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前夜の酒が残っていて酒気帯び運転として検挙。

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今回取り上げるのはこちらです。

石川県警の巡査部長が2025年12月、酒気帯び運転をしたとして書類送検され、16日付けで依願退職しました。自宅で缶酎ハイ4本を飲み翌朝、警察署のアルコールチェッカーで発覚したということです。

石川県内の警察署で勤務する50代の男性巡査部長は2025年12月5日、午前8時45分頃、勤務する警察署に車を運転して出勤した際、署内のアルコールチェッカーで基準値を超えるアルコールが検知されました。

調べに対し、巡査部長は前日の午後10時から11時ごろまでに、500ミリリットル入りの缶酎ハイ4本を飲んだとした上で「二日酔い運転の感覚はまったくなかった」と話しているということです。

「缶酎ハイ500ml×4本」飲み翌朝、車で出勤 石川県警の50代男性巡査部長 酒気帯び疑いで書類送検 懲戒処分受け依願退職 「二日酔い運転の感覚全くなかった」 | 石川県のニュース|MRO北陸放送 (1ページ)
石川県警の巡査部長が2025年12月、酒気帯び運転をしたとして書類送検され、16日付けで依願退職しました。自宅で缶酎ハイ4本を飲み翌朝、警察署のアルコールチェッカーで発覚したということです。石川県内の警察署… (1ページ)

さて。
似たような話についてちょっと前に取り上げたばかり。

酒気帯び運転で不起訴&懲戒免職処分取消。
ちょっと興味深い記事がありまして、前夜飲酒し、酒が残っていた状態で運転したとして酒気帯び運転で検挙された。これについて懲戒免職処分としたものを裁判所が取り消したという事案です。今回は懲戒免職の話ではありません。酒気帯び運転罪が「不起訴」にな...
第百十七条の二の二 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
三 第六十五条(酒気帯び運転等の禁止)第一項の規定に違反して車両等(自転車以外の軽車両を除く。次号において同じ。)を運転した者で、その運転をした場合において身体に政令で定める程度以上にアルコールを保有する状態にあつたもの

要は117条の2の2第1項3号の罪は故意犯の処罰規定で、過失処罰規定はない。
身体にアルコールが残っている認識がなかったなら故意が否定されるので、形式的には酒気帯び運転ですが罪にはならないのよね。

 

もちろん、「酒が残っているとは思わなかった」と供述すれば故意が否定されるわけではない。
飲酒量、経過時間、社会通念など総合的にみて未必的にせよ身体にアルコールが残っている認識がなかったと考えられるなら、罪には問えないことになる。

 

前回記事で取り上げた事案は不起訴処分になってますが、

 

報道によると、前日は午後11時までに焼酎の緑茶割りを6、7杯飲み、朝にはアルコールが残っている認識がなかった
この人は午前11時15分頃に運転中に止められて、1リットル中0・2ミリグラムのアルコールを検出し酒気帯び運転罪で検挙されたと。

 

飲酒から12時間経過していることを考えると、酒気帯び運転の故意を立証するのは困難だと検察官が考えて不起訴処分にしたのではないかと思われる。
一方、今回の事案は11時に飲酒終了で8:45にアルコール検知。
つまり9時間45分程度経過していることになる。

 

経過時間が絶対的な指標ではなく、飲酒量やアルコール分解能力に左右されるのは言うまでもないけど、気になった判例を挙げてみます。

 

○鹿児島地裁 平成元年10月26日

被告人は、本件当時タクシーの運転手として稼動していたものであるところ、平素、午後8時半ころから1時間位かけてお湯割の焼酎コップ4、5杯程度の晩酌をする習慣があったが、これまで晩酌の翌朝体内にアルコールが残っていると感じたことはなく、晩酌の翌朝にアルコール検査などを受けたこともなかった。また、被告人は、酒を飲んだ翌朝妻から酒臭いと言われたことがあるが、それは友人と外に飲みに行った時などであって、通常の晩酌の翌朝にそのように言われたことはなかった。

本件当時被告人は風邪をひいており、本件運転行為の前日である平成元年5月5日はまだ風邪が抜け切れなかったが、すでに2、3日乗務を休んでいたので、翌日は乗務に就こうと思って午後8時過ぎころにいったん床についたものの、なかなか寝つけなかったため、お湯割の焼酎3合位を約1時間かけて飲んだ上、さらに睡眠薬を飲んで、午後11時ころ就寝した。そして、翌6日午前5時ころ目を覚ました被告人は、2、3日風呂に入っていなかったので風呂に行こうと考え、同日午前5時55分ころ普通乗用自動車を運転して自宅を出て、同日午前6時ころ、罪となるべき事実記載の事故を起こし、事故現場でアルコール検査を受けたところ、呼気一リットルにつき0.35ミリグラムの濃度のアルコールが検出された。

四  ところで、人が飲酒の翌朝自己の体内にアルコールが残っていることを認識するのは、たとえば2日酔いなどの体調の不調を自覚するか、他人から酒臭などを指摘されたりすることなどによるのが一般であって、ことに、晩酌の習慣のある者は、翌朝酒臭がすることを頻繁に指摘されていたとか、翌朝アルコール検査を受けたことがあるとかの事実がない限り、単に前夜普段どおりの晩酌をしたことを認識しているだけでは、翌朝自己の体内にアルコールが残っているかどうかについては格別意識しないとしても不自然ではないと思われる。

これを本件についてみると、被告人は、前記認定のとおりこれまで晩酌の翌朝アルコールがまだ体内に残っていると感じたことはなく、またアルコール検査を受けるなどしたこともなかったのであるから、前夜の晩酌が被告人の通常の晩酌に止まっているかぎり、その翌朝被告人がアルコールの残存について格別意識しなかったということは充分考えられることである。そして、被告人の本件前夜の飲酒は、飲酒を始めた時間こそ普段晩酌を始める時間より1、2時間遅かったものの、飲酒量は普段の晩酌の半分程であったのであるから、本件前夜の晩酌が、平素の晩酌と異なり翌朝アルコールが残っているのではないかとの危惧を被告人に抱かせる程度のものであったとまでは認められない。そうすると、本件運転行為を開始するに際して体内にアルコールが残っているかどうかについては格別意識しなかったとの被告人の前記供述は、あながちこれを虚偽として排斥することはできない。

五  ところで、検察官は、被告人が捜査段階において、検察官に対し、「昨夜飲んだ焼酎のアルコール分もまだ完全に抜け切ったとは思いませんでしたが、酔ってはいなかったので」運転したと供述していること、また、被告人は本件以前にも、酒を飲んだ翌朝妻から酒の臭いがするといわれたことがあること、本件の前夜は風邪気味で体調が悪かったこと、いつもより遅い時間に焼酎を飲んだことなどの認識があることから、被告人は本件運転行為開始の際自己の身体にアルコールを保有していることの認識を有していた旨主張する。

しかしながら、先ず、検察官の指摘する右捜査段階の被告人の供述は、アルコール分が体から「抜け切ったとは思わなかった」ことを認めるものであるが、しかし、それで、ただちに、アルコール分が残っていると思ったとの趣旨の供述であるとは解することはできず、抜け切ったとも思わなかったし、残っているとも思わなかった(要するに、アルコールのことは考えなかった)との趣旨の供述とも解しうる余地があり、酒気帯び運転の故意を認めたものとするにはあいまいであるうえ、被告人は、本件事故の直後司法警察員に対しては、「平素は晩酌のとき2合位かんをしたものでコップ4、5杯は飲むのに昨夜はコップ2杯だけで飲んだ量が少なかったし、目覚めがさわやかでしたので酒気帯び運転のことなどまったく頭にありませんでした」とも供述しているのであるから、検察官指摘の前記検察官に対する被告人の供述を被告人が酒気帯び運転の故意を自認したものとまでみることはできない。次に、被告人が、酒を飲んだ翌朝妻から酒の臭いがする旨指摘されたことがあったことは前記認定のとおりであるが、その指摘が、晩酌の翌朝は前夜のアルコールが体内に残っているものだという認識を被告人に形成させるほど頻繁にあったとまでみとめるに足りる証拠はない。また、本件前夜被告人は体調が悪く、通常の晩酌時間より遅くから飲み始めたことも前記認定のとおりであるが、それが普段の晩酌と異なり、翌朝までアルコールが残っているのではないかとの危惧を被告人に抱かせるように飲酒状況ではなかったことは前示のとおりである。そうすると、検察官指摘の各事実を考慮しても、本件運転行為の際、自己の体内にアルコールが残っているかどうかということについては格別考えなかったとの当公判廷における被告人の弁解を排斥して、被告人に酒気帯び運転の故意を認めるに足りないと言うべきである。

なお、本件事故直後測定した被告人の呼気1リットル中の前記アルコール濃度0.35ミリグラムは決して低いものではなく、また、司法警察員作成の酒気帯び鑑識カードによれば、事故直後被告人の顔色は赤く、目は充血しており、顔面から30センチメートル離れたところで酒臭がしていたと認められるが、アルコール濃度や外貌は、必ずしもその者のアルコール保有の認識と直結するものではないから、これらの事実のみで被告人に酒気帯び運転の故意を認定することはできない。

鹿児島地裁 平成元年10月26日

11時に飲酒終了、6時にアルコール検知なので7時間ですが、経過時間が絶対的な指標ではなく酒が残っていた認識があるかを多方面から検討して故意がないので無罪とする(なお業務上過失傷害罪は有罪です)。

 

○最高裁 昭和52年9月19日

道路交通法一一九条一項七号の二に規定する酒気帯び運転の罪の故意が成立するためには、行為者において、アルコールを自己の身体に保有しながら車両等の運転をすることの認識があれば足り、同法施行令四四条の三所定のアルコール保有量の数値まで認識している必要はないとした原判断は、相当である。

最高裁判所第一小法廷 昭和52年9月19日

こちらは高裁判決文が見つからないため詳細は不明ですが、上告趣意書によると、経過時間は9時間25分になる。

「前日の午後九時頃から、同11時すこし前頃までの間、焼き鳥屋で清酒7合位、ビール普通びんに1本半位を飲んだ後、同11時過ぎ頃自宅に帰つて直ぐ就寝し、翌28日午前6時30分頃起床し」た後午前8時25分頃の運転行為を「酒気帯び運転」に問擬された

争点が「酒が残っている認識」で足りるか?
それとも「基準値を越えた酒が残っている認識」が必要か?になっているので、最高裁決定の判断自体は妥当だと思う。

 

さて、これらを踏まえて。
以前書いたように、酒気帯び運転罪の成立には故意が必要ですが、酒気帯び運転として加点し行政処分を行うには故意は不要。
したがって刑罰上の酒気帯び運転罪が成立しなかったとしても、全くおとがめ無しになるわけではなく免許取消になる可能性はある。

 

要するに酒気帯び運転罪が無罪になることと、酒気帯び運転か否かは若干のズレがある。

 

おそらく冒頭の報道にしても、形式上書類送検したにしても故意の立証は困難だから不起訴処分になるのではないかと思われる。
一方、酒気帯び運転として行政処分は行われるだろうし、現に依願退職という形で職を失う。

 

翌朝の酒残りについてはビミョーな部分もあり、強い非難の対象なのかは疑問もありますが、道路交通法改正により自転車も酒気帯び運転罪が成立することになったので、理屈の上では同様の「酒残り自転車運転」が起こりうるのよね。

 

ところで任意保険の「人身傷害保険」(対人賠償責任保険ではない)は、「運転者が酒気帯び運転の場合には運転者の人身損害に対しては支払わない」という免責条項があり、「酒気帯び運転とは道路交通法65条1項に違反する状態」と規定し「酒気帯び運転とは道路交通法117条の2の2の罪にあたる場合」とはしていないから、故意がないとして酒気帯び運転罪が否定されたとしても、形式的に酒気帯び運転なら支払われないと考えられる。
現に酒気帯び運転の基準値を満たしてないケースでも人身傷害保険の免責条項に該当するとした実例がある。

酒気帯び運転だと知りながら同乗すると人身傷害保険から支払われない。
以前、「運転者が飲酒しているのを知りながら同乗し事故に遭った場合、同乗者を被保険者とする人身傷害保険は支払われない」(重過失免責)とした札幌地裁判決を紹介しましたが、運転レベル向上委員会はうちを頻繁に見ているのに、なぜか「人身傷害保険は支払...

刑罰が課されるか?と、行政処分があるか?と、民事上の問題は全部別なのですが、この複雑さが世間の理解と乖離する原因なのかも。
そしてきちんと理解しないからいつまでも陰謀論が絶えない。

 

ところで上の鹿児島地裁の事例は、仮に危険運転致死傷罪の数値基準が0.3にした場合には、過失運転致死傷罪ではなく危険運転致死傷罪になるのか?という問題がある。
前夜の酒残り、目覚めさわやかという事案に危険運転致死傷罪を適用するほどの悪質性を見いだすのは困難だと思うのですが、どちらにしても酒残りの故意がないとして危険運転致死傷罪は適用できないということだろうか。

 

真に悪質性が高いものを危険運転致死傷罪として処罰する趣旨なので、それを踏まえてあらゆるケースを想定した検討が必要なのは言うまでもないけど、世間は所詮他人事というか、自分には関係ないこととして処罰することを考えるのよね。

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