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海の中道大橋飲酒事故判決にみる、最高裁の役目。

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今回取り上げようと思うのはこちら。

福岡で起きた「海の中道大橋飲酒事故」判決への理解について。

 

この事故は、相当量の飲酒をした被告人が制限速度50キロの「海の中道大橋」を約100キロで通行し、被害車両に追突し水没させた事故。
危険運転致死傷罪(当時の刑法208条の2第1項前段、現在の処罰法2条1号と同じ)が成立するか、それとも業務上過失致死傷罪にとどまるかが論点である。

 

現行法の規定

(危険運転致死傷)
第二条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の拘禁刑に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期拘禁刑に処する。
一 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為

この裁判は一審(福岡地裁 平成20年1月8日)は危険運転致死傷罪の成立を認めず業務上過失致死傷罪にとどまるとし、二審(福岡高裁 平成21年5月15日)は危険運転致死傷罪が成立するとした。
そして最高裁平成23年10月31日は、上告棄却の決定をし危険運転致死傷罪が成立するとした福岡高裁判決が確定した。

 

最高裁が危険運転致死傷罪の成立を認めたことを以て、一審判決を非難するのはこの事故については的外れなのよ。

 

まず前提として、被告人が被追突車(被害車両)を「視認可能」だったのは衝突の9秒手前で、現実に被害車両を「視認した」のは衝突の1秒手前。

 

一審はこの8秒間の間被害車両を視認できなかった理由を「脇見」とし、飲酒の影響でなく脇見が原因だから危険運転致死傷罪が成立しないとした。
二審はこの道路には横断勾配があり、ハンドル操作せずまっすぐ進むと自然に左側に流れていくところ、そのようなことがなくまっすぐ進行出来ていたのだから脇見していたとは認められず、脇見していたわけではないのに前方の障害物を直前まで発見できなかったのはアルコールの影響で正常な判断ができなかったからだとして危険運転致死傷罪が成立するとした。

 

さて最高裁は形式的には上告棄却決定、つまり高裁判決を支持したことになる。
しかし問題になるのはその理由。

3 所論は,原判決が被告人について危険運転致死傷罪の要件である「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」にあったことを認めたのは誤りである旨主張する。そこで検討するに,刑法208条の2第1項前段における「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」であったか否かを判断するに当たっては,事故の態様のほか,事故前の飲酒量及び酩酊状況,事故前の運転状況,事故後の言動,飲酒検知結果等を総合的に考慮すべきである。

4 これを本件について見るに,原判決の認定及び記録によれば,その事実関係は次のとおりである。すなわち,本件は,被告人が,夜間,最高速度が時速50㎞と指定されている見通しの良いほぼ直線の本件道路において,時速約100㎞という高速度に自車を加速させて走行させ,前方を走行する被害車両に自車を衝突させた事案であるところ,被告人は,本件事故前に,自宅や2軒の飲食店において,焼酎ロックを合計8,9杯のほか,ブランデーやビールを飲酒し,身体のバランスを崩して平衡感覚を保ち得ないなどの状態を示していた。被告人は,自ら酔っている旨の発言もし,本件事故前の運転中においても,同乗者からふだんとは違う高速度の運転であることを指摘されるなどした。本件事故後に臨場した警察官等も,被告人が相当に酩酊していた状況を現認した。
これらの事実によれば,本件事故後の飲酒検知結果等からは被告人の本件事故当時の血中アルコール濃度は血液1mℓ 中0.5㎎を上回る程度のものと認定できるにとどまること,また,被告人は,本件事故現場に至るまでは,約8分間にわたり道路状況等に応じた運転をしていたこと等を考慮しても,本件当時,被告人が相当程度の酩酊状態にあったことは明らかである。

5 そして,原判決の認定によれば,本件道路上においては,被告人が自車を走行させた条件の下では,前方を向いている限り,先行する被害車両を遅くとも衝突の約9秒前(車間距離としては約150m)からは認識できる状況にあったにもかかわらず,被告人は,被害車両の直近に至るまでの8秒程度にわたり,その存在に気付かないで自車を走行させて追突し,本件事故を引き起こしたというのである。

6 この点について,原判決は,前記のとおり,被告人は,基本的には前方に視線を向けていたが,アルコールの影響により,正常な状態であれば当然に認識できるはずの被害車両の存在を認識できなかったとする。原判決が被告人において基本的に前方に視線を向けていたと認定するに当たって依拠した主要な証拠は,本件道路には横断勾配が付されているために,ハンドルを操作せずに車両を走行させると自然に左に向かう構造となっており,直進するためには前方を見ながら進路を修正する必要があり,長時間の脇見をしながら直進走行することは不可能であるとの実験結果が記載された報告書等であると解される。しかしながら,この報告書における実験は,自動車が道路に対して直進状況になった地点から両手を離してハンドルを操作せずに走行すると,数秒後に自動車の進路は道路左側へ自然と移行するとするものであって,通常では考え難い運転方法を採っているなど,本件事故時の被告人運転車両の走行状況と前提条件が同じであるとはいい難い。そして,前方を見ていなかったとしてもハンドルを握っていればその操作はある程度可能であると考えられることからすれば,上記実験は,被告人が脇見をしていた可能性を否定して基本的に前方に視線を向けていたとするまでの証拠価値があるとはいえない。このような本件の証拠関係に照らすと,被告人が本件事故前に8秒程度にわたり終始前方を見ていなかった可能性も排除できないというべきである。
そうすると,被告人が,自車を時速約100㎞で高速度走行させていたにもかかわらず8秒程度にわたって被害車両の存在を認識していなかった理由は,その間終始前方を見ていなかったか,前方を見ることがあっても被害車両を認識することができない状態にあったかのいずれかということになる。認識可能なものが注意力を欠いて認識できない後者の場合はもちろんのこと,前者の場合であっても,約8秒間もの長い間,特段の理由もなく前方を見ないまま高速度走行して危険な運転を継続したということになり,被告人は,いずれにしても,正常な状態にある運転者では通常考え難い異常な状態で自車を走行させていたというほかない。そして,被告人が前記のとおり飲酒のため酩酊状態にあったことなどの本件証拠関係の下では,被告人は,飲酒酩酊により上記のような状態にあったと認定するのが相当である。
そして,前記のとおりの被告人の本件事故前の飲酒量や本件前後の被告人の言動等によれば,被告人は自身が飲酒酩酊により上記のような状態にあったことを認識していたことも推認できるというべきである。

刑法208条の2第1項前段の「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」とは,アルコールの影響により道路交通の状況等に応じた運転操作を行うことが困難な心身の状態をいうと解されるが,アルコールの影響により前方を注視してそこにある危険を的確に把握して対処することができない状態も,これに当たるというべきである。
そして,前記検討したところによれば,本件は,飲酒酩酊状態にあった被告人が直進道路において高速で普通乗用自動車を運転中,先行車両の直近に至るまでこれに気付かず追突し,その衝撃により同車両を橋の上から海中に転落・水没させ,死傷の結果を発生させた事案であるところ,追突の原因は,被告人が被害車両に気付くまでの約8秒間終始前方を見ていなかったか又はその間前方を見てもこれを認識できない状態にあったかのいずれかであり,いずれであってもアルコールの影響により前方を注視してそこにある危険を的確に把握して対処することができない状態にあったと認められ,かつ,被告人にそのことの認識があったことも認められるのであるから,被告人は,アルコールの影響により正常な運転が困難な状態で自車を走行させ,よって人を死傷させたものというべきである。被告人に危険運転致死傷罪の成立を認めた原判決は,結論において相当である。

最高裁判所第三小法廷 平成23年10月31日

最高裁は、高裁が認定した「横断勾配の存在により前方注視することなくまっすぐ進むことはできないのだから、まっすぐ進行出来ていた被告人は脇見運転ではない」とした部分は否定している。
そうするとこの事故の原因は被告人が被害車両に気付くまでの約8秒間終始前方を見ていなかったか又はその間前方を見てもこれを認識できない状態にあったかのいずれかだとなり、これがどちらなのかは証拠上確定できない。

 

しかし最高裁は「いずれであっても」アルコールの影響により前方を注視してそこにある危険を的確に把握して対処することができない状態だったとし、地裁判決がいう「脇見」が原因だとしても8秒間も高速度で脇見運転するのはアルコールの影響による異常事態だし、高裁判決がいう脇見運転ではなく前方注視していたとしても、前方の走行車両を直前まで発見できなかったのはアルコールの影響だとする。

 

つまり最高裁は、地裁判決の事実認定も高裁判決の事実認定も、どちらも危険運転致死傷罪が成立すると判断したことになる。
その意味で最高裁は高裁判決の「結論」のみを是認したのであって、高裁判決の中身は是認してないのよね。

 

で。
危険運転致死傷罪の成立要件が曖昧なことは立法時から問題になってますが、地裁判決当時は「脇見運転が原因である以上、アルコールの影響ではないから危険運転致死傷罪が成立しない」という考え方は珍しいものではなかった。
もちろん一般論では受け入れ難いでしょうが、法律論ではそうなる。

 

地裁判決がいう「脇見」であっても、8秒間も脇見運転し、しかも様々な証拠から酩酊状態だったことが認定できる本件では危険運転致死傷罪が成立するという解釈を最高裁が新たに示したことになる(現に最高裁決定には反対意見がついたように、最高裁でも一枚岩の判断ではない。このことからも、同決定が法曹界で確立された考え方ではなかった「新しい判断」だということができる)。

 

◯反対意見

以上検討したとおり,被告人の本件事故現場に至る迄の運転状況は,道路交通の状況等に応じて運転していたものというべきであって,正常運転困難状態にあったとは認められないこと,また,事故後の被告人の言動,アルコール検知の結果からしても,本件事故時に被告人が正常運転困難状態にあったことを推認できるに足る事実は,本件証拠上認められないのである。
それにもかかわらず,約8秒間の前方不注視(脇見または前方の動静に気付かなかった)との一事をもって,それがアルコールの影響によると認定するのは,その認定自体,経験則違反であり,殊に犯罪事実の構成要件該当性という極めて厳格に認定されるべき場面における経験則の適用として首肯し難いばかりでなく,かかる運転状況をもって,正常運転困難状態にあったと認定することは,正常運転困難状態とは,「事故を起こしたときにフラフラの状況であって,とてもこれは正常な運転のできる状態ではないという場合に限定していかないと,酒酔い運転プラス事故イコール本罪ということになると,本来意図していたところよりも広い範囲を捕捉することになって危険である」と刑法208条の2の立法時に学者が警鐘を鳴らしていたのと正に同様の状態を招来するものであり,同条の適用範囲を立法時に想定されていた範囲よりも拡張して適用するものであって,同条の解釈としても適切ではないというべきである。

8秒間脇見または前方の動静に気付かなかったことから「アルコールの影響で正常な運転が困難な状態」と認定した多数意見を非難してますが、要するにこの最高裁決定以前はこの反対意見のような考え方が珍しいものではなかった。
その意味では、最高裁決定は一歩踏み込んだ判断を示したのよね。

 

運転レベル向上委員会の人がこの一連の判決文をきちんと読んで理解しているようには見えませんが、最高裁が新しい判断を示す以前の地裁判決を、同最高裁決定を理由に非難するのはムリがありすぎる。

 

まあ、脇見が原因なのか脇見が原因ではないのかで地裁高裁で激論を交えていたのに、最高裁は「どっちでも危険運転だろ」とした。
結果だけをみれば、地裁高裁で激論を交わしたことはなんだったんだとなりそうですが、地裁高裁で議論を重ねた結果を踏まえて最高裁が判断したのだから、地裁高裁での議論が無意味だったわけではない。

 

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どちらも平成29年東京高裁判決がいう「救護義務の目的の達成と相いれない状態に至ったか?」が論点ですが、最高裁はこの解釈とは別の切り口で「救護義務が求める必要な措置を臨機に講ずること」とはなんなのか?を問題にした。

 

地裁高裁で激論を交わした論点とは異なる視点から説示することがあるのが最高裁です。

 

ところで、大分時速194キロ事故の上告期限は本日までですが、福岡高検は最高裁に上告した。
進行制御困難高速度について最高裁が示した事例はなく、最高裁が判断を示すか、論点はどこになるのかなど興味深いところ。

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