PVアクセスランキング にほんブログ村

自転車は押して歩いていると歩行者。

いろいろいちゃもんつけてくる奴のために仕方なく昭和の時代の道路交通法について調べていたので、ついでに。

自転車は押して歩いている者を歩行者とする規定があります(2条3項)。
そもそもこのルールはどのような背景から誕生したのかについて。

3 この法律の規定の適用については、次に掲げる者は、歩行者とする。
一 身体障害者用の車椅子又は歩行補助車等を通行させている者
二 次条の大型自動二輪車又は普通自動二輪車、二輪の原動機付自転車、二輪又は三輪の自転車その他車体の大きさ及び構造が他の歩行者の通行を妨げるおそれのないものとして内閣府令で定める基準に該当する車両(これらの車両で側車付きのもの及び他の車両を牽けん引しているものを除く。)を押して歩いている者

なぜこのルールが誕生したか?

自転車を押して歩くと歩行者になるルールは、昭和46年道路交通法改正により誕生しました。
この年は、38条に前段の義務が明文化されたり、路側帯が規定されたりなど大きな改正がありました。

さて、なんでこのルールが必要だったのかについて。

自転車の歩道通行が解禁されたのは、前年の昭和45年。
昭和45年道路交通法改正により「公安委員会が指定した歩道」について、自転車が通行出来るようになりました。

あくまでも「公安委員会が指定した歩道」限定です。

さて今の2条3項が誕生する以前(昭和46年より前)、「自転車を押して歩く者」は法律上どのような立場だったのでしょうか?
はい、答えは「車両」です。
道路交通法において「車両等は」とあるのは、車両を擬人化して捉えているのですが、昭和46年より前は自転車を押して歩く者は車両になる。

つまり、歩道を押して歩くと、通行区分違反だったわけです。
ルール上、車道を押して歩くしかない。

これについて警察庁交通企画課は以下のように説明しています。

自転車等を押して歩く場合の通行方法について、従来は、自転車等を押して歩くことは自転車等の運転とはいえないとしても、なお車両の通行とみるべきであるとして、車両の通行方法によるべきとされていた。しかし、二輪の車両を押して歩いている場合は、その通行の態様からみても、車両の通行というよりは歩行者の通行に近く、押して歩いている者の通行の安全を図るためには、これを歩行者と同様に扱うことが必要と考えられる

月間交通(1971年8月)、警察庁交通企画課、東京法令出版

車椅子や小児用の車については元々軽車両の定義から外されていたけど、昭和46年改正時に2条3項1号に規定して歩行者であることを明文化しました。
つまり、1号に規定した車椅子や小児用の車については、元々車両扱いされてなかったけど歩行者であることを明確にしただけ。

さて、自転車と言っても側車付きなどサイズの制限を設けて「歩行者」としてます。
これも理由が書いてありますが、大きな自転車等まで歩行者とすると歩道を通行する歩行者の妨害になるからとされています。
サイズが大きな自転車等は、押して歩くにしても車両としてのルールを適用することで、歩道を通行する「真の歩行者」を守ることにしたわけです。

さてこの規定、「降りたら歩行者」ではなく「押して歩いている者を歩行者」になっています。
これの意味がどこにあるのか。

古い解説書には以下のように説明してありました。

二輪の車両又は三輪の自転車を押して歩いている場合は、その通行の態様からみて車両の通行というより歩行者の通行に近く、押して歩いている者の通行の安全を図るためには、これを歩行者と同様に扱うことが必要であることから定められたものであり、身体障害者用の車いす等の場合のように、その押している二輪の車両又は三輪の自転車が直ちに「車両」でなくなるわけではない。

逐条道路交通法、警察時報社、昭和47年

これ、ちょっと解釈が難しくなりますが、自転車の定義はこうなってます。

十一の二 自転車 ペダル又はハンド・クランクを用い、かつ、人の力により運転する二輪以上の車(レールにより運転する車を除く。)であつて、身体障害者用の車椅子及び歩行補助車等以外のもの

運転の定義はこう。

十七 運転 道路において、車両又は路面電車(以下「車両等」という。)をその本来の用い方に従つて用いること(自動運行装置を使用する場合を含む。)をいう。

運転の意義については以下の判例があります。

自動車の運転とは自動車に設けられた各種装置の操作により発進、一定方向及び速度の維持若くは変更、停止など自動車の走行について必要な措置をとることを指称するのであるから、自動車の走行に際し、甲者がアクセル、ブレーキ、チエンジレバーを操作し、乙者がハンドルを握持してこれを操作した場合、その両者はそれぞれ自動車を運転したものといわなければならない。

昭和32年12月10日 福岡高裁

昭和46年改正以前は、自転車を押して歩いても「運転」とまでは言えないものの、「通行」なんだと警察庁交通企画課は苦しい説明をしてます。
その一方、直ちに運転できる状態を停車と規定している趣旨から考えると、例えば自転車が信号待ちのときに降りて待ったとしても、それは車両の停車の範疇。
直ちに運転可能な状態ですし。

「降りたら歩行者」ではなく「押して歩いている者を歩行者」としたのは、このあたりの曖昧さを回避したかったのではないかと思います。

あくまでも押して歩いている状態を歩行者とする規定。
時代背景的に、公安委員会が指定してない自転車が歩道通行出来ない歩道についても、押して歩くことも厳密に解釈すると違反になってしまう珍事を解消したかったことや、押して歩いている状態でも車両扱いだと事故等が起きたら不利になることなどから新たに設けた条項です。
その上で、歩道はあくまでも歩行者が守られるべきなのでサイズの制限を設けた。

こういう背景から誕生しました。

立法趣旨としてはこんなイメージ。
①歩行者とすることにより歩道を通行できる法的根拠を与えた
②押して歩いても車両扱いだと車道を通行しなければならないため、速度から見ても適切とは言えない
③サイズの制限を作ることにより「真の歩行者」を保護

この当時、自転車横断帯もなかったですし。
それこそ、この規定がないと歩道を押して歩くと「通行区分違反」。
歩道を横切って道路外に出る車と衝突したら、車両通しの事故な上、片方は通行区分違反している扱いなので意味がわからなくなりそう笑。

主な意味合いとしては、歩道を通行できる根拠を与えたかっただけと考えてよいかと思います。
サイズ制限を設けたあたりからも明らかかと。

降りた瞬間歩行者?

時々不思議に思うのですが、自転車から降りた瞬間に歩行者となると勘違いする人はいます。
制定の歴史から見ても、元々は押して歩いている場合でも車両として扱ってきたわけで、「押して歩いている者」としたにはやはり理由がある。

降りた瞬間については、あくまでも車両の一時停止とみなします。
道路交通法上、車両と歩行者は明確に立場を分けてますが、降りた瞬間については車両の一時停止。
押して歩いている状態が歩行者。

押して歩いている状態から立ち止まると車両になるのか?と思考停止に陥る人もいますが、一度歩行者としての立場になった以上は、再び乗車しない限りは歩行者です笑。

道路交通法上、車両なのか歩行者なのかは明確に分けています。
常に二面性を持つわけでもない。

当たり前のこと。
もちろん、降りた瞬間なのか押して歩いてきたけど立ち止まったのかわからないなら歩行者とみなすしかないです。

降りた瞬間に歩行者となるなら、珍事が勃発します。

<例①>
車道で信号待ちしている自転車が、完全に降りたら歩行者になってしまう。
すると歩行者が車道上にいることから通行区分違反になり、速やかに歩道に行く義務が発生する。

<例②>
事故る直前に自転車から降りて、対歩行者事故だと言い張る奴が出てきたときには法律上、対抗できない。

<例③>
路側帯を逆走してきた自転車がいて、順走自転車は進路を妨害されていた。
逆走自転車が突如降りて歩行者になると、順走自転車が歩行者の妨害をしていることになってしまう。
(ただし、当時は路側帯を通行する自転車に向きはありませんでした。容易に優先順位を変えうるために規定したわけではないという意味。)

元々は押して歩いている場合でも車両として扱ってきた歴史があり、昭和46年に「押して歩いている者を歩行者とする」ルールを追加した。
この経緯を理解していないと、解釈を間違う原因になります。
路側帯を逆走してきたにもかかわらず、降りて歩行者化したから立場が逆転する・・・みたいな目的では作られていない。

立法経緯と趣旨

ちょっと前にも書いた件。

なんかグダグダ言ってる奴がいますが、話の流れ上、横断歩行者妨害について調べた内容をまとめておきます。 横断歩道を横断する歩行者...

記事のURLを見ればわかるように、この記事を書いたのはちょっと前になります。
あえて公開せずに放置していたのは、だいぶヒントは書いてきたので、この人が自ら立法経緯を調べ出してきちんと改める可能性を残しておいたから。

そのような意思は無さそうなので公開にしましたが、結局のところ、法律解釈の根本には立法経緯、立法趣旨から考えないと理解できないこともあるわけ。
赤信号無視の人を優先する規定なんて、あるわけがないのですよ。
赤信号無視の人については、70条安全運転義務の範囲で可能な限り守りましょうというのが道路交通法の原則なのでね。

法律は不可能を強いるわけではない。
ルール無視する無法者を優先するなんて、法律の原則からは外れている。

法律の中には立法趣旨解釈をする規定ってそれなりにあって、道路交通法でいうと18条1項もそう。
車は軽車両の左側端をあけた上で左側に寄ると解釈しますが、その一方、左側の範囲から左側端を除外していない。

なので車が左側端を通行しても違反にはならないし、そもそも範囲が不透明だから遵法精神に期待して罰則すら置いてない。

こちらでも取り上げた昭和38年~41年の38条と71条3号の関係性でも、立法趣旨から考えたら違うんじゃね?と裁判官、検察官、被告人が疑っていて、別の理由から有罪にしてます。

なんかグダグダ言ってる奴がいますが、話の流れ上、横断歩行者妨害について調べた内容をまとめておきます。 横断歩道を横断する歩行者...

そもそも、あの人が「200m手前ガー!」と語り出したときに、間違いを認めて調べ直すことを期待したわけですが、まさかの「言ってない」発言から開き直りしたのが問題。
間違いを間違いとして認めて、調べる方向に行けばこんなことにはなってないのね。

法律解釈って、ある一場面だけを想定すると確かに当てはまりそうな気がしてしまうことってあるわけですが、その解釈を取ったときに矛盾が生じないかまで検討することが大切。
矛盾が生じるということは、どこか間違ってます。
降りた瞬間に歩行者となる説を取ると、矛盾が発生するのは明らか。

横断歩道の前に自転車に跨がっている人がいたとします。
このとき、38条1項前段の減速義務があるか?という問題があるのですが、

○降りて歩き出したら歩行者になれる

○歩行者がいないことが明らかではないから減速義務がある

この理論って、結局のところ自転車の存在について義務の対象にしていると反論されたときには弱い。
車両は車両、歩行者は歩行者としか評価されないので、車両でありながらも歩行者という二面性を持つことになってしまうし。
あと、あえて書きませんが法解釈上の矛盾が発生してしまうので。

しかも、判例上も否定されている。

進路前方を横断歩道により横断しようとする歩行者がないことを確認していた訳ではないから、道路交通法38条1項により、横断歩道手前にある停止線の直前で停止することができるような速度で進行するべき義務があったことは明らかである。結果的に、たまたま横断歩道の周辺に歩行者がいなかったからといって、遡って前記義務を免れるものではない。もちろん、同条項による徐行義務は、本件のように自転車横断帯の設置されていない横断歩道を自転車に乗ったまま横断する者に直接向けられたものではない。

東京高裁 平成22年5月25日

38条はあくまでも横断歩道を横断しようとする歩行者に向けているので、例えば道路構造的に見通しが悪いから「歩行者がいないことが明らかとは言えない」(自転車の存在自体に義務を適用してない)とか、自転車に乗ったまま横断開始することが「予見可能」だから安全運転義務として減速して警戒するとか、理論的にはそっちのほうがスッキリする。
事実、車両が横断歩道を通過する直前に自転車に跨がっている人が降りたとしても、38条違反とはならない(事故が起きた場合は安全運転義務違反となる)。

ただし警察官の中にはわかってない奴もいるので、切符切られたりしますが。
自転車は自転車でしかないという解釈と、38条1項後段の「この場合において」を理解していないだけですが、38条の義務とそれ以外の義務を混同するからこうなる。

減速するという結果だけ見れば同じだけど、こういう法の適用について矛盾があることを主張すると、裁判で相手方に反論のネタを与えるだけ。

自転車は横断歩道で優先権がなく、車両である以上は安全運転義務があるから左右を確認してから横断歩道を横断する義務がある。
その一方、歩行者にはそのような義務がない。

降りた瞬間に歩行者になり、左右の確認義務もなくなると解釈するのは不自然だし不合理だと思うけど、結局のところ、車両として課されていた義務や注意義務を完全に消し去るために2条3項を規定したわけではないのね。
昭和46年以前は押して歩いている場合でも車両だったから、歩道を通行出来ないという状態を何とかすべく作った条項であって。

こちらで書いた福岡高裁判例をみると、一度降りたことを歩行者と認めてないので、結局はそんなところかと。

こちらにまとめ直しました。 以後、追加は下記にしていきます。 先日このような記事を書いたのですが、 ...

たまに民事の過失割合について、純粋に道路交通法違反(特に優先規定)で判断すべきという人もいますが、
福岡高裁判例は自転車が横断歩道を横断することにより優先道路の進行妨害になる。
すると、自転車が過失100%になってしまうわけで、自賠法の理念からしても弱者保護にはならないし好ましくない。
あくまでも、優者危険負担の原則、回避可能性なども含めて考えるべき。

まあ、一般ドライバーはそんなことまで考える必要はないけど、裁判ってちょっと間違うと絶好のエサですからね笑。
私も一度、間違ってエサ撒いてしまい猛反論喰らいましたが、結果が同じでもプロセス間違うと面倒なことになります笑。

雑な主張する人って、ある意味では楽なんですけどね。
200m手前がどうのこうのとか。

どういう経緯で立法されたかまで検討すると、理解しやすいかと。
ちなみに判例ではやたら強調して「文字通り、押して歩いている者が歩行者」と書いているものもあります。
歩行者なのか車両なのかを争った判例も多少ありますが、さほど面白くないので割愛。





コメント

  1. H.Kaburagi より:

    このブログは自転車に関する道路交通法を判例を交えて幅広く解説されているので、よく理解できない部分もありますが納得できる部分も多いので、たまに気になる記事を読んでいます。

    本題ですが、今回のテーマについて気になるところがあるので質問します。

    1. 自転車から降りて1分以上歩けば歩行者とか、10m以上歩けば歩行者とか何か基準があるでしょうか?
    2. 横断歩道手前で停止して自転車から降りて一歩も歩いていない場合、車は自転車を押して歩いていないと遠くから確認出来たら横断歩道で停止する義務はないのでしょうか?それとも歩行者と見なして停止する義務があるのでしょうか?

    お手数をお掛けしますが、回答して頂ければ幸いです。

    • roadbikenavi より:

      コメントありがとうございます。

      1、基準はありません。

      2、結局のところ、押して歩いてきて停止状態なのか、その場で降りたのか判断つきませんので歩行者とみなすしかありません。
      なお、横断歩道の手前に「自転車から降りて押して歩いてきた歩行者」がいる場合も、「自転車に跨がって待っている者」がいようと、どちらも減速する義務があります。
      より詳しく言えば減速する根拠が異なりますが。
      一時停止義務については、警察官が理解してない現状を考えたら一時停止する義務があると解釈したほうがよろしいかと。