ずいぶん前に取り上げた記事ですが、岡山市の道路の路肩にある排水溝にロードバイクが挟まったということで、裁判になっている件を取り上げました。
この事故ですが、わかりやすくするために先に現場検証。
このように、進行方向に沿った排水溝が路肩に設置されていて、排水溝のスリットの幅は約2センチ。
ここを走っていたロードバイクがこのスリットに引っかかって事故を起こした件で、そもそもこのような危険な工作物(排水溝)を作る行政が悪いと訴えていた事件です。
この裁判、一審では原告勝訴、つまり行政の過失を認めたわけですが、二審では逆転敗訴、つまりはロード乗りの自己責任になっています。
これについて、報道直後はロード乗りの人からブーイングも出ていたわけで、こんなもん作られたら死んでしまう!という意見ですよね。
そもそもこの判決はなんだったのか、判決文がありましたので見てみました。
※前回記事は報道ベースで書いたため、やや憶測が含まれています。
今回は判決文ベースで書きます。
Contents
判決によると
この裁判ですが争点は、このスリット自体が設置管理上の瑕疵に当たるのかどうかというところです。
※下記は全て、判決文より引用します。
ウ 原告は、通勤するために本件道路を日常的に使用していたが、自動車を使用することがほとんどで、月に 1 回程度、マウンテンバイクで通勤することはあったものの、ロードバイクで本件道路を走行したことはあまりなく、本件路肩部分に本件隙間があることに気付いていなかった。
エ 本件事故当時、原告は、帰宅した後、再度、所要で勤務先に行くため、ロードバイクに乗って、本件道路を走行していた。原告は、自分の感覚で時速 20 ㎞程度の速度で、本件道路の外側線の車道側を走行し、後方から自動車が来ると、時折、本件路肩部分を走行して自動車を避けるなどしていたが、本件交差点に近付き減速したところ、本件事故にあった。
(2) 国家賠償法2条1 項にいう営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いている状況にあることであり、このような瑕疵の有無は、当該営造物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的個別的に判断すべきものであると解される。
これを本件についてみると、道路交通法上、自転車を含む軽車両は、車道の左側に寄って走行しなければならないが、自動車が同一車線の後方から迫ってきた場合、安全に自動車に追い越されるために、車両外側線の外側(歩道側)を走行することは、原告も述べるとおり、軽車両にとっては特段不自然な走行ではないというべきである。そして、本件路肩部分は、車道外側線と段差がなく、本件隙間が 2 ㎝と幅が狭いことに照らすと、路外施設の出入りだけでなく、上記のような軽車両の走行方法も含め、北行車両の通行も当然想定されていた部分であると認められる。しかし、車道外側線の一部が本件路肩部分に設置されたクリーン側溝にかかっているから、車道外側線の外側から本件隙間まで 20 ㎝未満の幅しかなく、本件隙間は 2 ㎝の幅で数十 m の長さにわたって直線状にあるため、コンクリート上の黒い直線と見え、それが隙間(溝)であると認識できないおそれのある形状であり、かつ、本件隙間に向けて 2%の勾配があるから、本件隙間に近付かないように意識して直進走行しないと、徐々に本件隙間に近付いていく可能性のある構造となっている。また、ロードバイクの普及率はいまだ高くないとはいえ、ロードバイクが車道を走行することは既に珍しい光景ではなく、2 ㎝の幅の隙間はタイヤのはまり込みを抑制するには広過ぎる幅というべきである。
以上によれば、本件道路を走行するロードバイクが本件路肩部分を走行することは十分想定できるにもかかわらず、ロードバイクのタイヤがはまり込む可能性があり、車道外側線の外側から 20 ㎝未満の極めて近いところにあり、隙間と認識できないおそれのある形状で、隙間と認識していないと隙間に近付いていく可能性のある構造となっている本件隙間を有する本件路肩部分は、通常有すべき安全性を欠いている状況にあるというべきであるから、設置・管理の瑕疵に当たるというべきである。
要は、ロード乗りの方は、マウンテンバイクでこの道路を走行することはあったが、ロードバイクで走行したことはあまりなかった上に、スリットの存在に気が付いていなかった。
第一通行帯を走る自転車も、車に追越されるときに安全のために路肩に逃げることは不自然なことではない。
2センチ幅のスリットはロードバイクのタイヤが嵌らないようにするには不十分だった。
というのが判決の格子のようです。
で、行政側が判決を不服として控訴しています。
※下記は全て判決文より引用します。
本件道路は、片側 2 車線の歩車道の区別のある道路であり、車両通行帯が設けられているから、自転車は道路の左側端から数えて 1 番目の車両通行帯を通行しなければならず(道路交通法 20 条1 項)、この規制に従えば、本件路肩部分の外側線に掛かっていない部分を自転車が継続的に走行することはなく、道路外の施設に出入りしたり、自転車の走行が許されている歩道に進入したりす
るために横断することが想定されるにとどまる。
そして、本件路肩部分と車両通行帯との間に段差等の物理的障害がないことなどに鑑みると、自動車に追い越される際の危険を低減したいなどの意図から自転車運転者が本件路肩部分を事実上走行する場合もあり得ることが想定されるが、前述のとおり、路肩は道路の主要構造部を保護し、又は車道の効用を保つためのものであって、本来的には車両等が恒常的ないし継続的に通行すること
が想定されたものではない。そして、路肩には種々の形状・構造・種類のものがあり、本件路肩部分のような都市地域の道路の路肩には排水設備や滑りやすい金属製のふた等も多く設置されているのであって(弁論の全趣旨)、路肩は、自転車の運転手が車道、自転車道及び通行可能な歩道と同様の注意を払っていれば安全に走行できるような構造ないし形状となっていることが本来的あるいは絶対的に保証されているとは解し難い。
したがって、本件路肩部分は、自転車を含む車両運転者が通行するに際し、路面の状態に注意し、より慎重に運転することが求められる部分であるというべきである。
道交法どうりに走れば、第一通行帯を走ればいいわけで、路肩は車両が継続的に走ることを想定してないということですね。
また、路肩を走ることは考えられるけど、グレーチングがあるなどが一般的で、車道や自転車道などと同じように安全に走れることは保証されていないというわけです。
だから路肩を走る場合はより慎重になるべきだったということですね。
また、本件道路において、本件隙間を視認することの妨げとなるような植栽や障害物等はないから、通常の注意を払って路面状態を観察すれば、本件路肩部分にスリット(本件隙間)があり、それが一定の深さを有する可能性は比較的容易に認識できるというべきである。そして、先に認定した事実によれば、本件隙間は、夜間においても、車道とは異なるコンクリートブロック製の路肩部
分で、そのコンクリートブロックの中間に道路に沿う方向に続く黒い直線として容易に認識することができるところ、そもそも道路上に一定の幅を持った線状の構造物が続いているのに、それが何の意味も持っていないなどと安易な認識や判断をすることは通常考え難いのであって、路肩部分、特に本件路肩部分のように車道とは異なるコンクリートブロック製の路肩部分にそのような黒色部分が続いていれば、それが排水や道路清掃等の用に供される隙間ないしは窪みであるとか、少なくとも穴や割れ目、あるいは逆にやや突出した障害物等、走行に何らかの支障を及ぼすものである可能性を疑うのが通常であるし、本件道路において十分な照度が保たれていたことも踏まえると、通常の注意を払えば、夜間においても、一見すると黒い直線に見えるものがスリットであり、それが一定の深さを有する可能性も比較的容易に認識できるというべきである(なお、被控訴人は、本件事故に先立ち、本件道路を走行するに際して、前照灯を点灯していたというのであるから、本件隙間の認識はより容易であったといえる。)。
これに対して、被控訴人は、本件路肩部分に本件隙間があることに気が付いていなかったというのであるが、この事情は、被控訴人が夜間に自転車で路肩を進行するに際して必要な注意を払っていなかったことを裏付けるにとどまり、本件隙間の夜間における視認可能性に関する上記判断を左右するものではないというべきである。
要はスリットを知らなかったというのは、ロード乗りの責任だとしています。
スリットを遮り見えづらくするような工作物がないこと、夜間であっても黒い直線として何かしらの意味があるとわかるだろうということ、そもそも照度が十分な道路だということ、ライトを点灯していたならなおさらわかるでしょ、ということですね。
本件事故以前には、ロードバイクを含む自転車の運転者が本件隙間に車輪を挟み込まれるなどして本件路肩部分で転倒した事故が発生したことはなかった
と認められるし(A 市内において同様の事故が発生していたと認めるに足りる証拠もない。)、ロードバイク以外の型の自転車については本件隙間にタイヤを挟み込まれることは考え難い。
同じような事故例がないということです。
本件道路においては自転車も歩道を通行することができるから、車道や本件路肩部分を通行する必要はないし、路肩の目的ないし用法について先に説示したところによれば、路肩を走行する場合においては、自転車の運転者には、当該路肩の状況・状態に注意し、これに応じた適切なハンドル操作等をして転倒等の事故を回避することが期待されていたといえる。加えて、車両の運転者には、自己が運転する車両の形状や運動性能等の特性を把握した上で、路面の状態を含む道路状況・交通状況に応じた適切な運転操作が期待されているところ、本件自転車のように、タイヤの幅が広く普及している自転車よりも狭いのであれば、運転者にはこの点をも考慮に入れた上での適切な進路の選択、ハンドル操作等が求められるというべきである(本件まで同種事故がなかったこと
は、本件までは、ロードバイクの運転者が本件路肩部分を通行する際には前記のような運転をしてきたことを示すともいえる。)。
以上の諸点に照らすと、ロードバイクを含む自転車が本件路肩部分を走行するとしても、本件隙間にタイヤが挟まって転倒するような事故が発生する危険性は高いものではなく、通常は、自転車の運転者が適切な運転操作を行うことによりそうした事故を回避することができるというべきである。
要は路肩走行をする根拠がないということですね。
歩道は恐らく、自転車通行可の標識があるんでしょう。
さらに路肩は車道などと同じように走れるような安全性が確保されている空間ではないから、ロードバイク側に事故回避義務があるとしているわけです。
というのが判決の内容です。
いろいろと意見はあると思いますが
この報道を見て記事を書いた後、何名かの方から
ロード乗りを殺す気か!
みたいな話を頂いた気がするのですが、その気持ちはわかります。
でも判決を見ると結構真っ当というか、要は
路肩の目的からしても継続的に走ることを想定してないので、路肩を走るには十分な注意が必要だし、路肩で何かが起きても自己責任
ということですね。
あと、多くの道路の路肩はグレーチングなどがあるし、危険なのはわかるだろ!ということです。
ということで、簡単に言えば【そんなところ走ったロードバイクの自己責任】という判決です。
同じような事故例がなかったということも、そういう判決に至った理由でしょう。
事故多発していたなら、判決が変わった可能性もあります。
ただ、行政側もこの事故の後、【路肩走行注意】という標識をいくつも設置してます。
行政の言い分としては、事故があったという注意喚起なんでしょうけど、なんか釈然としない人もいるかもしれません。
ちなみにこの件、最高裁には行ってないようです。
最高裁ってちょっと特殊で、【高裁の判決に憲法上の間違いがある】ことを示さないと、上告棄却なんですね。
審理すらされません。
地裁⇒高裁の場合は、単に【地裁判決が不満】という理由で控訴できます。
ロード乗りの立場で言うと、こんなスリットを造って欲しくはないですし、これなら金属製のグレーチングで縦と横に入っているタイプのほうが事故にはならないでしょう。
この事件の判決から何を言いたいのかというと、要は
ということです。
あまりにもザックリしすぎる注意喚起ですが、法律で想定している場所以外(車道の中で左寄り走行、もしくは第一通行帯走行、自転車通行可の標識がある場合は歩道も)を走った場合には全て自己責任ということ。
このケースでは、どうも車の追い越しを想定し、路肩側に避難していたような形で走行していたのでしょうから、ある意味ではマナーがいいロード乗りの方だったのかもしれません。
路肩走行するロードバイクと言うと、
いわゆる左すり抜けをかましているロードバイクのほうが多いと思うので・・・
左すり抜けも、路肩走行も、違反というわけではありません。
ですが本来、自転車は左寄り走行、もしくは複数車線がある道路では第一通行帯を通るように指定されているわけで、それ以外を走った場合は自己責任となるという判決ですね。
ロードバイクで安全に走れる道路というのは、実はかなり限られています。
都内なんか、必死に自転車ナビラインを道路に書いてますが、
逆走防止くらいしか役に立ってないようなものに、税金投入して描くのはどうかと思いますが・・・
そもそも幹線道路であれば、ほとんどの自転車は歩道を走っているわけで、ママチャリの逆走もほぼないですし。
狭い道路に自転車ナビラインを書くことで、自動車側も混乱してますし。
自転車レーンを設置するのが最もスマートと言うか、自転車的には走りやすいんでしょうけど、
路上駐車している車が邪魔で危ないという声もあります。
路上駐車させないように、ポールなどを設置している自転車レーンもあるのですが、
南大沢駅前の自転車レーン。南大沢警察が三角コーンを並べている。
路上駐車に塞がれている、との多数の苦情と、市が4月から固定ポールの設置を行うと決めたことを受けての暫定的措置とのこと(駅前交番で教えて頂いた)。
利用者は見かけず。 pic.twitter.com/E67DV7YsLr
— Kosuke Miyata (@kosukemiyata) January 6, 2016
路上駐車させずに、自転車が走りやすいようにという気持ちもわかるのですが、個人的にはポールは無いほうがいいんじゃないかと思ってまして。
路上駐車の車がいたら、後方確認して安全に追い越せば済む話ですし、例えば救急車などの緊急車両が通行するときに、車が自転車レーンに回避して緊急車両を通す構造のほうが社会的に意味があると思うのですが・・・
ポールがあれば、後ろから救急車が来ても車が道を空けることも難しい道路もありますし。
ちなみに自転車レーンについて、完全なウソを撒き散らしているサイトもあって、
https://togetter.com/li/1195271
自転車通行帯の問題点は「通行帯の外側を自転車は走ってはいけない」となっている事
イヤイヤ、そんな事実はないんですが・・・
どうもこの方、当サイトを見ているようなので何度か記事で【間違っている根拠】を道交法を提示して示してあげましたが、自分の間違いは絶対に認めないような心が狭い方なのか、直す気はないようです。
道路交通法20条の3で、自転車レーン(自転車通行帯)は、追越するときとか、やむを得ない場合には通行帯の外を走ってもいいよと書いてあるんですけど・・・
きちんと法律を読まずに、他のサイトの間違った記述を鵜呑みにする典型例。
自転車行政はイマイチ意味不明なところが多いのですが、個人的には速度域で自転車区分を分けたほうがいいのでは?と思うときもあります。
まあ、どうやって速度域で区分できるんだという問題もありますが、要は時速15キロくらいで走るママチャリと、時速35キロとかで走るロードバイクが同じ括りだから、おかしな構造が増えているような気がしてまして。
時速15キロくらいで、子供乗せている自転車が車道を走るほうが迷惑だと思いません??
それくらいの速度域であれば、歩道を徐行してもらったほうがいいのでは?と思うのですが。
逆に、国道16号相模原付近の自転車道は、
https://roadbike-navi.xyz/archives/9746/
一見すると歩道の中の自転車エリアのように見えますが、ここは元々側道だった場所を自転車道に改造している関係で、このエリアをロードバイクが車道を走ると違反になってしまいます。
ただ見てもらえばわかるように、この道路設計はママチャリを想定してますよね。
間違ってもここを、ロードバイクが時速35キロなんて速度で走ってはいけません。
車道を快適にロードバイクで走っていたら、途中からこの自転車道に吸収されて徐行しなければならなくなり、ちょっと走ると今度は自転車道がなくなるので、また車道に放り出される構造です。
ロードバイクにとっては何らメリットがない構造ですし、法律上の【一般自転車】という括りからロードバイクを除外してもらいたいくらいなんですが。
行政側がこんなもんを乱立して作り出したら、ロードバイクは車道⇒自転車道(徐行)⇒車道・・・みたいになってストレスフルですが、行政が考える自転車への政策って、所詮はママチャリの話なんですよね。
ちょっと話は逸れましたが、路肩走行は完全自己責任。
グレーチングに引っかかっても、それを予期して危険回避しない奴が悪い。
こういう判例です。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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