こちらの続き。
ちょっとマニアックなので興味がない方はスルー推奨。
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旧37条と交差点安全進行義務
36条4項には交差点安全進行義務が規定されてますが、この規定は昭和46年改正で誕生しています。
なぜこれがあるかについては、旧37条が関係します。
以前も書いたように、旧37条には2項がありました。
第三十七条 車両等は、交差点で右折する場合において、当該交差点において直進し、又は左折しようとする車両等があるときは、第三十五条第一項又は第二項の規定にかかわらず、当該車両等の進行を妨げては ならない。
2 車両等は、交差点で直進し、又は左折しようとするときは、当該交差点において既に右折している車両等の進行を妨げてはならない。
右折車は、左折車と直進車を進行妨害してはダメ(1項)。
けど、左折車と直進車は「既に右折した車両」を妨害するのもダメ(2項)。
これの解釈ですが、多数派はこうだったみたい。
青の位置は「未右折、右折中」、赤は既右折。
未右折車、右折車 | 既右折車 |
直進車を優先させる義務(1項) | 直進車は既右折車を妨害禁止(2項) |
右折しながら優先関係が変化するように見えてしまう。
これの何が問題かというと、未右折車→既右折車になるには1~2秒もあればなれる。
そうすると、直進車は「37条2項の違反」になることを恐れて、直進なのに徐行するしかなくなる。
本来は1項で直進優先のはずが、2項違反を恐れて直進車が徐行して、右折車が優先するという意味不明な状況に陥ると佐野判事が指摘しています。
なので「途中から優先関係が変わる規定じゃないんだ」という論文を出したわけ。
2項は、1項による直進車の優先関係が発生する以前に既右折状態に入った右折車がその後に発生した事情によって直進車の進路上にとどまらざるを得なくなった場合には、直進車はそのような状態にある右折車の進行を妨げてはならないことを規定したもので、運転者が直進中に、自車進路上、制動距離外に障害物を発見したときには、これとの衝突を回避すべきは条理上当然のことで、成文による規定を待つまでもなく、2項は不要の規定である。
判例タイムズ284号「交差点における他の車両等との関係(東京地裁 朝岡智幸氏)」、佐野判事の論文からの引用
直進車がいないから右折したけど、思いの外横断歩行者が途切れなくて停止が続いたとします。
この状況で直進車が現れたときに、「既右折車を妨害するな」というのが本来の2項だと指摘。
優先関係が途中で入れ替わる規定ではなく、直進車妨害にならない間に右折した車両にアタックするなという話なんだと。
けどそもそも、自分の進路前方に停止車両がいたら速度を落として事故らないようにするのは「条理上当然」。
2項のせいで優先関係が入れ替わるかのような誤解を生んでいるから、2項は削除されるべきと指摘したわけです。
結果、2項は削除。
その上で36条4項に交差点安全進行義務を新設した。
「状況に応じ」、「対向右折車に特に注意し」となっているのは、要は佐野判事が指摘した内容をそのまま新設したような形になります。
わざわざ「状況に応じ」と付けている理由は、あくまでも何かを予見して進めという意味ではなくて、目に見える状況次第できちんと事故を回避しろというだけなんですが、民事の過失割合ではかなり広く解釈されて過失扱いされるのがオチ。
ただし、きちんと判断して無過失を認定した判例もあります。
昭和46年に削除された37条2項をあえて書くのは、削除に至った経緯と佐野判事が指摘した内容が今もそのまま適用されているからです。
佐野判事が指摘した内容が現在の36条4項の内容でもあって、36条4項は「目に見える危険を回避可能なのに回避しなかった場合」を違反とする。
信号無視する自転車を予測するのではなく、信号無視した自転車について事故回避が可能なのに回避しなかった場合が違反。
左折車と自転車レーンの関係
前回も書いたように、進行方向別通行区分があり左折車が自転車レーンに寄せることができないなら、基本は直進自転車が優先します。
しかしあくまでも「自転車に対し急な速度等の変更をさせる進路変更禁止」なので、26条の2第2項の違反になる前に「既に進路を変更」した車両がいた場合、
自転車は既進路変更車と衝突しないように速度を落として進行する。
当たり前のこと。
既進路変更車は自転車に対し妨害(違反)しているわけではない。
37条2項が削除された経緯が、左折車の関係を説明するにも一番分かりやすいと思います。
まあ、旧37条はこんなんだから、
当時の判例をみても、「既右折車」なのか「右折中」なのかで争っているものは多い。
優先関係が逆転するので。
けど、本来は優先関係が逆転する解釈自体がおかしいんですよと指摘したのが佐野判事の論文。
劣後から優先に変化するなら、確かに直進車はいろいろ警戒して徐行する結果になり意味がなくなりますね笑。
道路交通法って、イマイチ解釈が難しいものはありますが、追いつかれた車両の義務だって歴史からみると一時停止や徐行が義務だとはとても思えないのですが、追いつかれた車両の義務ってほとんどの場合問題にならないので、どうでもいいのかもしれません。
道路交通法は難解すぎるので、分かりやすく直すべきだと思うのですが、警察官ですら間違ってしまう法律に何の意味があるのだろ。
相変わらず「歩道の逆走は違反マン」は沸いてきますし。
「信号守れ」とか「二段階右折しろ」なんてバカでも言えるけど、従うべき信号がわからないとか、二段階右折のラインがわからなきゃ意味ないよね。
36条4項で「右折車に特に注意し」とついている理由は、旧37条2項を削除した過程に関係していると言えます。
けど本来の趣旨は「当該交差点の状況に応じ」なので、右折待ち車両が直進妨害アタックすることを予見しろという意味ではなく、既に右折した車両が交差点内に停止してしまっていたら、事故らないように減速や停止をしてねというだけなんだよね。
なぜか「当該交差点の状況に応じ」をすっ飛ばして解釈したがる人もいますが、「予見して進行する義務」ではなく「目に見える状況を確認し進行する義務」でしかない。
「当該交差点の状況に応じ」がないと、事故が起きたら必ず違反になりかねないし不合理。
あくまでも「前を見て回避可能な事故を防げ」というだけでしかない。
昭和40年くらいの判例って、右直事故について
「既に右折していた車両だろ!右折が優先!」
「いや、まだ既右折車じゃないだろ!直進優先!」
みたいな謎争いが散見されるのは、こんなワケわからないルールのせいです。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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