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人間は横着するし、都合よく解釈する。

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人間は都合よく解釈したり、横着するという実例を。

 

道路交通法の改正史ってなかなか興味深いですが、昭和33年以前は追い越しする際にクラクションを鳴らすことは「義務」でした。

第24条(追越の方法)
2、前項の場合においては、後車は、警音器、掛声その他の合図をして前車に警戒させ、交通の安全を確認した上で追い越さなければならない

合図を受けた前車は左側端に寄る義務があった。

24条
3 前項の合図があったことを知った場合において、前車が後車よりも法第16条第1項および第2項の規定による順位が後順位のものであるときは、前車は、後車に進路を譲るために道路の左側によらなければならず、その他のときは、追越を妨げるだけの目的をもって後車の進路を妨げる行為をしてはならない。

イメージはこう。

※「昭和35年以前」と書いてますが、正確には昭和33年以前。

 

この時代、後車は追い越しする際に「クラクションで合図」して、合図を受けた前車が左に避譲するまでは追い越ししちゃいけないと解釈されてました。

およそ追越の場合においては、交通の安全を確認しなければならないことは、右法条の明記するところであり、そのために追い越そうとする後車は警音器を鳴らし又は掛声その他合図をして前車に警戒を与えることを要し(第2項)、右合図があったときは前車は避譲する等して後車の進路の障害にならぬよう措置すべき義務をもっている(第3項)のを見れば、後者がなした合図を前者が気がつかぬときは止むを得ない場合を除いては追い越ししてはならぬものと解すべきである。

 

東京高裁 昭和25年11月2日

ところが、昭和33年に「追い越し時にクラクションを鳴らす義務」が削除されます。
なぜでしょうか?理由はこちら。

旧令第24条第2項においては、他の車両を追い越そうとする場合には、危険予防の見地から必ず警音器を鳴らさなければならないとされていたのであるが、実情は、警音器さえ鳴らせば他の注意を顧みることなく、追い越ししても妨げないというような操縦方法がきわめて多く、そのため事故も少なくなかったばかりでなく、大都市における騒音防止の必要から、昭和33年8月23日政令第254号による改正に際して、追越の場合警音器吹鳴義務を廃して他の危険予防上の条件を厳にしたのである。

宮崎清文, 大堀誠一, 田中義美、「道路交通取締法令の総合解説 改訂版」、法令出版公社、1959

要は「オレはちゃんと鳴らした!避譲しない先行車が悪いだろ!」みたいな雑なプレイが横行したと。
立法者の意図は、「鳴らした」+「避譲した」+「確認した」⇒「ほら安全だ」。
しかし現実には「鳴らしたオレはとりあえず行くぜ!?」みたいな事故が多発したわけよね。

 

ある意味では興味深い話ですが、そもそもこの時代、横断歩道を通過する前にも「警音器吹鳴義務」があり、鳴らさずに横断歩道を通過したら違反。
そりゃ、うるさくてたまらない。
自宅近辺に横断歩道があったら悲劇でしかない。

 

騒音問題も含めて、クラクション吹鳴義務を削除したわけです。

 

ただし、続きがあります。

しかしながら、この改正により、追越に際して警音器使用が禁止されたものではない。具体的状況に応じ、危険防止のために必要がある場合には、現行法上においても、警音器を鳴らす措置が要求せられていることは、令第17条第1号の反面解釈からしても明らかであり、

宮崎清文, 大堀誠一, 田中義美、「道路交通取締法令の総合解説 改訂版」、法令出版公社、1959

わりと「結局どっちやねん」的な話になる。
鳴らす義務は削除した、しかし鳴らすことは禁止とまでは言えないみたいな話。

 

毎日のように怪しい道路交通法解釈がインターネット上には横行してますが、昭和20/30年代にも都合よく解釈する人からすると、旧令24条は「鳴らせばいいんだろ!」にしか映らなかったのかもしれません。
今の時代も都合よく解釈して支離滅裂な道路交通法を見かけますが、本質的には昭和20年代も変わらないのよね。

 

道路交通法にしても、おかしな思想に繋がるから削除したルールはいくつもあって、例えば「交差点先入優先」(旧35条)。
先に交差点に入った車両に優先権を与えたモノでしたが、それをやると「我先に!」と先入争いが起きる。
失敗策だから昭和46年に削除。

 

他にも、「右折する際は直進優先」(旧37条1項)と定めながらも、「既に右折している車両は直進車より優先」(旧37条2項)という怪しいルールもありましたが、失敗したルールは昭和の時代に削除されてます。

旧37条と交差点安全進行義務。
こちらの続き。 ちょっとマニアックなので興味がない方はスルー推奨。 旧37条と交差点安全進行義務 36条4項には交差点安全進行義務が規定されてますが、この規定は昭和46年改正で誕生しています。 4 車両等は、交差点に入ろうとし、及び交差点内...

要は旧37条2項の解釈を間違えた人たちが、いち早く「既に右折している車両」になろうとし、余計危険になる。
立法者の意図とは別に、一般人は都合よく解釈してメチャクチャになってしまう。
2項の解釈を間違う人が多発するし、削除すべきと提唱され削除に至ってますが、

2項は、1項による直進車の優先関係が発生する以前に既右折状態に入った右折車がその後に発生した事情によって直進車の進路上にとどまらざるを得なくなった場合には、直進車はそのような状態にある右折車の進行を妨げてはならないことを規定したもので、運転者が直進中に、自車進路上、制動距離外に障害物を発見したときには、これとの衝突を回避すべきは条理上当然のことで、成文による規定を待つまでもなく、2項は不要の規定である。

 

判例タイムズ284号「交差点における他の車両等との関係(東京地裁 朝岡智幸氏)」、佐野判事の論文からの引用

昭和40年代って裁判官が論文で「法がおかしいから削除すべき」みたいに発表してます。
今の時代って「法がおかしい」みたいな声が裁判官から出ることはマレな気がするけど、どうなんだろ?

 

しかし、人間は都合よく解釈したり、横着するものですよね。
①「クラクションを鳴らしてから、先行車が避譲したのを確認し注意して追い越しするルール」にしたのに

いろんな人
いろんな人
オレは鳴らしたから問題ないだろ!

②「先に交差点に入っていた車両が優先」と決めたら

読者様
読者様
つまり、急いで交差点に入ったほうが優先なんだろ?

③「既に右折した車両」を妨害禁止にしたら

いろんな人
いろんな人
つまり、急いで交差点で右折したら優先権があるのか!?

という形で都合よく解釈して横着し、やがて事故る。
いつの時代も大差ないよね。
他人がどんな都合がいい解釈をしてプレイしだすかなんて、予想もつかないのが現実。

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