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「明らかに広い道路」の判例が持つ意味。

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先日、こちらにて「明らかに広い道路」(36条2項)の判例を挙げましたが、

見通しが悪い交差点で自転車とクルマが衝突!?悪いのはどちらか?
出会いは突然ですよね… なぜこうなってしまうのでしょうか? 問題は双方にある これって要は見通しが悪い交差点、かつ優先道路もなければ信号もないので双方ともに徐行義務違反なんですよね。 (徐行すべき場所) 第四十二条 車両等は、道路標識等によ...

元ネタは削除されてますが、

いろんな人
いろんな人
左方優先だ!
自転車が優先だろ!
いろんな人
いろんな人
いや、「明らかに広い道路」(36条2項)だからクルマが優先だろ!

という低レベルな争いが…
あえて低レベルと書きますが、そもそも「明らかに広いか?」「左方優先か?」は関係ないのよ。

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「明らかに広い道路」の判例が意味すること

「明らかに広い道路」についてはこんな感じになってます。

判例 道路幅 明らかに広いか?
最高裁s45.11.17 5.6m対2m
最高裁s45.12.22 9.6m対3m
最高裁s46.6.23 14+10+14m対3.95(4.8)m
東京高裁s41.8.9 8.9m対4.4m
高松高裁s43.8.8 7m対3.5m
大阪高裁s43.9.1 10.07m対6.4m
福岡高裁s43.11.16 6m対4.2m
福岡高裁s45.1.26 10.5m対7.2m
東京高裁S44.4.22 15.9m対6.5m
最高裁s43.7.16 7.7m対7.6m
最高裁s45.11.10 7m対6.4ないし5.8m
最高裁s47.1.21 9m対7.9ないし5.8m
東京高裁s40.1.18 7.3m対5.5m
東京高裁s41.3.9 3.3m対2.7m
福岡地裁小倉支部s45.1.16 17.8m対14.6m
東京高裁S44.4.15 5.4m対4.8m

で。
これらは業務上過失致死傷(今でいう過失致死傷)判例。
これらのほとんどは、どちらに優先権があるかを争ったものではありません。

 

ほとんどの事例で問題になったのは、「徐行義務」(42条)を負っていたか?が争点です。

 

現在の42条は見通しが悪い交差点で「①優先道路ではない②交通整理がない」なら徐行義務がありますが、昭和46年改正道路交通法以前は違ってました

(徐行すべき場所)
第四十二条 車両等は、交通整理の行なわれていない交差点で左右の見とおしのきかないもの、道路のまがりかど附近、上り坂の頂上附近、勾配の急な下り坂又は公安委員会が道路における危険を防止し、その他交通の安全を図るため必要があると認めて指定した場所においては、徐行しなければならない。

条文上は優先道路や広路車でも徐行義務があるように見えます。
しかし最高裁は、36条の場合は42条の除外なんだと解釈した(つまり優先道路と広路車は徐行義務を負わない)。

車両等が道路交通法42条にいう「交通整理の行なわれていない交差点で左右の見とおしのきかないもの」に進入しようとする場合において、その進行している道路が同法36条により優先道路の指定を受けているとき、またはその幅員が明らかに広いため、同条により優先通行権の認められているときには、直ちに停止することができるような速度(同法2条20号参照)にまで減速する義務があるとは解し難い

 

最高裁判所第三小法廷 昭和43年7月16日

最高裁判決以前はこの解釈に争いがありました。
しかしこの判例により、優先道路と広路車は見通しが悪い交差点でも徐行義務がないという解釈になりました。

 

で。
上で挙げた判例って、要はこういうこと。

検察官
検察官
被告人は交差点に進入する際に、徐行義務を怠った過失により事故を起こしました。
読者様
読者様
いえ、僕が進行していた道路は「明らかに広い道路」です!
徐行すべき自動車運転上の注意義務はありません(最判S43.7.16)
検察官
検察官
いや、被告人道路と被害者道路は「明らかに広い道路」の関係にはありません!
被告人の徐行義務違反は明らかです!
読者様
読者様
なに!
僕には徐行義務はありません!
管理人
管理人
では判決を。
被告人道路は「明らかに広い道路」とは認められないから徐行すべき自動車運転上の注意義務があり、徐行を怠り事故を起こした。
有罪ね。

以前書いたように、昭和46年改正以前は、警察庁的には優先道路だろうと広路車だろうと徐行義務があると解釈していた。
しかし最高裁が36条2項の場合は徐行義務の除外と解釈した。

 

それらを受けて、昭和46年改正時に優先道路の場合も徐行義務の除外と規定して立法的に解決したわけ。
昭和46年改正以降は、「明らかに広い道路」でも左右の見通しが悪い交差点なら徐行義務があります。

 上告趣意は、判例違反をいうが、所論のうち、原判決が昭和42年(あ)第211号同43年7月16日第三小法廷判決・刑集22巻7号813頁に違反するという点については、右判決は昭和46年法律第98号による改正前の道路交通法36条、42条について示された解釈であつて本件の先例とはなり得ないものであり、その余の引用にかかる判例は本件とは事案を異にして適切でなく、いずれも適法な上告理由にあたらない。

 

最高裁判所第二小法廷 昭和52年2月7日

道路交通法42条によれば、車両等が同条1号にいう「左右の見とおしがきかない交差点」に入ろうとする場合には、当該交差点において交通整理が行われているとき及び優先道路を通行しているときを除き、徐行しなければならないのであつて、右車両等の進行している道路がそれと交差する道路に比して幅員が明らかに広いときであつても、徐行義務は免除されないものと解するのが相当である。

 

最高裁判所第二小法廷 昭和63年4月28日

要は上で挙げた判例は「徐行義務を負っていたか」の判断基準として「明らかに広い道路か?」を判断したもの。
優先権がどっちなのかという話じゃないのね。

優先道路 明らかに広い道路
~昭和46年改正 徐行義務の除外 徐行義務の除外
昭和46年改正~ 徐行義務の除外 徐行義務あり

先日の動画については、どのみち両者ともに徐行義務を怠って交差点に進入しているので、どちらも優先権を主張できる立場にはない。
優先権は適法に交差点に進入した場合の話。
優先権「以前」の注意義務(42条1号)が問題なのだから、判例を挙げてどっちが優先か?なんて言い争いする時点で低レベル過ぎて…

いろんな人
いろんな人
左方優先だ!
自転車が優先だろ!
いろんな人
いろんな人
いや、「明らかに広い道路」(36条2項)だからクルマが優先だろ!

徐行義務を怠って交差点に進入している時点で優先権を主張できる立場にはないので、問題にするのは当然「徐行義務のみ」なのよ。

 

双方ともに徐行義務を果たした上で初めて優先権の問題になるのであって、そこをすっ飛ばして「どっちが優先か?」なんて言い争いする時点で的外れとしか。
なお、民事責任のベースがどちらか?を争う意味で明らかに広い道路か?を争うことはありますが、過失相殺のベースが何なのかの意味でしかない。

その判例は何を意味するか?

ということで、「明らかに広い道路」の判断を示した判例って、昭和46年改正以前のものは「徐行義務を負っていたか?」の判断として広狭関係を示したもの。
優先権が事故の直接的な原因ではなく、徐行義務を怠って進入したことが事故の原因なのだから、どっちが優先か?という判断を示す以前の問題なのよね。

 

なお、最高裁43.7.16判決を受けて警察庁が徐行義務を見直すに当たり、「明らかに広い道路」の場合を除外しなかった理由を考えると、「明らかに広い道路」の場合は全ての通行者に分かりやすいとは言えないからなんじゃないかと推測。
通行者には歩行者を含みますし、自転車も含みます。

 

そもそも最高裁43.7.16判決は、「交差道路に一時停止規制がある場合も、徐行義務(42条)の除外とみなすべき」と主張した被告人を一蹴してますが、交差道路に一時停止規制がある場合も徐行義務を負う理由は、どちらかというと「歩行者の安全」なのよ。

 ところで、車両等が道路交通法42条にいう「交通整理の行なわれていない交差点で左右の見とおしのきかないもの」に進入しようとする場合において、その進行している道路が同法36条により優先道路の指定を受けているとき、またはその幅員が明らかに広いため、同条により優先通行権の認められているときには、直ちに停止することができるような速度(同法2条20号参照)にまで減速する義務があるとは解し難いが、本件のように幅員約7.6メートルのあまり広くない道路で、これと交差する道路の幅員もほぼ等しいようなときには、これと交差する道路の方に、同法43条による一時停止の標識があつても、同法42条の徐行義務は免除されないものと解すべきである。なんとなれば、優先道路または幅員の明らかに広い道路を進行する場合には、その運転者にも、またこれと交差する道路を進行する車両等の運転者にも、当該交差点における優先通行の順位が明らかになつており、その間に混乱の生ずる余地が少ないが、本件のように、交差する双方の道路の幅員が殆んど等しいような場合には、一時停止の標識が存在しても、その存在しない方の道路を進行する車両等の運転者にとつては、その標識の存在を認識することは、必ずしも可能であるとは限らず、もし、右認識を有する者についてだけ、同法42条の徐行義務を免除することにすれば、当該交差点における交通の規整は一律に行なわれなくなり、かえつて無用の混乱を生ずるであろうからである。また、本件のように、あまり広くない道路で、しかも交差点の見とおしのきかない場合には、歩行者の安全も考慮しなければならないことは、原判決も説示するとおりであり、このことも前記解釈の根拠となり得るであろう。

 

最高裁判所第三小法廷 昭和43年7月16日

道路交通法第35条第36条(昭和39年法律第91号による改正前のもの)が、交差点における互に違つた方向からこれに進入する車両相互間の優先順位を定めたものであるに対し、同法第42条は左右の見とおしのきかない交差点に進入する車両に対し総べての通行者との間の危険防止を目的として制定されたものであり、同法第35条第36条のように歩行者を除いた車両相互間の関係のみを規制したものではないのである。従つて、右法意に照らすと、たとえ、交差する車両に対しては優先する場合であつても、そのために同法第42条の一般徐行義務が解除されるものではなく、又同法第43条も公安委員会が特に必要があると認めて指定する交差点において、車両等に対して一時停止義務を課し(通行人にはその効力は及ばない)、これと交差する道路の車両等に優先通行を認めたに過ぎず、そのために優先車両に対し同法第42条の徐行義務までも解除したものとは解し難い。

 

東京高裁 昭和41年11月22日

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こういう経緯によって現在の42条がありますが、動画の件は「左方優先」なのか「明らかに広い道路」なのかは関係なくて、双方ともに徐行義務違反で起きた事故でしかない。
優先権が出る以前の問題。

 

「明らかに広い道路か?」を争った判例って、昭和46年改正以前は徐行義務の有無に関わるから争ってますが、現在では民事の過失割合が多少変わる程度で、事故の原因そのものは徐行義務違反なのよね。

 

なお、自転車対自転車の事故でも、徐行義務を怠って事故を起こしたケースは重過失致死傷罪で有罪になっているので、自転車もちゃんとしないと大変なことになるとしか。

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見通しが悪い交差点なので被害者になるか加害者になるかは偶然とも言えますが、たまたま被害者になってからといって遡って徐行義務が免除されるわけではないので。

 

しかし、あの事故映像をみて明らかに広いか?左方優先か?が争点だと思う人がそれなりにいるとなると、そりゃ事故るわな。
どう見ても「優先権以前の問題」。
そして自転車の進行道路は農道(私道)らしく、公安委員会が一時停止規制することは通常ありません。


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