元シマノの開発者という肩書きを引っ提げて登場したSACRAですが、コラムの内容にこれは酷いなと思えることがありました。
SACRAさんといえば、スポークの結線には意味がない、と書いたことで某所でバトルになったりしていたわけですが、ライトウェイトの結線の件で矛盾があると指摘し、自社の正当性をアピールしているようなのですが。
SACRAコラムより
以下、SACRAのコラムより引用します。
引用元:https://www.sacra-cycling.com/columns/wheel_elucidator2
で、ライトウェイトのホイールで、カーボンスポークを結線している理由について、ライトウェイトの担当者は、最初は【結線しても剛性にはほぼ影響しません】としながらも、それ以降のインタビュー記事などでは【結線の目的の一つとして剛性向上】とあることから、自社見解を変えているのは問題だ!としているようです。
これについてですが、正直なところで言うと、結線の効果がどれくらいあるのかについては、まだ議論の余地がありそうな気はします。
これ、最初のインタビュー記事で、【剛性にはほぼ影響しない】としているので、あくまでも【ほぼ】なんですよね。
全否定しているわけではなく、多少の可能性は残している。
で、ホイールの剛性評価って、数字で出すことは出来ますね。
静的状態で横方向に過重を掛けるなどで、横剛性を数値化できます。
ただ、どれくらい数字に変化が出ると、体感でも差として変化を感じ取れるのか?というところなんだと思うんですね。
たぶん結線したホイールとそうでないホイールを比べても、数字上は差はほぼ出ないです。
でも体感は違う。
もしかしたら数字評価の方法が悪いのかもしれないし、体感にしてもプラシーボ的要素なのかもしれない。
けど、ロードバイクに乗る上で、数字の差よりも体感差のほうが重要なので、この話はまだ議論の余地が大きいと思うんですね。
けれどこのコラム、ツッコミどころはそこではないと思ってまして。
盛大ブーメラン案件では?
要はライトウェイトが、最初は剛性にはほぼ影響しないと言いながら、後に剛性向上目的だと見解を変えていることに対して、SACRAさんが突っ込んでいるわけですよね。
いやいや、SACRAさんだって、どんどん自説を変えているから同じじゃないですか・・・
SACRAさんの著書を見ると、
・リムが軽くても工学的なメリットはないし、重いほうが剛性が高い
・首折れスポークで十分
・ストレートスポーク対応のハブは高価になるので、よろしくない
・インナーニップルは面倒なだけで空力向上には役立っていない
・非接触シールのハブはオススメしない
このような自説を書いていますが、現行のホイールについてはリムをドンドン軽量化し、ストレートスポーク仕様になり、インナーニップルになり、ハブは非接触シールのベアリングですよ。
おいおい、著書で書いた内容は一体なんだったのさ・・・
一貫したエンジニアリングも何もないですよね・・・
著書を見ると、このような記載があります。
私は、ホイールを評価するにあたってもっとも重要なのは、剛性だと思っています。
(60ページ)
リムによって、そのホイールが走るか、走らないかが決まります。
(58ページ)
リムが軽ければ軽いほど、剛性と強度は落ちます。
重いリムならば、よく進み、壊れにくい可能性が高いことを意味します。
(88ページ)
50万円の超軽量ホイールよりも、その数十分の一の価格で買えるホイールのほうが進む可能性がある
(99ページ)
インナーニップルはメンテナンス性が落ちるわりにメリットが小さく
(102ページ)
リムの剛性に問題がなければ、ストレートスポークにする必要はありません。ストレートスポークには、対応したハブが高価になるという、作る側からすると重大な欠点があります。
(109~110ページ)
しかし、長い目で見ると、非接触式シールは弱点が目立ちます。
非接触シールは、雨や泥など、ちょっとハードなシチュエーションで使うと、すぐに回転が渋くなります。私の感覚では、毎月、最低一回はハブを開けてメンテナンスできるならば非接触シールも選択肢に入りますが、普通の方にはお勧めしません。
(138ページ)
現行スペックのカイルイグナイトエース(TLR)のスペックはこちら。
重量 | 1244g(リムを40g軽量化) |
リムハイト | 50mm |
スポーク | カーボンストレートスポーク |
ニップル | インナーニップル |
ベアリング | NTN非接触シール |
ライトウェイトの結線についてツッコミ入れるなら、著書で書いた内容のほとんど、特に【非接触シールのハブはオススメしない】と書いたことをまずは訂正すべきではないでしょうか?
自社で開発したハブなら、それくらいは何とでも出来ることですよね。
数字とフィーリングの乖離
SACRAさんの著書によると、リムが軽くても工学的な意味はないが、フィーリングとしては変化があるみたいなことを書いています。
結線についてもそうなんですが、数字上の剛性を出せば、たぶん変わらないでしょう。
けどフィーリングは変わる。
この数字とフィーリングの差をどう捉えるのか?が問題なんだと思います。
で、たぶんですが、ライトウェイトがカーボンスポークを結線した最初の理由って、単にカーボンスポークが擦れるのを嫌っただけなんじゃないかと思います。
それをしてみたら、体感上では剛性が上がったように感じたというだけの話では??
メーカーが当初の自説を変えることって、それほど珍しいことだとは思いません。
というよりも、よりよい新製品を開発しようとしたら、旧製品に対して疑う気持ちもないと出来ませんし。
後付けで違う理論が出てくることもありますし。
だから自説を曲げるのって本来は悪い話ではないと思うのですが、自説を大幅に変えてホイールを作るSACRAさんがライトウェイトを批判する理由なんてどこにもないと思うんですよね。
SACRA理論だと、リムは重くて剛性が高いほうがよかったはずでは?
それが最初に出したホイールでしたよね。
そこから大幅に路線変更し、リムの軽量化にご熱心で、首折れスポークで十分だと言っていたのにストレートスポークになり、非接触シールはオススメしないと書いていたのに非接触シール採用のハブに変更されているSACRAさんが、どうしてライトウェイトを批判できるのでしょう?
【ライトウェイトよりエンジニアリングにこだわるSACRA!】と書いていらっしゃるようですが、それはさすがに違うのではないでしょうか?
というよりも、この表現、何一つとしてライトウェイトよりもエンジニアリングにこだわっている証拠も出されていないわけで、優良誤認になりかねないと思うのですが・・・
なお結線の効果については、ここではあえて取り上げません。
体感で効果があると言う人は結構多い気がしますが、剛性を数字で出すと変化ないというデータが多いはず。
数字とフィーリングの乖離、それは数字の出し方(実験方法)が悪いのか、フィーリングがプラシーボなのかはわかりません。
ただ、効果があると実感・体感しているなら、それでいいような気がします。
SACRAさんが著書で語っていたことをそのままホイール選びに使うなら、現行のSACRAホイールは選ぶべきではないホイールになってしまうはず。
自説を変えることなんていくらでもあるし、よりよい製品になるならユーザーとしては歓迎すべきことです。
むしろ、古い考えにしがみついて停滞するよりも全然いい。
けど、自説を大幅に変えてホイール作りをしているSACRAさんが、ライトウェイトを自説を変えたと批判するのはさすがに筋が違いますね。
最近のSACRAさん、以前とは違ってかなり良さそうなホイールを作っているだけに、こういうのは残念です。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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