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横断「歩行者」だから無過失とも限りませんが。

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こちらで書いた件ですが、

定期的に上がる事故映像。横断自転車の問題と、横断歩道に接近する車両の注意義務の話。
この映像は頻繁にアップされる気がするのですが、 この人って事故原因を解説しないので、毎度のようにおかしな方向に話が流れるのがオチ。 歩行者でも轢いている これってクルマは38条1項前段(減速接近義務)の違反なので、自転車だろうと歩行者だろう...

横断自転車ではなく横断「歩行者」だった場合に過失割合がクルマ:歩行者=100:0になると考える人が多いようですが、

「基本」過失割合は確かに100:0。
けど歩行者が無過失になるとは言い切れません。

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実際の判例から

実例を挙げますが、ほぼ同じような事故態様(対向車の渋滞停止)において、

大阪地裁 平成28年2月3日判決は以下の過失割合を認定。

クルマ 歩行者
95 5

なお、歩行者は高齢者のため高齢者修正をして5%なので、高齢者修正がなければ歩行者過失は10~15%でしょうか。

 

こういうのって勘違いする人が多いけど、歩行者に過失がついたところでクルマの減速接近義務違反(38条1項前段)が免除されるわけもないし、むしろ過失運転致傷罪に問われる案件。
単に過失相殺の規定(民法722条2項)の解釈の話でしかない。

当たり前ですが横断歩道右側の見通しが対向車によって著しく悪い以上、最徐行義務がある(東京高判 昭和42年2月10日等)。
民法解釈は別問題だし、歩行者に過失がついたから減速接近義務を免責するわけもない。

 

ところで凄く不思議に思うのですが、こういう判例ってたぶん大きな図書館に行けば見れます。
気になるなら図書館にでも行って確認すりゃいいものを、全て無料のインターネット上で見れると思っている人がいて驚きました。

横断歩行者に過失がついた場合

過失って要は不注意という意味なので、道路交通法の義務とは必ずしも関係ありません。
ちょっと不思議に思えるのは、昭和40年代だと「歩行者が黄色の旗を使って横断したか?」を過失相殺のポイントにしている判例がいくつかあります。

昔はありましたよね。

 

判例を2つ挙げます。

 

○東京地裁 昭和42年11月13日

この判例は、加害者側が「被害者が黄色の旗を使ってなかったこと」を過失相殺の理由として主張。
裁判所は「えっ!?横断歩道に黄色の旗が備え付けられていた証拠がないよ?」として黄色の旗については考慮せず。

信号機のない地点の道路横断に際しては仮りに横断歩道上であれ、或いはその近接したところであれ、歩行者としては十分左右を見て交通の安全を確認することが要求されるのであつて、歩行者優先の原則をたてに漫然横断をすることは許されないのである。しかるに被害者は先行車が通過するや、後続車の状況に十分意を払うことなく、時速35キロ位の速度をもつて走行してくる本件自動車が約15mという近距離に至つているのに対し単に右手で合図をするのみで、敢えて横断を始めたのであるから、同女にも本件事故発生についての過失が認められる。被告らは被害者の過失として他に、黄色い旗を持つていなかつたこと、斜めに横断したこと、道路中央線付近からあとずさりしたこと等の事実を主張するけれども、当時本件横断歩道に黄色い旗が備え付けられていたことについてはこれを認めるに足る証拠はなく、またその他の事実については、(証拠略)および前2項認定の事実に照らして、にわかに措信できず、他にこれを認めるに足る証拠はない。

右認定の被害者の過失を前認定の被告の過失と対比するとき、双方の過失の割合は大体において被告において8、被害者において2であると認めるのが相当であり(なお本件全証拠によるも被害者の横断した地点が本件横断歩道の上であつたか、或いは同横断歩道から5、6m北方であつたかを、断じえないが、横断地点が右のいずれであつても見通しのよい横断歩道付近における人車の衝突事故である本件においては、右割合に消長をきたすものではない。)、被害者の右過失は被告らが賠償すべき損害額を算定するについて斟酌されるべきものと認められる。

東京地裁 昭和42年11月13日

加害者
「被害者は黄色の旗を使ってません!裁判長!被害者の過失でしょ!」

 

被害者
「旗?知らねーな」

 

裁判長
「旗が備え付けられていたというなら加害者は立証せよ。立証できないなら検討しないし」

 

○東京高裁  昭和48年7月23日

この判例は逆に「黄色の旗を使っていたこと」を一因として、一審が認定した歩行者過失を取消し。

 被控訴人らは、訴外Aも、加害車に全く気付かず、連れていた犬にのみ注意を取られて、犬に引かれるような形で傍らの車両の蔭から横断歩道上に飛出したことにより本件事故に遭つた点において過失の責を免れえないものと主張するけれども、前記認定によつて明らかなとおり、訴外Aは、信号機の設置されていない横断歩道を黄色の旗を掲げながら車両の絶え間を縫つて渡ろうとしたものであることにかんがみるときは、たとえ同人において横断の途中で一瞬停止の気配を示したことがあつたとしても(上掲被控訴人Bの本人尋問の結果によれば、訴外Aの右停止の気配は、同被控訴人が本件事故の発生後に当時の状況を想起してそれを感じたという程度のもので、訴外Aにおいて事実そのような気配を示したものであることを認めうる証拠はない。)本件事故の発生について訴外Aにも過失があつたものとは解し難いものというべきである。

東京高裁  昭和48年7月23日

黄色の旗はあくまでも一因でそれが全ての理由ではありませんが、昭和っぽい判例ですよね。

 

過失って不注意を意味しますが、時代背景によって不注意とされる内容は変わりうるもの
それこそ自転車のノーヘルが過失相殺の対象にならない理由は、世間一般で「自転車に乗るときにヘルメットをかぶることは常識」というほど浸透していないからです。

 

まあ、過失相殺の対象にした判例もあるんですけどね。
判決文には書いてありませんが、過失相殺した理由を推測すると「ロードバイクだから」という理由があるのかもしれません。
ロードバイクではヘルメットが常識的な存在ですし。

自転車ヘルメットの「努力義務化」は、事故時の過失割合に影響するか?判例から検討。
自転車ヘルメットの「努力義務化」によって、事故に遭った際にノーヘルが過失になる可能性があるという報道がいくつか出ています。 実際のところ既にいくつかの自治体では「ヘルメットの努力義務」が定められていますが、判例から検討してみます。 ノーヘル...

今の時代に横断歩道に黄色の旗なんてめったにないし、一般的とも言い難いので旗を使ったかどうかは過失相殺の理由にはならないでしょう。

 

歩行者の僅かな注意で接触を回避できたケースでも過失相殺する傾向にあります。
例えばこちら。

 

○広島高裁 昭和60年2月26日

本件事故当時降雨中であつたため、控訴人は右手で雨傘を差し左手で手提かばんを持つて(または抱えて)歩行し、信号機の設置されていない本件事故のあつた横断歩道の手前で、横断のため左右を見たところ、南方から被控訴人車が北進しているのに気づいたが、かなりの距離があつたので歩道(一段高い)端附近に横断歩道に向つて立ち止まり、右のように右手に傘を持ち左手にかばんをかかえながらライターを取り出して煙草に火をつけた後、左右の交通の安全を確認しなくても安全に横断できるものと考えその確認をしないまま、横断歩道上を横断し始め、約1.3m歩いたとき被控訴人車左前方フエンダー附近に控訴人の腰部を接触し、本件事故を起した。

以上のとおり認められる。もつとも、乙第12号証(控訴人の供述調書)には、横断前に一度左右を見たことについて述べていないが、原審控訴人本人尋問の結果では事故のシヨツクで思い出せなかつたと述べており、これと対比すると右認定を妨げるものではなく、他に右認定を左右する証拠がない。

横断歩道であつても信号機の設備のない場合歩行者は左右の交通の安全を確認して横断すべき注意義務(事故を回避するための)があることは多言を要しない。右事実によると、控訴人は一旦横断歩道の手前で左右を見て被控訴人車がやや離れた南方から北進中であり直ちに横断すれば安全に横断できた状態であり、その時点では控訴人は右注意義務を果したといえないわけではない。しかし、控訴人はその直後に歩道端に横断歩道に向つて立ち止まり、右手に傘を持ち、左手でかばんをかかえながらライターを取り出して、煙草に火をつけたというのであるから、通常の場合よりも若干手間取つたことが考えられ、その時間的経過により、被控訴人車がさらに近づきもはや安全には横断できない状態になつていたことが十分に予測できたものといえるから、控訴人が横断し始めるときには、すでに、歩道に立ち止まる以前にした左右の交通の安全の確認では不十分で、さらにもう一度左右の交通の安全を確認した後に横断を始めるべき注意義務があつたものというべきである。しかるに、控訴人は歩道に立ち止まる前にした左右の交通の安全の確認だけで安全に横断できるものと軽信し、あらためて左右の交通の安全を確認しないまま横断し始めた過失があり、それが本件事故の一因となつているものといわざるをえない。本件事故についての控訴人、被控訴人双方の過失の態様、程度を比較し検討すると、控訴人の過失割合は10%とみるのが相当で、これを損害額算定につき考慮すべきものである。

広島高裁 昭和60年2月26日

この判例が過失相殺している理由ですが、ポイントはここ。

横断し始め、約1.3m歩いたとき被控訴人車左前方フエンダー附近に控訴人の腰部を接触

歩行者の歩幅は約70センチとも言われますが、2歩で接触したとすれば横断開始時点で既にクルマは至近距離にいたことになる。
至近距離にクルマがいたということは歩行者の僅かな注意で接触を回避できたわけで、だから過失相殺する理由になる。

 

同じ理由で大阪地裁 令和2年9月25日判決は昼間の横断歩道で、歩道から約1.6m横断歩道に踏み出した位置で車両と接触した事故について、歩行者に10%の過失相殺をしてます。

 

僅かな注意で接触を回避できたケースでは過失相殺することはあるけど、だからといってクルマの義務を帳消しにするわけもない。

いくらでもある気がしますが

横断歩道を横断した歩行者に過失相殺した判例は探せばいくらでもある気がしますが、過失相殺したから運転者の義務を帳消しするわけもないし、単に当事者間での金銭賠償の問題に過ぎないのよね。
これが別問題だとわからないと厳しい。

状況 高齢者等 歩行者過失
広島高裁S60.2.26 横断歩道前で車両の状況を確認し、すぐに横断せずタバコに火をつけ確認せず横断開始 10%
神戸地裁H8.5.23 夜間、小走り 高齢者 5%
大阪地裁R2.9.25 昼間、直前横断 10%
東京地裁S46.4.17 左折時 ※20%
東京地裁S46.1.30 青信号で横断 20%
大阪地裁H28.2.3 死角 高齢者 5%
京都地裁 S48.1.30 夜間、横断歩道で四つん這いで探し物 70%
東京地裁S54.2.1 青色の表示中に本件道路の横断を開始し、センターラインの約3.5m手前付近で青色点滅の表示に変わつたが、極めて遅い歩調で横断し続け、センターライン付近で赤色の表示に変わつたが、なお従前どおりの歩行を続け、センターラインを少し越えた付近で本件車両用信号が青色信号と変わり、その後6秒程度歩行し続けた 40%

※東京地裁昭和46年4月17日判決は、二審で無過失になったかのような要旨あり(判決文不詳)。

 

民法解釈の問題なのでこうなる。

 

歩行者に過失がついたから減速接近義務が免責になるわけではないし、結局はそれぞれの立場でやることをやるとしか言えないのよね。

 

けど本当に不思議なのは、「判例!判例!」と求める人ってなぜか自らは判例を探さないという…
例えば横断歩行者に70%の過失相殺をした京都地裁判決については、判タ302号251ページにありますが、インターネット上で見れないことを理由にエア判例呼ばわりする人すらいるから、ビックリしますよね笑。
「ググレカス」というフレーズがありましたが、判例をググって出てくると思っているのはだいぶ厳しい気がしました。

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