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クルマに過失が認められなかった理由。

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これについていろいろ誤解が渦巻いているのでちょっと語ろうと思う。

この事故は、信号無視した小学生の自転車と、青信号にもかかわらず見通しが悪いことから徐行していたクルマが衝突したもの。
なお、青信号なので左右の見通しが悪い交差点でも徐行義務(道路交通法42条1号)はありません。

 

これについて裁判所は、クルマの無過失を認定した。

 

さて。
この裁判は原告がクルマ、被告が自転車です。
要するに「自転車の不法行為によりクルマが破壊されたのだから、クルマの修理費を払え」という請求をした。

 

ここで問題になるのは、この場合は物損なので民法709条が請求根拠になる。
つまり原告(クルマ)は被告(自転車)の過失を立証する義務があり、自転車側が過失相殺を主張するのであれば、クルマに過失があったことを自転車側が立証しなければならない。

 

この事故はクルマが徐行進行していたことから、自転車側にケガはなかった。
もし、もしもですよ。
自転車側がケガをして「自転車がクルマに治療費などを求める裁判」だったときは、話が変わる。

(自動車損害賠償責任)
第三条 自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない

請求根拠が民法ではなく自賠法になりますが、自賠法では「加害者側が無過失を立証しない限りは人身損害を賠償しろ」としている。

(自動車損害賠償責任)
第三条 自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したとき、この限りでない

つまり、自転車がケガをして賠償責任を追及する裁判であれば、クルマが自らの無過失を証明しないと賠償義務を負うことになる。

過失がある 過失があるとは言い切れないが、ないとも言い切れない 過失がない
民法の賠償責任
自賠法の賠償責任

法律概念では「過失がある」「過失があるとは言い切れないが、過失がないとも言い切れない」「過失がない」の三段階があり、自賠法による賠償責任であれば「過失があるとは言い切れないが、過失がないとも言い切れない」でも賠償義務を負うのよね。

 

報道のケースは、クルマが青信号にもかかわらず徐行していたことや左右の見通しが悪いことから、予見可能性も回避可能性もなかったのではないかと思われる。
なので仮に「自転車がケガの賠償を求めた裁判」であっても、自賠法3条但し書きによる無過失の立証はできたのではないかと思われますが、

 

ドラレコがなく事実関係が不安定なら、無過失の立証に失敗し自賠法による賠償責任を負う可能性もあるのよね。

 

今回のケースはクルマが原告、自転車が被告という構図の裁判だから、自転車側が過失相殺を希望するならクルマに過失があったことを立証しなければならない。
もし原告と被告が逆転していて人身損害の裁判であれば、クルマが無過失を立証しない限りは賠償責任を負うことになる。

 

ところでこの判決を「画期的」とみる人が絶えないけど、報道の内容なら昭和の時代であっても0:100だろうと思われます。
単に事例が相対的に少ないだけで、クルマの無過失を認めた判決自体は昔からわりとあるのでして。

 

そもそも基本過失割合について解説する別冊判例タイムズ38号でも、歩行者や自転車の信号無視でクルマが無過失になりうることは解説されているのでして。
シンプルにいえば、予見可能性も回避可能性もないなら0:100になる。

 

そして多くの人が勘違いしているのは、過失割合は「過失」を争っているのであって、「違反」とは別の概念なのよ。
例えば交差点手前70mの位置で「信号無視の歩行者」を発見できたなら、ブレーキ掛ければ衝突は回避できる。
それを怠り衝突すれば、前方不注視で歩行者を見逃したか、ブレーキ操作の遅れがあったかどちらかなのだから不注意(過失)があるのは明らか。

 

それが交差点5m手前で信号無視の歩行者を発見できたケースなら、既にブレーキを掛けても衝突回避は不可能。
不注意(過失)は認められない。

 

民事の基本過失割合は、例えば信号無視の歩行者や自転車との事故なら、クルマ側に前方不注視等の過失がある前提で基本過失割合を設定している(なぜなら現実の事故では軽度の前方不注視等がみられるからである)。
なのでクルマに不注意(過失)が認められないケースなら、基本過失割合を適用しない非典型例となる。

 

ドラレコの普及により、無過失の証明がしやすくなったと指摘する意見もありますが、民事って世間が思うよりはるかに複雑なんですよね。

 

ところで、四輪同士の事故では「赤信号無視側の基本過失割合が100%」になっているのに対し、四輪対自転車の事故では、「赤信号無視の自転車の基本過失割合は80%」になっている。
後者では青信号の四輪に20%の過失が設定されてますが、これは「青信号側にも前方不注視等の過失があることが多い(=回避可能性があった)」ことを前提にしているのに対し、前者では青信号側に過失がない前提になっている。

 

この差をどう考えるかですが、要するに四輪と自転車では速度の違いがあることから、赤信号無視の四輪との衝突を回避することはきわめて困難なのに対し、自転車のスピードなんてたかが知れているから回避可能性があることが多いという話だと思うのよね。

 

ちなみに自転車のスピードが30キロ以上だった場合には、民事の過失割合を考える上では自転車扱いではなく単車扱いになっている。
つまり時速30キロ以上の自転車が赤信号無視してきた場合には、基本過失割合は自転車扱いではないのでして、このあたりからも上記解釈が導かれる。

 

ところが、現実の判例では四輪同士の事故でも、青信号側に5~10%の過失を認定することがある。
つまり、「赤信号無視することが予見可能だった場合」、「青信号から赤信号に変わった直後で、しかも信号に従わない速度だと容易にわかる場合」には青信号側にも過失がつく。

 

要するに、「相手が信号無視だから」という理由だけで過失割合が決まるような仕組みではないのよね。
現実の裁判では、信号無視した際の位置関係などを考慮して青信号側に過失があるかを審査している。

 

けど世間は、「相手が信号無視だから」で決まると思っているでしょ。

 

例えばこういう判例がある。

 

判例は東京地裁 令和2年6月23日。
まずは事故の態様から。

・歩道と車道の区別があり、歩道幅員は1.7m(段差のみ)、車道幅員は7.4mでイエローのセンターラインがあり。
・車道の制限速度は40キロ。
・歩道を自転車に乗って通行していた自転車(原告)は、上りを終えて右足を地面に着こうとしたところ、踏み外して車道に転倒。
・車道を時速38キロで通行していた普通自動車(被告)の側面に原告が接触衝突。
イメージ図(正確性は保証しません)

両者の距離が13.8mに接近した際に、自転車が右足を僅かに出したのが確認できる(ドラレコ)。

両者の距離が4.3mに迫ったときに、自転車が右に傾いた。

では裁判所の判断を。

被告は、本件事故発生の数秒前に、本件歩道上を走行する原告自転車を認めることができた。しかし、原告自転車は、本件車道と縁石で区画された本件歩道上を走行しており、原告自転車に本件車道への進入等をうかがわせる動きはなかった。したがって、本件車道を制限速度内の時速約38キロで走行していた被告において、原告自転車を認めた時点で、原告自転車の車道側への進入等を予見して速度を落として走行すべき注意義務はなかったといえる。

原告が原告自転車から右足を出して本件車道との段差に足を踏み外したのは、被告車両との衝突の約1.3秒前である。しかし、被告において、原告が僅かに右足を出したのみで本件車道に倒れ込むことまでを予見することは非常に困難であり、その時点で右にハンドルを切るべきであったということはできない。仮に、原告が原告自転車から僅かに右足を出した時点で何らかの危険を予見することができたとしても、同時点で、被告車両は衝突地点まで13.8mの位置を時速38キロで走行しており、その制動距離は、空走時間を平均的な0.75秒、摩擦係数を乾燥アスファルト路面の0.7で計算すると、16.0mである。したがって、被告が直ちに急制動の措置を講じていたとしても、本件事故を回避することは不可能であったというべきである。

被告は、衝突の0.4秒前には原告が明らかに右に傾いた様子を確認することができたと認められる。しかし、運転者が、その危険を理解して方向転換等の措置をとるまでに要する反応時間(運転者が突然出現した危険の性質を理解してから方向転換等の措置をとるまでに時間が経過することは明らかである。)を考慮すると、原告との衝突前にハンドルを右に切ることができたとはいえない。また、被告車両の走行車線は幅員3.7mで、対向車線上には断続的に走行する対向車があったことからすると、被告において左右90度程度の急ハンドルを行うことは非常に危険な行為であったといわざるを得ない。
したがって、被告において、右にハンドルを切ることにより原告との衝突を回避すべきであったとはいえない。

 

東京地裁 令和2年6月23日

東京地裁はクルマの「無過失の立証」を認め無過失としている。
これがもしもですよ。
「自転車が車道に進出しそうな動きをしていた」とか、「自転車が車道に転倒した際の距離が50mあった」とかなら、クルマが無過失にはならない。
車道に進出しそうな雰囲気が皆無だった上に、4.3mに迫っていたタイミングで車道に転倒したのだから、クルマの努力では回避不可能だから無過失。

 

けど世間は「歩道から車道に転倒」という点のみで判断しようとするでしょ。
無過失になるかならないかを分けるのはそこではなくて、転倒したタイミングで両者がどの程度離れていたかと、車道に進出しそうな雰囲気が出ていたか?なのよね。

 

さて冒頭の件。
青信号にもかかわらず左右の見通しが悪いことから徐行していたところに、赤信号無視の自転車が突っ込んできた。
徐行義務がないのにしていて、しかも徐行していたのに回避不可能だったのなら、クルマに過失を認めるわけにはいかない。
しかし他の「自転車赤信号無視事故」で、左右の見通しが悪いからといって徐行するクルマなんて皆無に等しいでしょ。

 

そして世間は「自転車が赤信号無視だから」という点のみを取り上げたがる。
0:100になった理由はそこがポイントではないのよね。

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