弁護士さんが扱っていた横断歩行者妨害が取消になりましたが、警察との交渉による加点取消のよう。
先日の記事でも最後に書きましたが、
「判例じゃないから」とか「裁判しろ」とか言う人って絶対出てくるだろうなと。
こういう人たちって、世の中の仕組みから勉強した方がいいと思うの。
あの人、裁判しないでお巡りさんとやり取りしている限り望む安心は得られないと思うんだけど、わかってんのかな。
— あにす (@anis774) July 27, 2022
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そもそも争えない
理屈の上では反則金を払わないと、検察送致されて取り調べになり、起訴されるか不起訴になるかが決まります。
この件、まず間違いなく不起訴。
交通違反のほとんどは不起訴なので、不起訴になれば争いようがない。
略式不同意ならなおさら起訴は期待できない。
検察官も、速度超過とか信号無視など明確で争いようがないもの以外は不起訴が現実。
起訴は検察官の独占権だし、何ら被疑者がコントロールできない。
次に加点処分の取消請求訴訟(行政訴訟)を提起できるか?になりますが、弁護士さんのYouTubeをみると切符を切られた人は過去に進路変更違反があるらしい。
この時点で、行政訴訟も不可になります。
加点処分は行政事件訴訟法上の「処分取消訴訟」に該当しないので、処分取消請求訴訟は以下のケースしかできないんだよね。
②免許停止処分の取消請求訴訟
③ゴールドから格下げになった場合に、違反を取り消してゴールド免許を交付せよと請求する訴訟
既に他の違反がある以上、今回の横断歩行者妨害が無かったとしてもゴールドにはならないわけで、③の訴訟を提起できない。
もちろん①も②も該当しないでしょ。
つまりこの件って、裁判で争える可能性があるとしたら起訴されることのみになる。
起訴される確率は著しく低いのでほぼ期待できない以上、争えるポイントって警察との交渉しかないんだよね。
だから「裁判ガー!」とか「判例じゃないから」と語る人って、どうやって裁判することを想定しているのかさっぱりわからない。
まさか、100%却下される「基礎点数取消請求訴訟」を提起するわけもないし。
横断歩行者妨害違反を取り消せとした判例は、行政事件訴訟法上「却下」になる。
1 行政事件訴訟法にいう行政庁の処分とは、法令に基づく行為のすべてを意味するものではなく、行政庁が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいうものと解する(最判昭和39年10月29日・民集18巻8号1809頁参照)。
2 法は、自動車運転等の禁止の命令(法75条の2)、免許の取消し及び停止(法103条2項)、仮免許の取消し及び停止(法106条の2)等の各規定において、「政令で定める基準」に従うものと規定しており、法施行令は、上記各規定における「政令で定める基準」として、法、法施行令及び法に基づく処分に違反する行為を「違反行為」とし、個々の違反行
為に所定の点数を付することとする累積点数制度を用いている。
しかし、同施行令の規定の仕方は、いずれも「違反行為をした場合において、その累積点数が別表…に掲げる点数に該当することとなったとき」というように、上記の各行政処分につき、累積点数それ自体を要件とはせずに、一定の点数に該当する個々の違反行為の存在自体を要件とした文言になっており、累積点数が一定の点数に達することが上記の各行政処分の要件となるものではないと解される。
また、法や法施行令によっても、累積点数を加算する行為については、これをその都度当該運転者に対して一般的に通知することとはされておらず、他の法令の規定に照らしても、このような通知の制度は設けられていないと解される。このことは、累積点数を加算する行為が当該運転者によって不服申立手続や訴訟で争われることを法が予定していないことを窺わせるものといえる。
3 このようにみてくると、累積点数を加算する措置は、公安委員会において各処分要件が整ったかどうかを画一的にチェックするための内部処理のための制度であって、それ自体は、国民の権利義務に何らの影響を与えるものではなく、したがって、行政処分には該当しないものと解するのが相当である。
4 原告は、累積点数加算の段階で行政処分性を認めてこれを訴訟で争えるように解しないと、その後の免許証の更新の際、優良運転者として有効期間5年の免許証の交付を受けられない不利益を被るなど、非常に不合理であると主張する。
しかし、優良運転者の認定基準は、法施行令33の7により、各号に定める日前5年間において違反行為又は法施行令別表第2の2に掲げる行為をしたことがないこととされており、やはり累積点数が加算されたという事実が要件とされていない。優良運転者に該当する者が免許証の更新の申請に対して有効期間3年の免許証の交付を受けた場合には、その者は、この免許証の交付は、有効期間5年の免許証の交付を受ける法的利益を侵害するものであるとして、抗告訴訟を提起することもできるものと解するのが相当である。
また、免許取消し等の処分を受けた者は、当該処分直近の違反行為のみならず、それ以前の、公安委員会が累積点数算定の根拠としたすべての違反行為の存在を争うことができ、その場合、それらの違反行為についての第一次的な立証責任は公安委員会が負うこと、累積点数算定の基礎となる違反行為は、最後の違反行為があったとされる日を起算日とする過去3年以内
における違反行為に限られること(累積点数の定義については法施行令33条の2第1項1号イ参照。)からすれば、免許取消し等の処分を受けるまで累積点数の加算の当否を争えないものと解したとしても、必ずしも不合理とはいえない。
いずれにしても、原告の上記主張は採用できない。
5 よって、原告の累積点数を加算する被告委員会の本件措置は行政処分に当たらず、原告の被告委員会に対する本件措置の取消しを求める訴えは、訴えの利益を欠き不適法である。
京都地裁 平成13年8月24日
加点処分取消請求訴訟を提起すれば、不適法な裁判だとして「却下」にしかならないし、争えない。
こういうことを理解してない人たちって、裁判しろとか判例じゃないからとか騒ぐけど、事実上不可能なことをしろというセンスはさすがにまずいと思う。
起訴を期待するのも無理があるし。
世の中こういうの多い
いわゆる行政処分の中には、交渉では絶対に解決不可能なものもあるけど、今回のケースは交渉で解決できないとそれ以上は手段がなくなるに近いケース。
好き勝手なことを言って無責任なのがTwitterなのかも知れないけど、こういう人たちよりも弁護士さんのほうがはるかに「仕組み」を理解しているわけで。
不勉強は的外れでしかないという典型例ですね。
動画の中で「過去5年の違反歴」について質問しているのも、そういう意味だと理解できた人とできない人がいるのかも。
過去5年に他の違反歴があるなら、その時点で「ゴールド免許交付請求訴訟」を提起できないので確認しているんだよね。
行政訴訟は要件を満たさないと、中身の正当性うんぬんは関係なく却下されるし、起訴は期待できない。
裁判しろとか語る人たちって、どうやって裁判するのかわかってないんだろうなと。
ホント不思議ですが、不勉強で批判するとかあり得ないんだよね。
この界隈の支離滅裂な感じ、一体どうなっているのだろう?
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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