
しかし右は一般的にそうだというのであり、勿論交通法規違反の問題と過失の有無の問題とは別個であり、いわゆる信頼の原則にも限界があるから、右原則を適用し得る場合であるかどうかは、事案毎に具体的事情を精査し、具体的事情に応じた運転者の行動が社会生活上相当であるかどうか、により決定されるべきものと考えられる。

 

高松高裁 昭和49年10月29日

基本的な考え方

信頼の原則を認めて無罪にした事例をみると、赤信号無視した被害者を発見可能な地点では既に衝突を回避不可能。
逆に信頼の原則を適用せず有罪にした事例は、ちゃんと前をみていれば回避可能という事故。

 

無理難題を強いて有罪にするわけではありません。

 

なお、有罪無罪と民事の過失割合は連動しないので、無罪だから民事無過失になるわけでもないし、若干珍しい事例ですが有罪だけど民事無過失という判例もあるにはあります。

 

横浜地裁 昭和43年9月4日(民事)は刑事事件で罰金刑が確定していることを踏まえても過失がないとして自賠法3条但し書きから無過失を認定していますが、かなりのレアケースかと。

 

昭和の時代から明らかに回避不可能な事例については無罪、もしくは不起訴です。
普通に事故を回避できたのに回避しなかった事例では有罪というだけですが、被害者が赤信号無視だから必ず無罪になるような法律にはなっていませんし、それぞれの事案ごとに回避可能か不可能かを判断されるだけです。

 


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