ちょっとびっくりしたのですが、
路外右折車と直進車が衝突したとする。
一方のクルマに「定員オーバー」(道路交通法違反)があったときに、

と解説している人がいまして。
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定員オーバーは過失になるか?
定員オーバーは道路交通法違反なので厳に慎むべきなのは当然ですが、根本的な法律構造を理解していたらそういう意見にならないのよね。
「道路交通法違反と過失は別の概念である」
例えば民事の賠償責任を追及する民法709条をみてもわかるんだけど、
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
過失「によって」なので、過失と事故発生に因果関係がなければ過失とは認定されない。
「定員を遵守していたら事故は起きなかった」とか「定員を遵守していたら事故の損害が小さかった」みたいな話じゃないと事故と定員オーバーの間には因果関係がない。
少なくともこの事故態様においては定員オーバーがあったとしても、それが過失と認められる可能性はないでしょう。
ただし定員オーバーが必ず過失にならないとは言えない。
例えばこういう事例。
被告がその所有の乗用軽自動車(以下「被告車」という。)を運転して、前方不注視のまま制限時速40キロメートルのところを時速80キロメートル以上で走行したため運転操作を誤り、道路左側端の防護柵及び折から右路上に駐車中の普通貨物自動車、更に普通乗用自動車に自車を衝突させ、被告車に同乗していたAに脳挫傷の傷害を負わせて、同月25日同人を死亡させた。
京都地裁 昭和60年8月7日
事案は、同乗者Aが死亡したことについて運転者(被告)に損害賠償請求したもの。
なぜこの事故で定員オーバーが過失になるか?
本件事故当時、被告車に同乗していたA、X及びYは、被告と中学時代からの友人で、Aが兄貴格として振舞つていたこと、当夜右の仲間にA及び被告の女友達も加わり、被告車を利用して京都市内の嵐山の喫茶店や西京区所在のマクドナルドで時を過した後、Aの女友達だけ先に帰り、残りの5名は定員オーバーを承知のうえで、Aが被告車の後部座席右端、Xが中央、Yが左端に、そして被告の女友達が助手席に乗り、被告が運転してAを自宅に送り届けるため互に雑談しながら走行していたこと、被告は、事故現場付近の速度規制が時速40キロメートルであつたのに、時速約60キロメートルで運転しながら、Aを含む後部座席の雑談に釣られて一瞬のことであるが、前方注視を怠ると共に運転操作を疎かにしたため、被告車が左方にふられて道路左端の防護柵に衝突しそうになつたこと、そこで、被告は咄嗟にハンドルを右転把し、同時に急ブレーキをかけるなどしたが時すでに遅く、定員オーバーによる過重も手伝い本件事故を惹起したこと、以上の事実を認めることができ、
(中略)
右認定事実によれば、本件事故の発生には、Aがその原因の一端に関与しているといわざるを得ないうえ、Aを送り届ける途中で生じた事故である点をも考慮し、原告に帰属の損害につき30パーセントの減額をするのが相当である。
京都地裁 昭和60年8月7日
要はこの事故、既に定員に達しているところに強引にAが乗り込んだ上、Aの雑談が運転者の前方注視を散漫にさせたこと(同乗者の過失)、バランスを失った原因の一端に定員オーバーがあると考えられることから被害者の過失と認定。
ただし過失の大半は運転者の速度超過や前方不注視にあることは言うまでもない。
このように「定員オーバー」と「事故発生」に因果関係があると言えるなら定員オーバーが過失になるけど、因果関係がないなら道路交通法違反だけど過失にはならないのよね。
例えばなんだけど、右直事故の加害者(ケガなし)がシートベルトを着用していなかったとする。
シートベルト未着用は道路交通法違反ですが、じゃあシートベルトをしていたら右直事故は起きていなかったか?と言われたら「関係ない」としか言いようがない。
ましてや「加害者がシートベルトを着用していたら、被害者のケガの程度は小さかった」なんてわけもなく、違反と過失は別なのよ。
支離滅裂な主張をすれば頭がおかしい人と勘違いされかねないから注意したほうがいい。
道路交通法においても
道路交通法ではクルマの違反行為の大半は青切符(反則金)としてますが、青切符は交通事故の場合には適用しないとしている。
第百二十五条
2 この章において「反則者」とは、反則行為をした者であつて、次の各号のいずれかに該当する者以外のものをいう。
三 当該反則行為をし、よつて交通事故を起こした者
本来道路交通法違反は刑事事件になるところ、「事故でもないし軽微な違反だから反則金を払えば刑事訴追しない」というのが青切符の趣旨。
ところが、
当該反則行為をし、よつて交通事故を起こした者
青切符の除外は反則行為と交通事故発生に因果関係がある場合だとしている(「よって」なので)。
つまり交通事故の場合でも、事故と因果関係がない反則行為については青切符の対象になる。
一例としてこちら。
事案は積載制限違反(反則行為)でオートバイに衝突したものですが、検察官は「積載制限違反」と「交通事故」に因果関係があると考え青切符ではなく起訴した。
しかし裁判所は一蹴。
本件公訴事実は次の通りである。
被告人は、法定の除外事由なく昭和(略)ごろ、(略)において、自動車検査証に記載された最大積載量4000キログラムを約1400キログラムを超えた約5400キログラムの砕石を積載した貨物自動車を運転したものである。
(中略)
この事実は道路交通法第57条第1項、第119条第1項第3号の2、同法施行令第22条第1項第2号に該当する同法違反事実であるところ、これは同法第125条第1項所定の反則行為に当る。ところで被告人に対しては、同条第2項第1号所定の無免許運転者、同第2号所定の過去1年以内の行政処分を受けたことがある者、あるいは同第3号所定の酒気をおびていた者のいづれかに該当するとの資料がない。もつとも前掲各証拠ならびに司法警察員作成の実況見分調書、医師の死亡診断書(死体検案書)によれば、被告人が本件公訴事実摘示の積載違反車両を運転中、公訴事実摘示の日時場所においてA運転の自動二輪車と衝突して同人が死亡した事実を認めることができるのであるが、前掲全証拠によるも、右衝突事故に対する被告人の業務上の過失の有無は別として、被告人の本件積載違反と右衝突事故との間には何等の因果関係もこれを認めることはできない。よつて被告人は、道路交通法第125条第2項第4号所定の反則行為をしよつて交通事故を起した者にも該当しないのである。
従つて本件公訴事実については、被告人に対して同条第1項所定の反則行為者として同法第126条、同第127条所定の告知通告の手続がなされたうえ、なお同法第130条所定の条件を充足しなければ公訴の提起はできないものといわなければならない。
高崎簡裁 昭和44年2月24日
民法709条は「過失によって」としてますが、要は過失と事故との間に因果関係がないと過失とは認められない。
道路交通法の青切符制度の除外についても「よって」として反則行為と交通事故との間に因果関係が必要としてますが、
道路交通法違反と過失は別の概念。
例えば尾灯切れは違反になるけど、尾灯切れのまま右直事故を起こしたとして尾灯切れは事故発生と関係ないのよね。
別の概念なんだと理解してないと、支離滅裂な主張をして恥をかくだけだと思われますが…
そして過失にならないから守らなくてもよい、という意味ではない。
シンプルに別問題なだけなのよね。
けどこの概念を理解してないと、解説書や判例をみでも意味を取り違える原因になる。

2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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