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定期的に上がる事故映像。横断自転車の問題と、横断歩道に接近する車両の注意義務の話。

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この映像は頻繁にアップされる気がするのですが、

この人って事故原因を解説しないので、毎度のようにおかしな方向に話が流れるのがオチ。

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歩行者でも轢いている

これってクルマは38条1項前段(減速接近義務)の違反なので、自転車だろうと歩行者だろうと轢いてます。

たまたま死角から出てきたのが歩行者なら止まれた、なんてことはあり得ないわけで、横断歩道に対向車による死角がある以上は最徐行義務になる(東京高判 昭和42年2月10日等)。

 

このアカウントって何をしたいのか知りませんが、予測回避できるか?ではなく義務違反に過ぎない。
ルールの解説ではなく単に衝撃映像を流すだけのアカウントなんでしょうけど、いろいろ心配になります。

進行道路の制限速度が時速約40キロメートルであることや本件交差点に横断歩道が設置されていることを以前から知っていたものの、交通が閑散であったので気を許し、ぼんやりと遠方を見ており、前方左右を十分に確認しないまま時速約55キロメートルで進行した、というのである。進路前方を横断歩道により横断しようとする歩行者ないことを確認していた訳ではないから、道路交通法38条1項により、横断歩道手前にある停止線の直前で停止することができるような速度で進行するべき義務があったことは明らかである。結果的に、たまたま横断歩道の周辺に歩行者がいなかったからといって、遡って前記義務を免れるものではない。もちろん、同条項による徐行義務は、本件のように自転車横断帯の設置されていない横断歩道を自転車に乗ったまま横断する者に直接向けられたものではない。しかし、だからといって、このような自転車に対しておよそその安全を配慮する必要がないということにはならない。

 

東京高裁 平成22年5月25日

横断歩道が設けられてある以上、歩行者がこの横断歩道によって被告人の進路前方を横切ることは当然予測すべき事柄に属し

(中略)

たとえ歩行者が渋滞車両の間から飛び出して来たとしても、そしてそれが実際に往々にしてあり得ることであろうと或は偶然稀有のことであろうと、運転者にはそのような歩行者の通行を妨げないように横断歩道の直前で直ちに一時停止できるような方法と速度で運転する注意義務が要請されるといわざるをえず

昭和42年2月10日 東京高裁

なお、優先権は自転車にはありません。
要は見通しが悪い横断歩道だから「歩行者の優先権を確保するために減速接近する義務」があり、対歩行者への注意義務を怠っていたところにたまたま横断自転車がいただけなので。
クルマ側からすれば「見通しが悪い横断歩道」という観点でいえば、最終的に歩行者が横断していたか自転車が横断していたかは関係ない。

自転車に乗り横断歩道を横断する者は、この規定による保護は受けません。

 

法の規定が、横断歩道等を横断する歩行者等となっており、横断歩道等の中には自転車横断帯が、歩行者等の中には自転車が含まれまれているところから設問のような疑問を持たれたことと思いますが、法38条1項の保護対象は、横断歩道を横断する歩行者と自転車横断帯を横断する自転車であって、横断歩道を横断する自転車や、自転車横断帯を横断する歩行者を保護する趣旨ではありません。ただし、二輪や三輪の自転車を押して歩いているときは別です。
つまり、あくまでも、法の規定(法12条、法63条の6)に従って横断している者だけを対象にした保護規定です。

 

道路交通法ハンドブック、警察庁交通企画課、p2140、ぎょうせい

自転車の義務

自転車の義務はこの場合、車道の通行を妨害するおそれがあるときには横断禁止(25条の2第1項)。
見通しが悪いという事情は自転車からしても同じなので、一時停止するなどして死角消除しないと横断してはならないことになる。

(横断等の禁止)
第二十五条の二 車両は、歩行者又は他の車両等の正常な交通を妨害するおそれがあるときは、道路外の施設若しくは場所に出入するための左折若しくは右折をし、横断し、転回し、又は後退してはならない

※25条の2でいう「正常な交通」とは「違反がない交通」と必ずしもイコールではありません。
このあたりは多数の解説書で書いてある通り。

 

たまたま車道を通行してきたのが4輪車だったから自転車は被害者になりますが、たまたま車道を通行してきたのが2輪車(自転車含む)だったときにはこの自転車が加害者になりうる話。

 

なのでまとめるとこうなります。

クルマの義務違反 自転車の義務違反
法条 38条1項前段(減速接近義務違反) 25条の2第1項(横断禁止)
具体的内容 対向車の停止により見通しが悪い横断歩道だから最徐行して注意する義務 車両として横断する以上、左右の確認をして妨害しないようにする義務

こういう事故について結果論で見る人が多いけど、どっちの立場でも死角が強いのよね。
そしてクルマに義務違反があり、自転車にも義務違反がある。

民事の過失割合

この場所、交差点かつ優先道路(交差点内にセンターライン)があるように見えますが、民事過失割合を考える上では、交差点事故の過失割合をベースにしながら「横断歩道通行分」として自転車過失を-5%にするのが一般的です。

 

例えばこのような事故態様。

クルマが優先道路になるため、民事責任上の考え方は優先道路通行車と非優先道路通行自転車の過失割合(50:50)をベースにし、自転車が横断歩道を通行した分として「-5%」。

 

信号機のない交差点で非優先道路を走行する自転車とその左または右の優先道路から出てきた車の事故の過失割合 - 交通事故お役立ち手帳
信号機のない交差点で非優先道路を走行していた自転車とその左または右の優先道路から出てきた車の事故の過失割合を調べることができます。

 

なので基本過失割合はこちら。

クルマ 自転車
55 45

ここからクルマの速度を過失修正するかどうかになりますが、類似判例としてはこのようなものがあります。

 

横断歩道を横断した自転車と、優先道路の判例。
以前こちらで挙げた福岡高裁の判例ですが、横断歩道を横断した自転車を優先道路の進行妨害(36条2項)としています。 一応、似たような判例はあります。 横断歩道と優先道路 判例は大阪地裁、平成25年6月27日。 イメージ図です(正確性は保証しま...

クルマが制限速度(40キロ)を越えた時速50キロ以上で進行したことを重過失とし、さらに横断自転車が小学生だったことから過失修正されて以下の過失割合に。

クルマ 横断自転車
85 15

※小学生の場合は5~10%程度過失修正されます。

 

この動画の場合、自転車過失は30~45%くらいじゃないですかね。
優先道路があるように見えるので、優先道路を横断する自転車の過失割合をベースに検討することになり自転車過失がまあまあ大きくなるパターン。

「横断歩道を通行しても自転車過失は10%くらい」と勘違いする人が多いけど、それは単純な右左折巻き込み類型の話。
優先道路が絡むと、優先道路を横断する自転車にも注意義務が大きくなることに注意。

ダイヤマークを見ても自転車横断帯があるかないかはわからない。
横断歩道、自転車横断帯の予告標示のダイヤマーク 。 ダイヤマークがあればこの先に横断歩道又は自転車横断帯があることを意味するので、停止できるように減速する義務があります(38条1項前段)。 自転車横断帯はもはやレアキャラ。 ほとんどの場合、...

結局のところ

クルマの進行速度をみれば、このクルマは歩行者だろうと自転車だろうと轢いているでしょう。
なので減速接近義務(38条1項前段)の違反は著しい。

 

一方、横断する自転車にしても死角がある場合に漠然横断することはできないので(25条の2第1項)、両者の過失が競合した結果でしかないのですが、この手の動画が出てきた時に怪しい道路交通法を語り出す人が多いように「ルールが知られていない」のが現実です。

 

結果論だけでいうなら、この事故について最終的な責任はクルマのほうが大きいことになります。
普通に過失運転致傷罪が成立しますが、「減速接近義務を怠り漠然進行した過失」により有罪パターン。

 

ただまあ、死角から横断して見通しが悪かったことは自転車にしても同じ話で、横断自転車が車道通行2輪車にケガをさせた場合には過失致死傷罪又は重過失致死傷罪に問われたりする。

 

結果論で見るよりも、義務として見ないといつまで経っても「どっちが悪い論」ばかりになりますが、双方ともに死角なんだから最終的に何が出てくるかなんてわからんじゃんね。

 

義務として何をしなければいけなかったのかを考えないと、いつまで経っても「どっちが悪い」というたまたまの結果にとらわれて無意味な話ばかりになるんでしょうね。
たまたま死角に歩行者がいなかったから減速接近義務が免除になるわけじゃないし、たまたま死角に車両がいなかったからノールック横断していいわけもない。

自転車と横断歩道の関係性。道路交通法38条の判例とケーススタディ。
この記事は過去に書いた判例など、まとめたものになります。 いろんな記事に散らかっている判例をまとめました。 横断歩道と自転車の関係をメインにします。 ○横断歩道を横断する自転車には38条による優先権はない。 ○横断歩道を横断しようとする自転...

勘違いしやすいのは「車両が横断歩道を横断することが禁止されていないこと」(絶対的禁止ではない)と、「横断する車両の注意義務があること(25条の2第1項)」(相対的禁止)を混同すること。


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