こちらの件。

被害者をクルマではねた後に、被害者をクルマに乗せ30キロ移動し、山中に遺棄した。
こんなことをする人がいるのは驚きしかない。
被告人は殺人罪とひき逃げ(救護義務違反)「など」の罪に問われており、すでに裁判は結審し判決待ち。
どこかのYouTuberがこの件を取り上げていたけど、どうも解説内容がピントがズレているように思えた。
まず「被害者をクルマではねた」という点については、過失運転致傷罪が成立すると思われる。
事故態様が不明なのですが、とりあえず過失運転致傷罪が成立する前提で考える。
当然この事故について殺意があるとは思えないのは言うまでもない。
事故を起こした以上、被害者の救護義務(道路交通法72条1項)が発生する。
病院に向かうでもないのだから救護義務違反罪が成立する。
では殺人罪はどの行為についてのものか?
殺人罪は「作為による殺人」と「不作為による殺人」があり、前者は例えば拳銃で発砲する行為。
不作為による殺人罪とは、例えば乳幼児に飲食を与えないような行為。
乳児や幼児は自分で食物を調達できるわけもなく、飲食を与えなければやがて死亡することは明らか。
ではこの事件における殺人罪とは何か?
事故で重症の状態に陥った人がいたら、山中に放置すればやがて死亡する。
しかも時期は12月。
寒い時期の山中に重症者を放置すればやがて死亡することは明らかなとこ ろ(不作為による殺人)、報道各種をみる限り、未必的な認識というのは「被害者が生きていたことの認識」(より正確にいえば「生きていた認識」と「適切な処置をすれば存命する可能性の認識」)だと思うのよね。
被害者が生きていたことを未必的にせよ認識していたなら、冬場に重症者を野外に放置すればやがて死亡する可能性がある。
そこを検察官が主張していて、弁護側は「被害者が死んでいたと思った」、つまり被害者が生きていたことの認識がないから殺人罪が成立せず、死体遺棄罪にとどまると主張しているように見える。
某YouTuberの解説をみたときに、「何に対する認識」なのかと、「何の行為が殺人と評価されるか」がぐちゃぐちゃに見えてしまい、何の解説をしているのかさっぱりわからなかった。
ところで、殺人罪となったときに加害者の任意保険から支払われるかが問題になる。
第十七条 保険者は、保険契約者又は被保険者の故意又は重大な過失によって生じた損害をてん補する責任を負わない。戦争その他の変乱によって生じた損害についても、同様とする。
いわゆる故意免責(保険法17条1項)の問題があるが、自賠責保険はこの規定の影響を受けないから自賠責保険分は支払われる(被害者請求)。
そして事故そのものは「運転行為における過失」であることから、傷害に至った限度で任意保険から支払われるのか、それとも死亡に至った点についても支払われるのか?
過失により傷害を負わせ、救護の不作為により死亡に至らせた殺人の場合、保険関係はどうなるのだろ。
ここは私の知識が追いついてないのでわからないけど、詳しい方がいたら教えてください。
ちなみにですが、この事件を解説したところで交通安全にも運転技術向上にもならないし、こんなことをする人はめったにいない。
で。
某YouTuberの解説を改めてみると、生存可能性や救命可能性についても言及している。
けど全体を見渡すとどこかピントがズレているように感じる。
その理由がなんなのか考えると、この事案については過失運転(致死か致傷かは置いといて)がどのみち成立しているのに、殺人罪(故意犯)が成立しなければ過失になると考えているからではなかろうか?
科刑上の処理(併合や吸収)は置いといて、どちらにせよ過失運転は成立し、殺人や死体遺棄は別の事件だという整理がついてない上に、取り上げる判例もどこかピントがズレている。
要は何に対する認識(故意)なのかがアバウトになってしまう判例を挙げるからピントがズレているように思える。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。


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