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従業員が「通勤中」に起こした自転車事故で、会社は賠償責任を負うか?

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「通勤中」に起こした自転車事故について、やや珍しい判例があります。

 

今回はそんな話。

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会社に損害賠償?

事故加害者、被害者ともに自転車です。
加害者は通勤中。

見通しが良くない交差点での事故ですが、被害者は加害者本人と、加害者を雇用している会社の両方に損害賠償請求訴訟を提起しました。

いったいなぜでしょうか?

 

これの根拠は民法715条の使用者責任です。

(使用者等の責任)
第715条
ある事業のために他人を使用する者は被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負うただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない

「ある事業のために他人を使用する者」とは会社ですよね。
そして問題になるのは、通勤中に従業員が起こした事故を「その事業の執行について第三者に加えた損害」と言えるのか?になる。

 

一審が松江地裁 平成14年5月16日、二審が広島高裁松江支部 平成14年10月30日。

被控訴人会社においては、自転車通勤について特に制約をしていないこと、被控訴人会社では、自転車通勤者のために必要な駐輪場を確保していること、被控訴人会社では、自転車通勤であっても、自宅から被控訴人会社までの距離が4キロメートルを超える場合はバス代相当分を支給していたが、被控訴人乙川の場合、4キロメートル以内なので、同人に対しては上記手当を支給していなかったこと、被控訴人乙川の自宅から被控訴人会社までは徒歩で20分ないし30分の距離であり、徒歩で通勤できない距離ではないが、個人的な便宜から自転車通勤をしていたこと、本件事故は被控訴人乙川のいつも通りの通勤コース途上で起きた出来事であること、被控訴人会社は、交通安全週間などに従業員にチラシを配布したり、毎年1回全従業員を集めて交通安全大会を実施するなどして交通安全意識の涵養を図っていたことの各事実を認めることができる。
ところで通勤は、被用者が本来の業務に従事している場合と異なり、使用者が被用者に対して直接的な支配を及ぼすことが困難であるから、被用者が通勤手段として自転車を利用し、通勤途中に交通事故を起こした場合の使用者責任については、当該自転車が日常的に被用者の業務に利用され、かつ、使用者もこれを容認、助長していたような特段の事情のない限り、これを認めるのは相当ではない。すなわち、単に被用者が自己の個人的な便宜のために当該自転車を通勤の手段として利用していたような場合には、使用者は民法715条1項の使用者責任を負わないものと解するのが相当である。

広島高裁松江支部 平成14年10月30日

一審、二審ともに会社の使用者責任は認めず。
上告棄却、上告不受理で確定しています。

 

一律で「自転車通勤中事故の使用者責任」を否定したのではなく、状況次第では会社が使用者責任を負う可能性もあります。

 

そもそも、こういう件を考えると、加害者本人が十分な自転車保険に入っていればわざわざ会社の使用者責任を追及する必要もありません。
おそらくは加害者本人に十分な支払いを望めない事情があったのかと思われますが、そのあたりの事情はわかりません。

 

なお、加害者本人は重過失傷害罪で略式起訴され確定しているようです。
フロントブレーキの制動力が十分ではない自転車で、見通しが良くない交差点を徐行しなかったことが原因の事故になりますが、被害者にも40%の過失を認定しています。

使用者責任を肯定した判例

自転車ではなくマイカー通勤の事例ですが、会社の使用者責任を認めたものがあります。

通勤は、業務そのものではないが、業務に従事するための前提となる準備行為であるから、業務に密接に関連するものということができる。労働者が通勤時に災害に遭った場合に労務災害とされることがあるのもそのような観点によるものである。
したがって、使用者としては、従業員の通勤状況(通勤の経路や手段等)を把握しておくべきことはもちろん、進んで、従業員の通勤について一定の指導・監督を加えることが必要とされるものというべきである。確かに、通勤については、本来の業務に従事している場合とは異なり、使用者が従業員に対し直接的な支配を及ぼすことが時間的にも場所的にも困難であることは否定できない。しかしながら、通勤手段がせいぜい公共交通機関を利用することによるものであった時代から急速に様変わりして、自家用車による通勤が急増してきている近時にあっては、交通戦争と称される程までに交通事故が多発している社会状況にあることと相俟って、労働者が通勤時に交通事故に巻き込まれ、或いは自ら交通事故を惹起する危険性が高まっているものといわなければならないから、使用者としては、このようなマイカー通勤者に対して、普段から安全運転に努めるよう指導・教育するとともに、万一交通事故を起こしたときに備えて十分な保険契約を締結しているか否かを点検指導するなど、特別な留意をすることが必要である。そして、マイカー通勤者に対して右の程度の指導監督をすべきことを使用者に求めても、決して過大な或いは困難な要求をするものとはいえない。
そうであれば、いまや通勤を本来の業務と区別する実質的な意義は乏しく、むしろ原則として業務の一部を構成するものと捉えるべきが相当である。したがって、マイカー通勤者が通勤途上に交通事故を惹起し、他人に損害を生ぜしめた場合(不法行為)においても、右は「事業の執行につき」なされたものであるとして、使用者は原則として使用者責任を負うものというべきである。

そこで、この点を本件について見るに、本件事故は被告Y1の通勤途上の事故であり、まさに通勤のための自動車運転行為そのものから派生したものである。しかも、被告会社は、被告Y1がマイカー通勤することを前提として同被告に月額5000円の通勤手当を支給していたことからしても、被告会社は被告Y1のマイカー通勤を積極的に容認していたことが認められるのであるから、被告会社は本件事故の結果につき使用者責任を負うものというべきである。

 

福岡地裁飯塚支部 平成10年8月5日

一方、このような最高裁判例もあります。

裁判要旨(最高裁判所第一小法廷 昭和52年9月22日)

甲会社の従業員乙が社命により県外の工事現場に出張するについて乙の自家用車を用いて往復し、その帰途交通事故を惹起した場合において、甲会社では、右事故の七か月前に開催された労働安全衛生委員会の定例大会の席上、従業員に対し、自家用車を利用して通勤し又は工事現場に往復することを原則として禁止し、県外出張の場合にはできる限り汽車かバスを利用し、自動車を利用するときは直属課長の許可を得るよう指示しており、乙は、このことを熟知していて、これまで会社の業務に関して自家用車を使用したことがなく、本件出張についても特急列車を利用すれば午後九時半ころまでには目的地に到達することができ、翌朝出張業務につくのに差支えがないにもかかわらず、自家用車を用いることとし、自家用車の利用等所定の事項につき会社に届け出ることもせずに出発した等、原判示の事情のもとにおいては、乙が右出張のため自家用車を運転した行為は、甲会社の業務の執行にあたらない。

自転車通勤中の事故について会社が使用者責任を負う可能性はなくはないのですが、要は従業員本人がきちんと自転車保険に入っていればわざわざ会社に損害賠償請求する必要もないので、結局は自転車保険に入りましょうとしか言えないのですけどね。

 

個人的に気になるのは、この訴訟の被告(加害者)が重過失傷害罪で有罪確定している点。
重過失傷害だろうと過失傷害だろうと略式だと判例としては出てきませんが、それなりにあるのだろうか?

コメント

  1. 山中和彦 より:

    通常は、最初に主文を読むでしょうから大丈夫とは思いますが。
    前段2/3を使って、「使用者が被控訴人の自転車通勤を黙認していた」という話を延々しておいて、最後に「ところで」で繋いで、控訴人の言い分を棄却するのって、主文が後回しなら、期待させるだけ期待させて、最後に絶望に落とすみたいで、ドラマみたいな展開です。
    「ところで」の用法は、本題が終わって、付け加える枝葉を話すときに使うもので、枝葉から本題に戻るときに使う感じではないと思うのですが。

    • roadbikenavi roadbikenavi より:

      コメントありがとうございます。

      持ち上げてから落とすのはどの分野でも同じ方式です笑。
      というのは置いといて、要は先に事実認定がきて、認定した事実に基づいて判断するためこうなるだけだと思いますよ。

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