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横断歩道の「付近」とは何メートルくらい?

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道路交通法では歩行者が横断するときには「付近に」横断歩道がある場合には横断歩道を使って渡る義務を定めています。

(横断の方法)
第十二条 歩行者は、道路を横断しようとするときは、横断歩道がある場所の附近においては、その横断歩道によつて道路を横断しなければならない。

付近とはどれくらいを意味するのでしょうか。

横断歩道の付近とは

正直なところ、「横断歩道の付近」については何ら明確な基準はなく、20~50m程度(宮崎注解)、20~30m程度(横井註釈)など統一見解はありません。
比較的最近の考え方では、幹線道路は30~50m程度、それ以外は20~30m程度とするのが一般的かなと。

 

判例上は、これも統一見解があるわけでもありません。
まずは大阪高裁昭和45年8月21日(業務上過失致死)。
横断歩道から40m離れた位置については、横断歩道の付近とは言い難いとしています。
事故現場は大阪、京都を結ぶ国道171号の幹線道路で車両の交通の激しい場所。

当時対向車道には数台の自動車が進行して来ていて、道路を横断することは危険であつたことは認められるけれども、所論のように、横断は全く不可能と考えるほど激しいものであつたとは考えられない。また、被害者の走り出して来た場所は、さきに認定したとおりグリーンベルトの中で、当審検証の結果によると、最寄りの前記横断歩道から約40m東方の地点であつて、必ずしも道路交通法12条2項にいう「横断歩道がある場所の附近」とはいい難く、また同法13条2項により特に横断禁止場所として指定された場所であることの証拠はないけれども、そこは、グリーンベルトの中であることを考慮すると、一般的には横断を禁止された場所と同視できないことはないのである。
(したがつて原判決が本件現場に横断禁止の場所ではなく、最寄りの横断歩道まで約50m離れている旨説示しているのは誤りであるけれども、この点は本件の場合特に過失の判断に影響はない。)。そして右の各事情を考え合わせると、成人の場合には、恐らく身の危険を冒して道路を横断することは一般的に予見し難いものと考えられるけれども、本件のように満6才の低学年の学童の場合は、成人と同一に論ずることはできないのである。すなわち、このような児童は、原判決も説示するように老人、酩酊者などと同様、事物に対する正確な認識、判断をする能力に乏しく、したがつて、これらの者に適切な行動を期待することができないのが通例であつて、そのため、これらの者は自動車の接近に気付かず、あるいは気付いたとしても危険を無視し、またはこれを察知しないで横断をする等の不測の行動に出るかも知れないことは容易に予見し得るところといわなければならない。本件の場合被害者は満6才に過ぎない学童であるばかりかさきに認定したように歩道を歩行中に突然走り出して来たというのではなくグリーンベルトの右端で一歩踏み出せば車道に降りられる地点に立つという異常な態度を示していたばかりでなく対向車道の方を向いて、被告人の自動車の接近にも気付かない様子であつたのであるから、右の不測の行動に出る危険はむしろ予見可能な状態にあつたものといえるのであつて、このことは被告人が事故直前、学童数名が前記横断歩道を正規に渡つて行つたことを現認していたことによつて結論を左右されるものではない。したがつて、右の危険は予見不可能であつたとの所論は採用できない。そしてもし被告人において前記注意義務ことに警笛を吹鳴して警告を与えることに欠くるところがなければ被告人が被害者を発見した際における被害者との距離、被告人の自動車の速度、被告人の後続車両の比較的少なかつたこと等に照らし、被害者との衝突は回避できないことはないと思われるのである。所論は前記危険が予見可能であつたとし、前記注意義務を尽したとしても衝突は不可避であつたと主張するけれども、さきに認定したように被告人が被害者を発見した際における彼我の距離が約20mあり被告人の自動車の速度が時速約38キロメートルであり、かつ被害者は被告人の自動車の接近に気付いていない様子であつたのであるから直ちに警笛を吹鳴して警告を与ええることにより被害者の横断を防止することができた思われるばかりでなく、右の彼我の距離、自動車の速度から勘案してなお制動距離外にあつたと考えられるから仮令急停車までの措置を採らないまでも、直ちに減速徐行することにより衝突は回避できないことはなかつたと思われるのである。すなわち自動車運転者としては危険が予見されかつその危険が回避できる場合においては、可能なかぎり危険回避のための措置を採るべき義務があるものというべきである。したがつて、本件の場合衝突は不可避であり前記注意義務もないとの前記所論も採用することはできない。

 

大阪高裁 昭和45年8月21日

次に民事の判例。
片側一車線、南行き車線が幅員3.6m、北行き車線が幅員3.9m。

歩行者は、道路を横断しようとするときは、横断歩道がある場所の附近においては、その横断歩道を横断しなければならない(同法12条1項)ところ、「横断歩道のある場所の附近」とは横断歩道からおおむね30m以内の場所であると解される。また、附近にある横断歩道は、横断しようとする道路にある横断歩道を指し、交差する他の道路にある横断歩道は含まれないと解すべきである。
本件においては、本件現場のそれぞれ20mないし25m程度(30m以内であることは明らかである。)離れた位置に北側の横断歩道と南側の横断歩道があり、南側の横断歩道は、被害者が横断しようとした南北道路に設置された横断歩道であると認められるから、同横断歩道を基準にして、本件現場は、道路交通法12条1項にいう「横断歩道のある場所の附近」に該当するといえる(なお、北側の横断歩道は、被害者が南北道路を横断する前にいた南北道路の東側の歩道から西側の歩道に向かう横断歩道であるという点では、歩行者が横断しようとする道路にある横断歩道であるかのようであるが、本件現場が本件丁字路交差点の南側にあり、北側の交差点が本件丁字路交差点の北側にあることから、北側の横断歩道を横断すると、被害者が南北道路を横断して向かおうとしていた南北道路の西側とは,東西道路をはさんで反対側〔東西道路の北側〕に出てしまう〔そこから三原市役所の駐車場に行くには、今度は東西道路の横断歩道を横断しなければならない。〕のであるから、横断しようとする道路にある横断歩道には該当しないというべきであり、北側の横断歩道のみを基準にした場合は、本件事故現場は、道路交通法12条1項にいう「横断歩道のある場所の附近」に該当しないというべきである。)。したがって、本件事故現場において南北道路を横断しようとした被害者は、道路交通法12条1項の定める横断方法に違反した過失があるといえる。

 

名古屋地裁 平成21年9月11日

次も民事の判例ですが、横断歩道がない交差点を横断したとみるか、横断歩道の付近を横断したとみるかが争点になっています。

(ア) 上記認定のとおり,本件道路は,本件事故現場の北側直近において,幅員約4.1メートルの道路(以下「本件交差道路」という。)と交差しているところ,本件事故現場が「横断歩道のない交差点又はその直近」に当たるか否かについて,当事者間に争いがある。
被告は,本件交差道路が非常に狭く,夜間には交差道路の存在すら認識困難であるとして,本件事故現場が交差点であることを否定し,本件事故現場の南方約37メートル及び北方約40メートルには横断歩道があることから,本件事故現場は「横断歩道の付近」にあたり,歩行者・運転者ともに,横断歩道での横断を当然に予定としていると主張する。
しかし,本件交差道路は,車両通行に支障のない幅員があること,本件道路脇の歩道が交差部分で途切れていて,カーブミラーも設置されているため,本件交差道路の存在は運転者に認識可能であること(上記認定のように,夜間においても,ガソリンスタンドの灯りなどによって,認識できると解される。)などの状況からすれば,本件事故現場は,T字路交差点に当たるというべきである。
また,本件道路は幅員7.8メートルの片側一車線道路に過ぎないことからすれば,南北に約37メートルないし約40メートルも離れた場所に横断歩道があるからといって,本件事故現場が「横断歩道の付近」であるということは困難である。
以上によれば,本件は「横断歩道のない交差点又はその直近における横断」事故であると認められ,その基本的な過失割合は,原告20パーセント,被告80パーセントとするのが相当である。他に,この基本的過失割合を不当とすべき事情は認められない。

 

松山地裁 平成17年6月16日

30mがどれくらいの距離感かというと、野球の塁間がだいたい27.4m。
右左折する車両が合図を出すのが、プレイする30m手前。

 

一律で決まった基準があるわけではないので、その都度判断されます。

判決年月日 横断歩道までの距離 幹線道路 附近と言えるか?
大阪高裁s45.8.21 約40m 幹線道路
名古屋地裁H21.9.11 20~25m 附近
松山地裁 H17.6.16 40m
松山地裁S40.2.3 11m 幹線 判断せず
神戸地裁尼崎支部S43.12.23 100m

東京地裁S38.2.3

具体的距離は不明 附近
東京地裁H25.8.7 5.9m 幹線 附近

横断歩道の付近で横断した場合

12条1項では横断歩道が「付近に」ある場合には横断歩道を使って渡る義務を課している関係上、「付近」に該当する場所を横断して事故にあった場合には、歩行者に過失が増えます。
逆に「横断歩道まで100m」の位置では、横断禁止の標識がなければ「横断歩道の付近」でもなく、単純に直前直後横断かどうかで判断されます。

 

具体的な過失割合は状況次第変わりますが、「横断歩道の付近」というのはまあまあ近い距離感。
ただまあ、直前直後横断が禁止されている以上、そこそこ交通量がある道路ならそもそも横断歩道以外から横断することは事実上無理です。

 

まあ、ちょっと前に琵琶湖のほとりでの直前直後横断が問題になっていましたが…
ちなみにですが、上で挙げた名古屋地裁 平成21年9月11日判決。
この訴訟、被告側が第6回口頭弁論まで被害者の死亡と事故の因果関係を認めない主張を繰り返し、被告の無過失ないし5割の過失相殺を主張するなどしていたことから、慰謝料の増額事由に当たるとしています。

被告が右折するに際し、左方からの直進車が約10mという極めて近い距離に迫っているのに急いで右折を開始したのは極めて危険な運転であるというべきであり、そのような危険な運転をするために右方を見ずに右折発進して本件事故に至っていることからすれば、被告の過失が極めて大きいことは明らかであり、しかも、被告は、刑事事件の捜査において、警察官から直進車が通過してから右折を開始するべきであった旨言われているというのであるから、本件訴訟の始まった時点においては、本件事故における被告の過失が大きく、過失相殺の5割になるなどということはあり得ないことを十分に認識し得たというべきである。そうすると、正当な権利主張を逸脱したものというべきであり、慰謝料の増額事由に当たると解される。

 

名古屋地裁 平成21年9月11日

ちなみに以前挙げたこちらの判例ですが、ドライバーが無過失になった理由は、中央分離帯上にいた歩行者を発見することが不可能と判断されたからです。
被害者と同じ高さの街路樹が中央分離帯上にあり人間と視認できず、道路反対側にあるガソリンスタンドの光が逆光になり視認不可能と判断されたため。
横断しようとしていた歩行者を視認出来ない以上は、視認可能になった範囲からの回避可能性があるかどうかにしかならない。

 

横断歩行者に過失100%をつけた珍しい判例。
横断歩道がなく、かつ横断禁止ではない道路の場合、民事上では車にもかなりの過失がつきます。目安は歩行者:車=20:80。ところが、横断歩行者に過失100%とした珍しい判例もあります。横断歩行者に過失100%※画像と事故現場は関係ありません。判...

 

こういう「前提」をみないと判断に至った理由もわかりませんが、横断しようとしていた歩行者を視認不可能と判断されるケースはかなり稀です。






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